太陽さんの決断
伝「変なテンションから、少しは落ち着いた?」
巫「うん、ごめん。どうにも前回は頭がおかしかった」
太「あの~、お二人とも、雷神さんが出てきてますが、何かコメントないんですか?」
伝「あの子のコメントについて? 特にこれと言って無いわね」
巫「同じく」
太「うわ~~、全キャラクターの中で一番、特徴があると思うけど、逆にそれ以外の特徴がなくて、コメントしにくいのかな?」
巫「―――というか、コメントがそのままネタバレに繋がる恐れがある」
太「ええっ、この前書きに、そんな価値観ありましたっけ?」
伝「あったんだね、これが―――雀の涙ほどだけど♪」
太「…………」
「はあ~~~、お兄様から伺ってはいましたが、真に忘れているとは……」
「…………?」
何を言っているのかやっぱり判らないけど、いまとっても残念な、ガックリした様子が見て取れた。
ボクがしきりと首を傾げていると、ソフィアさんは、『あれが例の妹さんか………しかし、あいつを…おにい……さま…だなんて、なんてご奇特な……人なの』なんて言いながら、バシバシと地面を叩いていた。
「どうしたんですか、突然?」
「いや、ゴメンね。ただ、ちょっと……予想外の事態に気が動転しちゃって、なははははっ―――――」
何かが彼女のツボを刺激したみたいで、今度はお腹を押さえながら笑い転げている。
この人って、時々だけどこうして笑う事がある。ボクには理由は判らないんだけど、きっと彼女なりに深~い理由があっての事だろう。
「何やら知りませんが、その笑い方は止めた方がよいでしょう。見ている人を心付き無くさせます」
「あっはっはっは………ゴメンなさいね――――はあ~~~」
ひとしきり笑って気が晴れたのか、ソフィアさんが再び真面目な顔をする。
相手の人――ナルカミさんだっけ?――は口元を引き攣らせて、こめかみの辺りに血管が浮き出ている―――
――ように見えた。実際には暗くて見えなかったけど、雰囲気でそうじゃないかと。
「………それで、手合わせって、何をすればいいんですか?」
彼女が現れてからそれなりに時間が経過しているのに、まだ肝心の事を訊いていない。
「ボクはさっさと『手合わせ』して、帰って食べて寝たいんですっ」
「あなた、日が沈んでからやけに帰りたがっているわね」
「そりゃまあ……あれですよ。何となくですよ」
夜目が効かないわ、お腹は空いたわ、疲れているわ。
理由は色々あるけど、口にするのも疲れる。それにこれ以上の脱線は彼女を本気で怒らしてしまう。
目が見えなくても感じる。さっきから向こうから発せられる圧力が恐くて、恐ろしくて、脱線せずにさっさと話を進めたかったのだ。
「神同士の挑み事は、力を使わない事を勧められております。
故に、この度は穏やかな仕方で決めましょう」
再び袖の中に手を突っ込み、何かを二つ取り出すナルカミさん。
あれは……ボールかな? でも、サッカーボールよりは小さいような気がする。
「わたくしの国里では蹴鞠という遊戯があります。この毬を出来るだけ長く蹴り続けて、落とした方が負けというモノです」
『イウゲ』って何って訊くと、ただの『遊び』だって教えてくれた。
それは、良いんだけどねえ、良いんだけどさあ………
「(どうしてこの人は、いちいち判りづらい表現をするのかな?)」
「(そういうキャラクターなんでしょ?)」
「(何ですか、そのキャラクターって? ソフィアさんも、たまにおかしな事を喋りますよね)」
若干、訳の分からない会話を挟みながら、ボクはナルカミさんからマリを一つ受け取る。
それぞれでマリを同時に相手に蹴って、落とした方が負け、手の届かない場所に蹴っても負けらしい。
「問題なのは、アマノちゃんはそのマリを目で追う事が出来ないんじゃないの?」
「あっ………」
ボトリと、手からこぼれ落ちるマリ。
「なんか、エラい重い音がしたわね。これもしかして鹿の皮で作ってるの? 無茶苦茶に固く出来てるわね」
一瞬で、どうやって勝とうかという気持ちから、ワンサイドゲームになる予感というか、確定した未来に愕然とする。
「ええっと、ナルカミさんだっけ。あなた、その履き物で大丈夫なの?」
「御心配なく。慣れておりますので」
「頑丈な足してるわね」
何やら、ボクを余所に二つで話しているけど、何も聞こえない。
正直、負けたからってどうだという訳じゃないけど、一方的に負けるのは面白くない。
「やばいよ、やばいよ。勝てる気が全然しないよ~~~~」
月の出ない夜。星々の明かりが照らす町の民家の屋根で、俺は彼女たちを見ていた。
暗雲から怒りを込めて発せられる稲光が、一つ、二つ、三つ………
双眼鏡の向こうで、ローブを着ていた少女が雷に打たれて倒れている。今はもうローブは焼け落ち、中から痛々しい服が姿を現す。
「あいつ……やり過ぎるなと言っただろうに………」
言っただけで、あいつは首を縦に振らなかった。だからまあ、予測出来る事態ではあった。
あの様子では生きているというより、無傷なのか。
「それが装具のおかげなのか、あいつの実力なのかは判らんが……」
ソフィアの奴が、倒れているアマノに悪戯している。
一発目は焦っていたが……あれは完全に、楽しんでいる顔だな。
「それで、今度は何を企んでいるの?」
「企むだなんて、人聞きが悪いなあ」
隣にいたヨミが、俺が持っていた双眼鏡を奪い、向こうを覗いている。
手持ちぶたさになった俺は、代わりに彼女の横顔を眺める事にした。
刀で受け止めていたとはいえ、マリチカに殴り飛ばされたヨミ。
それを偶然?受け止めた後、戦力バランスが悪くなるからと、連れだって少し遠くの家の屋根に来ていた。
道中、どうしてナルカミがこのような事をしているのかは説明してある。
「ただ、俺がラクをして皆がトクをする方法を考えて実践してるだけさ」
「人はそれを『陰謀』を呼ぶ」
「お前には理解出来ないだろうが、企みとは人の高尚で知的な楽しみなのだよ」
「…………手遅れだったか」
「ぐはっ………!?」
胸を貫く痛みと、漏れるうめき声。言ってはならない――というよりも、自覚したくない事を言われてしまった。
「この子は、どうして穿ったもの言いをするかな~~~?」
「うがった? どういう意味なの」
「ああ、いかんな。久しぶりに妹に逢ったから影響されたてるな」
意味は後で説明すると言って、ジッと向こうを観察し続ける。
「ケマリで勝負を決めろって、どうしてそんな事を提案したの?」
「昨晩の二の舞は御免だと懇願してね。あいつも、しぶしぶ了解したよ」
詳しい経緯は聞いていないが、よほど恥ずかしかったのか、顔を赤らめながらそこだけは頷いてくれた。
「ふ~ん、何年もほったらかしにしたのに、よく言う事をきいてくれたね」
「やかましいわっ―――って、そうだ。お前、あいつに色々と吹き込んだようだけど、どうしてそんな事したんだ?」
「コチって、すぐに見栄を張って、無理をするから。そうなる前に、手を打っておいた」
「……聡いというか、よく見ているというか……」
………自覚があり過ぎて、何も言えん。きっと、俺の事を心配して言ってくれたんだろう。
気づかなかった己に、溜息を吐いている俺を余所に、ヨミは変わらず観察を続けていた。
「何やら揉めているようだけど、あっ、始めるみたいだよ」
「少しは手抜きしてくれよ、ナルカミ……」
アマノは己に自信が無いと、そう予想していたナルカミなら、空気を読んでくれる筈。
もしナルカミが本気を出してコテンパにしたら、アマノの奴がどれぐらい落ち込むか判らないからな。
―――そんな俺の期待を余所に、試合はナルカミの一方的な展開になっていった。
・心付き無い 不愉快
・勧められる 推奨される
・同士 同士の古い呼び方 意味は一緒
・挑み事 勝負事
・立ち会う 勝負 『手合わせ』に動きを付けた言葉
・国里 故郷 祖国
・蹴鞠 貴族たちの遊び。『革靴』を履き、複数の人で鹿革製の毬を出来るだけ落とさずに蹴り続ける(英語ではリフティングかな?)遊び。今回は、難易度を上げる為に二つ同時にやりましたが、本来は一つの毬でやります。
・遊戯(い(ゆ)うげ) 遊戯の古い呼び方。最初の文字は『い』と『ゆ』の中間の音を出しましょう
・穏やか 平穏
・仕方 方法
・穿った 核心を突く
次回の更新も、明日の夜の十時には何とかしたいです。




