世界の真理を識る、太陽さん。
巫「真理は何時だって、子供には惨いモノだよね」
太「一言で言っちゃうと、大人はズルいなと思いましたね」
伝「太陽ちゃん、何を遠い眼をして、昔の自分を憐れんでいるのよ? あの後、ちゃんと教えたでしょ。『世界はたった一つの真理で動くほど単純じゃない』って?」
太「ええ、確かに随分後になってからそう聞きましたね。本当に、随分経ってからですけど………」
巫「伝記者はもう少し、子供心を大事にした方が良い」
伝「あっはっはっはは、まあ自分でもたまにそう思うわ」
巫「このお話って、ホントに戦闘はサッパリだね」
押され気味だったヨミさんの態勢が崩れた。マリチカさんはすかさず、必殺の一撃を繰り出す。
それは、かわせるタイミングでは無かった。刀で防御するも、力を流す余裕も無くまともに受け止め、飛ばされてしまった。
――――今だっ!
必殺の一撃を繰り出した瞬間、無防備だったのは一秒にも満たない。
その瞬間が、ボクにはスローモーションに見えた。
振り降ろした棒の先から火の玉。それが、相手の突き出した腕に命中した。
「うわっ、ちっちっちっちっ! あついっ!」
どうやらあの肉体は、斬撃や殴打に強くとも、熱さには無防備だったようだ。
命中した火の玉は、腕をウェルダンにする事なく、表面をチリチリ焼いた程度で消えた。
距離は大体五メートルぐらい。相手が熱さで悶えている内に、ボクはもう一度棒を伸ばす。
同じ間違いは二度と犯さない。
棒の片方を地面に付けると動かない様に足で固定。斜めに構えてから、力を込めて棒を伸ばした。
この構えなら、腕力が無くてもある程度まで態勢を安定させれる。
「―――えぐい所に命中させたわね」
伸ばした棒は、そのまま相手の胸に命中―――したんだけど……あれっ?
胸を突いた筈の棒は、それ以上めり込む事も、突き飛ばす事も出来ずにいた。
そればかりか、逆に反対側の方が地面にめり込んでいるじゃないかっ!
「あの人、本当に人間ですかっ!」
「いや、半分は神様だよ」
「………そうでしたね」
女性にとって胸部は急所の一つの筈。それを突かれても大丈夫という事は―――
「股間を殴っても大丈夫そうだな。ホントに、人並み外れた頑丈さだ」
「ホントにロクな事言わないわね」
不幸中の幸いなのは、突き自体は効いていないが、火による攻撃は効いている事だね。
「火ならともかく、この程度の突き、痛くも痒くも―――って、あち~~~っ!」
だから、棒の先端から火を出し続けてみる。
「思った以上に効果的だな~」
「容赦ないわね~」
再び熱さで悶え苦しむマリチカさん。それを、面白おかしそうに笑っているソフィアさん。
「それにしても………これじゃあ、決定打に欠けるか」
力を調整する事によって、何とかダメージを与える事に成功した。だけど、このままじゃあ態勢を整えられ、反撃されたら一瞬で負けてしまう。
不意を突かねば、熱さもやがては根性で耐えられるようになる。
「ヨミさん早く復活してくれないかな~」
どれだけこの状態が続いただろうか? ついに、マリチカさんは熱さを堪えながら、火が噴出する棒を掴んじゃった。
「イイ加減にしろっ!」
そのまま横に弾くと、火は明後日の方向に噴出するしかない。
「この力は………お前は、もしかして新しい<神>となった者か?」
「いきなり、バレたっ!」
何と、ただの脳筋だと思っていたマリチカさんから、核心を突く言葉。
驚愕に固まっていると、彼女からは呆れた目線を貰いました。
「……あれだけ、神の心得だとか、不思議な棒とか、火を噴出させれば、誰だって判るわっ!」
「……言われてみれば、そうですよね~~あっはっはっは~~」
考えてみれば―――いや、考えなくても誰でも判りますよね~
思い切りカラ笑いすると、相手からの呆れ具合が増していきました……
――――お話を本筋に戻しましょう。
彼女は今、服が焼けてしまった胸元を手で押さえながらも、ほとんど無傷。
「どうして、あの攻撃で無傷なんだ? ヨミさんもどっか行っちゃってるし」
怒り心頭で突貫すると思ったら、胸元が焼けた服を気にしながら、何だかスッキリした顔で、こちらを見て話し始めた。
「予想外だったな。まさか、新しい神がコチの所に行っているとは……」
「家庭の事情です」
「この大陸では、火を扱う存在は神しかいない」
「そうなんですか?」
思い返してみると、家の人もボクが火を出しただけで神認定していた。どうしてか不思議だったんだけど、これで謎が解けた。
「ボクが神だと知ってからの態度が変なんですけど、どうしたんですか?」
その変貌ぶりにビビって後ずさりしていると、彼女はこちらに向けて歩み寄って来た。
その存在感に腰が引けたんだけど、彼女からは全く敵意を感じない。
何とかその場に踏み止まる。そして、彼女は目の前までやって来た。
「今回も、私の負けで良い」
おもむろに口にする言葉は、予想外なモノだった。
「……えっ、どうしてですか?」
ボク一人では勝てない。頼みのヨミさんも吹っ飛ばされたまま。
今だったら、簡単に倒せる筈なのに………
「こんな状態では戦えないからな」
「ああ………」
言われてみて気づく。服が焼けてしまって、手で隠さねば彼女の胸が見えてしまう。
確かに胸を隠しながら戦うのは嫌だよね。
「勝負はまた一週間後だ」
そう言うと、マリチカさんはソフィアさんから受け取った『緑茶モドキ』をイッキ飲みすると、そのまま立ち去って行った。
「あんなマズイ物をイッキ飲みって、胃袋も超人なんですね」
「毎週の事だからね。慣れたのよ。あれでも最初の頃はホントに嫌がったんだから」
それでも慣れてしまうのは、やっぱり凄いと思う。ボクじゃ絶対に無理だから。
「あの薬の最大の副作用は、味覚がおかしくなる事だからね」
「何だか、色々と問題のある薬ですよね。もう少し味を何とかならないんですか?」
マリチカさんが立ち去ると、さっきまであった緊張感が嘘のように、辺りは静寂に包まれる。
ソフィアさんと二人で立ち尽くしていた。ヨミさんはまだ戻って来ない。
「あの人は………本当に勝負に勝とうとしてたのかな?」
何となくではなく、ヨミさん相手はともかく、ボクに対しては完全に手を抜いていた。彼女なら、胸を隠しながらでも蹴りだけでボクを倒せた筈。
「それをしなかったのは、勝つ事が目的では無かった。戦っている間のあの表情から察するに、戦うこと自体が目的だった………」
そもそも、嫌がっている筈だった薬だって、あっさり飲みほしている。
「あら偉い、良く判ったわね。あれは、二人の修行と、ストレス発散が目的。
薬を飲む飲まないは、あくまで戦う為の名目」
「名目って、どうしてそんな名目を?」
「決まってるでしょ。その方が儲かるからよ。安定した定期収入は何でも屋には魅力的なの。ただの修行じゃ、お金が入らないもの」
「……………」
――――彼らの仕事に、やらせ疑惑が浮上した瞬間だった。
「何を言っているの? 疑惑じゃなくてヤラセそのものよ」
「どうして、無駄に偉そうなんですかっ!? ――――っていうか、また人の心を読みましたねっ!?」
「あっはっはっは、どうなのかしらね~~」
さっきから、この人は何を言っているんだ? ホントに心理学者か何かか???
不気味な存在だな~と一歩引く。すると、そうはさせまいと、肩をガッシリと掴まれる。
「あなたに一つ、後学の為に世界の真理を一つ教えてあげる」
「何ですか、改まって。嫌な予感がするんですけど?」
一拍間を置いてから、ソフィアさんは重々しく、だが、ハッキリと宣言する。
「この世界は、ヤラセと茶番で回っているのよっ!!」
「そのセリフはヤラセをやっている本人が言っちゃいけないセリフだと思いますっ!」
「具体的に言うと、神のお仕事の三割ぐらいは、シナリオの決まっているやらせに決まってるでしょ」
「うわ~~~………」
「更にもう三割は、人々が勝手に働いていると錯覚しているだけの自然現象。でも、残りの四割は真面目に働いているんだけどね」
なんだかどんどん、ボクが想像していた仕事とはかけ離れていく。ひょっとしなくても、ボクは就職先を間違えたんじゃないかな?
「四割『も』と云うべきなのか、四割『しか』と云うべきなのか悩みます……」
「もっとも、マリチカにとってもワザと負けるには一つ大事な理由があるんだけど……」
「んっ? このヤラセはマリチカさんにとっても、大きな得があるんですか?」
「明日になったら判るわ。……明日になったら、教えてあげるっ♪」
何だかボソボソと、呟いている。何を言っているのか尋ねたけど、明日になったら教えてあげると、それ以上は教えてくれなかった。
「………どうしてそれにボクを巻き込むんですか?」
勝負がどっちに転んでも、薬を飲んでくれるならボクが戦う理由は無い筈。
それに、どうしてまた真相を教えてくれなかったのか。
色々と文句が沢山あるけど、詰め寄るボクに対してソフィアさんは一言。
「それは勿論―――その方が、面白そうだったから」
「…………」
――――この世界は、『ヤラセ』と『茶番』と、『悪意』で回っているんだなと痛感した瞬間だった。
「いやいや、あんなマズイ薬を他人に無理やり飲ますのかと、良心の呵責に苦しむ姿は可愛くて可愛くて、思わず抱きしめたくなっちゃったわ~~~~」
「止めてください…………」
忘れていた――訳じゃないけど、この人はSっ気のある人だった。
抱き付こうとするソフィアさんをかわすと、ボクはヨミさんが消えていった方へ足を向ける。生きているとは思うけど、何だか心配だった。
その時冷たい感触と共に、鼻先に水滴が落ちて来た。空を見上げれば、黒い雨雲が一面に立ち込めている。
「さっきまで晴れていたのに………」
この調子だと、もうすぐ本降りになる。その前に、何処かで雨宿りしなきゃ。
その為にも、早くヨミさんを見つけなければ………
「アマノっ!」
ソフィアさんの突然の叫び声。何かあったのか振り向こうとした瞬間―――全身を何かに貫かれた。
その瞬間には判らなかったけど、それが一条の光を纏った稲光だと知ったのは、それからすぐだった。
次回は……多分、三日か四日ほど空きます。
身体が重くて頭が痛いので休みます。




