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未来へ続く道~Wings to flap~  作者: 禾楠
第一章
14/43

羽ばたく翼




事の発端は、いつもと変わらない放課後。

一輝や梨央、水城さんとどこかに行こうという話しになり、学校から商店街へと向かう道で起きた。



一輝「たまには外で、皆で夕飯食わねぇ?」



この、一輝の思いつきのような一言から始まった。



遼「また唐突だな……俺はいいけどさ」


梨央「私はお母さんに聞いてみないとわかんないなぁ~。ちょっと聞いてみるね」



梨央がそう言いながら携帯電話を耳にあて、俺達から少し離れる。

何故か、夕飯を食べに行くのは決定したかのような雰囲気になっていた。


俺は1人暮らしだから、本当に問題はないのだが。



さくら「ごめん、私は急にだとちょっと……」



そんな中、水城さんが申し訳なさそうな表情をしながら手を挙げた。

梨央から聞いた話しによると、水城さんの家族はとても仲が良いらしく、夕飯は必ず全員で取る事が決まりになっているとの事。



遼「そういえば、水城さんの家は夕飯は家族揃って食べるのが決まりなんだっけ?」


さくら「うん、だから急に外食は無理かな……」


一輝「ん~、どうするか……」


遼「別に今日じゃなくてもいいんじゃないか?」


一輝「いや、思い立ったが吉日だ。気分的にも今日は外食の気分になっちまったし……」



普段は面倒くさがるくせに、こうなるとどうにかしようと本気で考える一輝。

一体どっちが本性なのだか、と苦笑していると電話が終わったのか、梨央が携帯を閉じながら戻ってきた。



梨央「私も大丈夫……って何悩んでるの?」


遼「水城さんが、急に外食は無理だって。で、一輝が無駄な足掻きをしてるとこ」


一輝「無駄って言うな、無駄って!!」


さくら「あ、あははは……」



水城さんが俺達のやり取りを見ながら苦笑を浮かべる。

その横で、梨央はきょとんとした表情をしていた。


顔にはあからさまに、「何言ってるの、この人達」と書いてある。



梨央「あのさ……さくらちゃんちのお店に行けば何の問題もないんじゃない?」


一輝「その手があったか!!」


さくら「ん~……お店なら私も一緒にいれるかも……」


遼「水城さんの家って飲食店なんだ……?」



梨央のこの言葉により、俺達はその水城さんのお父さん達が経営するお店に行く事になった。










………

…………

……………












商店街を抜け、少し歩いた場所で水城さんが止まる。



さくら「ここが、私の家だよ」



外観は、木造の落ち着いた雰囲気を醸し出す建物。

壁沿いでガーデニングをしているのか、色とりどりの花が植えてある。


入り口の上には大きな看板があり、そこには“カフェ-Wings to flap-”と書かれている。



遼「カフェ-Wings to flap-……羽ばたく翼、か」


一輝「この英語、そういう意味だったのか……」


梨央「そういう意味だったのか、って……。かずくん、もう少し興味持ちなよ……時々来てるんだし」


一輝「なぁっ!? な、なら梨央は意味を知ってたのか!?」


梨央「と~ぜん♪ 初めて来た日に気になったから帰って調べたもん」


一輝「ぐっ……俺はその日食ったメニューの事しか考えてなかったなぁ……」


さくら「えっと……とりあえず中に入ろう?」



店の前で話し込む俺達に水城さんが入店を促す。

拒否する理由もなく、俺達はカフェ-Wings to flap-の中に入っていった。


店内も外観と同じく、木を主体にした作りとなっていた。

まるで、この中だけ時間がゆっくりと進んでいるような錯覚を覚える。


店内を見回していると、店の奥から店員であろう女性が歩み寄ってきた。



「いらっしゃいませ~! って、さくらじゃない。いつも裏から入ってきなさいって言ってるのに……」


さくら「ただいま、お母さん。今日はお客様としてだし、皆もいるからいいんだよ」


「しょうがないわね、もう……ってお客様?」



水城さんのお母さんらしいその女性は、呆れる仕草をしながらも優しく微笑んでいた。

茶色の長い髪を肩にかけ、緩く結い合わせた大きなお下げ髪が優しそうな雰囲気に拍車をかけていた。



一輝「ども、お久しぶりっす」


梨央「お元気そうですね、菜月さん♪」


菜月「あら~、一輝くんに梨央ちゃん! 久しぶりじゃない!」



お母さんの名前は菜月さん、というらしい。

どうやら2人はこの店の顔なじみのようで、とてもフランクに接していた。



「すいませーん、お冷やください!」



そんな中、お客さんの1人が手を挙げる。



「はーい、少々お待ちください! ごめんね、ちょっと行かなくちゃ。深雪~! 代わりに席にご案内して~! さくら、後で彼、紹介してね♪」


さくら「なっ!?」


「は~い!」




お茶目な事を言い残し、水城さんのお母さんはお客さんの下へと走っていく。

店の奥から、先程呼ばれた別の店員さんが顔を出した。


咲島高校の制服に白いエプロンをつけた、ポニーテールの女の子だ。



「お待たせしましたっ! お席の方に……っ!?」



その子が、接客の途中で言葉を詰まらせた。

目を白黒させながら俺達を……


いや、俺を見てる?



さくら「深雪……? どうかした……」


深雪「あーっ!!!!」


さくら「の!?」



水城さんの台詞をかき消しながら、ポニーテールの女の子は大声を挙げた。

俺の事を指差しながら。



遼「えっと……俺?」


梨央「遼くん……深雪ちゃんに一体何したの?」


一輝「犯罪はダメだぞ、犯罪は」


遼「何もしてない。後、一輝は黙っとくように。口塞ぐよ?」


一輝「え、笑顔で拳握るなよ……。なんか迫力あって怖ぇから……」



横で言いたい放題の幼なじみ達に言い返しながら頭の中で目の前にいる女の子に見覚えがあるかどうか、記憶を遡っていく。



深雪「お、おおお姉ちゃん! な、なんであの人と一緒なの!? いや、うん、確かに咲校にはいなかったから姫校とは思ってたけど……でもでも、お姉ちゃんの知り合いだなんてそんな……!!」


さくら「ちょ、深雪落ち着いて……!!」


梨央「そうそう、まずは深呼吸だよ!」


深雪「は、はい……。すーっ……はーっ……」


一輝「で、実際の所どうなんだ? 思い出したか?」


遼「微妙な所。喉まで出掛かってるんだけど……」



水城さんと梨央が女の子を落ち着かせている間に、俺は何とか思い出そうと記憶を探る。

実際、見覚えはある。


でも、どこかがわからない。

そんなもどかしさを感じていると……



深雪「その~……」


遼「え? あ、ごめんね。ぼーっとしてた」



目の前で、先程よりは幾分か落ち着いた様子の店員さんが明らかに緊張した面持ちで立っていた。



遼「その、ごめん。俺思い出せなくて……」


深雪「あ、いえっ! あの時は殆ど話しもせずに逃げ帰っちゃったんで……」


一輝「聞いたか、逃げ帰っただとよ……」


梨央「2人の間で一体何があったんだろうね~……♪」


さくら「……はぅ~……」



少し離れた所で、一輝と梨央の2人がいかにもこの状況を楽しみ、水城さんがあたふたしながら、小声で言いたい放題。



聞こえてるぞ、と少しだけ睨みつけながらも今は店員さんに集中する。



深雪「あの時……夜に絡まれてた時に助けてもらって、ありがとうございました!」


遼「夜に絡まれて……あ、あの時か!!」



お礼を言いながら頭を下げた店員さんを見ながら、ようやく状況が理解できた。

でも、記憶の中にあるあの時の女の子とは何か違う印象を受けた。


怪訝な表情をしていたのか、店員さんが気づいてポニーテールをほどいた。



深雪「これでわかりますかね……? あの時は結んでなかったから……」



ほどいた髪は、ポニーテールにする為に結んでいた箇所に力が加わって少しウェーブがかかっていた。



遼「うん、思い出せた。水城さんの家族だったんだね……」


深雪「はいっ! 水城 深雪って言います! 改めて、ありがとうございました!!」


遼「いや、気にしなくていいよ。無事でよかった。えっと……深雪ちゃんでいいかな?」


深雪「はい、名字だと紛らわしいですしね」



――ガシッ。


ようやく思い出し、雑談を交わしていると後ろから肩を掴まれる。

力の入り方から言って、間違いなく男の手だ。



一輝「もちろん、何があったか教えてくれるよな?」


梨央「拒否権はなしだよ、遼くん♪」


さくら「わ、私も聞きたい……!」



振り返るとそこには三者三様の、まるでおもちゃを見つけた子供のような好機に満ちた視線。

どうやら、この状況から逃れる手段はないようだった。











………

…………

……………











梨央「へぇ~、あの時にそんな事があったんだ……」


一輝「さすがだな~。やっぱ総技会に入ってもらって……」



落ち着いた深雪ちゃんに案内してもらった6人掛けの席に移り、料理を注文した後。

料理が来るまでの時間であの日あった事を説明すると、梨央と一輝は納得したのかあれ程好機に満ちていた視線は平時のものへと戻っていた。



遼「はぁ……。なんかもう疲れた……」



話しの途中、わざわざ中断してまで事細かに聞いてくるものだから、ただ説明するよりも疲労が大きかった。

そんな中、真剣な表情をした水城さんが俺を見ながら頭を下げた。



さくら「水崎くん、本当にありがとう……」


遼「気にしないでよ。見過ごせなかっただけだから……」


深雪「そんな、気にしますよ!」



湯気が立ち上る料理をテーブルに起きながら、深雪ちゃんが会話に割って入ってくる。

そして、そのまま水城さんの隣に座った。



深雪「ほんとにあの時は助かりましたよ。怖かったし……だから、もう一度言わせてください。ありがとうございました……!」


梨央「褒め殺しならぬ、お礼殺しだね?」


遼「あ、あはははは……」



本当に、ここまでお礼を言われ続けるといたたまれなくなってくる。

きっと、お礼が欲しくて助けた訳ではないからだろう。



遼「あ、そうだ! 水城さんって呼んだらこれからは困るよね。深雪ちゃんは深雪ちゃんだから……水城さんはさくらちゃん、でいいかな……?」



そんないたたまれなさから逃げるように、俺は話しを逸らした。

それでも、この問題は解決しておかないといけない事だ。



さくら「えっ!?」


深雪「あたしは遼お兄さんって呼びますね♪」



俺の提案に顔を真っ赤にして驚く水城さん……さくらちゃんに、笑顔で呼び方を決めている深雪ちゃんは姉妹にしては性格が対照的なようだった。



梨央「お~、真っ赤! 初々しいね~♪」


一輝「真っ赤すぎて湯気が出てきそうだ……青春だねぇ♪」



そこに、タイミングを図ったように梨央と一輝が茶々を入れる。



さくら「あぅ~……」



梨央「あはっ、さくらちゃん可愛い~♪」



2人からの攻撃にあえなく撃沈してしまったさくらちゃんに梨央が抱きつく。

かなり慌てているようで、さくらちゃんの顔は本当に真っ赤だった。


これ以上はさすがに可哀想なので助け舟を出すことにする。



遼「はいはい、そこまで! せっかくの料理が冷めちゃうから食べよう。深雪ちゃんは、お仕事大丈夫なの?」


深雪「はい、お母さんが休憩入っていいよって言ってくれましたから♪」


「そういう事~♪」



そこにタイミングよく、最初出迎えてくれた女性……2人のお母さんがお冷やの入った容器とオレンジジュースを持ってやってきた。「貴方が噂の男の子だったのね~……」


遼「挨拶が遅れてすみません、水崎 遼って言います」



席を立ち、頭を下げながら挨拶をする。

頭を上げると、2人のお母さんは俺をもう一度見定めるように見た。



菜月「ご丁寧にありがと、私はさくらと深雪の母で水城 菜月、このお店のホール長をしてるの。よろしくね? それ、と……貴方~、ちょっといい?」


「なんだ、いきなり……。おぉ、こりゃ珍しい客が来てるな」



お母さん、菜月さんが厨房の方に声をかけると、奥からテレビとかで見た事ある格好、コックの服を着た男性が出てきた。

どこか話しかけやすい雰囲気を醸し出し、店の雰囲気に似合う男性。


この人が、このお店を作ったんだとすぐにわかった。



菜月「遼くん、この人が2人の父親で、水城 龍。うちのコックさんよ」


龍「一輝くんに梨央ちゃん、久しぶりだな~。で、この子がさっきから話題持ちきりの、深雪の言ってた奴か??」


遼「あ、はい。はじめまして、水崎 遼です」


深雪「お父さん! 言ってた奴、なんて失礼でしょ!?」



挨拶を返すと、深雪ちゃんがお父さんに食ってかかる。

そこまで気にはしてないけど、口を挟むのもおかしい気がして苦笑しながら場を見守る。



龍「あぁ、悪い悪い。確かにそうだな。この間は娘が世話になったみたいですまんな。遼くん、だったな? よし、皆。今日の勘定は気にしないでいいからどんどん食べてくれ。俺のおごりだ!!」


遼「えっ!? そんな、悪い……」


梨央「わ、ほんとですか?」


一輝「よっ、太っ腹! それならデザートも頼まなきゃな~!」



断ろうとすると、梨央と一輝がすぐさまメニュー表を見出す。

このノリが普通なのか、それとも2人に遠慮がなさすぎるのか。


どちらかわからない俺は小さくため息をつくしかなかった。



菜月「あらあら、いいの?」


龍「構わん、親として礼はしないとな。なんなら、一緒に娘も持ち帰っても……」


さくら「お父さんっ!!」


龍「おぉ、怖い怖い。それじゃ、ゆっくりしていってくれ」


さくら「もう……お父さんのバカ……」


娘の怒った顔を見ると、そそくさとお父さんは厨房へと戻っていく。

その後ろ姿を見ながら、少し恥ずかしそうにさくらちゃんは俯いた。



遼「あはは、お父さん面白い人だね?」


さくら「あう……お恥ずかしい限りだよ……」



決して不快に感じない、さくらちゃんのお父さん――龍さんの態度に、つい笑ってしまう。

身内としては、やっぱり恥ずかしいものだろう。


俺も、どちらかというと父さんがお調子者な性格だからわかる気がした。



菜月「ふふっ、まぁそういうことらしいから、好きなだけ頼んでね??」


遼「……はい、お言葉に甘えていただきます」



俺達のやり取りを見てくすくす笑うお母さん――菜月さんも奥へと下がっていった。

その背中を見送った後、早速先に頼んだ料理を頂く事にした。



遼「お、これ美味しい!」



出てきた料理に舌鼓を打ちながら、俺達は色々な事を話した。

今日学校であった事や、家であった事。


それは、世界中のどこにでも溢れかえってるような、そんな些細な話しだ。



深雪「あ、それ結構人気あるんです! 他のも美味しいですからご贔屓にしてください♪」


遼「うん、これは拒否されてもまた来たくなるよ」


一輝「だよな~、これだったらレストランとしても通用すると思うんだよ」


梨央「私はこのままの方がいいかなぁ。カフェの方が気軽に来れる気がするし♪」


さくら「レストランでも別に気軽に来れるんじゃないかな……?」


梨央「ダメっ! 何か値段あがりそう!!」


一輝「確かにレストランの方が高そうなイメージあるな」



この時間がとても楽しい。

友達と騒ぐ、かけがえのない時間。


だから、この時間がずっと続けばいいと思った。

その瞬間、頭の中にそれじゃダメだ、と思っている自分がいる事に気づいた。


理由ははっきりわかる。

ここに陽菜もいれば、どれだけ楽しいだろう。


俺が心から望んでいるのは、その光景じゃないか。

そう考えると、頑張んなきゃと思った。


梨央「遼くん?」


さくら「もしかして、何か変な物入ってた……?」



考え事をしていたせいか、2人に気を使わせてしまったらしく、気づいた時には心配そうな顔をさせてしまっていた。



遼「……ごめん、大丈夫だよ」


一輝「はぁ……。遼、今ぐらい忘れとけ。それくらいで罰は当たんねぇよ」



俺の考えていた事をわかっているのか、一輝がため息をつきながら肩を軽く小突いてきた。



遼「そうだね、ごめん」



最近余裕がないな、とは思う。

それだけ、陽菜が大切な幼なじみだという事なんだろうか。



梨央「ねぇねぇ、遼くん?」



箸を置いた梨央が、服を引っ張りながら上目遣いに笑顔を向けてくる。

その表情にドキッとしながらも、何故か悪い予感がした俺は冷静を装いながら答えた。



遼「な、なに?」


梨央「今度のお休み、予定ある??」


遼「まぁ、今の所は何もないけど……」


梨央「ほうほう……。じゃぁ、私に付き合ってよ。デートしよ、デート♪」


深雪「えぇっ!?」


一輝「ほぉ~……」


さくら「で、デート……」



梨央の言葉を聞いた瞬間、深雪ちゃんが驚愕の表情。

一輝は真意を探りながらも事態を楽しむ子供のような表情。


そして何故か、さくらちゃんは顔を真っ赤にしていた。



遼「デートって……。何か用事があるの? 見たい物があるとか」


梨央「まぁそんなとこだね♪ いいよね? 決定!!」


遼「俺に拒否権は?」


梨央「……拒否って……断るの……?」


遼「……わかった。わかったからそんな泣きそうな顔しない……」


梨央「ありがと、遼くん♪」



結局、梨央には弱いのか……

そんな事を考えながら、白旗を挙げた俺は何をするのかもわからずに休みの予定を入れられてしまったのだった。










………

…………

……………









皆が帰った後、私と深雪はお店を手伝う為に洗い場に立っていた。

週に何度かお店を手伝うのが、家の決まり。


もちろん、手伝わなければお小遣い抜きになってしまう。



深雪「ねぇ、お姉ちゃん?」


さくら「なに?」



水音と、食器が重なるカチャカチャと鳴る音の中、深雪がおもむろに口を開いた。



深雪「……ありがとね。お姉ちゃんのおかげで、あの人……遼お兄さんに再会できて、ちゃんとお礼が言えた」



深雪を見ると、本当に嬉しそうな表情をしている。

妹のその横顔は、今までに見た事がないくらい、とっても輝いて見えた。



さくら「私は何もしてないよ……」


深雪「いいのっ! 何となく言いたかったんだから。それで、お姉ちゃんは遼お兄さんの事なんて呼ぶの?」



深雪の表情は一変して悪戯好きの小悪魔のような表情にかわる。



さくら「え……? 今まで通り、水崎くん……かな?」


深雪「はぁ~……ダメっ! ダメだよそんなじゃ!!」


さくら「な、なんで……?」


深雪「だって、遼お兄さんは気を使って名前で呼んでくれてるんだよ? それならお姉ちゃんも頑張んなきゃ!! あたしと一緒じゃ面白くないし……遼くん、とかかな?」



まるで自分事のように楽しそうに考えている深雪。



さくら「(……遼、くん……っ!!)」



声には出さずに、頭の中で呼んで見る。

その瞬間、予想以上に恥ずかしくて自分の顔が真っ赤になるのがわかった。



さくら「り、梨央ちゃんと一緒の呼び方だね……」



苦し紛れにそんな事を言ってみる。

深雪は「そういえばそうだよね~」とか言いながらどこか上の空だ。



深雪「えへへ~♪ 今日は本当、良い事あったな~♪ あ、でも梨央先輩のデート発言には要注意だよね~……梨央先輩可愛いからなぁ……」


さくら「デート……そっちも気になるけど……。呼べるかなぁ、名前……」



上機嫌だったかと思えば、突然テンションが下がる。

そんな深雪を横目に見ながら、私は本当に名前で呼べるかどうか、とか梨央ちゃんの言ったデートの事とか、どうなるかもわからない未来に思いを馳せた。



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