社町(やしろまち)って何?
錬「そもそも、どうして我々が今回の副音声に呼ばれたのかというと、前回とは趣を変えて世界設定を説明するのに一番適任だと思われたからだな」
太「ボクはその生徒役で、先生役には、錬金術さんと雷神さんの二人の事ですね。まあ、この立ち位置に今さら不満はありませんけど、この出演回数の多さは少し鬱陶しいですよね。作者さんには早く、新しい生徒役を作ってほしいです」
雷「『作って』だなどと、身も蓋もなくおっしゃるのですね。まあ、そのお気持ちは分かります」
太「同情するなら、新しいキャラを作ってください。―――などと、愚痴を零すよりも設定を一つ紹介します。この世界では、『船出』と云えば 『自殺』、又は『バカをやる』と云った意味を持つそうですね」
錬「そうですね。この世界の海は年中荒れているので河川ならばともかく、外海に出るのは一部の例外を除いて確実に死にます」
太「その一部の例外とは神の事ですよね。あの時まだ直人だったコチさんは例外中の例外。参考にはなりませんので、あしからず」
錬「また、海岸沿いの町の葬儀は遺体を船に乗せて外海へと出す文化もあります。これは、外海の向こうには死後の世界があると云われた時代があり、その名残ですね」
太「へえ、面白い文化もあるんですね。―――あっ、もう時間だ」
町が出来るには、古の頃は川にしろ、雨水にしろ、水源を確保出来るかどうかで町を興せるかが決まる。
ただ、物流の流れが良い『風の道』の傍で造られた町々は水源のあるなしではなく、風速の高い、『加速ポイント』という場所の近くに造られる傾向があるみたい。
その理由は、出港する舟たちが静止摩擦から抜け出す為の勢いがあるかららしい。
「何ですか、この加速ポイントって?」
やっとこさ陽が昇り、名も知らぬ町に辿り着く。
ずっと加速しっ放しの船体から降りた瞬間に感じたのは、ひどい陸酔いだった。
船酔いとも違う、揺れてないのに揺れている感じ。先ほど通過した加速ポイントは、慣れ始めたなと思ったボクの身体へひどいダメージを与えていた。
「あれは、人体が耐えられる衝撃を超えていますよ~~」
そうボクは思っているけど、他の三人は平気な顔で、ヨミさんは朝になったから寝始めて、コチさんは一人で食料の買い出しに。ソフィアさんが気持ち悪くなったボクの介抱に残った。
そう、よりにもよってあのセクハラ魔のソフィアさんが残っているのだ。
「あの~、お願いですから介抱するフリをしてお尻や胸を触るのはやめてください」
「これは伝承なんだけど、古の大気の神が本当はずっとこの強い風速で風の道を創ろうとしたんだけど、それだと人が往来する事が出来ないと苦情が出てね。仕方なく、間隔を開けて加速できる場所を創ったみたい」
「うわ~、真顔な口調と手つきが合ってないよ~~~」
この人の奇行を止める事が出来る人って、今までの経験上、ヨミさんしかいないんだよね。
「あの衝撃がずっとって、それって人間を辞めないと耐えられないと思います。
――って、そういえば相手は神でしたね。つまり大気の神の妥協の産物なんですね。だけど、この風速がずっとって、かなり危険な感じがするんですけど?」
そのヨミさんは今、船の形の棺桶の中で眠っている――あ、船の中からボールが飛んできて、ソフィアさんの後頭部に直撃した。
そのあまりの痛みに、ソフィアさんが蹲ってしまった。
「スピードはロマンだと云うのが、その神の信条みたいでね。せめてもの抵抗として加速ポイントはカーブの手前に配置して危険度を増しているみたいよ」
「一言でいうと、ただのスピード狂ですね」
目の端に涙を浮かべ痛みに悶えながらも、ちゃんと説明を続けてくれているのは、彼女の根性を表しているよね。
「レースではその加速ポイントを使うかどうかが勝敗を握るわ」
「随分と熱く語っていますけど、もしかしなくてもコチさんたちも参加するんですか?」
ここに来るまでの間、失速もカーブでコースが膨らんだ事もなく、レースならばきっと良いタイムを叩き出しているんじゃないかな?
「無論よ。賞金が結構いい稼ぎになるからね。名誉はいらぬが、実が欲しい」
「わあ~~、正直な人たちだ」
この人たちがやる気を出す理由って、基本的にお金が絡んでいるよね。それが悪いとは言わないけど、『夢』がないよねえ。
「……今思い出したんですけど、神様はとても儲かる仕事だってリンさんが言っていましたけど、どう儲かるんですか?」
コチさんたちはお金がない。それは外泊する時に出来るだけ外食ではなく、お弁当で済ませているのにも現れている。
その代わり、飢えで苦しむ様子がないのは、きっとソフィアさんが小説で稼いでいるのと、ヨミさんが狩りで肉を確保しているからだろう。
「ああ、そういえばそんな話もあったわね」
「もしかして、ウソなんですか?」
まるで、今思い出しましたよ何て顔で云うモノだから、焦って詰め寄ってしまった。
そのせいで、思い切り抱きしめられて頭やらお尻やら撫でられたんだけど、あっ、またボールが飛んできた。
「あたたたたっ、さすがに二度も同じ場所には辛いわ。―――そう云う訳じゃないんだけどね。それじゃあ、その儲かる仕組みを見に行きましょうか」
「ああ、ちょっと何処に連れて行くんですか。腕を引っ張らないでください」
どうせなら、この棺桶も一緒に運びたいんだけど、ちょっと重いかな?
いや、大丈夫だ。ボクは神様なんだからそれぐらい可能なはずだ……
「そう思ったんだけど、無理でした。道幅がちょっと狭かったんですもん」
仕方ないんだけど、舟形の棺桶を引っ張っていくのを泣く泣く断念。せめてもの抵抗として、手の届かない場所で歩くのを了承させました。
「社町って聞いた事ある?」
どういう趣味をしているのか、この人は観客がいなくちゃ燃え上がらないという困った性質。
ある意味、本当の意味で二人っきりの方が危険は少ないのだから驚きだ。
「社町ですか。聞いた事があるような、ないような……それが何なんですか?」
社町と聞いても、少なくともボクがいた町には存在しなかった。元々、外出するのが好きな人間じゃなかったのも聞いた事がない理由の一つだと思うけど、
「社町っていうのはね。大陸中の神を祭った社を集めた区画の事でね。一つの国に一つはあるもので、この町にもあるのよ」
「へえ、そんなものがあるんですか。どうしてそんなものがあるんですか?」
そもそも、社って何だろう? そんな根本的な疑問が首をもたげている。
そんなボクの質問を予想していたのか、ソフィアさんは人差し指を立てウィンクしながら説明をしてくれた。
「イイ質問ね。社町には、人々に神の存在を認識させ続けるための役割があるの。
そもそも、社というのは、神の御室であり、依代である。人々の願いが集う場所であると同時に、神を人が忘れないための装置でもある」
「人は神を忘れるんですか?」
それは、あまりにも信じられない現象だった。なぜならボクの知る限り大なり小なり神を認識していない人は存在していなかったのだから。
ただ、そんな心理を表すかのように、社町に到着してからと云うモノ、殆ど人影が見受けられないのだ。一言でいうと、侘しい感じがするのだよ、ここは………
「はあ~~~嫌な世の中って~~~」
「新しく神になったアマノには信じられないかも知れないけど、実際に忘れられた神というのは実在するの。忘れられたからと云って、何か実害がある訳じゃないけど、神はとても寂しがり屋の生き物だからね」
「神が寂しがり屋ですか……」
「あなたにも自覚があるの?」
「……分かりません。ただ、独りはヤダな、と思いました」
人というのは、群れなければ生き物だ。ボクは一応だが神と呼ばれているけど、精神はまんま人間なのだ。家族や友人は必要だ。神の心得の中でも、仲間を集めろと言ってたしね。
「話が少し逸れたわね。社にはそんな精神論的な役割の他にもう一つ重大な役割があるの」
「重大な役割?」
「そう、お賽銭を落として貰えるという、重大な役割がね」
「…………本当に儲かるんですか?」
お賽銭と聞くと、ただ小銭の山が築かれると思うけど、それが大金になるのか甚だ疑問だ。
現状では、こんなに人がいないのに、本当にお金を落としてくれるのか?
そんな疑いの眼差しを受けているソフィアさんは、愉快な笑みを浮かべて話を続ける。
「儲かるわよ。特に年末年始には、莫大な富を生むのよ」
年末年始――その言葉が、ボクの頭の中で何かを閃めかせた。
「おおっ、確かに年末年始になると社の前には長蛇の列が並びますもんね」
思い出した。ボク自身はあまり行かなかったけど、つまりは初詣の事ですね。
それは、決して逃してはならないイベントだ。ボクも年末前には立派な社を立てて、立てて―――って!?
「年末まで一か月切っているじゃないですか? ボクはこれからどうすれば良いんですかっ!」
お賽銭を収集しようにも、ボクにはまだ立派な社が無い。建立するためのお金もない。
「あなた目が完全にお金になっているわね♪」
ボクの激しい剣幕に、なぜか楽しそうな様子のソフィアさん。
「何ですか、それがどうかしまたか? それの何が、悪いんですか?」
「いえいえ、俗っぽくて大変よろしいんじゃないでしょうか? 『夢』も『希望』も失って、落ちるんなら、一緒にどこまでも落ちましょ♪」
一体、何を言っているのか全く理解できない。今、ボクの胸には不安だけでなく、未来への夢や希望に満ち満ちているのに―――
ただ最近、お金がないというのはとにかく落ち着かないなというのを実感して以降、ほんの少しお金に汚くなったのかも知れないね。
「とにかく、年末までの間に、お金を稼いで名前を売らなくちゃね。そのための見本としてこの社町までやってきたんだから。よく見学しなさい」
「はいっ!」
やってきた時とは打って変わって、やる気に満ち満ちた表情でボクは一軒一軒、立派な社を見学する事になった。
そこでまさか、あの彼女と再会するだなんて夢にも思わなかった。
「あらっ? お久しぶりですね」
「あっ、この前顎をボールで打ち抜いちゃった人」
・ 御室 家のもっとも丁寧な言い。
最近になって私生活がやっと落ち着いたかな? もう少しで、古語の勉強も再開できそうだ。




