今さらだけど、衝撃の事実
伝「この二人って、昔からこうだっけ?」
巫「だった気もする。少なくとも私が出会った時にはそうだった」
伝「ああ、そうか巫女よりも前にあのおじいさんに出会ってたっけ」
巫「そんな事よりも、お腹が空いたな。何か食べるものない?」
伝「あたしの周りにいる人間って、こんなのばっかりだな……」
性別は女性、年齢は十八、身長は百六十五センチ、髪は短めの金髪。ホワイトの瞳に、やや白い肌。第一印象は天真爛漫。第二印象は、弄りやすい奴。考察として・・・・・・
「絶対に菓子折りを持参する事? ・・・・・・なんじゃそりゃっ?」
メモには続けて、彼女は甘いモノが好きだと書かれている。そうすれば、スムーズに事が運ぶであろう・・・とも書かれている。
しかし、初対面の神に菓子折りを持参で訪ねるのか。
「お布施かお供え物のようなものか。まあ、俺はその神に願いたい事がある訳じゃないが」
問題なのは、俺にはその菓子折を購入する為の金がないという事だ。
「どうして俺には金がないんだろう?」
「完全夜型で仕事を選ぶからでしょう」
「・・・・・・・・・・・・」
自明の理であった。というか、事実を再確認したに過ぎない。
「仕方がない、ヘソクリでも出して何とかするか」
「あるの?」
「・・・・・・探せば見つかる筈だ」
つまりは、アテがないのだ。しかし、微かな記憶だが床下に隠したような・・・・・・使ってしまったような・・・・・・とにかく探そう。
図書館からの家路の間、あまり建設的な事も考えられず陽が沈んだ頃に家に戻って来た。
「ただいま・・・・・・って、おうヨミ、やっぱり起きてたか」
「おかえり」
玄関の扉を開けて中にはいると、消した筈の暖房に灯が灯っている。
キッチンでは家に置いてきたもう一人の同居人の、ヨミが夜の朝食をパクついていた。
「冷蔵庫の真空スイッチが切れてるんだけど、力を補充させた?」
「あれっ? もう切れたのか。最近、疲れていてサボっていたからな」
「早くしないと、ナマモノの鮮度が落ちる」
「わかりました、わかりました。すぐにやっておきます」
「それから、暖房のスイッチも反応しない。充電して」
「充電と云うなっ! 暖房は燃費が悪くて疲れるんだよ。面倒臭がらずに薪を燃やせっ、薪をっ!」
妙な力に目覚めてから、基本的に便利屋扱いされてるよな俺って。
「お仕事、受けてきたの?」
「仕事自体は最初から引き受けるつもりだったよ。問題は、報酬の引き上げの交渉をしようにも出来なかった事だ」
上着を椅子に掛け、持っていたモノもテーブルに放り投げる。
苦労して足を運んでみれば、手に入れたのは件の神の所在と、胡散臭い参考書が一冊。
「一体、どこの物好きが俺なんかを指名したのやら」
「ソフィアはどうしたの?」
「そういやいないな。……多分、買い物だろ」
予定では、これから会いに行く。菓子折りを購入するつもりなら、今から行かなければ間に合わない。
「金はどうしたのかな? ………まあ、あいつの事だから何とかするだろう」
基本的に面倒な事は彼女にまかせている。
これで、悩みが一つ消えた。
疲れた・・・・・というより、眠い身体を休める為に机に突っ伏す。向かい側にいるヨミは無表情に、淡々と食事を続けている。
「おいしいか?」
「うん、おいしい」
あ~俺も腹が減ったな~~。などと、思いながらヨミの食事する姿を見続ける。
―――見続けていると、さらに腹が減りそうだ。仕方ないから、例の参考書でも読もう。
「え~と、なになに『神とは世界の有り様を改変する者である。力の乱用は世界に混乱をもたらす。故に、力を安全に制御する為に神具を―――』・・・・・・神具?」
いかん、完全に俺のヤツは寝室に置きっぱなしだ。回収してから向かおう。
「そうだ、ヨミ。ソフィアが帰って来たら出掛けるから、付き合ってくれ」
「私が? どこへ?」
「ソフィアは帰って来たら疲れて寝るだろ。出掛ける先は超高級ホテル『寝やづ屋』だ」
「へぇ~~。あそこに泊まれる人がいたんだ?」
――――この時の俺は、数時間後に起こる大火事に四苦八苦する未来を予想できる訳もなく。ただただ、だらけていた。
のんびりと、早く仕事を済ませて帰ろうなんて暢気な事を考えていた。
あとで判明する事だが、何の問題もなく高級菓子折りを持って来たソフィアに、どうやって手に入れたのか訊くと、売れ残りで格安(実質タダ)だったらしい。妙に顔が効く。
菓子折りを持って外に出ると、陽は完全に沈んでいて、更に寒くなっている。
憂鬱な気分のまま歩きだすと、後ろからこの寒さにも平然な顔で後を付いてくるヨミ。
「どうして、俺はこんな厄介な依頼を受けたんだろう?」
「それは、あなたも『神様』だからでしょ?」
「その肩書きで俺を呼ばないでくれ。正直あまり好きじゃないんだから・・・・・・」
神と呼ばれるのに、何年経っても慣れない俺だった。