何も起こらないプロローグ<1>
昔から自分の名前が嫌いだった。____なつみ。鈴島七海。
七月生まれだから。実に単純な理由。
漢字にすると何てこと無いけど、僕はどうしても、その響きが嫌いだった。
それはあまりに
可愛らしく、女の子らしかったから。
あと30分。
大学の講義は1時間半。1年生の時は、高校より遥かに長い講義時間に、根気強く食らいついていたものの、1年経った今では一転、睡眠時間、落書きタイム、もしくは講義の課題をする時間となっている。
と、いうのも、講義室が広いのだ。勿論、講義によっては小さい教室もあるが、先生に当てられる程狭い教室の講義は早々無い。よって、大学入学当初のやる気はどこへやら、僕を含め、大半の学生が机に突っ伏するという状況が出来上がったのだ。
もう一度時計を見る。
時計の針は一向に進んでいない。
「(眠い、めんどくさい、帰りたい……)」
しかし、単位のためにも帰るわけにはいかない。
せめて早く時間が過ぎますようにと祈り、目を瞑った。
微かに揺れを感じる。
でも、地震じゃない。これは、………揺さぶられている?
「あのー、もう講義終わったよ?」
声のする方を向き、うっすら目を開ける。
可愛らしい女の子と目が合う。
女の子と言っても、年は1コ下って所だろうけど…
「すみません。すぐに出ます」
講義室にいる人間が、自分と目の前の女の子だけだという事を理解してからは、足早に講義室を後にした。
時間は流れ、夕方。
僕の通う大学では毎年、新入生が入学してからの1週間、放課後に食堂を開放して、大学に属するサークルの説明会が行われる。説明会と言っても、幕張メッ○で行われる就活イベントや国○展示場で行われるコミケ同様、各サークルがブースをつくり、ブースに訪れた新入生に個々に説明している。
いや、訪れたというのは語弊があるかもしれない。正しくは、連行してきただろう。
運動部を筆頭に、文化部でさえも後輩をゲットするべく、食堂の入り口から各部の猛者達が、獲物を今か今かと待ち構えている。
こんな閻魔大王も裸足で逃げるような禍々しいオーラを放っている場所に、毎年新入生が押し掛けるのだから、若者の冒険心とは恐ろしい。
さて、このサークル説明会だが、僕の所属する演劇サークルも、例に漏れず参加している。
本来ならば1つ上の3年生がブースにて説明をし、2年生が新入生をナンパ、もとい連行する役目を担うのだが、
「なっちゃん達がいれば大丈夫でしょー」
「俺らが粋の良い奴ら引っ張ってくるからさ」
と、まぁやる気があるのか無いのか分からない言葉を残し、先輩たちはブースから去って行った。そんなこんなで、現在うちのパーティーは男6の女4の計10人(全2年生)、この人数で他サークルとの新入生争奪戦に挑む。
『それでは、予定の時刻になりましたので、説明会スタートです』
食堂全体に、運営委員のアナウンスが響いた。
「1人連れて来たぞー」
ばっくれたと思われた先輩が連れてきたのは、記憶に新しい女の子。
「英文学科3年、間宮晴です」
「演劇サークル2年、鈴島七海です。宜しくお願いします」
「お願いします、七海ちゃん」
この出会いこそが、春の訪れだったとは、この時の僕はまだ知る由もない。
連載、始めました。
ゆるゆる更新(週1くらいの頻度)していきますので、
お気に召して頂けた方は宜しくお願い致します。
暫くは主人公(仮)モードなので、ヘタレは今後、徐々に発揮していきたいと思います。