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東風と太陽~神話?はこうして創られる~  作者: 三神 凜緒
第二章 白妙(しろたへ)のネコは気位が高い
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女の涙と七草の粥

雷「お兄様ったら、わたくしが居ないからと、好き勝手な事を……」

太「雷神さん、どうしたんですか? 何だか怖いんですけど……」

雷「あらっ、御免なさい。お兄様の案ずる所に些か合点のゆかぬモノがありまして。後ほど、お灸を据えねばならぬと考えておりました」

錬「あれまあ、それは東風も大変だね。死なないように注意するんだよ」

雷「心得ております」

太「うわ~、この二人って妙に息が合ってるよね。性格が破綻しているというか、マイペースというか、一緒に住んでいるから似てるのかな?」

雷「何か言いましたか?」

太「いいえ、何も言っておりません」

雷「―――そろそろ、本編の方へ眼を向けましょうか」

太「そうですね。連続で日本語講義をすると読んでいる人が飽きますし。何時か、短編か何かでまとめて書きましょう」

錬「―――このマルティって子、変わっているわね。肝が据わっているのか、感覚が可笑しいのか。ソフィアの事を何だと思ってるのかね(カチン)」

太陽「ああ、この人はまた決まりを破って。伝記者さんと呼びましょ。次回こそ、日本語の不思議な表記の説明をしましょうね?」

雷「それはではまた」

ゴチンッ

「あいたっ!」

小気味よい軽く鈍い音と共に、マルティの目から星が飛び散る。

あれは、一等星か二等星ぐらいの大きさがないか?

「ゲンコツか。おいおい、やりすぎていないか?」

たんこぶは――まだ出来ていないか。それでも、かなり痛そうだ。

「いいのよ。痛いのは見た目だけで、それほど痛かないわよ」

茶店の他のお客たちは、何事かとこちらに顔を向け、顔ぶれを見て何だと首を元に戻した。


「痛いです。一体、何をするんですかっ?」

頭を押さえ、涙目でソフィアを睨むマルティ。その視線を、鼻で笑ってから俺の隣――マルティとは反対側に座る。

「あんた、お喋り好きなのは良いけど、少しは相手の都合や調子を見なさい。沢山の荷物を抱えて、目の下に隈が出来ているのよ。気が利く女は、荷物の一つでも持ってやるものよ」

「ううっ~~~~確かにそうですけど~~~」

ソフィアの口から出た正論に、納得しかかっているマルティ。

ちなみに、その疲れている人に、大量の買い物を頼んだのは間違いなくコイツだったりする。


「涙は女の武器だと言われているけど、常に使い続けるのは感心しないわね。何度も使うと効果は薄まるし、それに―――」

女の道を、トクトクと語るソフィアさん。それを、反抗的な涙交じりの眼差を向けながらも、真剣な顔で聞き入っているマルティ。

「イイ女というのは、そう簡単に涙は見せないものよ。見せるのはここぞと云う時だけにしなさい」

「………確かに、そうですよね」

そんでもって、神妙な顔で頷いているマルティ。擦っていた頭を離し、フンフンとしきりに頷いているよ、この子は……


「おいおい、それじゃあ、ことある毎に、この子が泣きそうな顔をしていたのは、演技だったのか?」

「…………何を言っているんですか? 私は内気だけど、心を開いた人とはたくさん喋りたがる、寂しがりやな可愛いただの女の子ですよ」

「そうよ。女の子の涙はいつだって本気よ。相手を本気で篭絡するために流すのよ」

「…………そうですか」

――――もうこれ以上、何も言うまい。前から分かっていたけど、女の子に夢を抱けとは思うまい。


「うう~~、だけどまさかこんな変人に女の道を説かれる事になるとは~~~」

「あっはっはっはっは!」

変人呼ばわりされて、店の中で馬鹿笑いするソフィア。

きっと、自覚が大いになるからこその対応だろう。

――――

あれはそう、ソフィアに初めて会った時、いきなりセクハラを受けて一言、

「この人、変態です!」

などと、のたもうた過去がある。言われた本人は、そんな事は気にせずスケベおやじのような顔でずっと撫で繰り回していましたとさ。

もちろん、その後にヨミからキツイ突っ込みを受ける事になったのだが……

――――

「あなたも困っているなら、軽く小突くぐらいはしなさい」

余談だが、マルティはその後、ソフィアの事をずっと『変態』と呼んでいる。

どうも彼女は、人をあだ名で呼ぶ癖があるようだ。

「それは、お前が女だから出来る事だろ。演技だと思っても、おいそれとはたけるか?」


俺は基本的に、フェミニストで通しているんだぞ。例えそれがヤラセだとしても付き合うのが務めだろう。

「そうね、妹さんの存在のせいか、あなたって年下の女の子には弱いもんね」

(ぐはっ!)

「妹? 妹さんがおられるのですか?」

「――――まあな」

またまた、俺の家庭環境を知る人間が増えてしまった。別に増やしたいとは思っていないに、自分の想いとは裏腹にどんどん増えていく。

「あたしは遠目からしか見てないけど、可愛らしい子よね。少し苛烈な性格だけど……相手を見て加減が出来る子じゃないかしら」

「おいこら」

それは、兄として文句を言えばいいのか、それとも言いえて妙だと云えばイイのか判断に迷うじゃないか。


「へえ~~~、変態さんが可愛いっていうって事は、その妹さんって、破壊狂ですか? だけど、苛烈な性格とも言っていましたし、温和な人なんですかね?」

ちなみに、この子の頭の中ではソフィアの言葉は真逆に変換されます。

――――皆さん、覚えておきましょう!

「え~っと、まあ~あれだ」

そんな真面目な顔で、アホな事を訊かないでくれ。破壊狂で温和な人って、どんなキャラだよ。存在する訳ないじゃないか?

「――――と思ったけど、そうでもないか」

本人が聞いたらきっと、烈火のごとく怒り怒り狂うかもしれないね。

こんな事を考えていたなんて、妹には黙っておこう。


「―――って、アホな事で時間を潰してる暇はないだろ。思い出したのだが、船着き場でお前の船を見掛けなかった。後からこの町に着いたのか?」

もしも、見掛けていたならもっと注意をして町を歩いていたのに、疲れていたせいで、注意力が散漫になってしまったのが仇となったな。後悔は先に立ってくれないよね。


「ええ、そうですよ。速達で『風の帝王さん』と同じ黒髪の女の人を運ぶ仕事を受けていまして」

「ぶはっ!?」

何か訳の分からないムカツキが、我が身に降りかかる。特にお茶を飲んでいた訳じゃないから、吐き出すモノは無かったけど、胃液でも逆流したのかちょっと喉が痛い。

「世の中って、狭いわよね。速達人って、人も運ぶのね?」

「ええ、料金さえ頂けたら、大抵の物は運びますよ」

それは俺も知らない事実だった。何故なら、速達の船は一般人が乗ると船酔いする事間違いなしだからだ。強靭な胃袋を持っていなければ不可能なのだ。

「船着き場で見掛けた船が、『風の帝王さん』の物だと言ったら、一時間ほど休憩をすると申されまして。私も少々、用事が出来たので今は別行動をしています」


「あの子がこの町に来ているのか」

「というよりも、さっき社町にあるあなたの社の前でバッタリ会ったわよ」

俺の社? ああ、そういえば、狩猟小屋を造る気分で、突貫工事で造った奴がここにあったっけ? 技術とお金の不足で、妥協の産物となったんだよな。

「そうなのか? そういえば、ソフィアはアマノと留守番をしていたよな。アマノはもしかして、ナルカミと一緒なのか?」


まさか、この町にあの子がいるだなんて、かなり予想外だ。俺はまた、生活能力の欠片もないリンの所でお手伝いとして厄介になっていると思っていたのだが。

「ええ、それがどうしたの?」

「アイツ、変な格好をしていなかったか?」

どうして二人が一緒なのかとか、俺の社にどんな用事があったんだとか、そんなどうでもイイ疑問よりも前に、兄として尋ねなければならない事があった。

「?? 前とは違う格好だったけど、多分、あれも小袖?を着てたわよ」

眉を潜めながら、訝しげにこちらをみるソフィアを無視して、俺はホッと胸を撫で下ろした。


「そっかそっか、だったら良いんだ。あ~~良かった」

この前、アトリエを立ち去る直前に、服を溶解させる罠で小袖が溶けてしまい、残ったのは『肌じゅばん』だけだったので、町で反物を購入して急遽縫い合わせていたのだ。

――――(その時、俺は財布が空になって呆然とし、出来上がった物を眺めては、はらりと目から滴が零れた―――なんて事がありました)

「あんた、一体なんで泣いているのよ?」

「いや、俺は泣いてなんかいないぞ」

ただ、その努力がちゃんと結ばれている事実に、感動しているだけだ。



ここまで話をしていて何となく理解している人もいると思うけど、俺は狩人として独り暮らししていた期間が長く、大抵の事は一人で出来たりする。

「まあ、あの子には非常時以外は装具を展開するなと念を押していたからな。基本的には素直な子だし、兄は信じていたぞ」

「……力こぶし作って、な~にやってるの? バカは放っておいて、そろそろ帰りましょう。

いい加減、長い間席を占領するにも悪いと、会計を済ませて通りに出る。


「マルティ、折角だから一緒に行きましょ?」

この変態オヤジは何、両手をワキワキしながら怪しげな笑みを浮かべているんだ?

その怪しげなオーラに、本気で嫌な顔をしてこちらに身を寄せるマルティ。

「変態さんと一緒に歩くのは御免ですが、風の帝王さんとはもっとお話がしたい。悩ましい選択ですね。風の帝王さん、どうすれば良いんでしょう?」

そんな悩む話か? 俺なんぞと話しても大して面白い話なんて無いけどね。

腕にしがみ付き、顔を上げ潤んだ瞳を向ける女の子。その事象事態は可愛いんだけど、先程の会話が胡散臭さを醸し出している。


「選択も何も、行く所は一緒だろ?」

「それもそうですね。考えてみれば、風の帝王さんとずっとくっついていれば良いんですから」

もちろん、フェミニストである俺はそんな事はおくびにも出さない。笑顔で頷いてあげた。

「重いみたいだし、半分持つわ」

「私も持ちますから、三等分しましょう」

そして、疲れている男をさりげなく?労わろうとする二人。

「沢山の野菜と、米を買ったみたいだが、何を作るつもりだ」

野菜と米だけでも、作れるものは多種多様だ。ソフィアのレパートリーは豊富だが、俺やジジィ(本の虫)の影響で、和食も作る事が出来る。


「旅先で品数を増やすのは面倒だし、あなたは疲れているみたいだからね。七草粥――のようなモノを作ろうと思うんだけど」

「ああ、それは助かるな」

あれは胃が疲れている時には、本当に助かる。

「私もご相伴に預かってもイイですか?」

「お前、変態は嫌いなのに大胆だな」

「あんたまで、変態呼ばわりするな」

「ええ、寝猫ねねこさんが居れば安全ですから」

「ああ、なるほどな」

――――などと、他愛無い話をしながら、俺たちは船着き場へと戻っていった。

・七草粥 せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな(カブ)・すずしろ(大根)を使った粥。三が日の祝い事で弱った胃には、これが一番。新年の風物詩の一つ。


本当は昨日の間に上げようと思ったのですが、間に合いませんでしたね。深夜の二時までキーボードを打っていました。今回はエンジンが掛かるのが遅かったのが原因か。


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