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未来へ続く道~Wings to flap~  作者: 禾楠
第一章
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梨央の想い



梨央「楽しかったね~♪」



空は茜色。

時は夕刻。


今日は1日中遊び倒した。

笑ったり、時々怒りながらも俺と梨央はお互い充実した1日を過ごせたと思う。


そんな1日の最後、梨央の願いで俺達は公園に来ていた。

俺が日本に帰って来てからも、何度か足を運んでいる、思い出の公園だ。



遼「久しぶりにこんな遊んだなぁ……。ありがとね、梨央」


梨央「何言ってるの? 私が付き合わせたんだから、お礼言うのは私だよ。ありがと、遼くん」


遼「……なら、どういたしまして、だな」



そう言って、お互い笑い合う。

夕日で茜色に染まる公園を見渡す。


ブランコにすべり台、ジャングルジムに鉄棒。

中をくぐれる土管。


思い出深い遊具達。



梨央「……懐かしい、のかな。遼くんが私達に引っ越すのを教えてくれたのも、この公園だったよね……」



横で梨央が小さく呟いた。

少しずつ、空が暗くなっていく。


茜色が、薄紫色へと変わっていく。

空を見上げると、一番星が輝いていた。


最初は数人いた子供達の姿もいつの間にかなくなっていた。



遼「……そう、だな……」


梨央「あ……遼くんを責めてるわけじゃないんだよ? ただ、ちょっと気になってる事があって……」



どう答えていいかわからず、相づちだけ打った俺に梨央が少し焦りながらそう答えた。



遼「気になってる事?」



梨央の顔を見ると、今日1日見せてくれたどの表情とも違う、真面目な……真摯な表情だった。

梨央の態度に合わせ、改めて聞く体勢を整える。



梨央「あのね、あの日……遼くんが私達に引っ越す事を教えてくれた時に、陽菜がどんな態度をとったか、私は知ってる」



梨央は話し始めると、ゆっくり公園の真ん中にある電灯へと歩いていく。

俺は遠慮がちに梨央の背中を追った。


梨央が電灯の下でくるりと振り返る。

振り返り様に合った目は、どこか泣きそうな……そんな感じに見えた。



梨央「ねぇ、遼くん。知ってた? 遼くんが車で空港に向かった後にね。ほんの数分後に、陽菜が来たんだよ……」


遼「陽菜、が?」



それは、知る由もない事実だった。

引っ越しを告げたあの日を最後に会う事が出来なかった陽菜が……


あの時、あの場所に来ていただなんて。



梨央「知ってるわけないよね……私もかずくんも言ってないんだし。あの時ね、陽菜がとった態度は……私だったら怒ってると思うの。でも、遼くんは気にしないって言ってたよね?」


遼「……あぁ、俺は気にしてない」



俺は自分の気持ちに素直に、はっきりと断言する。

すると、梨央が一瞬だけ笑みを浮かべた。


が、すぐに真面目な表情に戻る。



梨央「それでも改めて聞きたいの。遼くんは、本当に陽菜のあの時の態度とか、日本に戻って来てからの事、許したの?」



梨央の言葉を受け止め、改めて自分なりに目を閉じて考えてみる。

浮かぶのは、当時の情景。


確かに、あの時の陽菜の態度は良いものだとは言えない。


何でこんな事になってしまったんだろう。

そう考えた事もあったし、あんな別れ方をすれば悲しまない人の方が少ないだろう。


梨央の心配も、わからないでもない。

……それでも、このまま終わりにするのは嫌だ。


だから、俺はその為に帰ってきたと言っても過言ではない。

それが俺の出した答え、なんだよな。


そう結論付け、俺は目を開けた。



遼「うん、許してるよ。俺にだって悪い所はあったんだ。あの時は言葉が足りてなかったと思ってるし……」



むしろ、許す許さないじゃなくて、俺は謝りたいんだ。

そう考えた時に、ふと思った。


俺は……後悔しているのかもしれない。

あの時の事を。


あの日の出来事、あの日の振る舞い。

そして、この結果に。



梨央「そっか……。うん、ありがと、遼くん。それが聞けたら満足だよ……ね?」



俺の返答に、梨央が弱々しく笑みを浮かべながら、右手に持った携帯電話のディスプレイを俺に向けてくる。


目を凝らして見ると、そこには“通話中”の文字。



遼「通話、中?」


梨央「うん、ごめんね……? 聞いてもらっちゃった♪」



そんな可愛くウインクをしながらごめんねと謝られても困るのだが……

話しの流れ的に、誰に聞いてもらったかは想像に難くなかった。



遼「まさか……?」


梨央「すぐに来ると思う。ううん、これで来ないとさすがに私も怒るよ……? ねぇ……“陽菜”?」











………

…………

……………












携帯電話のマイクに向かって喋りかける梨央。

その名前を聞いた瞬間、俺の心中がざわついた。



一輝「なっ!?」



梨央の後ろ……草むらに隠れているのだが、つい声を上げかけてしまう。

かろうじて梨央の声だけが聞こえる位置。


そこにはもちろん、水城と深雪ちゃんもいる。



さくら「り、梨央ちゃん……」


深雪「陽菜って……あの陽菜先輩?」



事情を知らない深雪ちゃんは、何が何だか分かっていないように見える。

が、それがあまりよくないことなのは雰囲気で察することが出来たのか、それ以上騒ぐ事はなかった。



一輝「梨央、それはさすがに焦りすぎじゃないか……!?」



正直、フォローはするつもりだったが、出来る限り本人達に

任せようと俺は思っていた。

当人の問題なのだから、と。


梨央もそのつもりだったはず。

少なくとも、2人で話してた時は同じ考えだと感じていた。


でも、今の現状を見るに……梨央は我慢できなかったのかも知れない。



一輝「梨央……」



そう思うと、今見えている梨央の後姿が妙に頼りなく見えた。

それでも、決心して今ここに立っている。


それが何故か無性に寂しく見えた。











………

…………

……………












遼「やっぱりか……」



小さく溜め息を吐く。

突然デートだなんて言い出した理由はこういう事を考えていたのか。


そこまで追い詰めてしまった原因は俺にもあるのだろうけど。



梨央「私達、待ってるからね?」



マイクに向かってそう言い、梨央は携帯電話を閉じる。

そして、先程までとは打って変わった怯えた視線を向けてきた。



梨央「……怒ってる……?」



怒られる事も覚悟でやったんだろう。

悪戯が見つかった子供のような態度を取る梨央。


俺と陽菜の事を思っての、この行動。

少し強引な手段ではあるが、これで何かしらの進展はあるだろう。


それが、良い方向か悪い方向かはわからないが。



遼「……怒ってはない。梨央がどうしてこんな事をしたのかはわかってるし……。俺だって、このままじゃいけないって思ってたんだから」



少しでも安心させる為に梨央の頭を撫でる。

ちょっと子供扱いかな、とも思ったが、自分に素直に行動する事にした。




梨央「そっか……ありがと。それじゃ遼くん、頑張らなきゃだめだよ?」



ようやく笑顔を見せてくれる梨央。

その笑顔を見た瞬間、俺は梨央に元気と……一歩を踏み出す勇気をもらったのかもしれない。


だから、俺の方こそありがとう。

そう、心中で思った。


その瞬間――





――ザッ!



地面を……砂を蹴る音。



陽菜「はぁっ、はぁっ……!」


遼「……陽菜……」



そこには確かに、幼なじみの姿があった。

走ってきたのか、荒く息を吐いている。



梨央「遼くん、がんば……って!!」



俺の背中を押して、陽菜の方へと追いやる梨央。

最後の一押しまでさせてしまったな、と少し申し訳ない気持ちになる。



陽菜「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


遼「………」



未だ整わない呼吸。

俺は、陽菜が落ち着くのをじっと待つ。


陽菜の荒い息づかいだけが静かな公園に響く。



陽菜「と、とりあえず先に……! 梨央!!何よこれ!?」



俺の横を通り過ぎ、後ろにいる梨央の正面に立って怒鳴りあげる陽菜。



梨央「何よって?」



そんな陽菜に対して、梨央は冷静に答える。



遼「ちょ、待てって。落ち着けよ陽菜……」


陽菜「あんたは黙ってなさい! 説明しろって言ってんのよ!! こんな手の込んだ事して……!!」



陽菜の凄い剣幕に押し黙ってしまう。

こんなに怒る陽菜は、初めて見る。


少なくとも、小さな頃はこんな風に怒った所は見た事がなかった。



梨央「ねぇ、陽菜。遼くんが帰ってきて、もう結構経つよ? その間、陽菜は何かした?」



怒りを露わにする陽菜に対し、梨央は冷静というより冷たい視線で言い放つ。

恐らく陽菜が怒るのは予想済みだったんだろう。


そして、梨央自身も怒っているのかも知れない。



陽菜「そ、それは……」


梨央「まずは今しなきゃいけない事があるでしょ。それもできてない内は陽菜に言い負ける気しない。全部終わって、それでも文句があるなら聞くよ。文句だけで収まらないなら叩かれても私は文句言わないから」



そう言って、少し離れた場所のベンチに座る。



陽菜「っ……覚えてなさいよ……!」



見事に言い負かされた陽菜は梨央にそう吐き捨てた後、ゆっくりと俺の方を振り返った。



そして俺たちは……



引っ越しを、別れを告げたあの公園で……



再び、向き合った――



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