太陽さんの晴れ舞台2
太「推理小説なんて書くの面倒でいやだ~~って思ってた時期が今もあります」
伝「どしたの…?いきなりメモ見ながら棒読みの朗読をして…」
太「いや…何か作者の独り言メモ何ですがね…大したことは書いてませんね」
伝「へえ~他にはどんな事を書いてるの?」
太「えっと…『我、真の悟りを探そうと思ったけど、疲れたから今日は寝る』…だって」
伝「碌な事が書いてないわね…ほんとに思いついた事をつらつらと書いてるだけか…」
太「こういう独り言が後で役に立つらしいですよ? 作品作りにね」
「どうしてあんな条件にしたの? それもチロの意志も確認しないで…」
「それじゃ反対するに決まっていますからね…多分、チロさんはそんな事をしたがらないでしょうから…」
周りからは何でそんな提案を? などと言われそうな事を告げた後、ボクとソフィアさんは二人で宿への帰路に着いていた。
誰もいない暗いレンガの道。舗装と清掃が行き届いており、ゴミ一つない清潔な裏通り。
ボクは相変わらずの鳥目で、ソフィアさんに手を引かれながら歩いていた。
「彼女はそんなタイプじゃない…と感じてるんだ?」
「……というか…凄くシャイな人? じゃなくて猫だなと思ったのですが、それよりも他の人に対してはこれ以上ないぐらい…神らしい神だなって思ったんです」
この言い回しで通じるか…判らなかったけど、ソフィアさんは何か感じるモノがあったようだ。
しばらく無言のままに歩いた後に、こちらへ振り返り訊き返してくる。
「神らしい神?」
「はい…例えるならそうですね~女性になりきってる男性~とかかな? 他所から観察されたままの神様を無理に演じてるような…そんな雰囲気ですかね」
そう感じたセリフは、あの病室での一言だったのだが、それについては後で。
ふと…金属の軋む音が聞こえたら。それはどこかの看板の蝶番が風に揺れている音であった。
「神は人知の及ばない力を有している存在。故に誰よりもその力の行使には慎重を重ねる必要がある。力は行使する事よりも、それを持ち続ける精神にこそ意味がある」
「それは…もしかして、コチの言葉?」
「はい…それがどんな意味を持つのかは教えてくれませんでした。後は自分で考えろと…」
「彼らしいと云えばらしいわね~ それで…結論は出たの?」
答えは出たか…と言われれば、出ていると思う。だがそれを言葉にするにはあまりにもあいまいで、形にならない…だから、思うがまま口にしていく…
「ボクは生まれた時からずっと…原因不明の熱病で立つ事も出来ませんでした。その原因は結局、ボクの中にあった神の力が暴走し、体を蝕んでいただけの事でした。
問題だったのは…その痛みと熱に耐え続け、それに負けない強靭な肉体を手に入れた時。初めて一人で歩けるようになった時、ボクは力を暴走させました」
それが今年の夏ごろの話。人死にはでなかったけど、それでも…家は全焼。情けなくて、申し訳なくて、家族とはまともに顔を合わせられないまま…恨まれたりはしていないみたいだけど…
「神になる前の通過儀礼のようなもの…と云うにはかなりヘビーな体験よね~ コチも神に覚醒した時はそりゃ~ヒドイ有様だったもの~恐らくナルカミちゃんもそうじゃない?」
「そうでしょうね…だからこそ、神は安易に力を行使しない。行使した後の惨劇を知っているから…」
そうなのだ…実は理解してる人は理解してると思うが、ここ最近まともにボクは神としての力を使っていないのだ。
神具という、安全装置があればまだ出来るのだけど、それでも嫌悪感は拭えない。
「だから、その言葉を聞いた時は、『その恐怖に負けずに行使する覚悟を持て』という意味かな~って考えたんですよ…」
「そうね~そう言われてる可能性はあるかもね?」
「でも、チロさんを見てて思ったんです。本当に大事なのは『力を行使しない覚悟』が神には必要なんじゃないかなって…」
「…………」
「力に怯えて行使しない、でもなく、覚悟を持って力を行使する、事でもない。覚悟を持って力を行使しない―――事にあるんじゃないかなって」
「………そう考えた理由は?」
「神様ってとにかく凄い存在なんですよ。その癖人間社会ではある種の伝説のようにあやふやで、存在感はとても薄い。そのようにしろとあの図書館のおじいさんも言っていましたが…その理由は恐らく、神という絶対で強大な存在がいる事により、人が依存し、思考を停止するような事がないようにする為なのでしょう」
今思い出すと分かる、あの時…怪我で倒れて動けないおじさん達を治療する時、チロさんはやや躊躇してるような感じがした。それも、自分がいればどんな怪我も平気だという、神への依存度を上げるのを嫌っていたのだろう。
「神は強大な存在であるからこそ、神がでしゃばるのは、あくまで人知の及ばない災害の時のみである…平時である時はあくまで一人の人…生物として生きるべきである。もしかしたら、コチさんもチロさんもそう思ってるんじゃないかな?」
あくまでボクの主観と、経験論だけど、多分間違いない筈。
ボクの答えた正解かどうか…ソフィアさんは答えてくれない。ただ、よく考えたね~と、優しく頭を撫でてくれた…
「(久しぶりかも…頭を撫でられたのは…)」
「そうね…彼の場合は力を使うのはあくまで、下らない事や、面白い事に使う事が多いんだけどね~真空チルドなんて、訳の分からないモノまで作ってたけど…」
「これはボクの直感ですが…チロさんが神になった経緯はボクたちとは違うんじゃないかな?って思ったんです。まるで……」
まるで―――なんだ? ボクはその続きを直感的に悟ってるような気がする。あの並列正解で見た黒猫が今も頭をよぎってならない…だからか…ボクは言葉を続けず、話を変える。
「彼らにチロさんから飛び蹴りを受けて欲しいと言ったのは、簡単な話なんですよ。そろそろ彼らも赦されて良い頃なんじゃないかなって~思ったんです」
「赦されてって…一体誰に?」
「そんなの決まっていますよ。彼ら自身にですよ?」
当たり前だけど、チロさん自身に彼らを恨んだりしてる様子は全くなかった。苦手意識はあったみたいけど、それよりも…強い遠慮をしてる所が見受けられた。
「色々考えて思ったんですよね。数年前の疫病の時に猫たちを虐殺するように世論を動かしたのは…その疫病を持ち込む原因を作った『運送者』―――つまり彼ら何じゃないかな?」
「――――っ!? どうして…そう思ったの?」
一瞬息を飲む気配を感じ、何も見えない中、ソフィアさんの表情を読み取ろうとした。
だが…その先に見えるのは闇だけであり、聞こえるのは彼女の吐息だけ…
ソフィアさんが動揺するなんて…そんな意外な事を言ったかな?
「猫が中間宿主だとか…それを発見したのは恐らく医者でしょうけど、現在の医者たちからは猫たちへの感謝はあっても、懺悔の気持ちを感じない。であるなら…世論をそう導いたのは、現在でも強い後悔と異常なまでの感謝と贖罪の念を抱いている…、あの筋肉隆々な猫耳おじさん達かなって?」
これは観察した上での判断だった。正直、あの異常なまでの愛情と猫耳、そして一緒に遊べるだけで涙があふれる姿…よほどの過去がなければあそこまではならないと思った。
人にはそれぞれ過去があり、現在が成り立つ。人を観察する時には必ずその人の過去を見つめなければならない…何て、家の父親の受け売りだけど…
「問題が起これば必ずスケープゴートとして誰かが悪者にされる。病気を運んできた彼らには…そうされる可能性があったけど、そんな話は聞いた事がない…となれば…ってね」
「やっぱり…あなたも甘い物好きなお子様のようでいて、しっかりと神様してるのね~。自分たちが迷惑をかけた猫たちから直接、制裁を加えられる事によって、彼らは自分達を果たして赦してあげれるのかしら?」
「それだけじゃダメでしょうけど…その為の舞台のセッティングは皆に協力してください。特に…恐らく嫌がるだろうチロさんへの説得も含めて」
「はいはい~まあ、それでこの件が解決するなら安いものか~~~~ふうう~」




