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抱き寄せて、キスをして  作者: 友崎沙咲
vol.6
6/7

気付いた気持ち

◇◇◇◇

連日私は、死に物狂いで仕事に打ち込んだ。


ほかに、新太との事を忘れる術がなかった。


「アンナ先輩、私が代わりにやっときますから、今日はもう帰ってください」


「大丈夫だよ。ありがと」


私と加奈ちゃんの会話の最中に、三崎課長が口を挟んだ。


「寺田の言う通りだ。白石、お前はもう帰れ」


「でも」


たたみかけるように三崎課長が続けた。


「今お前が倒れたら、企画部全員に迷惑がかかるんだ。いいから、帰れ」


「はい……」


本当は帰りたくなかった。


帰っても、食べたくないし眠れない。


新太との事ばかり考えてしまうのに。


仕事をしていた方が楽なのに。


私はため息をつくと、会社を出た。


マンションに着いて玄関ドアをあけると、そこに置かれている鏡の中の私と眼が合う。


私は、ペタンとスタンドミラーの前に座った。



『新太、眼鏡かして』


『だめ。アンナは眼、悪くないだろ』


『かけてみたいもん』


『すぐ返せよ』



……こんな会話も、もうない。


私達には、もうなにもないのだ。



『新太、英語教えて』


『なんで?』


『だって、名前がアンナだよ?英語話せない名前じゃないでしょ』


『はは。なにそれ。別にいいよ』


『わあい!新太大好き!』



カシャンと胸で何かが割れたような気がして、私は思わず顔をあげた。


シンタ ダイスキ!


……もう、笑っちゃう。


笑っちゃうよ、自分の間抜けさに。


私はフフフと声に出して笑った。



『新太、大好き!』



恋愛対象外なんて。


バカだ、私は本当にバカだ。


新太の何もかもが、好きだったクセに。


新太の事が、好きだったクセに!!


このバカな女は、一体どんな顔をしているのか。


鏡の中の私が、私を見ていた。


瞬間、私はハッとした。


ああ、この顔は。


ああ、この眼は。


私は早足でリビングに入ると、新太の描いたデッサンを広げた。



『私どうしても先輩に見てもらわなきゃと思って』


加奈ちゃんの言葉。


今、この意味がやっと分かった。


ごめん、加奈ちゃん。


私、やっと分かったよ。


情けなくて情けなくて、私は、声をあげて泣いた。


泣きながら、新太の描いた私を見つめた。


新太、これは恋してる私の顔なんだよね。


新太を好きだと、やっと気付いた私の顔にそっくりだよ。


最初にこの画を見た時の違和感は、もうどこにもなかった。


だとしたら……この、恋してる私は、新太の願望?


新太、新太は私を?


私はデッサンを掴むと玄関へと急いだ。


新太に会わなきゃ!


新太に会ってちゃんと話さなきゃ!


「白石」


エントランスを飛び出したところで、三崎課長が私を呼び止めた。


「課長……」


三崎課長は、唇を引き結んで私を見つめた。


「心配で見に来たんだ。

……白石、俺に頼ってくれないか?」


私は首を横に振った。


「三崎課長。私、ほんとに鈍いんです。今頃、自分の気持ちに気付くなんて。

でも、やっと気付いたんです。

だから三崎課長の気持ちにはお答えできないんです」


三崎課長は、寂しそうに笑った。


「そうか。気付けてよかったな。頑張れよ」


私は泣き笑いの表情で課長を見つめた。


「課長!かっこよすぎです」


課長は、大きく口を開けて笑った。


「知ってる!……早く行け」

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