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46.惨劇の後始末【閑話】

エリカが意識喪失状態なので、またしても王太子殿下サイドのお話です。

色々駆け足ですが、説明ばかりが続くので読みにくいかも。


 


「で、この私の計画を台無しにしてくれた愚か者はどこのどいつだ?」


 普段の王子様フェイスはどこへやら。

 宝石のようだと讃えられる紫の瞳は完全に据わっており、眉間には深い皺、実に凄味のある声でそう問いかけた王太子レナートに応えたのは、やはり兄弟だからか動揺ひとつ見せないリシャールだった。

 彼は簡単にこのパーティで起こった惨劇について憶測を交えないまま事実のみを語り、レナートが「まぁ概要はわかった」と頷いたところで


「では妻を医局へ連れていってやりたいので、しばし御前を失礼」


 と、さっさと王城の方へと立ち去ってしまった。


「あ、ちょっ、リシャール!医局なら俺も」

「待て、ダニエル」


 俺も一緒に、と歩き出しかけたダニエルの肩が、背後から強い力で押さえられる。

 肩越しに振り向くと、眉間の皺はそのままにイイ笑顔を浮かべたレナートの姿。


「いつになく体調がいいんだろう?なら、詳しい説明もできるな?」

「え、いや」

「で・き・る・な?」

「………………ハイ、王太子殿下ノ仰セノママニ」

「よし。ではマクラーレン嬢、同行を。ニコラス、レナリア嬢、二人を借りていくぞ」

「「ご随意に」」


 神妙に頭を下げる弟妹を恨みがましい目で見ながら、ダニエルはレナートに引きずられるようにしてやはり王城の方へと連れて行かれた。

 その数歩後を、気乗りしなさそうな表情のユリアが追う。


「…………妃殿下のネックレスかしら……」

「ん?ネックレスがどうかしたのか?」

「なんでもありませんわ。戻りましょう、ニコル兄様」


(ダニー兄様の体調についてご存知だったこと、そしてあまりに駆けつけるタイミングが絶妙だったことから考えても、殿下はきっとあの場をご覧になっておられたはずですわ)


 映像を記録する魔術具があるのだから、離れた場所に投影する魔術具があってもおかしくはない。

 そしてそれが存在するなら、あの場にいなかったレナートが知らないはずのことを知っているのも説明がつく。

 彼としてはタイミングよく第二妃派を断罪するつもりだったのだろうが、予想を上回る大事件が起きてしまったことで、予定変更を強いられてしまうことが不本意であるのだろう。


(ダニー兄様、あまり絞られないとよろしいのですけれど)


 ひとまず、ユリアも一緒なのだから倒れる心配だけはなさそうですね、とレナリアは兄の連れ去られた方向を見て、頑張ってと声に出さずにそう呟いた。




 さて、その無理やり連れ去られてしまった兄ダニエルと付き添いのユリアだが、彼らは王太子の執務室でパーティ開始から事件に至るまでの状況説明をさせられていた。

 といってもレナリアの予想通り王太子は妃エルシアのネックレスに仕込んだ魔術具によって、この執務室にいながらエルシアの視界に入るものを一緒に見ていたらしく、エルシアの視線の届かない範囲に限る話に絞られたが。


「……なるほど。纏めると、こうか。ルーファスとアリエッタの婚約者を紹介し終わったところで、突然暴風が巻き起こった。と同時に、それを収めに向かった騎士や魔術師連中をテオドール・ユークレストが斬り捨て、フィオーラ・ユークレストの起こした竜巻でも何人も被害者が出た。それを収めたのがリシャールの呼んだ闇の精霊王、そしてローゼンリヒト嬢の呼んだ光の精霊王。それを見たフィオーラがわけのわからぬ妄言を喚き出し、何故か正気づいたテオドールが義妹もろとも自害した、と。何か補足があるなら聞くが」

「あの、王太子殿下。発言してもよろしいでしょうか?」


 おずおずと視線を上げたユリアの方を向き、レナートは構わないと頷いてみせる。


「これはエリカ……ローゼンリヒト公爵令嬢から聞いた話なのですが、パーティが始まってしばらくした頃、会場の隅でテオドールが何か真っ赤な液体を飲んでいるのを見かけたそうなのです。ですがその側にいたフィオーラは飲んでいなかった、と。あの場にはお酒もないですし、でもワインみたいな色だったので気にかかっていたのだと彼女はそう言っていました」

「真紅の液体……ねぇ。順当に考えるなら、何かイケナイ薬に手を出したってところだろうが」

「そういえばリシャールも催眠術か薬じゃないかと言っていました」

「ふむ。あいつがそう言うなら、そう()()のだろうな」


 わかった、ご苦労。

 そう告げて、彼は二人に出ていくようにと手振りで示した。

 そして空気のように黙って立っていた諜報部出身の従者を振り向くと、


「ユークレスト伯爵とグリューネ侯爵を呼べ。時間がかかるようなら魔導列車の使用も許可する」


 そう、険しい表情で命じた。




 王城に40代の後半と思わしき男性と20代前半と思わしき青年が慌てた様子で駆けつけたのは、その命令からわずか二時間後のこと。

 どうやら二人共王都の別邸に滞在していたようで、身だしなみを整える間も与えられないままに半ば強引に連れてこられたらしい。

 途上で今回の事件について聞かされなかったのか、40代の男性……グリューネ侯爵はどうして自分がと不安げな顔つきをしており、20代前半の青年……若きユークレスト伯爵はどこか不満げな様子さえ伺える。


 王太子はまず二人に椅子を勧め、紅茶を振る舞ったところで今回の惨事についての話を切り出した。

 話が自分達の身内に及んだところで、さすがにユークレスト伯爵も顔色を変える。


「お、お待ち下さい殿下!身贔屓かもしれませんが、弟はとても正義感の強い性格で、義妹であるフィオーラの放蕩にも心底頭を痛めておりました。そんな弟が自ら悪事に手を染めるなど!!」

「信じられない、何かの間違いだ……とでも?」

「その通りです!!そうだ、弟はきっとあの性悪な娘に騙されたのでしょう!グリューネ侯爵!貴方の娘の所為で、我が家は滅茶苦茶だ!やはりあの娘を受け入れるべきではなかった!どう責任を取られるおつもりか!」

「…………」


 一方的にぎゃあぎゃあと喚き続けるユークレスト伯爵に対し、グリューネ侯爵は顔色を悪くしたまま項垂れている。


「そもそもそちらの奥方が」

「ユークレスト伯爵、少し黙れ」

「ですがっ!」

「黙れと言ったのが聞こえなかったか?」


 冷ややかな声と視線に射すくめられ、テオドールの兄にあたるユークレスト伯爵はグッと言葉に詰まる。

 レナートはやれやれと一度溜息をつき、黙り込んだまま倒れてしまうのではと思われるほど青ざめているグリューネ侯爵へと声をかけた。


「……グリューネ侯爵、発言を許す。何か申し開きがあるなら聞こう」

「…………ございません」

「ほう?」

「殿下が我々をお呼び立てになり手ずから説明してくださっている、それだけでそれが比喩でも作り話でもないことくらいは理解できます。ならば、我が娘は愚かにも妃殿下主催のパーティにおいて魔術を用いて事件を起こし、ユークレスト伯爵の弟君の手にかかったのでしょう。養子入りしたとはいえ、あれは我が娘……咎は親である私や妻にもございます。どうぞ、如何様にも罰をお与えください」


 淡々と話しているようにも見えるが、その疲れきった双眸には確かな決意の色が現れている。

 ただ喚くだけのユークレストとは格が違うな、とレナートは鷹揚に頷いてみせた。


「なにぶん、私も先程事情を聞かされたばかり。詳しい検分はこれからとなるため、両家への沙汰はその後となろう。ただまた事情を聞くこともあるやもしれぬ、くれぐれも王都からは出ぬように」


 かしこまりました、と一礼して執務室を出ていく二人。

 グリューネ侯爵が悲壮な表情をしていたのに対し、ユークレスト伯爵は最後まで不満げな、納得いっていないような表情のまま。

 身内だから似るとは限らないのだな、と王太子が呟いた言葉は果たしてどちらに向けられたものだったのか。




「リシャール、少し良いか」

「…………わかりました」


 あの惨劇から三日が過ぎた。

 あれからずっと医局に泊まり込んでいるリシャールの下に、レナートが顔を出した。

 この三日間殆ど休めていないのだろう、レナートもリシャールも明らかに寝不足の、疲れがたまった顔をしている。


 二人は顔を見交わし、エリカが未だ眠っている病室を出て隣室へと移った。


「我が義妹君の具合はどうだ?」

「魔力は安定しているので、恐らく精神的なものだろうというのが医師の見立てです。……それで兄上、何か進展が?」

「あぁ。良い知らせと悪い知らせ、どちらを先に聞きたい?」


 言葉遊びをしている余裕などないはずなのに、虚勢であっても余裕ぶって見せるレナートを、リシャールは素直に凄い人だと内心そう評した。

 これが、上に立つ者の度量というものだろう。

 魑魅魍魎の集まりとまで言われる貴族のトップに立つ者として、ただ真っ正直に裏表なく行動するだけではそれは到底務まらない。

 弱みを弱みに終わらせず、時には他者を踏みつけることさえ厭わず、王は国のために、民のために、その座にあり続けなければならないのだ。


 だからきっと、もしリシャールが早々に彼の側につくことがなければ、彼は己の想いを綺麗に殺してエルシアを諦め、政略的に最も役立つ家から正妃を娶ったことだろう。

 そういう意味だけで言えば、確かにエルシアが選ばれたことでフィオーラがルーファスの婚約者候補から外されたことは、リシャールの行動が招いたことだと言えなくもない。



「では、良い知らせを」

「わかった。……死亡したテオドール・ユークレストの体内から、精神麻痺系の強い薬物が検出された。それは禁止薬物として各国挙げて手配されている闇組織が扱っている代物でな、フィオーラの入手先からその闇組織の一端にたどり着いたそうだ。と言ってもあくまで我が国に根を張った部分だけだが」


 フィオーラが手を出したのは、よりにもよって大陸中を暗躍する闇組織の扱う禁止薬物だった。

 そのお陰、というのもおかしな話だが、彼女の入手先からこの国にある闇組織の隠れ家が判明し、その検挙が行われたのだという。


「続いて、悪い知らせだ。…………フィオーラ・ユークレストが一命をとりとめ、先程目を覚ました」

「そう、ですか……」

「なんだ、驚かないんだな?」

「テオドールは明らかに即死でしたが、彼女はまだ息があるようでしたので。兄上なら決して死なせることはなさらないだろう、と」

「ふん、よくわかっているじゃないか」


 瀕死の怪我を負ったとはいえ彼女は重罪人だ、故に政治犯収容に使う小奇麗な牢に入れ、見張りと警備、そして何かあった時のための治癒術師をつけて見張っていたのだという。

 目を覚ました彼女は自分の置かれた立場がわからず半狂乱になり、「あの女は」「テオドールは」「わたくしは聖女」と相変わらず意味のわからないことを叫び続け、そのまま意識を失ったのだそうだ。

 そして目を覚ませばまた限界まで喚くの繰り返しであったため、レナートが命じて魔術によって強制的に眠らせてあるらしい。


「あれはもう狂人の域だな……とてもじゃないが事情を聞くことなどできはしない。恐らくあのまま、状況証拠だけで処刑することになるだろう。それと、グリューネ、ユークレスト両家に対する処分だが……」



 グリューネ侯爵は、己の罪を受け入れていた。

 娘があれだけのことをしでかしたのだ、親として責任を問われるのは当然のこと。

 しかも元はと言えば、グリューネ侯爵夫人が欲をかいて娘をなんとしても第三王子の婚約者にと画策したのが始まりだ、侯爵もそうだが夫人の罪もまた重い。

 こういった場合一族郎党全てが罰を受けることになるのだが、今回は侯爵本人から既に爵位を返上する旨の申立書が出されているため、審議の結果侯爵夫妻以外はほぼお咎めなしということになる、ということだ。


 対してユークレスト伯爵は、弟は騙されていた、全てはフィオーラとその実家が悪いのだと決して罪を認めようとせず、事情を聞きに訪れた使者に対しても暴言を吐いて追い返したのだという。

 確かにあの時のテオドールは薬で操られていた、そして正気に戻った瞬間己と義妹の罪深さを悟ってその場で果てるという、一見すると潔い行動を取ったかのように思える、が。


 あの場は王城内であり、王太子妃主催のパーティの真っ最中。

 その場においていくら許されない行動を取ったからといって、パーティ会場を血に染める行動は明らかな犯罪行為だ。

 義妹を諌めたかった、罪を犯した己を罰したかった、それなら会場内の警護についている騎士におとなしく連行されるべきだった。

 そして公の場で罪を裁かれ、刑に服するべきだったのだ。

 それをしなかった時点で、彼は罪人として扱われなければならない。


「グリューネ侯爵は爵位返上の上、娘ともども処刑される。妻も同罪として同じく処刑。侯爵家は取り潰されるが、一族郎党に罪を問うことはない。ユークレスト伯爵家は爵位返上と財産没収、当主には特別に自害の許可を出してある。当主が全ての罪を背負うのを条件に、他の者は国外追放ということでかたを付けた」


 あのプライドの高いユークレスト伯爵が自害などするはずがない。

 だがそれをすることで一族郎党が国外追放だけで済まされるというなら、恐らく周囲が無理矢理にでも自害に追い込むことだろう。



「ひとまず、これにて一件落着……だな」


 晴れ晴れとした顔で笑うレナートに、リシャールは改めて畏怖の念を抱いた。




一区切りまであと一話。

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