プロローグ
『もうすぐ…もうすぐさ』
『もうすぐ…?ああ。もうすぐ、か…』
カツ…カツカツ…――。
『もうすぐで始まる。祭りが、始まる。我等が解き放たれる…。あやつが帰ってくる――愚かしい例の子が…帰ってくる』
『我等の手に落ちるだろうか…。堕ちるだろうか』
コツコツ…コツ、コツコツ――。
『堕ちる、堕ちてくる。ヒトは、愚かだから何もせずとも転がり落ちて来るさ…ああ』
ぐチュリ…。
『ああ。早く我等を欲せ。我等を知れ。我等を望め。…我等に会いに来い』
闇夜に眠れる世界が再び揺れだした。
ざわざわと、森の木々が風にあおられてその葉を揺らす。
夏真っ盛りの八月――学生は夏休み真っ盛りである。
「…暑いな」
少年は空に手をかざして、呟いた。
太陽は高い位置にある。
恐らく時刻は午後一時過ぎ。
『ある年のある日の出来事から始まった。』
『それは呪ともいえるべき不可思議なモノ。』
少年は後方にそびえる山々を一瞥して、歩き出した。
玉木悠二、十五歳。
七月十日突然の転校だった。
転校先の岸部町は人口三千人ほどの田舎。
悠二は期末を前の学校で済ませてから、唯一の高校――岸部公立木江高等学校に編入。
まるで何かに吸い寄せられるかのような出来事だった。