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東風と太陽~神話?はこうして創られる~  作者: 三神 凜緒
第一章 太陽さんの長い一日
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天日(あまのひ)の神

太「この力自慢の人、凄く面白い人でしたよね」

伝「いきなり何を言い出すのよ。確かに神に属する人は皆、奇人変人だけど。その奇人変人の一人に言われたくないでしょうね」

太「ボクは普通ですよ。ただ、他の人よりも甘い物に目がないだけで。後は至って普通です。普通なんです」

伝「二回も三回も、普通って言わなくてもイイのに。巫女ちゃんはこの次の回の前書きで復活するの?」

太「すると思いますけどね。そろそろ彼女も本編に出ますし」

自分でも、自然と失礼な事を喋ったなと思ったら、いきなり何かが飛んできた。

突然の怒声に、目の前から飛んできた何か。驚きで硬直していた体を、ソフィアさんが引き摺り倒す。次の瞬間には、頭上を何かが通過していった。

何が何だか判らなかったけど、状況を確認する為に振り返って飛んで来た物を見る。


「………テーブルが飛んできた」

ボクの後ろで、土煙りを上げながら地面に突き刺さっている重い机。どう考えても、さっき頭上を通過していった物体だろう。

「どう考えても、人が投げられる大きさじゃないよね………」

「それを可能にするのが、超人と呼ばれる存在よ」

「学者さんらしく、説明口調で解説するのは良いんですけど、さっさと立ち上がりませんか? 何時までも、このままだと………」

このままだと、借り物のローブが汚れてしまう。

訴えると、それもそうかとソフィアさんは押さえつけていた腕を退けてくれた。

しかしそれまでの間、胸やらお尻やら撫でられていたのはちょっと怖かったです。


立ち上がって、ローブに付いた埃を払う。

「今週もきやがったな、悪鬼が。今週こそはお前らを倒すっ!」

悪鬼呼ばわりのボク達。そりゃ確かに、毎週あんな不味い薬を飲ませていれば、悪者扱いされても不思議じゃないか。ボクはまだこれからが初犯だけど。

「――――それにしても、ソフィアさん良く反応できましたね、ボクは全く動けなかったのに」

「それこそ毎週の事だからね。奇襲の一つや二つ、予見出来なくてどうする」


あなた確か、職業は学者さんですよね。身体能力、直観力、どれも普通じゃないです。

それとも単に、最近の学者さんは想像以上に強いだけですか?

奇襲を受けても呑気に話しているボクが癪に障ったのか、机を投げた人が地団太を踏んで怒っている。

「ちょっと待て! お前らオレを―――」

「――――無視して通り過ぎたのは山々だけど、あたしたちは仕事で来てるの」

「――――っ!」

今まで無視してたのが一転、突然鋭い視線を向けるソフィアさん。その鋭い眼光に思わずたじろぐ奇襲犯。毎週負けている性か、精神的には完全に負けているようだ。


「だから面倒臭いんだけど、マリチカ! 必ずあなたを倒します」

「ほっ、ほう~~~」

「――――ここにいる、アマノ君がね」

「やっぱりそうなるんですかっ! 無理ですよ、どう考えてもっ!」

っていうか、どうしていきなり君付けで呼ぶんですか? 鼻歌しながら目線を外してもダメですよ。

ヨミさんはっ? 誰も協力してくれないんですかっ!?



「――――いきなり話は変わりますけど、ここってあの人の家から随分離れていますね。どうして、こんな所で夕日をバックに仁王立ちしているんでしょう?」

おかげで、『もうすぐ目的地に着く』なんて事を考える前に次のステージに進んだ気分。

心の準備をする前に、問答無用でエンカウントするとホントに焦ります。

「待ち伏せしてたんでしょ。それこそ毎週なんだから……」

「えっ………あっ」

ソフィアさんに習って周りを見回してみると、さっきまであった人通りが消えている。周辺の建物も、壊されないよう家の前に頑丈そうなバリケードを築いている。その人たちの表情は、特に怒っている風でも無くただ黙々と平常通りの顔で作業していた。

「………毎週の事だからね」

「人って、どんな非日常的な出来事でも慣れてしまうんですね………」

ある意味、人間の逞しさを垣間見た現場でした。



――――――――

「協力者ならいるでしょう」

「いきなり話が戻りましたね。いやそれに何でまた、ボクの心の声が聞こえるんですか?」

「視線を追えば何を考えているかぐらいは判るわよ。ほれそこに―――」

「絶対に違う思うな~。何か変な電波でも受信しているんですか?」

ボクの疑問をさらりとスルーして、ソフィアさんはすぐそこの地面を指さした。

そこにはもう、道中さんざんお荷物として悩ましてくれた棺桶がありました。

普通ならそれは死人を入れる為のモノ。そこに、完全夜行性の人間を押し込んでいる。


「ヨミさん………」

正直に話しちゃうと、本当に中に人が入っているのか疑問でした。だって、何があっても全く起きようとしなかったんだもん。

死んでいるんじゃないかと思った事もある。

彼女がどれぐらい強いか判らないけど、あの初対面の時の並外れた動きをみるに、かなり強い筈だ。太陽ももうすぐ沈む。


「それなら、勝てるかも知れない」

ヨミさんが起きてくれれば勝機がある。そう思い直して、ボクは腰に差していた神具を取り出す。ボクが力を込めれば自在に伸び縮みする特注品だ。

身体を守る為の装備は―――色々あってお披露目は出来ずに、ローブで動きにくいけど。


「あ~~、ちょっと待って」

せっかく覚悟を決めて戦闘態勢をとったボクの耳に、ソフィアさんの呑気な声が水を差す。

勢いを削がれたボクは何ですかと顔を向けると、ソフィアさんは棺桶の顔を覗く為の小窓を開いてヨミさんと話をしていた。

「どうやら、腰と頭が痛くてまだ戦えないんだと。あと、十分ぐらいは一人で戦いなさい」

………………

「それってあれですかっ。アトリエで思い切り倒しちゃったのと、鈍器に使ったのが原因でっ!?」

「そうみたいね」

「…………」

ボクの初仕事は、こうして波乱(ぐだぐだ?)の展開をみせながら始まったのだ。



所と時が変わり、隣町への畦道を歩いている二人の兄妹がいた。

風はいつの間にか止んでいた。太陽がまだ晴天を支えている時刻。

俺とナルカミは二人で隣町へと向かっていた。

こちらが無精ヒゲで身支度を整えたいなと二の足を踏んでいると、それはそれで素敵だと言って剃る暇もなく外へと向かう。


その途中、昨日の火災現場になる屋敷跡に寄ってみた。

一晩経った屋敷は完全に鎮火されていて、僅かな残骸を残すのみとなった。

余裕がなくて忘れていたが、よく周りに燃え広がらなかったものだ。

首を傾げていると、ナルカミは自分がすぐに鎮火させたと教えてくれた。



しばらく二人っきりで歩いていると、ナルカミは何かを思い出したような顔をし、深々と頭を下げてきた。

「どうした?」

昨夜きぞに、わたくしが始末を付けねばならない事でしたのに、お手を煩わせてしまいました」

「んっ、何の事だ?」

何の覚えもない身なので、頭を掻きながら続きを聞いてみる。

「本来ならば、お逢いしてすぐに申し上げるべきだったのですが……」

「ああ、もしかしてあの事か」


あれはほとんど奇跡だった。力の差だけでは圧倒的にこちらが不利だった。

多分、相性が良かっただけ。その上、精根尽き果ててしばらく動けなかった。

「運が良かっただけだよ。もう一度やれと言われても自信は無い」

彼女が同じ事をやれと言われても、おそらく無理だろう。

実際に見た事は無いが、本人曰く彼女の、向こうの世界の分身は筋肉隆々の漢だった筈だ。

どう考えても、子供の世話が出来るとは思えない。吹っ飛ばされたは正解だ。


「それにしても、お兄様が神へと昇られるとは……」

「俺自身は、そう呼ばれるのを嫌っているのだがな」

だからこそ俺は、こんな中途半端な場所で燻っている。それをどれだけ理解しているのか、彼女は穏やかに微笑んでいる。一言で表現すれば、嬉しそうだ。


「はあ~~~~」

何なんだろう、この心境は? 例えるなら、上京した兄に久しぶりに会ってみたら、肩書きだけは立派な役職に就いた兄を見て、喜んでいる妹を見ている。―――そんな気分だ。

「何で胸を押さえて、溜息を吐いているんですか?」

「いや、ちょっと……最近、心の臓を患っていてな。ああ、心配しなくても大丈夫だ」

オカシイ……最近の自分は、心臓に毛がはえていると自ら認めるぐらい、図太い神経をしていた筈なのに、何故この程度の事で動揺する?

「本当に俺は弱いな~。昔はもっとマイペースだったのに」

「………何やら、深い悩みを抱えている様子。さしでがましいですが、わたくしではその苦悩を解消するには力不足でしょう。――――ですから、話を先に進めます」

「ああ、それで頼む」

色々と理解してそうな顔で、淡々と話を進める妹。

いや確かに、根掘り葉掘り訊かれても困るから、丁度良いと云えば良いんだけど。

大丈夫だ。俺の神経はもっと図太く、厚顔無恥な筈なんだ。自信を持つんだ!

(―――持ったら持ったで、人として終わってしまっている気がする………)



「些か前の話ですが、国と国を行き来出来ない様にしていた壁――空乱そらのみだれが弱まっています。

昔は冬至の日か、手練れの神ならば他国へと渡る事が出来ました。

しかしここ暫らくは、刻を選ばずに<仙人>―――ここでは<超人>と呼ばれる存在なら、辛うじて渡る事が出来る」

俺が頭を抱え、考えが何やら妙な所に着地してしまっている間も、彼女は話を進めている。

このような精神状態でも、話だけは聞こえているので返事だけは出来る。


「それはつまり、俺が経験した事のあるあの大嵐よりも強いけど、通常よりは遥かに弱い状態が常だと?」

それはまた、凄いんだか凄くないんだか判らない規模の嵐になったものだ。国を出る時に体感したあの嵐、文字通り死ぬ思いをした。あれでかなり弱まっていたのだから不思議。

「あの嵐を誰が、何時、どうやって起こしたモノなのか。どの国でも結論は出ていなかったが仮説はあった。それは、太陽の力を持った古来の神が、国と国の――いや、神と神の争いを防ぐ為に作られた城壁だと」


その仮説の理由の一つは、嵐が弱まるのは太陽がのぼる時間が一番短い冬至だという事だ。

「面白い仮説だよな。その城壁で防げるのはあくまで超人や偉人までで、肝心の神は素通りするんだから。だが実際問題、その城壁が作られてから神同士の争いは無くなった」

その理由は、神は結局、個人の為ではなく国の為に戦うという事。いくら他国の神を倒してその地を征服してもあくまで一代まで、それに自国民を移住させる事も出来ない。故に、神が他国に渡る主な理由は、情報(文献や風習)の収集や交換だ。


――――余談ではあるが、あの図書館に引き籠っているジジィも、その為ならば、どんな場所にも足を延ばす。

彼女は次の言葉を紡ぐのに、やや時間を掛け、選びに選んでから口を開いた。

「古来の神の置き土産。それを消す事が出来るのは同種の神である可能性が高い。わたくしは一天下いってんかを旅して、ようやく見つけたのです………彼女を―――当世たうせい天日あまのひの神を」

・時の程 暫らくの間

・ここ暫らく 

一天下いってんか 世界中

天日あまのひの神 太陽の神

・当世(た(と)うせい) 現代

昨夜きぞに さくやに


(た(と)うせい)の最初の読みは(た)と(と)の中間の発音をします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 脈々と流れる大和言葉の九十九折のような文章。やっぱり、あなたは天才ですね。すばらしい。この感性が伸びていきますように。人々に伝わりますように。
2019/11/25 19:05 退会済み
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