白猫の焦り…
太「生まれつき体の弱い人って、何をしてもそのままなのかな?」
伝「そういう訳じゃないと思うけど、普通の人になるのは難しいでしょうね」
太「そうなのかな…やっぱり。でも不断の努力が必要なのは確かだよね」
伝「今作者は体質変化させて、もっと小説書くんだ~っと吠えてるわよ?」
太「少し前に38度出して、これはインフルかな? とかぼやきながら書いてましたものね…何をやってるんだが…」
伝「単純に、体調管理が下手なだけでしょ? これを待ってる人もいるし、これからも頑張るわよ~?」
太「茶番ももっと書かないといけませんしね~」
優しさとは何か? その定義はきっと難しい事なんだと思う。
きっと優しさとは形にならない。不確定なモノ。これと言った答えはなく、ただ己の信念のままに生きる事。それがきっと…優しさなんじゃないかなって、そう思うんだ…
私が彼に惹かれたのもきっと、彼には彼の信念があると感じたから。
その信念を恥じず、真っすぐに貫け。純粋なまま、誰かの言葉に惑わされず、己の一番大事なモノの為に生きよ……それがきっと、自分にも世界にも優しい事につながる筈だ。
「この世界で一番怖くて、一番警戒しなきゃいけない存在はね…ただ優しいだけの奴よ?」
「一体…どうしてですか?」
病院に向かう道すがら、私はミルクに色々とこの世界の生き抜く方法を伝えていた。
この子……育ちはすごくイイんだけど、その代わり人の邪気とうモノに対して、免疫が無さ過ぎる気がする…それを警戒し、何となく二匹で走りなら喋り続ける。
「優しさってのはある意味、どんな悪人でも被りやすい仮面だからね。不自然なまでに優しい人なんてのは、特に警戒すべき存在。何か裏があると考えた方が良いかな~?」
「ほへ~なるほど…」
清掃が行き届き始めた路地裏。それに対して人の気配もない…
どうしてそんな事を彼女に教えるのか…それは今、我々が人間と深く関わってるからだ。
どの人間を用心し、どの人間に信頼を置くか、それを吟味する必要がある…
「病院関係者の人たちは信用できるのかな?」
「知識もあるし、利害関係もしっかりしてるからね。大体、猫を撲滅したらその後に待っているのは、ネズミなどの小型動物の大量発生だからね…それじゃあ、意味がない…」
言葉はどのようにも取り繕う事が出来て、人を騙す事が容易であり、その真意を見極めるのは、人には難しい…が猫には実は容易だったりする…それというのも…
「悪意のある生物には微妙な体の振動があるからね…人間には分からないようだけど。慣れればそれだけで簡単に分かるわよ?」
「そうなんですかっ!?」
いわゆる殺気などと呼ばれてるモノだが、生き物は悪意を持つ時に微量の振動をするのだ。それを波動のようにこちらに伝わるのだ。野性になれば誰でも感じる事が出来るのだが…この子がそれを会得するのはもう少し後であろう。
猫の身体を足でも辿り着くまで、20数分は掛かる場所に、病院はあった…
人目を避けるように裏口へと辿り着くと、扉には鍵がかかっておらず、ドアノブに飛び掛かり、ガチャっという錆びついた鈍い音と共にドアノブが回り、扉が開かれる。
衛生環境を気にしなければいけない病院であるから、中に入れば相変わらず薬品の臭いと、人の体臭が漂う空間。ただ…少し前に比べてちょっと埃がたまってるかな?
「ここが病院ですか?」
「猫には馴染まない臭いと雰囲気だけどね~、アデリナは…いるみたいね。気配があるわ」
壁の向こうの人の動きや、足音には個々で特徴がある。あの子の歩き方は他の人に比べてちょっと頼りない所があり、他の人たちと見分けるのは簡単だ。
彼女がいるのは…わりと近くにいるかな?
「さすがですね~姉御は…」
「野良になれば誰だって身に着く技術よ? ここは…休憩室かしら?」
「どうしてそう思うんですか?」
「診療室や待合室から離れてるからね。それにあの薬品の臭いもしない…なら、そこかな~って 入るわよ~~~って…ええっ!?」
裏口と休憩室は近くにあれば、何かと便利なのかも知れない。
っていう考えも浮かびながら、休憩室のドアは少し開いており、私は慣れた足取りでドアを大きく開き、彼女に挨拶しようとしたんだけど…
いきなり扉が開かれ、誰かが廊下へと倒れ込んでいた。その子はどこかで見た事あるような…そう、白衣を着ていつも健気に動き回っていた子だ。
「アデリナ!? 一体どうしたの…?」
「ああ…来てたんだ…猫さん…やっほ~はは…」
危うく彼女に潰される所だったのを寸前で避け、力なく派手な音を立てて倒れ込む彼女の顔を覗き込む。そこには昨日まで見なかった憔悴しきった顔だった…
その荒い吐息に、発熱した頬。まさか…まさかだよな…それとも…
「あなた……例の疫病にかかったの?」
「なはは…そうみたいですね…昨日までは普通だったんだけど…発病してからこんなに早く症状が進行するなんて…他の先生たちも調子悪い人が多いみたいで…私が頑張らないと…」
「他の人たちも倒れているの?」
マズイ…彼の事を考えてばかりで、人間側の状態まで考えていなかった…
少なくても昨日までの彼女は普通で、何も悩みを言わなかったから見逃していた…
「姉御…その人…大丈夫なんですか?」
「不味いわね…アデリナ…薬はどこにあるの?」
猫の身体で彼女を運ぶのは不可能だ。ならせめて薬の場所を聞き出そうとするが、彼女は力なく首を振るだけで、一言小さく「特効薬がない」と告げる…
どうして、猫たちの姿が見えないのか…その前に、どうして人の姿が見えないのか、そっちの方が問題だったのか!
「くそっ……腹が空いてるせいか判断能力が欠如してるのか…だが…これで納得してる部分もあるな…」
「どういう事ですか?」
せめて暖かい毛布ぐらいはかけてやろうと、ソファーにあった毛布を口で運び彼女に被せながら、ミルクと共にこれからの事を考える…
「本来、猫がいなくなれば最終的に困るのは人間だ。だが、その人間がそんな後先を考えられないぐらい余裕がないとしたら…?」
「えっと…どういう意味ですか?」
「つまり…猫を撲滅させるという『後』のリスクよりも、『今』の疫病の感染を防ぐ事を優先したのかも知れないわね…」
はっきりと現状を伝えたのに、それでも理解出来ていないミルク。何度も首を傾げ、必死に考えては分からず唸り、知恵熱を出していた。
「すると…どういう事になるんですか?」
「そのまんまよ…前交わした約束なんて反故にして、猫たちを狩り続ける。さっきの罠のようにね。…だけど…彼女は違ったようね…」
そうでなければ、彼女が昨日も猫たちにエサを配る筈がない。ああいうトラップは飢えている方が当たり前だが引っかかりやすい。彼女は間接的に人間たちの計画を妨害していた?
「何故だ? こうならないように先手を打った筈なのに、どうしてここまで進行してしまったんだ? どこで私は間違えた? 待てよ……そもそも……特効薬が無い?」
おかしい…医者たちの話では北の街から薬を輸入してるという話だった。その薬が効かなかったのか? そのくせ…どうして猫たちにはその薬が効いているんだ?
今も知り合いの猫たちは、次々と疫病から回復している…その癖、人間たちは……
「姉御…大丈夫ですか? 顔色悪いですよ…ちょっと休んだ方が…?」
「大丈夫よ…心配しないで…それに多分…休む暇もないでしょうからね…」
正直、彼女の事は心配でならないで今自分たちがここにいても出来る事は無いし、そもそも今は人間たちに見つかるのはマズイ…どこかに隠れなければ…
立ち去る寸前、ただ一度だけ彼女の頬に鼻を近づけ生気を確認し、まだ生きているのを感じる。それが消え去る事がないように、そっと舌を出し舐める。
「生物とは、ただその一息が愛おしい…か」
「何ですか? その言葉は…」
「沢山の死体を見た奴が口にした言葉よ。その人が息を引き取る時、もう一度でいい、もう一度息をしてくれと願う事があるって。息をしなくなった瞬間、それは生物から物へと変わる瞬間。それを好んでみたくはないなって…」
だから出来ればまた…彼女が再び元気になって欲しいと願う。
そう願った瞬間だった。心の中に彼が浮かび上がった。名もなき黒猫の姿。その黒猫は目の前で死にかけている者へ鼻を寄せ生気を与えてる…そんな幻想を見た…
「ああ……そんな所にいたのか…あなたは…」
「姉御は…優しすぎるんですね…きっと…」
「はっ…………うん? いや…そんなんじゃないわよ。ただ、どんな憎い相手でも、死を望んだ瞬間に精神の歪む音が聞こえるのよ…その音がイヤでね…とても」
さっき見た幻想は何だったんだ? 初めて見る感覚なのに、すでに何度も見たようなきもする。まるで白昼夢のようだ…彼が今も傍にいて皆を助けてくれるなんて…ね。
「いきましょう。とりあえず南の森なら人もいないだろうし狩猟すればエサも確保できる筈だわ」
「はいっ…! どこまでもお供します!! 姉御~~~(*^-^*)」
「あまり大きな声を出すんじゃないわよ? ほら…いくわよ~!」




