突発デート
様々な店が立ち並ぶ、姫咲島の中央通り。
買い物をするなら、誰もがここに集まる。
そんな中央通りにある、待ち合わせにもよく使われる駅前広場。
大きな時計台が目印のそこに、私、樋沢 梨央は立っていた。
梨央「ん~、少し早すぎたかな……?」
時計台の針は午前11時を指している。
ここが、今回指定した待ち合わせ場所。
待ち合わせ時間は11時30分。
数日前、カフェ~Wings to flap~で夕飯を食べている際に遼くんを誘ったデートの日。
いつも一緒にいるからわかる。
最近、遼くんはずっと悩んでいる。
勿論、私もかずくんもその理由は知っている。
私達共通の友達であり、幼なじみでもある女の子、華鍬 陽菜との事だ。
小さい頃はケンカをしながらも、1番仲が良かったあの2人が、今では殆ど会う事もなく、喋る事もない。
その事実が、ふとした瞬間に遼くんの頭の中をよぎっているのだろう。
梨央「陽菜もほんと、意地っ張りなんだから……」
空を見上げれば、雲一つない快晴。
そんな空とは裏腹に、我が幼なじみ達の間にはどうしてこんなにも暗雲が立ちこめている事か。
自然と溜め息も出るというものだ。
きっと、陽菜はあの日の事……
遼くんとの別れ際のやり取りを引きずっているんだろう。
確かにあれでは、久しぶりに会った時に笑顔で“おかえりなさい”とは言えないかも知れない。
少なくとも、私には無理な気がする。
そして、今避けられている遼くんも……
普段ならきっと解決出来そうな問題なのに、今回は今一歩踏み出せないでいる。
正直見ていて歯がゆいし、納得がいかない。
私の心情的には早く仲直りすればいいのに、なのだ。
それでも、当分は見守ろうと思っていた。
だけど……待てなくなった。
だから、私は行動を起こす事を決意して、今ここに立っている……
もうすぐ約束の時間。
私は決意を胸に、遼くんの姿を探した。
………
…………
……………
遼「ここら辺……あ、いたいた」
待ち合わせ時間の10分前。
そこには既に梨央の姿があった。
女の子を待たせちゃったなぁ、何て少し反省しながらも小走りで走り寄る。
時計台の下で待っている梨央は、いつも通りの髪型にピンクのカチューシャをつけ、服も淡いピンクのワンピースを着ている。
道行く人がちらちらと横目に見ながら歩き去って行く。
幼なじみながら、やはり可愛い。
女性誌に載っていても俺は驚かないだろう。
遼「ごめん、待った?」
梨央「ううん、今来た所! って、ベタだなぁ~」
遼「ベタって言われてもなぁ……」
梨央「だってベタじゃない?」
楽しそうに笑いながらそう言う梨央。
微笑ましく思いながらその笑顔を見ていた俺の手を突然握りしめた。
梨央「えいっ!」
遼「えっ!? り、梨央?」
梨央「ほら、行こっ?」
俺の問い掛けに答えず、梨央は歩き出す。
わけが分からないまま、俺は梨央について行った。
………
…………
……………
そんな2人の後方、隠れながら騒ぐ少女の姿があった。
深雪「あぁっ!! て、手繋いでる~っ!!」
何処からか今日がデート当日だと言う事を知ったのか、そこには深雪ちゃんの姿があった。
さくら「……やっぱり悪いよ、覗きなんて……」
そして、妹に押し切られる形でついて来た水城は深雪ちゃんの後ろで落ち着かない表情で様子を見守っている。
一輝「へぇ~。やっぱり絵になるなぁ、あいつら……」
そしてその2人の後ろで幼なじみ達を複雑な心境で見ているのが俺。
つまりは、覗きだ。
深雪「はいはい、いいから早く追っかるよ!」
さくら「あっ、深雪!! もぉ~……」
一輝「………」
梨央が一体何を考えているのか、正直検討もつかない。
遼と陽菜の事に関しては、一応話してはいるし。
何か考えがあるのか、はたまた梨央自身がただ遊びたいだけなのか。
一輝「……わっかんねぇなぁ……」
水城達には聞こえないように呟く。
先を歩く2人の背中を追いかけながら、俺は答えを探し続けた。
………
…………
……………
遼「で、何処に行くのさ?」
梨央「えっとね~、まずは服を見に行きたいんだよね。遼くんにコーディネートしてもらうのもありかな~♪」
梨央は手を離す素振りを見せず、楽しそうに歩いて行く。
正直、恥ずかしかったりする。
梨央は気にしていないのか、全くお構いなしに歩いている。
遼「り、梨央? その、手……離さない?」
気恥ずかしさに負けて、俺が苦笑しながら提案する。
途端に梨央は泣きそうな表情を浮かべた。
梨央「私は繋いでいたいんだけど……ダメかな?」
遼「……うっ……」
目を潤ませながら、しかも上目遣いでそんな事を言われる。
昔から梨央のお願いには弱いからなぁ、と改めて再確認。
というか、梨央にこの表情で頼まれて断れる人が居るのだろうか?
見てみたい気もするが、すぐに諦めた。
きっと居ないだろう。
遼「はぁ……。わかった、繋いだままでいいよ」
梨央「やたっ! ありがと♪」
涙ぐんでいた表情は何処へやら。
まるで役者のようだ。
一輝がいたら、また「ほんと梨央に甘いなぁ」とか言われそうな気がする。
遼「わかったよ、行こうか……」
梨央「行こ~!」
笑顔で歩き出す梨央に手を引かれながら、目的の店へと向かった。
………
…………
……………
一輝「ほんと梨央に甘いなぁ」
少し離れた場所で苦笑しながら見守る。
勿論、俺自身もきっと梨央には甘いんだろうというのは分かってはいるが。
深雪「むむむむむ……!!」
さくら「ほら、帰るよ、深雪!」
痺れを切らした水城が深雪の手を取って動きを抑え込んでいる。
やはり水城に覗き、というか尾行は許容出来ないらしい。
さっきからずっと思っていた事だが、今の俺達。
周りから見るときっと……
女の子「ねぇ、ママ? あのひとたちなにしてるのー?」
「こらっ! 見ちゃいけません!!」
道行く親子がそそくさと歩き去って行く。
一輝「……だよなぁ」
それもそのはず。
今の俺達は、レストランの看板の後ろに隠れているのだから。
世間一般で言う、不審者。
変な視線を向けられているのだった。
………
…………
……………
梨央と手を繋ぎながら、色々な場所を回った。
梨央「あ、これ可愛いかも!」
遼「ん~、でもこっちもよくない?」
梨央「それもいいね~♪ 迷うな~……あ、これ遼くんに似合いそう!!」
洋服を見たり……
遼「………」
梨央「わ、あ! おぉ~……」
話題の映画を見たり……
梨央「遼くん、これ取って!」
遼「また突然な……。アーム弱かったらどうしようもないから」
梨央「そんな事言いながらも挑戦する所がさすがだね~♪」
ゲームセンターに行ってみたり。
考えてみたら、2人だけで遊ぶというのは今までは中々なかった。
小学生時代は基本的に一輝と陽菜を入れた4人だったし、戻ってきてからも行動するのは梨央、一輝、さくらちゃんとだった。
だから、今の状況は珍しい。
そんな事を考えながらUFOキャッチャーのボタンを押す。
ガシャン――
遼「はぁ~、よかった。はい、梨央」
梨央「さすが~! ありがと♪」
運良く取れた、UFOキャッチャーの景品を梨央に手渡す。
そんな些細な事でも笑顔を見せてくれる梨央を見て、半ば無理やりのデートだった今日。
来てよかったな、と思える1日となったのだった。