子供
「姫神もコタツ入る?あったかいよ」
『……』
コタツに体をうずめる悠二に姫神はなんとも言えぬ顔で、だが、もそもそとコタツに体をいれた。
「…感想は?」
『…ふむ。悪くはないな、悪くは…』
首まですっぽりかぶって悪くはない、か…。
変なところで素直じゃないな、こいつ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
「それで話っていうのは、」
言いかけた言葉はふいに問いかけた先の相手によって遮られた。
人の話は最後まで聞いて欲しいと、吐き出せなかった台詞をうまく消化できず苦い顔で飲み込みながら、そう思った。
『お前は我等がどういう存在か知っているのかと思ってな』
「付き神なんだろ?」
『では、付き神がどんなものかお前は知っているか?』
「人に寄生するんだろ?ほら、千歳にも千歳そっくりの姿をした玉響…だっけ?が憑いてたじゃん」
なんかいやらしい笑顔してたやつ。
『まぁ、大体はそうなんだがな』
「そういや、お前ってなんか偉いのか?玉響がへこへこしてたよな。…嫌味たらたら言ってたみたいだけど」
『…あいつはちと心が狭いんだ。我と違い、あいつは小物だからな。格が違いすぎて妬んでいるのだろうな。でも、まぁ嫌味の一つや二つ慣れたというものさ』
姫神は瞳を閉じて静かにそう言った。
きっと何度も傷付いて慣れてしまったんだと思った。
「で、結局は何が言いたいのさ」
コタツの上に置かれていたみかんを手の中で転ばせながら、悠二は要するに…?と先を促す。
それを受けて姫神はのんきな顔をしよってからに…とため息をつきたくなったが、余計気が滅入るだけだと判断したので後ろ頭を押さえるだけにしてつまらなさそうに話し出した。
『神はな、本来人に干渉などせんのだよ。というよりもできないんだ。それなのに、何故我等神が人の子に憑いて生きているのかといえばだ』
いよいよ本題。
「それは?」
ころころと、いい具合に熟しているみかんを手の中で弄ぶのをやめ、それを両手で包むようにして、悠二は姫神に目をやる。
『昔な…』
姫神は髪をくしゃりとつかんで後ろ髪を梳くようにしながら、俯いて小さく唇を動かして答えた。
『人は神を崇めるだけで実際にその存在を認めているものは実を言うといなかったんだ。だがな、ある時をきっかけにこの村の奴等は神の存在を知った。…生贄の風習があったんだ、この村には。神に選ばれた子供を生贄とし捧げ、山を少し分け入ったところにある神社の祠へ閉じこめた。神を知りもしないくせに恐ろしい風習をよくつくったものだよ、まったく…。人々の思想は、生贄として捧げた子供には神が寄り憑き、この村を護ってくれるというものだった。だがな、神がその器たちに降り立ったことは一度としてなかった。神主もおらぬ神社に置き去りにされた子供たちのほとんどは死に逝った。成仏も出来ずに…』
哀しそうな声音で、けれど無表情に淡々と語る姫神を見つめながら、
「なんで子供なんだ?」
そう訊きながらみかんの皮に指をかけてゆっくりとした動作で剥いていく。
『子供には不思議な力があってな、下ろされた神の拠り代にはちょうどいいんだ。まぁ、実際にはお前たち人間に憑くことはヨリマシと言われるのだが。我等は人に加護という名の力を与える代わりに一度憑いた主といずれは一体化することを条件としている』
ちょうど剥き終わったころに、耳に入ってきた言葉が。
「……は…?」
一息には呑み込めなくて――理解できなくて間抜けな声がぽっかりと開いた口から漏れ出て行った。
一方、言い終わったあと、伏せ目をつっくて上目に悠二をうかがいこんだ姫神はその表情を確認して、ぽつりと忠告した。
『……その手にしているものを握り潰してくれるなよ、悠二』
しかし――。
「………――」
ぐしゃりと、思わず両手に力がはいってみかんが破裂したのを認めて。
言わんこっちゃないな…と姫神は両目を呆れに眇めさせた。
神と一体化――?
なんだそれ。
どういうことだ。
意味がさっぱりなんだが。
というか、姫神は一体いつ自分の中に入ってきたんだ?
………色々理解不能。
つーか話繋がってなくないか?