一輝の友達
一輝「そっち行ったぞ、遼!!」
遼「わかってる!!」
グラウンドを所狭しと無数の男子学生と1つのボールが走り抜けていく。
現在、体育の授業真っ最中。
内容はCクラスとDクラス合同でサッカーだ。
大体、1クラスの男子が15人くらいで、何人かが交代要員や審判をし、クラス混合チームで練習試合が行われている。
時間は午後の授業一発目。
昼ご飯を食べ、満腹になり睡魔が襲いかかってくる時間帯だ。
この時間に体育を入れてくる当たり、学校側の意図が見て取れる。
一輝からパスを受け、何とかデフェンスをかわしながらボールを運んでいく。
「通すかっ!!」
遼「くっ……!」
目の前に立ちふさがる、青いビブスを来たDクラスの男子。
ゴール目前で、ドリブルを止められる。
「へいっ!!」
遼「っ!?」
そんな俺の横を手を挙げながら走り抜けていく奴に何とかパスを繋げると、そいつは綺麗にマークを振り切ってゴールを決めた。
ピッピーッ!
「おっしゃぁ!!」
一輝「よっしゃ! ナイスだ、藤浪!!」
ホイッスルが鳴り、ゴールを決めたチームメイトと一輝がハイタッチを交わす。
落ち着いて顔を見ても、見覚えはあるが話した覚えはない。
どうやら、Dクラスの人らしい。
そのゴールと同時に、体育の先生が交代を命じる。
俺と一輝、さっきシュートを決めた人と他数人がベンチと交代した。
さっきのフォローはかなり助かったな……
お礼を言うか。
そう思った俺は近づいていく。
遼「ナイスシュート。助かったよ、えっと……」
佑也「ん? あぁ、藤浪。藤浪 佑也だ。あんたの事は一輝から話しは聞いてる。初心者とは思えないドリブルだった、さすがだな」
そう言って手を差し出してくる。
その手を取って、握手を交わしながら藤浪の容姿を見た。
身長は高く、俺は少し見上げないといけないくらい。
何かスポーツをしているのか、体格も良かった。
……ていうか、一輝から話しを聞いていると言われてもこちらは何も聞かされていない。
遼「一輝から? 一体何を……っていうか、俺は何も聞かされてないんだけど……」
佑也「……はぁ? おいおい、まさかあの野郎、何も話してないんじゃないだろうな……。一輝、ちょっと来いテメェ!!」
一輝「あぁ? なんだよいきなり……疲れてるんだから休ませろよな」
佑也「うるせぇ。それよりお前、自分の幼なじみに俺の事紹介してないみてぇじゃねぇか」
一輝「……あー、してない……っけ?」
遼「してない」
一輝が俺を見ながら確認してきたので、即効否定してやる。
すると、一輝は自分な頭をかきながら藤浪に向きなおると片手を挙げた。
一輝「わり、完全に忘れてたわ」
佑也「よし、死ね!」
ドゴッ!――
すぐさま藤浪の拳が一輝の腹へとめり込む。
その拳は、かなり綺麗に鳩尾へと入っていた。
それはもう、何か武道でもやっているのだろうかと思わせるくらい的確に。
一輝「ぐほっ!?」
遼「おぉ……綺麗に入ったなぁ」
一輝「ちょ……走り回った、直後に、鳩尾は……鬼、だろ……」
佑也「うるさい、黙れこの面倒くさがりバカが」
遼「ところで、そろそろ紹介してくれると嬉しいんだけどなぁ……」
苦笑しながらも、言い争っている一輝と藤浪を見る。
仲が良いのはわかるが、藤浪の事を良く知らない俺には会話に入っていけなかった。
一輝「いつつっ……ったく。遼、こいつは藤浪 佑也。一年の時同じクラスだったんだ。一言で言えばサッカーバカ。で、こいつが幼なじみで噂の転校生、水崎 遼だ」
佑也「改めてよろしくな、水崎」
遼「あぁ、こちらこそよろしく」
一輝「ちなみに、藤浪は掛け持ちで総技会にも所属しているぞ」
遼「……なるほど、あの抉り込むような突きもこれで納得だ」
佑也「ははっ、日々研鑽って事だ。もちろん練習台は一輝だけどな」
藤浪が笑いながらそう言うと、一輝は若干恨めしそうに藤浪を睨む。
一輝「ったく……藤浪と遼が相手じゃ基本スペックから違う俺はどう対抗したらいいんだっつーの」
遼「なんだよ、スペックって」
一輝「藤浪は運動神経。お前は全体的にだ」
指を差しながら言う一輝に、俺は呆れて肩を竦めた。
遼「全体的にって……わけわからんから」
佑也「言わしとけ言わしとけ。どうせ明日には考えるのが面倒くさくなって忘れるさ」
一輝「ひっどい言われようだな……」
他愛ない話しをしながら、俺達は笑い合う。
初めて話したが、藤浪とは仲良くやっていけそうな気がした。
佑也「まぁなんだ。部活あるから遊びにとかは滅多に行けないけど、いつか遊ぼうぜ」
遼「あぁ、楽しみにしてるよ」
笑いながら、藤浪がそう言った。
その表情を見た時、本当に藤浪とは仲良くなれそうだなと、心から思った。