自宅だったら呆然自失です
伝「――などと、説明している間に、彼女の出番が終わっちゃったね。再登場までしばらく時間が掛かるのに」
巫「本編の解説をする気が無いのが、よく分かる一幕。あっ、私が少し出てる」
伝「あたしはまだだね。一応、主人公の一人も出てるけど、相変わらず、格好良くないね」
巫「彼が格好良いのは、年に数回だからね」
伝「世の男性たちの殆どは、その数回も無いんだから、それを鑑みたらイイ男の部類に入るんだろうね」
巫「次の話ではあなたも登場するけど、あらすじでやらかした太陽はまだ出て来ないね」
伝「あの子の登場は、まだまだ後だもん」
目の前に広がる紅く紅く燃え上がる炎。目の前で大きな屋敷が音を立てて崩れていく。
吐く息が白いのに、何故か顔は熱気を浴びて熱かった。
――――あれは一体、何だ?
現実味の無い光景に、手から菓子折りが滑り落ちる。湿気を帯びた大地に音を立てて……
深呼吸をしよう。混乱している頭を落ち着かせる為に、一度大きく息を吸い吐く。
「ふう……どうするかな~~?」
事態は少しずつ、悪い方向へと進んでいる。見れば、屋敷の窓ガラスは全て割れていて、部屋の中は炎に包まれて中の様子が判らない。中にあった高価な家具や調度品は全滅だろう。レンガ造りの外壁は何とか形を残しているが、屋根は半分以上落ちている。
朝になれば、見るも無残な姿になっているのは間違いない。
「つまりは……もう手遅れなのか」
森の動物たちもいい迷惑だろう。今頃、夜行性の動物だけではなく昼間に動き回る者たちも一斉にここから逃げ出しているんじゃないか。
「どうするの?」
「どうすると言われても………」
隣で立っている相方に言われなくても、状況を整理してみれば、答えはとてもシンプルだった。
「もちろん、帰って寝よう」
何もなかった事にして、回れ右して帰ろうとするとその相方に袖を掴まれる。
「何故止める?」
「…………」
無言でこちらを見つめてくる。その瞳は「諦めて関わろう。これも仕事だよ」と雄弁に語っている。面倒臭い事にはいっさいかかわらない(より正確に述べると、面倒臭いと思う事が他の人よりもいささか多い)のが信条なのだが、彼女にヘソを曲げられると後で大変な事になる。―――諦めるしかない。
「絶望的だけど、生存者の確認と、周りの木々に飛び火する前に消火しないと」
「消火だけだったら、一瞬で終わるんだけどな」
「それをした場合、中の人間が死ぬよ。一部屋ずつ確認しながら消火しよ」
「面倒だ……どうして俺がこんな厄介事を抱えなきゃいけないんだ?」
どれだけ溜息を漏らしても足りない。
そういえば、落とした菓子折りの中身は無事なのか? 恐らくこの屋敷にいるであろう渡すはずの相手の生死よりも、俺には大枚?はたいて買った菓子折りの方が心配なのだ。
色々と、心の中で愚痴りながら、俺はジジィの頼み事にはロクな事が無いと。
引き受けてしまった自分を恨みながら、火の海へと突貫していった。