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東風と太陽~神話?はこうして創られる~  作者: 三神 凜緒
第一章 太陽さんの長い一日
38/72

大和言葉に付いて そして、次回は多分二週間後

副音声はお休みです

あなたは歌が好きでしょうか? もしも、あなたの手元に好きな歌の歌詞カードがあるのならば読んでみてください。

文字のほとんどが音読みではなく訓読みで構成されている事にお気づきになるでしょう。


そもそも、訓読みとは日本に漢字が渡来する前から、つまりは文字の無い時代から使われてきた言葉であり、音読みは中国伝来の読み方、漢語になります。

大和言葉は純国産の言葉なので、すべて訓読みで構成されています。


この両者には明確な違いがあり、分析すると歴史がまた面白くなるんですよね。

たとえば、『古事記』という書物は皆さん知っていると思いますが、その正確な読みについては知っている人は少ないでしょう。

『こじき』と云う読みは、音読みであり当時最先端の文化だった唐風を意識したモノです。

しかし、この書が生まれた時にはまだその様な風潮はなく『ふることふみ』と呼ばれていました。


『日本書紀』も誕生時は『にほんぎ』と呼ばれていたのを、知っている人はあまりいらっしゃらないでしょう。


時は下り、源義経の本は『義経記ぎけいき』と呼ばれ、戦国時代の書物を見ても、『織田信長』の本は『信長公記しんちょうこうき』と呼ばれているのも、当時の日本人にとって訓読みはダサくて格好が悪いという風潮があったんですね。


雷「訓読みは俳句や短歌を作るのに、もっとも適した読み方と述べたら信じますか?」

風「理由によるな」

雷「要は舌の使い方です。歌にとってもっとも大事なのは、立て板に水を流すかのような、淀みのない流れです」

風「そうだな。流れが留まるような発音は、出来るだけ避けた方が気持ちの良いモノになるな」

雷「はい。音読みには舌を上顎に大きくつけるモノが多く、また半濁音、つまりは『ぱ行』が使われるのも、口を一度閉じるので音の流れを遮るモノとして嫌われます」

風「今日きょう今日こんにち昨日きのう昨日さくじつ去年きょねん昨年さくねん。―――実際に発音すると、訓読みの方が舌の動かし方が少なくて楽に喋れるな」

雷「その淀みない音こそが、大和言葉がうまし国 日本を象徴するモノだと、思わせているのですよね」

風「現在では、音読みを全く使わないのは不可能に近いけど、現代曲を真剣に聞いていると音読みの部分は、リズムが少し遅くなった時か、その言葉を強調したい時に使われるな」

雷「仰るとおりです。訓読みの中に音読みを一つ混ぜると、その言葉が浮き出ます。

拍子が遅くなる部分にも、音読みは勝手の良い言葉ですね」

風「つまりは、音読みと訓読みで緩急を付けている訳か。狙って付けている人がいるのなら大したセンスだよな~~」

――――――――

雷「大和言葉のもう一つ特質が、自らをへりくださせた言葉で、相手を立てる言葉が多いことですね」

風「調べて見ると分かるけど、大和言葉って日常で結構使っているよな」

雷「『末席を汚す』『お口汚しかと』『謹んで』『おかげさまで』と自らを下にし、相手をたっとぶ言葉が目立ちますね」

風「『たっとぶ』は、『尊敬や敬意』だ。『末席を汚す』はある組織に入った時の挨拶に使われる定例の文句だな。実際に汚している訳じゃない。

『お口汚しかと』は試食の事だな。『謹んで』は『分不相応』。『おかげさまで』は『あなたのおかげで』だな。

――――思い出したんだが『つまらないものですが』って、最近の風潮では嫌われているよな」

雷「あの言葉も本来は『大層なものですが』と言えば、相手が恐縮して受け取らないという事の様にならぬよう考えた言葉であり、それを受け取られた方は送った相手の面目を潰さぬよう『大層なもの』又は『結構なもの』をありがとうと返すのが礼儀です」

風「『事の様』は『事態』だ。最近の日本人は昔みたいに遠慮深くないからね。もっと図々しい人間が多いから、『大層な物を』と言っても、受け取らない人間は少ないだろうな」

――――――――

雷「大和言葉はとかく、字面通りに捉えてはなりません」

風「『とかく』は『とにかく』だな。自分をへりくだらせた言葉もそうだが、本編にも出て来た『星月夜』もその一例だよな。

あれは月が出なくても星が明るく輝いている時に用いる言葉だから」

雷「仰るとおりです。大和言葉は一見いちげんして分かる程易しくはありません。

しかし、それもまた人の心を虜にする点ですね」

風「謎解きのような要素があるよな。これを面白いと言うかどうかは、人それぞれだな」

雷「『馬のはなむけ』『お体をお厭いください』『竹を割ったような性格』『餅は餅屋』『隙間風が吹く』『ひのき舞台に立つ』。大和言葉には一見しただけでは理解出来ない言葉は数え切れないほどあります」

風「『馬のはなむけ』は餞別の事。『身体を厭う』とは病気にならないように。『隙間風が吹く』は男女の関係が冷え切った様子。他の言葉は有名だから端折るぞ」

――――――――

雷「それでは、これまでに話した事を述べてください」

風「ええっと、『大和言葉は音の流れが流暢で綺麗』。『相手を立てる言葉である』『謎解きの要素がある』の三つだな」

雷「そうです。それこそが大和言葉が美しくも奥ゆかしい言葉であると、云われる所以なのです。

――――それでは、この度はこの辺りでお開きとなります。ありがとうございました」

――――――――

風「―――この説明で、興味を抱く人なんているのかな?」



日本の歴史を紐解くと、みやこの名前に音読みが使われたのは奈良の『平城京』が初めてです。資料によると、当て字で『ならのみやこ』とも読むらしいですが。

この都は中国の長安をモデルにされており、計画したのが唐の文化に傾倒していた藤原不比等ふじわらのふひとなのも音読みを用いた要因だと思われます。


平城京の後に遷都を計画して失敗した都の名前は『長岡京ながおかのみやこ』。

これが訓読みなのは、時の帝である桓武かんむ天皇が寺や貴族世界と距離を置く為の象徴として音読みを避けたのですが、それが祟りと云う名の天災により断念。

結局、十年足らずで京都の『平安京』へと遷都。再び音読みを用いる事になります。


そして時は下り、平清盛の時代では腐り切った貴族社会と距離を置く為に都を『平安京』から、港のある兵庫の『福原京ふくはらのみやこ』へと移そうと計画します。

その別離の象徴として、清盛もまた都の名前を訓読みに変えていますね。

この計画は、平氏の衰退と滅亡により御破算となるのですが、鎌倉までの歴史を調べると、当時いた日本人の価値観の変化は、音読みと訓読みで判別できたりするのですから面白いモノです。


尚、この歴史鑑定は私の独自の考えであり、研究者によっては全く違う意見が出ると思いますので、ご了承ください。




次回の更新についてなのですが、しばらく休みたいので二週間は間を開けると思います。

内容については、作者が愛してやまない猫が登場します。

あと、二週間の間に『天文学』の方の補足も何とかしたいと思います。


近代の音読みで『ぱ行』を使うのは『一杯いっぱい』ぐらいかな?

『杯』は正式には器を数える単位であり一杯ひとつきと読みます、なので飲み物には一献いっこんと書きましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大和言葉に付いて そして、次回は多分二週間後 訓読みに 言の葉つづり 織り成して 金糸銀糸を ちりばめいかん 今日よりは あなたの言霊 分け入りて 共に潜らん 小説の杜 淀みなき 流…
2019/11/10 17:56 退会済み
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