太陽さんの初陣です♪
伝「このお話って、勧善懲悪とは程遠い位置にあるよね」
太「どちらが悪人か、善人かなんて、論議する事さえ出来ないよね」
伝「どちらかと言わなくても、相手の方が礼儀正しいよね」
太「伝記者さんは、相変わらずマイペースですしね」
伝「それは、あなたも一緒でしょ」
巫「ふぁ~~~あ。少しだけ寝れた」
太「あっ、復活した」
―――――――
時刻は夕暮れ。奥様達が夕食の準備をする頃。もしくは、足りない食材を走って買いに行く時間。
夕日をバックに仁王立ちしている人。マリチカさんは憤怒の表情でこちらを見ている。
「毎週毎週、煮え湯を飲まされているオレだが、今週こそは…今週こそは必ず勝ってみせるっ!」
煮え湯って、『敗北の屈辱』の事なのか。それとも、あの『緑茶モドキ』の事だろうか?
「多分、両方なんだろうな~」
「???」
ソフィアさんと違って、こちらの声が聞こえない彼女(それが普通です)は、ボクの言葉に不思議そうに首を傾げている。
正直な話、あんな物を毎週飲まされるなんて気の毒以外の何物でもない。
しかし、そうしないと周りの人が迷惑なのだ。
「多少心苦しいけど、覚悟を決めよう」
ボクは色々な出来事から諦めの――無我の境地に達する。
手に握っている神具が、不気味に震えている。ボクから流れる力に反応しているんだろう。
ボクは今一度、この神具の性能を思い出す。確か、軽く擦ると、左右の赤い石に込めた力が棒を伸び縮みさせる。
そして一般人には見せれないが、真ん中の石がこの棒に炎を纏わせたり、飛ばしたりさせる機能を持つ。
目の前に立ちはだかっている超人。
肉体強化が得意だっていうから、ボクはその人はきっとムキムキのマッチョだと思ってたんだ。
なのに予想に反して、見た目はとてもスリム。そして、この季節には寒そうな動きやすい格闘家のような服を着ていた。
「何か、気合いが入った出で立ち。色々とこちらの予想を上回る人だな………」
軽口を叩きながら、身体の緊張をほぐす。見た目は普通なのに、この人からは格闘家のようなオーラを感じる。まともに組み合えない。迂闊に近づいたらやられそうだよ。
「ヨミさん、早く復活してください」
腰とか痛いとか言っていたけど、ホントに十分で何とかなるのかな?
ハッキリ言って、ボクには戦闘の経験は無い。
なので、出会いがしらに丸コゲにならない程度に炎の一つでも飛ばして戦闘不能にするしかない。つまり、初手で決めるしかないのだ。
「あいつが出て来ないのであれば、私の相手はそこでビクビクしている新顔か?」
「………あははは~~~」
ヤバイ。他人のフリをして逃げ出したくなるような眼光。さっき固めたばかりの覚悟が萎えそうです。
どう考えても、ボク一人じゃ無理ですよ。やっぱり、ヨミさんが手伝ってくれないと無理だ~~。
お互いの距離は二十メートルぐらい。すぐに詰められる距離じゃない筈なんだけど、ちょっとでも隙を見せたらやられると本能が告げていた。
「……もう何も考えずに、目の前の人をウェルダンにした方が後腐れなく――――」
「――――さて突然ですが、ここらで講義の時間がやってまいりました」
緊張感が高まったあげく、思考が危ない方へと向いた時だった。ホントに突然に、ソフィアさんが呑気な声で参考書片手に講義を始めた。
「どうして、このタイミングでっ!?」
「他に丁度良いタイミングが無かったから。―――それに、時間稼ぎになるでしょ?」
最後は凄い小声で言ってきた、ソフィアさん。悪い人だな~
「………何やら、向こうさんの視線が冷たいんですけど?」
気が削がれたのか、マリチカさんは律義に待ってくれているよ。
敵対しているけど、とってもイイ人かもしれない。
「ええと、『心得7 神は原則神具を用いるべし』。神とは天災クラスの力を持つ存在。それを不用意に発現させないよう、ストッパーの代わりに持つのが神具である。」
それはさっき聞きました。二度目という事で無視していたら、相手にとっては無視出来ない――というよりも、何やら思案しているご様子。
「神では無いあたしには実感できないけど、彼曰く、初めの頃は軽くそよ風を出そうとして、大きな竜巻を起こした事があるとか。どれだけ熟練しても確実な制御をするのはまず無理。だから、初めから一定量以上の力しか発現できないストッパーが必要との事」
ああ、そうか。だから、コチさんたちはすぐボクに神具を持たせたのか。
「今だっ!」
―――なんて事を考えるのは後で、何かを思案している相手の隙を突くべく、ボクは持っている棒を長くして相手の頭上へと叩き落とす……つもりだったんだけど。
「何だ、このトロトロした降り降ろしは……」
「くっ、……重くて素早く振り降ろせないっ!」
「はあ~~、おバカな子がいるよ」
後ろからは、ソフィアさんのあきれ果てた声。
――――どうせボクは不器用ですよ~~だ。
「――――いった~~~~~っ!?」
その上、棒が地面に激突した時、何度もバウンドしながらもの凄い衝撃が両腕に響き、痛くて取り落としそうになる。
「当たり前だろうが………」
二十メートル以上に長くした棒は、重すぎて動きが鈍過ぎる。
隙だらけの相手にでさえ簡単に避けられた上に、呆れられてしまいました。
「横薙ぎすれば避けにくいかな?」
この長さでは、間違いなく周りの建物を壊してしまう。道幅ギリギリの長さで横払いをしてみようか?
「いやそれ以前に、重すぎで持ち上がらないだろう」
相手に作戦がまる聞こえになっている! ――――いや、問題はそんな事じゃないっ!
「くっ、思った以上に使えない武器だっ!」
どうやらこの武器を使いこなすには、並外れた腕力が必要のようだ。
…………つまり、ボクには宝の持ち腐れ。
「リンさんのチョイスミスじゃないか?」
「……あんたが不器用なだけの気がするが」
とにかくこのままでは戦えないと、棒の長さを自分の身長ぐらいに調整する。これぐらいなら、何とか素早く振り回せそうだ。
「どうして、こんなバカな戦法を?」
ソフィアさんの冷たい指摘に、ボクはジト汗を流しながら答えた。
「いやだって、無限に延ばせるって言うから、一度やってみたかったんだもん」
自分としては、画期的な奇襲戦法だと思ったんだよ。ただ頭の中で想像した程、上手く出来なかっただけで、
「ちなみにあなたが今付けている、カチューシャと腕輪の形をした装具も、同じ神具の一種。使いこなせば、一時的に筋力を増強できるわよ」
「おおっ! それを早く言って欲しかったですっ!」
せっかくのアドバイスだ。さっそく実践してみよう。
「その代わり、翌日筋肉痛で動けなくなるけど♪」
――――と思ったけど、止めておいた。
「――――最後の手段として、取っておきます」
何事もなかったように、神具を構えて相手を見据える。隙だらけな筈だったのに、律義に待ってくれているよ。
絶対に、良い人だよね。この仕事が終わったら、一緒にお茶?でもしたい気分だ。
「せっかくだから、神の心得をもう一つ言っておきましょう」
状況が変化しても、ソフィアさんは変わらず講義を続けていた。とんでもなく、マイペースな人だ。……別に、驚きはしないな、今さら。
「相変わらずマイペースな人だな――――っていうか、この状況じゃ講義なんてまともに聞けないと思うんですが?」
「大丈夫よ、男性と違って女性は右脳と左脳、同時に使えるようになってるから、死闘を繰り広げながら講義を受けるぐらい、何ともないわ」
彼女は続けて、どうでもイイ余談を一つ。その関係で授業中に話を聞きながらノートを書くのも、男性の方が苦手で、ノートを写して貰うなら女性の方が良かったりするらしい。
「だから、どうしてこの状況下でそんな話を?」
ボクが当然の疑問を口にしていると、向こうから『こっちを無視するな。―――っていうか、お前も同じようなモノだぞっ!』と聞こえた気がしたけど、空耳だろう。
「さあ、どんどん続けるわよ『心得8 むやみに力を使わない』」
こちらの謀略?により、戦意喪失している相手にもう一度攻撃を加えてみよう。
ボクは再び棒を縦に構えて振り降ろす。今度はさっきの失敗を生かして、振り降ろしながら伸ばしてみた。
こうすれば、重くて降り降ろせないという欠点を補える筈………だったんだけど―――
「くそっ、今度は延ばしきる前に地面に突き刺さってしまったっ!」
「…………」
「―――だから、何でそんな馬鹿な戦法ばかり思い付くのよ?」
「――って、うわっ!」
棒の延びる速さが想像以上に遅くて、丁度中間ぐらいで降り切ってしまった。
今度はソフィアさんも一緒に呆れてる。しかも、延ばし切れなかった残り半分の十メートルぐらいが、地面にめり込まず持っていた腕ごと後ろに吹っ飛ばされる始末。
「あいたたたたっ、全身が痛いよ~~~」
棒が伸びている間に途中で手を離してしまい、地面を転がる羽目になった。おかげで全身埃まみれ。それでも何とか立ち上がり、伸びた棒を掴んで、長さを元に戻す。
戦う前から腕だけでなく全身にダメージ。自分の情けなさに、挫折したくなる。
「もう、諦めて帰ろうかな?」
「講義の続きだけど、神の力というのは、とても便利な力でね。力を乱用すれば楽な生き方が出来るんだけど、それをやると人間駄目になって、そのうち身を滅ぼす事にもなる」
「この状況下でも、やっぱり講義を続けるんですね! しかも今実際に、自分の力で身を滅ぼしていますっ!」
どういう訳か、挫折しそうでも反射的に言い返しているよ。そんな自分の神経に驚きです。というか、挫折しかかった心が立ち直っている。
ソフィアさんとの軽口は、いつの間にかボクをリラックスさせていた。
「やれやれ、遊びなら余所でやってくれないか?」
こちらがあまりにも馬鹿な事をし続けている内に、あっちは呆れを通り越してそのまま帰ろうとしている。ボクは慌てて呼び止めた。
「後の理由はあれかな。力を使う時には、自分の精神を世界の裏側へと飛ばすんだけど、それをやると精神が肉体に戻れなくなる事があってね。それを予防する意味もある」
「つまりは、廃人になるって事ですか?」
「だから、どうしてまたこっちを無視するんだっ!」
どうしてかと言われても、ホントに理由なんてないんだけど、しいて云えばこれもお約束なのだろう。
それでももうイイ加減、相手をしなければなるまい。これ以上は待ってはくれまい。
問題は、予想以上に使えなかったこの神具と装備だ。今のところ、ただの役立たず。
「この神具、やっぱり、リンさんのチョイスミスじゃないですか?」
「力も技術も無けりゃ、何を選んだって同じよ。まともに相対すれば瞬殺されるでしょ」
「ああ、なるほど―――って、それじゃあ、どうやって勝てっていうんですかっ!」
思わず納得しかけて、ツッコミを入れる。
さすがにもう奇襲は使えない。というか、奇襲する手段そのものがない。
「もう諦めて、力技でごりおしでもしようかな」
「こらこら、思考が危ない方向へ行ってるよ? それに、頑張っておかげでほら……」
夕暮れで赤く染まっていた町は、もう暗く星が見え始めていた。
この季節になると、太陽が沈むのは早い。帰り道は完全に真っ暗だね。
「時間稼ぎも終わったし、もういい加減、そこから出て来なさいよ。」
時間稼ぎ? そういえばあれからもう、十分以上も経っていた。
今まで動かなかった棺桶がガタガタと動き始める。
何だか、死者が蘇るような不気味な雰囲気。……かなり、恐いです。
「やっと出て来たか、ヨミ。待ちくたびれたぞ。弱い者イジメはオレの趣味じゃないからな」
待ちくたびれた? その口調だと、やっぱりワザとこちらの時間稼ぎに付き合ってくれたのか。
出で立ちから予想していたけど、この人って戦う事に快楽を覚えるタイプだ。
「今週も意欲満々だね、マリチカ」
棺桶の蓋を蹴破る音と共に、彼女は出て来たのだ。
思い切り背伸びをしてから、体中の関節をほぐしている。けだるそうな様子で持っている剣―――いいや、反りの無い刀、確か直刀?と呼ばれる物を手に、相手の眼光を睨み返していた。
…………
「それにしても………『弱い者』かあ。はあ~~~~」
そりゃあ、自覚はあったけど、そうハッキリ言われるとちょっとへこみます。
「へこんでいる場合じゃないよ。あなたにも協力して貰うからね♪」
「ヨミさん……判りました」
確かにそうだ。せめてボクの事を弱い者と呼んだあの人に、一矢を報いるぐらいの事はしないと、情けなさすぎるってものだ。
ボクはヨミさんと一緒に、『新たな覚悟』を持って立ち向かったのだ。
その『新たな覚悟』というのが、ただ後ろから応援するだけで終わらない事を切に願いながら。
………………
ビックリしますよね。本編よりも番宣している天文学の方がポイント取っているとは、爆・笑です。




