起死回生? 最後の一手
伝「『ほのぼの』は、直訳すると『朗らか』って意味らしいわ」
太「何ですか、一体?」
伝「いやさ、このお話って果たして『朗らか』かなと思って」
太「ああ、この小説のダグに『ほのぼのコメデイ』と書いていましたもんね」
巫「その割には、登場人物のえげつなさや、非常識さが目に余るような気がするね」
伝「やっている事自体は、平和的な事が多いんだけど、動いている人の中身が悪いよね」
太「そうですね。それぞれがマイペースで生きてる人たちの集まりですから、自然とそうなりましたね」
巫「第一章も、あと少しで終わるね」
伝「あたしは終わったら、少し休むわ」
太「そうですね。ボクも休みたいです」
「それじゃ、いってくる」
「おう、気を付けていけよ」
アマノへとの念話を終えてから、立ち上がったヨミは持っていた双眼鏡を渡すと、二階の屋根の上から飛び降りようとしていた。
「そうだ、一つ訊き忘れていたんだけど? アマノの装具をあんな(・・・)風にしたのはどうして?」
「ん? ああ、その事か……大した理由じゃないんだけどさ」
「大した理由も無く、あんなモノ用意したの?」
そういうわけじゃないんだけど、あの時は徹夜明けで頭がおかしかったからな。
それでも、あの時はこれが最善だと思ったんだ。
「ナルカミは、昔から可愛い物が大好き――というよりも、偏愛しているきらいがあってね。ああいう格好すれば、手を抜いてくれるかなと思って」
我ながらあざとい作戦だと思ったけど、その効果が発揮されたのか、周りが不自然だと思うぐらい手を抜いてくれている。
「ああ、神さま特有の病気ね。どういうわけか、神になると何か一つ、こだわりとも云うべき趣味を持つもんね」
「アマノの場合は、甘い物への趣向があるようだな」
あっちに向かう前は、微妙な顔をしていたというのに、何て変わりようだろう……
ナルカミは普段は軽く微笑んでいて、真面目な時にはすまし顔をする事が常なのだが―――
「我が妹ながら、微妙に口元が緩んでいるな」
「彼女の心にクリーンヒットしたんだね。私はてっきり、コチのたちの悪いイタズラだと思ってた」
「あっはっはっは、そんなわけないだろう」
初めは、アマノを殺しに来たんじゃないかと思って、焦っていたんだが……
「いやはや、昨夜の内にリンに特注品を頼んで正解だった」
「………楽しそうなその顔は怪しいけど、まあイイか―――それじゃ」
もう話す事も無くなったのか、ヨミは今度こそ屋根から飛び降りる。
「……静かになったな」
人一人いなくなるだけで、活気がこのように消えるのは、何度やっても慣れない。
普段から一人でいる事が多いのは確かだし、国元にいる時も、狩人として山野を歩きまわっている時も、殆ど一人だった。
ただ、この大陸に流れ着いてからは、あの二人と一緒にいる時間が多かった気がする。
「―――はあ……腹へった」
――――ヨミさんは言った。この世には二種類の不器用な人がいると。
手の施しようがない不器用な人と、矯正すれば何とかなる不器用な人。
ボクはどちらのタイプだと訊いたら、多分前者の方じゃないかなと言われちゃいました。
「それじゃあ、どうやって勝つんですか(涙)?」
「(冗談だから、泣きそうな声出さないの)」
ヨミさんは続けてこう言っていた。あなたは恐らく後者のタイプだと。
どう矯正すれば良いんですかと訊くと、己に自信を持てと言われました。
「(あなたはどうも、何をするにも自信がなくて躊躇する癖があるわ。だから、目でボールを追う事が出来ても、身体が上手く動いてくれない)」
「まあ、何となく自覚はありますけど。それじゃあ、どうすれば良いんですか?」
「(咄嗟の判断に自信を持ちたいんなら、脳トレをして頭の回転速度を早くすると、自然と自身も身に付くんだけど、今はそんな事やってる暇ないから、セコイ手を使うよ)」
『セコイ手』と聞いて、一瞬だけ躊躇したけど本当に一瞬で、すぐにどうすればイイのか伺いました。
「(自分が弱い事を自覚しているから、えげつない手でも躊躇なく踏み込む思考を持ってるね。その辺り、コチに似てるかな?)」
「あの煤だらけの人とですか……ちゃんと会話した事ないから、何とも言えませんが……」
何だろう? そう言われると、無性に反論したくなる。
「あの人と一緒だと言われるのは心外です」
「(思いっきり、口に出してるじゃない。それから、心に直接語りかけているから、喋らなくてもこちらに通じるよ)」
「(そうなんですか? 相手に聞こえない会話方法だと、色々と好都合ですね。
それで、具体的にボクはどうすればイイんですか?」
休憩に入ってかなり時間が過ぎている。頭の調子も大丈夫なので、あとは作戦を聞いて実行するだけだ。
「(まずは目を閉じて)」
「(はい)」
「(すると、ボールに付けられた赤い石の気配を二つ感じる?)」
「(はい、何とか感じています)」
「(ナルカミ……あの神の気配も感じれる?)」
「(そうですね。巨大な気配だからマリより簡単ですね)」
「(だったら、私が合図したら、その気配に向かって足を出す。それだけで良い)」
「(えっ……?)」
この二つのマリを同時に相手に蹴って、落とさない様にする遊びのポイントは、必ずしも速く蹴ればイイと云うモノではなく、速さを調整し合って、いかに二つ同時に相手に蹴り返すのかが勝負を決めるそうだ。
「長やかなお休みでしたが、良い策は思い付かれましたか?」
「まあ、一応は……」
もっとも、それ以前にボクは相手にまともに蹴り返す事が出来ない訳で、よそからはきっと勝負しているというよりも、遊んでいるようにしか見えないだろうな~
「先程、ソフィアさんからあと十球で終わらそうと仰られました。
わたくしもその方が良いと、思ひ(い)解きましたが、宜しいですか?」
「(私の見たところ、あなたは余裕がある時よりも、無い時の方が動きに無駄がなくなるようだから、これは頷いておきなさい)」
「はい……」
ボクとしても、体力的にそろそろ限界だから、迷う事なく頷いた。
「(視界と云うのは沢山の情報をもたらす分、脳の回転が悪いと動きが鈍る原因になる。
その上、あなたは今暗がりで目を凝らさざるをえなく、さらに時間を掛けている。
それなら目を閉じた方がいっそ、という話ね)」
「その代わり、十球の内、三球返せれば、あなたの勝ちです」
「判りました」
正直な話、出会いがしらに雷を落とされてこわいひとだと思ったんだけど、今は不気味なぐらいに優しい人だ。
「(この人に一体なにがあったんだ?)」
「(あ~、それを説明すると脱力するだろうから、ナイショ。今はとにかく集中しなさい)」
「(???)」
若干、首を傾げる所もあったけど、それはそれとして、互いに七メートルぐらい離れて向かい合う。
「ゆきます」
さっきまでは、二つのマリを使っていたけど、ボクが不甲斐なさ過ぎて一つで挑戦する事になった。
相手から飛んでくるマリ。目を閉じると、さっきまで感じていた戸惑いや焦りも感じなくなった。
「(今までの動きから、あなたは躊躇しなければまともに動ける筈。―――今だ)」
少しボ~っと、していたんだけど、言われて慌てて足を振りぬく。
マリは少し大きく山なりに、だけどギリギリ相手に届く範囲に落ちた。
「(おっ、初めて成功した)」
それに浮足立ってしまったのが悪かったのか、それから三連続で失敗してしまった。
「(落ち着いて。焦らずに、力を抜いて、何も考えずに―――今よ)」
焦り過ぎが功を奏したのか、今度は的確に返す事が出来た。
「(よしよし、その調子、その調子)」
これで、あと一回だと――そう思ったのが、良くなかったのかも知れない。
中途半端な緊張が、とにかく身体を固くしている。
そんな状態でも、目を開けていた時より、狙いが良くなっているんだけど、ギリギリ足の届かない場所に落ちている。
「(―――どうしよう……いよいよ、あとがなくなっちゃったよ~~~)」
結局、最後の一球を残すまで、成功はなし。
「(仕方ないな~。気が進まないけど、例の『セコイ手』を使うか)」
「(えっ……?)」
「(彼女が蹴り出した瞬間、神具を使う時と同じ感覚で、あのボールの赤い石に念じなさい)」
――――それに、一体どういう意味があるんですか?
などと疑問に思う暇も無く、蹴り出されるマリ。ボクは反射的に言われた通りに念じてみた。
すると、またもや白い世界にボクの精神は白い世界に飛ばされる。そして、再び四本の腕で何かを書いて―――いない?
今見えるのは、双子のように似ている小さな男の子と女の子だ。
二人は地面に座り込んで、何かを書いていた。意味は判らないけど、落書きだろうか?
今はその手を止めて、二人ともこちらを見上げていた。
その眼差しは、何かを訴えているように見える。
ちがうかな……? もしかして、ボクの言葉を待っているのと尋ねると、頷いてくれた。
何を言えば良いのか頭では理解出来なかったけど、本能で理解した。
(あのマリを相手に返して欲しい)
ボクの言葉に、二人は笑顔で頷いてくれた。それを確認した瞬間、ボクの精神は再び肉体へと戻っていった。
「なっ!――――つぅ!」
それは、とてもショッキングな光景だった。
それまで保母さんのような頬笑みを浮かべていた人が、急カーブをして戻って来たマリに顎を打ち抜かれて仰け反る姿と云うのは………
「あ~あ、やっちゃったよ~~」
「ある意味、ナイスなタイミングだったね」
「ドコがですか! ――って、ヨミさん。戻って来たんですか?」
突然横から声を掛けられて、ソフィアさんかと思ったらヨミさんだった。
この人は、神出鬼没というか、行動が読めないというか、変な人だよね。
「ついさっきね。それよりもほら、戦利品のお菓子」
「ああ、そういえば。それが欲しくて頑張っていたんでしたっけ?」
色々あったせいか、すっかり忘れてたね。
何故ボクがこんなに必死に頑張ったかというと、ボクが現状では、文句なしの無一文だからだ。何も買えない状態ではこのような趣向品は貴重なのだ。
「それにしても……あの人、どうしましょう?」
よほどイイところに当たったのか、完全に伸びちゃったナルカミさん。
イイ人だなと思い始めていたので、ちょっとだけ後ろ髪を引かれる感じがする。
「どうしようと言いながら、しっかりお菓子は握りしめているんだね」
「当然です。卑怯だろうが、セコかろうが、勝ちは勝ちです」
何を訳の分からない事を言っているんですか? と、視線で訴えると、呆れと諦めの籠った視線を返された。
「はあ~~、助言したのは私だけど、そう言い切られるとたじろぐね。どうして、
神と呼ばれる人は変なのばかりなんだろ?」
何やら訳の分からない事を言われているけど気にしない。
何故ならボクの手には念願のお菓子――和菓子があるからだ。
「彼女なら私が介抱するから、あなたはソフィアと一緒に先に帰りなさい」
「あ~はい。判りました―――あれっ? ソフィアさんは一体どこに?」
・思ひ(い)解く 悟る 了解する
・たじろぐ 圧倒される
・長やかな 長い
次回の更新は、明後日にします。
時間は夜の十一時か、十二時ぐらいですかね。




