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未来へ続く道~Wings to flap~  作者: 禾楠
第一章
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プロローグ

2005年頃に書いてた小説を保存するためにこちらへ移動中です。(昔書いてた無料サイトの一つがサービス終了して一部欠損した為のサルベージ)

読み直すと恥ずかしいので編集していません()





「……ほんと、なのか?」



6年間通った、小学校の卒業式の日。

卒業式を終え、近所の公園に幼なじみ4人で集まっていた。


傍から見れば、1人と3人が対峙している形で、話しを聞いてもらっている。



「うん。俺、引っ越すんだ……」



悲しみを堪え、少し俯きながら、そう告げる。



「…………」


「そんな……」



女の子2人は、驚きのせいか、何も言えないでいる。

引っ越しする事を告げている俺の名前は、水崎 遼。


目の前にいるこの3人とは、小さい頃からいつも一緒だった幼なじみ。

小学校で周りの女の子と男の子が別れて遊ぶようになっていく中、俺たちだけはいつも一緒だった。


――いつも一緒“だった”。

そう、そんな関係は今崩れようとしている。


この俺の、引っ越しという言葉によって……



一輝「ちょ、ちょっと待てよ……引っ越すってどこにだよ……?」



他の2人とは違い、なんとか思考が止めずに、それでも動揺した視線を向けながら、少年、平峰 一輝が聞いてくる。



遼「………」


梨央「えと、引っ越すって言ってもそんなに遠いところじゃ……ないんでしょ?」



少し落ち着いてきたのか、樋沢 梨央も口を開き、俺に真意を問う。

そんな梨央に、俺は現実を突きつけなければならない。



遼「ドイツ、なんだ……」



視線を合わせられなかった。

皆が今どんな表情をしているか、見たらきっと……


俺は、先を続けられなくなってしまう気がしたから。



一輝「なっ……」


梨央「ドイツ……?」



絶句し、呆然とする一輝と梨央。

遠いどころではないからこそ、中々言えなかった。


国を……生まれ育った大好きなこの島を、離れるのだから……



陽菜「引っ越すって、浩介おじさんの仕事の事情でしょ……?」



その時、ずっと黙っていた少女、華鍬 陽菜が口を開いた。

俺とバカみたいなことで笑い合っている幼なじみが、俺の父さんの名前を出す。




遼「……そうだよ。父さんの仕事の関係だよ」


陽菜「だったら、私の家に来ればいいじゃない!! 私から頼んであげるから」



いつもの陽菜なら、きっと言わないような言葉。

だけど、陽菜は真剣な表情で、そう口にした。


その言葉に……

その真剣な表情に……


どんな想いがあるのか。

それがわかるからこそ、嬉しくて……


その嬉しさの分だけ、辛くもあった。



遼「………」



だけど、俺はその想いに答える事ができないからこそ、頷く事ができずに俯いた。



陽菜「何とか言いなさいよ……! 遼は私たちと一緒にいたくないわけ……? 離れても平気なわけ!?」



そんな黙っている俺に、陽菜は声を荒げて怒る。


離れても平気?

そんなわけない。


ずっと一緒だったのに、そんな風に思えるわけがなかった。

だけど、どうしても行かなきゃいけない理由があった俺は――



遼「……ごめん」



ただ、謝ることしかできなくて。

そんな俺を、鋭い視線で睨みつけた陽菜は――



陽菜「そう、よくわかったわよ……。あんたが私達といるよりも、ドイツを……外国の生活を望んでるってことが!! もういいっ!! 好きにすればいいじゃないっ!! バカッ!!」



感情を高ぶらせ、俺にかなりの怒気を向けながら……誤解の言葉を吐き捨て、走り去っていった。



遼「……陽菜……」


梨央「あっ……陽菜っ!!」



すごい勢いで走り去っていく陽菜を、俺は追いかける事もできず、届かないとわかりきった小さな声で名前を呼び……

そんな俺に悲しそうな視線を向けた後、梨央は陽菜を追いかけていった。


そんな中、1人残った一輝が歩みよってくる。



一輝「……引っ越すのはいつなんだよ?」


遼「……明後日。少し前から決まってたんだけど……。言い出せなくて……ごめん……」




尻すぼみになっていく声の後に、ギリッと歯を噛み締める音が聞こえた。



一輝「……そうか。じゃぁ、歯ぁ食いしばれッ!!」



バキッ!!



骨と骨がぶつかり合った、鈍い音が響く。

一輝に殴られた右頬が、熱くなり、俺に罪悪感と痛みを更に実感させてくれた。



一輝「っ……。謝らねぇからな……ッ! これは、黙ってた事に対しての俺の正直な気持ちだ……」



一輝とは殴り合いの喧嘩なんてした事がない。

そんな必要はなかったから。


だからだろうか……殴った一輝が、表情を歪めているのは。



一輝「見送りには行く……。でも、今日はもう帰るわ……」



そう言って、ポケットに手をつっこみ、肩を落としながら一輝が帰っていくのを見送る。



――痛かった。

殴られた右頬よりも、心が。


――痛かった。

子供ながらに、絶望の意味を知った。



それでも……子供な俺にはどうする事もできなくて。

夜になり、父さんが探しにくるまで……俺は、公園に1人残っていた……



……

………






あの公園で打ち明けた日から、時間は瞬く間に過ぎていき――

俺が日本を離れる日はすぐにやってきた。



遼「わざわざ、ありがとね」



家の前に止めた車の前で、見送りに来てくれた一輝と梨央にお礼を告げた。


もうすぐ、空港に出発しないといけない。

時間は刻一刻と過ぎていく。


車はエンジンがついて待機している。

中には父さん、水崎 浩介が運転席で待っている。



一輝「………」


梨央「遼くん……元気でね? ついたら……連絡ちょうだいね?」



泣きそうなのを我慢しながら、梨央は俺の目を見つめてくる。

俺も少し泣きそうだった。


目の前で泣かれたら、俺も堪えられなかったかもしれない。



浩介「遼、そろそろ時間だ」



車の窓が開き、父さんが顔を覗かせた。

それは、タイムリミットを伝える非情の言葉。



遼「……わかった。それじゃ、またね」


一輝「……あぁ」


梨央「もうっ……陽菜っ……」



梨央が、今はここにいない幼なじみ。

陽菜の名前を呼ぶ。


だけど、いつもの元気な返事は返ってこない。

姿が現れる気配は、遠くまで目を凝らして見てもなかった。


それでも、しょうがない。

一昨日のあのやり取りを思い出せば……来てくれるとは思えなかった。



遼「……梨央、一輝ほんとにありがとう。陽菜にもよろしく言っといてよ。それと……ごめん、って」



だから、今ここに来てくれた2人に精一杯の笑顔を向けた。

もしかしたら、あまり笑えていなかったかもしれない。


それでも……今できる精一杯の笑顔のまま、俺は車の助手席に乗り込んだ。



浩介「……出すぞ、遼。一輝君も梨央ちゃんも、本当にありがとうな」

そう言って、父さんは2人に微笑みかけてから、車のアクセルをゆっくり踏みこんだ。

車が走り出す。


そんな車に併走するように、一輝と梨央が走り出した。



一輝「遼っ!!待ってるからなっ!!」


梨央「そうだよ、私達、待ってるからねっ!!だから……!!」



声が届くのと同時に、父さんがアクセルを踏んでスピードをあげた。


俺は窓から身を乗り出す。



遼「絶対帰ってくるからっ!!」



どんどん遠ざかる2人に、大きな声で誓いながら、大きく手を振った。

吹き抜けていく風に、涙を飛ばしながら――








………

…………

……………








一輝「本当に、行っちまったな……」


梨央「……そうだね。陽菜、ちゃんと時間教えておいたのに……」



車が見えなくなるまで大きく振り返していた手を、寂しげに下ろした。

旅立ってしまった、いつも一緒にいた幼なじみ。


優しくて、一緒にいると心の安らぐ少年。

そんな彼との別れに、まだ実感が湧かない2人は立ち尽くしていた。



一輝「あのバカ……素直じゃないにもほどがあるだろっ……!」


梨央「ほんとだよ……遼くんに次会えるの、いつになるかもわからないのに……」



車が走り去っていった方向を見つめる。

その先には、普段と変わりない光景があった。


その時――



「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!!」



後ろから、ザッ!という足音と共に荒い息遣いが聞こえた。

2人が振り向くと、そこには……



梨央「陽菜……」



幼なじみの、陽菜の姿があった。

膝に手をつき、肩で息をし、汗を流す様は走ってここまで来たのが目に見えてわかる。



陽菜「はぁっ、くっ……りょ、遼は!?」


一輝「もう、行っちまったよ……」




脱力してしまったのか、陽菜はペタン、とその場に座り込んでしまう。

一輝の見つめる方向に、無気力な視線を向けながら。



一輝「お前バカだよ……変な意地はって……」



声を震わせながら言った一輝の言葉は、今の陽菜に届いていない。



陽菜「わかってるわよ……私がバカだって事も……謝らなきゃいけなかった事もっ!……っ……ごめん、ごめんね……」


梨央「陽菜……」



その場で顔を俯かせ、静かに泣きながら小さな声で謝り続ける。

この“ごめん”が、誰に向けられたものなのか。

届かない謝罪は、青い空へと溶けていく。


そんな中、陽菜のすすり泣く声が悲しげに響いていた――








………

…………

……………









ドイツ行きの飛行機に乗り、指定された座席に座る。

目を閉じると、もう簡単には会えなくなった幼なじみ達の事が浮かんだ。


見送りに来てくれた梨央と一輝。

そして一昨日、公園で話して以来会う事ができなかった幼なじみ……


陽菜の事を心残りにしたまま……

俺を乗せた飛行機は、ドイツへと旅立っていった。








………

…………

……………









その日から、4年の歳月が過ぎ――



姫咲島に一番近い、さほど大きくない空港に1人の少年の姿があった。

170cmくらいはあるだろう、そこまで身長は高くない。


が、その少年には周りの視線を集めるだけの存在感があった。


顔立ちは整っていて、少し長めの黒髪。

容姿は良いと言える。


そして何より、雰囲気が同年代の少年とは違った。

それは、少年が帰国子女だからだろうか。



「……やっと、約束が守れるな……」



少年は小さな声でそう呟くと、足下に置いてある大きな鞄を持ちあげた。

そのまま、空港の出入り口へと進んでいく。


大切な幼なじみと、生まれ育った大好きな島に戻るために。

少年、水崎 遼は歩き出した――





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