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未来へ続く道~Wings to flap~  作者: 禾楠
第一章
22/43

海浜公園


海浜公園へ遊びに行く当日。

空は文句なしの快晴。天気予報のアナウンサーによると、降水確率0%と太鼓判だった。


雲すらもなく、どこまでも青空が広がっている。

絶好の行楽日和となった。


集合場所は、最寄り駅。

電車で駅4つ先と案外近かった。


海浜公園前の駅で下車し、駅構内から出ると、まず目に付くのは防風林。

その隙間からは、青々とした海が見て取れた。


正面には海。

右を見れば大きな観覧車やジェットコースター。


左を見れば林の中にアスレチックや草原が見えた。

これだけの公園、1日では周り切れないという噂も一目で頷ける程だった。



深雪「すっごいですねぇ……」


陽菜「ほんとに……。まさかここまで凄い公園だったなんて……」



陽菜と深雪ちゃんが感嘆の声をあげる。

それもそのはずだ。


ちょっとした遊園地よりも規模は大きい。



梨央「ちなみに、入園料は500円! 乗り物とかは別料金だけどね♪」


一輝「そう考えたら学生の味方だよな、この公園。それはそれでいい。が! 何故に俺の手にはこの荷物がある……?」



しきりに頷いていた一輝が手元の袋をこれ見よがしに持ち上げた。

端から見たら小さな男に見えるぞ、と内心で突っ込んでみる。



さくら「ごめんね、梨央ちゃんが……」


梨央「荷物なんてかずくんに持たせればいいんだよ!」


さくら「って感じで……」



申し訳なさそうなさくらちゃんに対して、梨央がこれでもかと言うくらいに良い笑顔でサムズアップしている。



遼「まぁまぁ。半分は俺も持ってるんだしさ」


陽菜「そ~よ、一輝。男なんだからウダウダ言わない!」


一輝「……俺アウェイかよ……ったく、しゃぁねぇなぁ」


梨央「それでいいんだよ、かずくん♪」


深雪「……平峰先輩かっこわるー……」


遼「そう言わないであげてよ、深雪ちゃん……」



小声で呟いた深雪ちゃんに小声で返す。

何だか涙が出そうだぞ、一輝……

陽菜「それにしても、これじゃ全部見てまわるのは無理そうね」



全部まわるつもりだったのか、とツッコミを入れたくなるくらいに陽菜は残念そうな表情を浮かべている。



深雪「ねぇ、遼お兄さん? あっち行ってみませんか?」


遼「え? ちょっと深雪ちゃん?」



そう言って、自然と俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。

柔らかい感覚に困惑していると……



梨央「ピピーッ! 教育的指導!! 今日は遊びに来たんだよ? デートじゃないの!!」


陽菜「梨央、どこから出したのよその笛……」


梨央「細かい事は言いっこなしだよ! さぁさぁ!!」


遼「ちょっと待て……いたたたっ!?」



まるで漫才のようなやり取りをしながら、反対側の腕を梨央が引っ張り出す。

ていうか、正直俺の身体で遊ぶのは辞めて欲しい。



深雪「もう! 梨央先輩はこの間デートしてたじゃないですか!!」


梨央「そ、それとこれとは話しが別! それに今日は皆でまわるんだってば!!」


遼「言い合うのは結構だが、まずは腕を離してくれ……」



ダメ元で頼んでみるが、聞き入れてもらえる雰囲気は一切ない。

そんな中、一輝がニヤニヤした視線を俺に送って来ていた。



一輝「いや~、羨ましい限りだなぁ、遼。学校の奴らが見たら、襲いかかって来るぜ? 何だかんだで梨央は人気あるしな」


遼「そんなに羨ましいなら、代わってあげるけど?」


一輝「ははっ、遠慮しとくわ」



ニヤニヤした笑みの一輝に、俺は少しだけ引きつった笑みで返す。



さくら「こ、こわい……」



その俺達の光景は、静観を決め込んでいたさくらちゃんが小さく呟く程だった。

その間もずっと、梨央と深雪ちゃんによる引っ張り合いは続いている。


いい加減、身体も痛い。



遼「ふぅ……そろそろ、2人共辞めとこうか?」


一輝「……やべっ」


陽菜「……っ!? 」



俺が少しだけ、普段よりも声音を下げる。

すると誰よりも早く一輝と陽菜が反応した。


陽菜「ふ、2人共、とりあえずそこまで!!」



次の瞬間、陽菜が梨央と深雪ちゃんの腕を取り、仲裁に入った。



遼「……ふぅ……」


一輝「お疲れさん」



解放され、ようやく一心地つくと一輝は肩に手を置きながらそう言った。



遼「助けもしなかったくせによく言うよ……」


一輝「ははっ、まぁ気にするな!」


遼「普通は気にするって。ところで……あれは?」



そう言って、少し離れた場所の陽菜達に視線をやる。

まるで円陣の様に頭を寄せ合っている。



一輝「さぁな……まぁ待っとこうぜ。水城、こっち来てこれからの予定組もう」


さくら「あ、うん……」



俺とさくらちゃんは、一輝の広げたパンフレットに意識を注いだ。


その頃――



梨央「何よ陽菜!?」


深雪「そうですよ、いきなり間に入って!」



少し離れた場所で、遼達に聞こえない様に私は梨央と深雪の肩に手を回し、声を潜める。



陽菜「忘れたの? 遼、怒らせると怖いわよ? 例を挙げるなら、梨央は小6の時。深雪は助けられた時!」


深雪「あ……」


梨央「小6って言うと、やっぱりあの事件だよね……」


深雪「小6って、何があったんですか?」


陽菜「実はね……」














………

…………

……………













小学6年生の時、所謂悪ぶるというのか。

力の強い男子で集まった5人組が幅を効かせていた時期があった。


最上級生であるが故の傲り。

力による支配、恐怖統制。


何か言えば、力による報復が待っているせいか、誰も何も言えず。

先生の言う事すら聞かず、手を焼いていた。


正直、遼や一輝は気にくわなかったのか、ずっと気にしている様子だったけど特に突っかかって行く事はなかった。

そんな中、あの事件が起きた。



「どけよ!」


「うっ……うぇ……」


「さ、さゆみちゃんだいじょうぶ!?」



廊下に響き渡る、小さな子供の泣き声。

例のグループが、廊下で走り回ったいた1年生の女の子を突き飛ばした。


私達4人の目の前で 。



陽菜「沙祐美ちゃん!」


梨央「大丈夫?」



すぐさま駆け寄って、怪我がないかを確認。

頭を撫でながらあやしてあげた。


その女の子……柳川 沙祐美ちゃんは良く知っていた。

時折休み時間に遊んであげる子で。


そして入学式の入場の時、遼が手を繋いで歩いた子だったから。

一輝「おい、待てよ!!」


「あぁ? 何だよ平峰。何か文句あるのか?」


一輝「あるね、大ありだ!」



そんな中、一輝がリーダー格の男子に突っかかって行く。

でも止めたいとは思わなかった。


私と梨央も、その男子達を睨みつけていたから。

一輝が行かなきゃ間違いなく自分が行っていたと断言出来たから。



遼「………」



一輝が突っかかる中、遼は黙りこくって俯いていて。

でもその時の私達は、頭に血が上っていたせいか気付かなかった。


――遼の変化に。



一輝「だいたいお前ら、何様なんだよ! 1年生の女の子蹴飛ばして恥ずかしくねぇのか!?」


遼「……一輝、そこ……て……」


一輝「え?」


梨央「遼……くん?」



目を疑った。

いつも笑顔で優しくて。


そんな遼が、あんな顔をするなんて――



遼「……そこ、どいて」


「んだよ水崎。お前も文句あるのかよ?」


「お前みたいな優男はお勉強してろって。なぁ?」



5人が代わる代わる挑発しながら笑い声を上げる。

それでも、遼はぴくりとも表情を変えないで。


ただ静かに歩み寄り……



――バキッ!!



骨と骨がぶつかる、鈍い音と共に、リーダー格の男子が床に転がっていた。



「なっ!? てめぇ何しやがる!!」


遼「……うるさい。黙れ」


「ひっ!?」



いつもとは違う、低い声音。

冷たく睨みつける視線。


睨みつけられた男子が、小さく悲鳴を上げた。



遼「……謝れよ」


「う、うるせぇっ!」


「う……うわぁぁぁっ!!」



1人が叫びながら遼に殴りかかったのを皮切りに、残りの3人もそれに続く。


でもその数瞬後、無傷な遼を中心に5人全員が横たわっていた――













………

…………

……………












陽菜「って事があってね」


深雪「めっっっっちゃ格好いいじゃないですか!」


梨央「いやー、実際目の当たりしたら怖いんだよ、深雪ちゃん……」


陽菜「本当にね。だから、声音が下がったら要注意。怒らせたらダメなの……」



騒いでいたのも何とやら。

いつの間にか、3人で談笑となっている。


いい加減、中に入りたい。



遼「おい、3人共!」


「っ!?」



声をかけると3人が一瞬静かになる。



陽菜「わかったわね?」


深雪「は、はい……」


一輝「そろそろいいか?」


梨央「う、うん! 行こうか?」


さくら「とりあえず、先にご飯にしない?」



さくらちゃんがそう言うので時計を見ると、もうすぐ12時を回ろうとしていた。



-海浜公園内 中央広場-



早速海浜公園内に入場。

入口からまっすぐ進んだ所にある、海浜公園の真ん中。


中央広場と名付けられた、まわりを木々で囲っている芝生の上で、俺達はレジャーシートを広げて座っている。


木々からもれる木漏れ日と、頬を撫でる風が気持ちいい。

こうして弁当を食べる為に皆で輪になって座っていると、その気持ちよさも格別だった。


これから、皆が作って来てくれた弁当を開ける。

そんな中、隣に座っている一輝がうな垂れていた。



一輝「とうとうこの時間がやってきてしまった……」


梨央「か・ず・く・ん? 口は災いの元ってことわざ、知ってるかな~?」


さくら「まぁまぁ、梨央ちゃん……せっかく頑張って作ったんだし、味で勝負しよう?」


梨央「むー……そう言われたらそうするしかないわよね……」



握り拳を作っていた梨央は渋々と言った感じで拳を下げる。

俺の横で一輝が小さく息を吐いたのが聞こえた。


怒られると思うなら言わなければいい物を……



深雪「ほら、早く食べましょう!」


さくら「それじゃ、開けよっか。梨央ちゃん、お願い」



さくらちゃんが微笑むと、



梨央「わ、わかった! はいっ!!」



そう言って、梨央は弁当箱の蓋を開ける。

そこには、綺麗に並べられた色とりどりの料理が詰まっていた。


定番メニューとして唐揚げや卵焼き、タコさんウィンナー。

おにぎりは俵型で統一されていた。


他にも、ミニハンバーグ等目移りしてしまうラインナップだった。


遼「おぉ、結構沢山作ったんだな?」


一輝「うまそうだな……意外と……」


陽菜「一輝、一言多い。いい加減殴るわよ?」


梨央「そうだよかずくん!」


一輝「ぐっ……スミマセン……」



俺と一輝は揃って感嘆の声を上げる。

余計な一言を言った一輝には、陽菜の睨みが贈呈された。



さくら「えっと……食べようか?」


深雪「はい、皆さん取り皿とお箸です!」

ふん、とそっぽを向く梨央。

その様子が、普段の梨央らしくて何だか面白かった。



深雪「ほら、早く食べましょうよ。はい、遼お兄さん♪」



にっこりと笑って、名前を呼んだ深雪ちゃんは俺の前におかずが詰められた弁当箱を押してきた。



遼「えっと……なんで俺の方に……? 他の人が食べづらいんじゃ……」


梨央「まぁまぁ。まずは、遼くんからって事で♪」


さくら「……じーっ……」


一輝「ほんと、羨ましい限りですなぁ……」


陽菜「……遼、他の人が食べれないから、さっさと食べちゃいなさいよ」


遼「……な、なんだか食べ辛いんだけどなぁ……」



ここに集まっているメンバー全員の視線が俺に集まる。

特に、女性陣の視線が凄い。


とにかく、凄い。



深雪「……」


さくら「……」


梨央「わくわく♪」


陽菜「大変ねぇ、遼も」



無言だが、視線は普段の何倍も爛々とした感じで見つめてくる水城姉妹。

楽しそうにしている梨央に、あからさまに同情している陽菜。


助けを求めて一輝に視線を送って見るが……



一輝「ま、お前はそういう立場だよ。腹減ったから早く頼むわ」


遼「……はぁ……」



一輝までもが投げやりな態度で俺を急かす始末。

完全に四面楚歌。


俺に出来る事は料理に手を伸ばす事のみだった。



遼「……わかった。いただきます……」



覚悟を決めて、割り箸を割り、弁当箱の中からからあげを取る。



さくら「あっ……」



そして、そのまま口の中へと入れる。

噛むと、冷えてはいるが下味がしっかりしているのか肉と香辛料の旨みが口の中に広がった。



遼「うん、おいしいよ」


さくら「よかった……」



安堵の表情を浮かべるさくらちゃん。

どうやら唐揚げ担当だったらしい。


他の面々は、


「当たりはさくらちゃんだったか~……」だの、「お姉ちゃんばっかり……」等と呟いている。


美味しいのは美味しい。

だけど状況のせいで心から味を楽しむ事は出来ていなかった。



一輝「よし。儀式も終わった事だし、皆で食おうぜ」


陽菜「だね」


遼「儀式って……また身も蓋もない……」



矢面に立たされた身としては、正直げんなりしてしまう。

そんな俺自身の呟きは完全にスルーされ、皆思い思いに取り皿へおかずを取っていた。



深雪「ちなみに、おにぎりは私と陽菜先輩の合作ですからね~♪」


陽菜「み、深雪! おにぎりくらいでそんな……」


深雪「何言ってるんですか、アピール大事ですよ!」


陽菜「私は別に……」



何やら2人で騒いでいるが、何となくスルー。



一輝「……で、さ。梨央が作ったのはどれなんだ?」



そんな中、俺の横に座る一輝が冷や汗を流しながら恐る恐るそう言った。



梨央「かずくん、その目の前のウィンナーとか卵焼きだけど。何か言いたげだね~……?」



あからさまに一輝を睨みつけながら、梨央はおにぎりを頬張った。

そりゃそう言いたくもなるだろう。



さくら「一輝くんが怖がるほど、梨央ちゃん料理下手じゃなかったよ?」


梨央「ほら! ほら!! 聞いたかかずくん!!」


遼「ま、食べてみたらわかるよ。じゃぁ、いただきます」



一輝の前にある、ウィンナーを取り皿に乗せる。



梨央「あ……」


一輝「ちゃ、チャレンジャー……」



一輝が余計な事を言ったが、無視してウィンナーを口の中に放り込む。

その瞬間、口の中が一気に刺激が走り抜けた。


これは……胡椒のかけすぎ、かな。

でもご飯とは合うだろう。



遼「うん、全然おいしいよ」


梨央「ほんとっ!?」


一輝「……まじか?」



不安そうにしながらも、一輝は同じ様にウィンナーを口に入れた。



一輝「っ!? か……! いでっ!!」



何かを言いかけた一輝の足を思い切りつねり、睨みつける。

俺の言いたい事を悟ったのか、


一輝「う、うん。あれだ、あ、あの頃よか全然上達してるな……(遼、何すんだよっ!)」



小声で一輝が抗議してくる。

勿論、余計な事を言いかけた一輝の足をつねったのは俺だ。



梨央「ふふん、これで少しは見直した?」



嬉しそうに、今度はからあげをとり、口に頬張る梨央。

言うまでもなく、満面の笑顔だ。



遼「(うるさい、自業自得だ)」


一輝「(そりゃねーぞ遼……)」



学習しない一輝にため息をついた後。

俺は皆の作ってくれた美味しい弁当に舌鼓を打つ事に集中したのだった。

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