大立ち回りをする巫女さん
巫「やっぱり、まだ眠い。もう一度寝直そうかな?」
太「これ以上寝たら身体に悪いですよ。頑張って起きてください」
伝「やっと復活したと思ったら、これか」
太「ほら、やっとあなたが大立ち回りをする場面まで来ましたよ」
巫「別に誰かに見せる為にやってる訳じゃないだけどな」
伝「うわ~、ヤル気の欠片も見受けられないわね~」
「何ですか、それは? 巾着袋ですか」
どれぐらい歩いたのか、隣町までの畦道を俺たちはまだ歩いていた。
もうすぐ辿り着くので、俺は懐から財布を取り出していた。中身はかなりギッシリしてる。
ナルカミは恐らく、中身の量に驚いているのだろう。
「ヘソクリだな。非常時に使う資金の事だ」
「それは存じてます。そうではなく、何故そのような物を持ち出したのですか? ヨミさんの話によれば、金子には困っているから『おねだりは止めて上げて』と申していましたが」
グサッっと、俺の心の臓を何かが貫いた。妹の眼差しには、そんな無理をしなくても大丈夫ですよと、こちらを案じている感情が見える。
「あいつはそんな事まで話したのか……」
妹の前で見栄を張ろうとすると、バレた時の心のダメージはでかいな。
「もちろん、そのような事を乞い願うつもりはありませんが」
「分かってる。分かってるから、もう何も言わなくてイイ」
俺は心のダメージからなんとか立ち直ると、そのまま町のお菓子店へと向かう。
「お菓子屋さん? ああ、果物や点心の事ですか。これを購いに?」
「ああ、アマノの奴に言う事を聞かせるにはこれが一番だからな」
これを買う為に、俺はわざわざヘソクリに手を出したのだ。
さすがに、妹にお金を借りるのは情けなくて恥ずかしかったからね。
ヨミさんと、相手のマリチカさん。二人が構えたのはほぼ同時。そして、肉薄したには一瞬だった。
あまり視力には自信が無かったんだけど、神として覚醒した影響なのか、夜の闇の中、何故か二人の動きを目で追う事が出来た。
二人の動きは、予想以上に速い。だけど、もっと驚いた事が繰り広げられていた。
なんと、ヨミさんが振り向いた刃を、信じられない事にマリチカさんは拳で弾いていた。
それはまるで、手に鋼鉄の籠手でも付けているかのような頑丈さだ。
その後も、二人は何度かやりあった後に、ヨミさんは再びこちらに戻ってきた。
「あの人の皮膚って、鋼鉄よりも硬いんですか?」
もしもそうなら、刀では倒せない事になる。ヨミさんは相手に視線を向けたまま答える。
「拳の先だけ。全身を固くし過ぎると動きが鈍くなるらしい。素早い動きをするには、柔軟な筋肉が理想だから。その方が、衝撃を吸収出来て怪我もしにくい」
つまり、拳以外なら攻撃が通じると。だけど、そこに打ち込むのは普通には難しい。
「単刀直入に訊きますけど、ヨミさんとあのマリチカさんっていう人。どっちが強いんですか?」
陽が沈み、辺りが暗くなると、互いを照らすのは星々の瞬きのみ。
この町ではまだ街灯が点々としか設置していない。
それ以前に戦っている脇で、街灯の火を灯してくれる度胸のある人がいる訳も無い。
いまだ火の灯らない街灯に、ソフィアさんはもたれ掛かって腕を組んで観戦している。
「万全の状態なら、私の方が強い。今は腰と頭に違和感を覚えているから、単独で勝つのは難しい。サポートが必要だ」
「違和感って、そういえば、さっきからずっと腰と頭を掻いていますね。痒いんですか?」
「リン特性の湿布と軟膏を塗ったから。打撲や捻挫ぐらいなら十分で治るんだけど、その代わり半日は痒いんだ」
「半日って六時間ですか? それは辛いですね」
成程、それで十分で復活出来たんだ。なっとく、なっとく――
「――って、納得している場合じゃないっ! どうするんですかっ!?」
「だから、あなたのサポートが必要なのっ!」
ピンチな筈なのに、何故か喜びが溢れて来ました。だって、これで役立たずで、後ろから応援するだけなんていう、情けない事態にならないで済むんだから。
「それで、ボクはどうすればいいんですか?」
「とりあえず、防具を装備しろ。そのままじゃ一撃で死ぬぞ」
「んげっ!?」
唾を飲む音が、やけに大きく聞こえる。知らず知らずに全身から冷や汗が出て来た。
ついに……ついにきましたよ、この展開。
「何時かは来るだろうと覚悟を決めていました。……いや、嘘です」
時間が経てば開き直るかなと思ったら、土壇場になっても踏ん切りがつかないものです。
「―――まあ、その為にこのローブを借りたんだけどね」
これを着ていたのは、防寒性が高いだけじゃない。オシャレ度がゼロでも、これなら中の服がどうなっているのかバレない筈。
相手が襲って来ないうちに、力を使って装備を造ろうとする。
一瞬だけローブの中が光ったと思ったら、次の瞬間には何かを着込む感触が。どうやら、無事に造ってしまったようだ。
自分が今どんな服を着ているのか。見えはしないけど判っている。
年齢が一ケタなら喜びそうな、それ以上になると恥ずかしくて着られない。
――――そんな服だ。
「そういえばあの服って、昔遊んだ人形に着せてあった服に似てたな………」
………おかしい。何かがおかしいんだけど、その原因が判らない。
ゴシックロリータだっけ? あれって本来、人間が着るようには想定されていなかったよね? 何時から人間も着るようになったんだ?
「何をブツブツと言っている? そのローブは動くには邪魔だろ、脱いだ方が良い」
いきなりの死刑宣告。確かにこのローブはあくまで、服が汚れないようにする為のモノで、戦闘には向いていない。
「いえ、ボクは後方支援に徹しますので、これで大丈夫です。夜は冷えますもんね」
というか、前線に出ても瞬殺されそうだ。出来れば、後ろから安全にちょっかい掛けるだけが望ましい。
「構えろ、来るぞっ!」
「はっ、はいっ!」
弱気な事を考えていたら、マリチカさんはまた嬉しそうな顔でまたこちらに向かって来た。
「うわ~~、この人って本当に戦うのが好きなんだな」
呑気にゲンナリしていると、横にいたヨミさんが迎え撃ち、マリチカさんの拳と、鍔迫り合い?をしていた。中々にシュールで非現実的な光景だ。
やがて一度離れた二人は、荒くなった息を整えながら互いに隙を窺っている。
「それにしても、どうやって隙を窺っているのかな?」
「人はリズムで生きているからね。そのリズムを乱すようなタイミングで攻撃を仕掛ければ命中しやすい。そのリズムは呼吸で刻まれているんだけど、ああして息が荒くなるとバレ易くなる。」
「ああ、だから二人して動きが止まったんですね。ボクはただ、疲れたから止まっているんだと―――って、ソフィアさん? いきなり説明口調で現れないでください」
さっきまでそこにいなかった筈。なのに、気が付いたら横に立っていた。まるで、ヨミさんの代わりに現れたような、気配も感じなかったのに………
「後方支援は場の流れを読んで、的確なタイミングでアクションを起こす必要がある。つまりは、腕力よりも頭を使うポジジョンなの」
「はあ………」
それにしても、どうしていきなりこんな事を? もしかして、アドバイスをしてくれているのかな?
何を考えているか全然判らない人だけど、悔しい事にこの人の言葉は全部的を射ている。
ソフィアさんと話している間に、睨みあっていた二人は再び肉薄し、打ち合いを始めた。
「格闘家の武器は、両手と足で同時に三つまで攻撃が出来る。それに対して、刀は一つずつしか攻撃が出来ない。その代わり、リーチが長く、懐に入られなければ手数が少なくとも対処できる」
「手数ですか……よく見たら確かに、マリチカさんの方が手数多いですよね。だけど、ヨミさんは刀一本で攻撃を防御―――いや、流している」
その動きは、刀を身体の一部のように自在に操っている。相手の拳や蹴りを受け止めずに流しているのは、威力が高すぎるからだろう。
二人の実力は、はたから見れば互角。だけど、やがてヨミさんの動きが鈍くなってゆき、押され始めた。何となくだけど、腰を庇っているような。頭の調子も悪そうだ。
「本当に痒いんですね。う~ん、どうすればイイのかな?」
目は追いついているけど、動きについていけない。
「もうすぐ相手はキメの一撃を繰り出す。その時が一番、隙が出来る瞬間。狙い目はそこね」
「狙い目と言われたって、ボクにはそんな力がありませんよ」
ボクが今持っている力は、自在に伸ばす事が出来る棒に、威力の加減が出来ない炎。前者はネタバレしているからかわされる可能性が高い。
「さっきも言ったけど、神具の本質は力の調整をする為のモノ。武器として性能はあくまでおまけ。それを持っている限り、あなたの炎で人を殺すような事はない」
ボクの炎は、人を殺す事が無い。そう思った時だった。神具の中央に埋め込まれていた炎の色をした石が淡く光り出した。まるで、ボクの力と意思に応えているかのように。
「――――――――」
「えっ――――」
石が何かを伝え始めたと思った瞬間、意識が真っ白な世界に飛ばされる。
…………
「ここは………?」
真っ白な世界で、ボクは四本?の腕を使って、床に何かを書いていた。文字でも無い、絵でも無い。意味の無い落書きだ。
ボクの書いた落書きには意味が無かった。その意味の無い落書きに、誰かが上から何かを書き足してきた。誰が書き確かのか顔を上げると、もう誰もいなかった。
不思議に思って首を傾げるけど、やがて気にする事ないかと、ボクは再び落書きをしようとして気づいた。
「落書きが消えている?」
どうやって、何時、消えてしまったのか。不思議に思った瞬間、ボクの意識は再び地上の肉体へと戻っていった。
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明日は『天文学』の最終回になります。
ぜひ、見てください。




