ヨミのお仕事、<神>とそのほかについて
太「何をやっているんですか?」
伝「んっ? 過去の自分に念を送ってるの。太陽ちゃんは今、こんな事考えてますよって」
太「何を訳の判らない事言ってるんですか? それよりも、巫女さんの正体がやっと説明出来ましたね」
伝「説明するまでもなく、そのまんま巫女なんだけどね。前々からやりたかった『天文学』について少しだけどやっと説明出来たよ」
太「平行して書いている奴ではさんざん説明してますけど、本編しか見てない人は突然出てきた単語ですね」
伝「一応だけど、前フリはあったんだよ。誰も気づかない様にひっそりと」
太「あったんですか? 人物紹介……ではないんですよね」
伝「答えは、明日の天文学の方で教えます」
…………ボクは人からよく、天真爛漫で、人を疑うのが苦手で、ちょっと子供っぽいと言われる。
アトリエを後にし、目的の患者さんの所まで出発しようとした頃。
「あまり人を疑うのは嫌いなんですが、この棺桶っていうか、このお荷物。
ヨミさんって一体何者なんですか? 役に立ってくれるんですか」
またこれを引き摺って歩くのかと思うと憂鬱にある。
苦労してここまで運んできたけど、今の所、やっぱりただのお荷物だった。
これからの仕事で役に立つからって持って(連れて?)来たけど、イイ加減この人について知っておきたかった。
「何者だと言われてもね。一言でいえば彼女は巫女よ」
「シャーマン?」
シャーマン? シャーマンって何だっけ? 聞いた事はあるんだけど、詳しくは知らない。
「神の声を聞いたり、届けたりする人の事。他にも天文学にも詳しくて、少し前まで暦を作る仕事に携わっていたのよ」
『こよみ』って、少し聞き慣れない言葉だけど、何処かで聞いた覚えがあるな。
「暦って、カレンダーの事ですよね? えっ、えっ、嘘ですよね?」
思いだしてから、何だかイメージと合わないなと戸惑う。
「……この大陸ってさ、東西を高い山脈で隔たられているから、太陽や月、星の観測は中央の二つの国が暦の制作を担当してたの」
「そうだったんですか。意識せずに使っていたな~」
カレンダーなんて、気が付けば年に一度お店に並んでいるのを買っているだけで、どこで制作されのかなど気にした事も無かった。
「総面積の殆どが山脈で、どうしても一次産業の方は芳しくなくてね。
東西の物資の運搬以外では、国を潤わせる事は難しいから、暦を制作して他国に高く売っているらしいわ」
カレンダー製作に、国が大きく絡んでいたんだ。
しかし、高く買った暦を他の国々は自国民に薄利多売して元を取っているんだろうな。
「よく出来たシステムですね。しかし、暦の制作って、そんなに大切なんですか?」
「大切に決まってるでしょう? 暦が無かったら農耕も出来なければ、約束事を取り決める事も出来ないだろ?」
「……そうかも知れませんね。将来的な予定表を立てるのには暦は必須の道具でしょうね」
一体、幾らで売っているんだろう? 気になるけど、教えてくれるかな。
「国の最重要産業の一つだから、ヨミはかなりの高給取りだったんだけど……」
「だけど?」
「もっと面白い物を見つけたって、あたしたちに付いて来ちゃった」
もっと面白い『物』って、何だろう?
もしかしなくても、神の一柱であるコチさんの事だろうか?
「付いて来たって、出会った時から思っていたんですけど、ソフィアさんとヨミさんって姉妹なんですか? よく似ていらっしゃいますが」
実は最初から疑問に思っていたんだけど、話の流れが急で訊きそびれてしまっていた。
「そうだよ。言わなかったっけ? あたしとヨミは、生まれた時から一緒の仲の良い姉妹だよ~」
「仲が良いんですか? いきなり吹っ飛ばされてましたけど?」
「妹って、どうしてこう遠慮が無いんでしょうね。もう少し手加減してくれてもイイのに」
姉を容赦なくド突く妹。それはそれで、微笑ましい光景なのだろうか?
ボクにも兄が一人いるけど、ド突こうだなんて思った事はない。
「ちなみに、理数系の頭をしているので家計を預かって貰ってるから。お小遣いの相談は彼女にしなさいね」
「………了解しました」
…………ボクは人からよく、天真爛漫で、人を疑うのが苦手で、ちょっと子供っぽいと言われる。
他人に言われなくても、そんな事は判っている。だけど、自覚しているからってそれが治るって訳でも、必死に直そうって思う訳でもない。
例えどれだけ騙されても、どれだけ重い足を引き摺る事になっても、最終的にはまあいいかと思ってしまうのだ。
「―――などと、昨日まで思っていましたが。今日から主義主張を変えようと思います」
「何を言い出すの? 突然」
「いえ、改めてこれを引き摺りながら街の中に入るのは嫌だなと思いまして」
出来れば回れ右して帰りたいなと思うんだけど、無理なんだろうな~
「訳の判らない事言ってないで。道中暇だから、また軽くこの世界と神について講義するわよ」
「は~い」
今の自分の心境を一言で表すと、無我の境地に達しているのかも知れない。
「一国に一柱の神。それが今の常識だけど、昔はもっと沢山いたの」
『信じる』というのはつまり、例え騙されても構わないと思える時に使う言葉だと思う。騙された後にごちゃごちゃと文句を言うのは、相手の言動を自分の都合の良いように解釈しているだけだ。
「ほとんどの人が忘れているけど、昔々は一国ではなく、一家に一柱の時代があった」
アトリエでリンさんから依頼の詳細を聞いてから、ボクとソフィアさんは装備と、もの凄く不味い薬を貰って、依頼場所へと向かっていた。
「より正確に云えば、今も沢山の神がいるんだけどね。それだと多すぎて混乱するって昔の人は考えて、天災クラスの力を持っている存在を<神>と呼び、それ以下の力しか持っていない存在を<氏神>。または<超人><超人>と呼び分けるのが今の通例だ」
<偉人>とはその力を使って人助けをしている人の事。人に迷惑を掛けまくっている人の事を<超人>と呼んでいるらしい。
<氏神>とは一族を代表する神を指す言葉。一般的には土着の神を指す言葉として使われている。
余談だが、コチさんは<氏神>よりは強いが、<神>の括りの中では最弱らしい。
ちなみにボクは今、リンさんから借りたローブを着ている。
その理由はまあ……言えないんだけど、とにかく色々と問題があってこうなっている。
幸運な事にこのローブは防寒性が高く、着心地が良くて助かっている。
オシャレ度はゼロだけど………
「あたしたちが相手をするのは、その超人の方。自身の肉体を、力を使って極限まで高める事が出来るらしくて。逆に云うと、それ以外は何も出来ない、しょぼい力なんだけどね」
そりゃあ、天災クラスの神に比べれば何でもしょぼく見えるよ。逆に見れば、それは一般人には脅威以外の何物でもない。
ここでボクは一つ、復習として『心得2 神は自らを神と称してはならない』のページを開いた。この講義の時、ソフィアさんはこう言っていた。
手品以外でも、神の力と誤認するような人たちがいると。多分、それは彼らの事だったのだろう。正直な話、殆どの神は天災クラスの力を発現する事がまず無いらしい。
「その超人さんの性格が喧嘩っ早い上に、力加減を出来ないらしくて、意図せずに町の破壊活動をしていてね。死人が出ていないのが奇跡としか言いようが無い」
それは多分、お約束という名の奇跡じゃないかな?
空を見上げれば、もう日が暮れる時間。これからどんどん寒くなりそうだ。
「それで困った近隣住民の人たちが、依頼をしてきたの」
やっている事は果てしなく迷惑なのに、殺したり追い出したりする程の罪状ではない(正確には、追い出そうにも不可能)。面倒臭い案件。それで、なんでも屋のコチさんの所へ依頼が来たとの事。
「この薬を飲ませれば、一週間は穏やかな人になって力加減も出来るようになる。ただこの薬、もの凄く不味いから毎回激しい抵抗にあうの」
そりゃそうだろう、あれは人が口に入れるものではない。それを毎週だなんて、ボクだったら味覚が崩壊して、精神が壊れてしまうかも。
…………ボクは最初、アトリエでその話を聞いた時、もの凄く抗議した。そんな依頼、ボクに果たせる訳がないのだから。自慢じゃないけど、ボクはケンカが強くない。
手から炎を出せたりするけど、加減がまだ出来ないから、相手をウェルダンにするかも知れない。
――――そう言ったんだけど、それは大丈夫だとソフィアさんは言っていた。
その理由の一つが今も棺桶で眠っているヨミさん。この仕事を彼女は毎週こなしているらしく、ボクはあくまで補佐で良いと。
そしてもう一つの理由は、貰ったばかりの神具。これを使っていれば、相手を黒こげにする事も無い。何しろ棒なんだから、殴るしかない。
「どうしたの? 不機嫌そうな顔をして」
ソフィアさんが喋っている間、横を歩くボクが全く返事をしようとしないのを不審に思ったようだ。顔を合わせようとしないボクの顔を覗きこんできていた。
ボクが立ち止まると、引っ張っていた棺桶も止まる。そして、ソフィアさんも止まった。
「………はあ~~~~」
……どうしてこの人は―――ああ、奇妙な頭痛が頭を襲ってきた。
――――この仕事を最後には引き受けた最大の理由が、ソフィアさんからの一言『この程度の事でビビっていたら、立派な神にはなれないよ』―――
「………どうして、最初からボクにホントの事を話してくれなかったんですかっ!」
さっきから話が進めば進むほど、彼女の隠し事が出てくる。この人って、Sなだけじゃなくて、秘密主義者なのか。ますます付き合うのが困難になってきた。
「サプライズな出来事は大事でしょ?」
「また、いい加減な言い回しを―――」
「あなたさっき、騙されてもごちゃごちゃ言わないって―――」
「どうしてボクの心の声を? ―――っていうか、それは信じている場合の話です。生憎ですが、ボクはソフィアさんを信じた事は今まで一度もありませんっ」
「そっ、そんな………」
ボクの言葉に、どうやら彼女の心にダメージを与えたようだ。
ぐらりとよろめきあとずさる。その仕草は……果てしなく胡散臭い。
「信じていないだなんて、グサッと心に刺さる言葉だわ」
「見え透いた嘘言わないでください。完全に目と口が笑ってるじゃないですかっ」
「あなた、半日で随分と言い返せるようになったわね」
「言い返さないと、どんどんボクの心が荒みそうなんですよ」
っていうか、すでに荒んできている。天真爛漫で素直だったボクは何処へ行ったんだ?
「念の為に一つ聞きますけど、どうやってこの薬を飲ませるんですか?」
「そりゃあもちろん、戦って倒して無理やりに」
「…………」
常に平和的な解決が出来ると思っている程、ボクも子供じゃあない。
だけど…だけど、何か違う気がする。もっと、別の方法があるんじゃないか?
「はあ~~~~」
「溜息を吐くと、老けこむのが早くなるわよ」
「またいい加減な事を………それを言うなら、幸せが逃げるじゃないですか」
―――いや、この場合はそれで正しいかも。何だかこの半日で随分と老けこんだ気がする。
「まあ、ホントの事を言えば、単純に話す順番があってね。最初から神と超人や偉人の話をすると混乱するかなと。それに、厳密には嘘じゃないし。明日には病弱な娘になるから」
「それがどうにも繋がらないですよね。その薬を飲めば、穏やかな性格になって力加減が出来るだけって、さっき言っていましたよね」
薬飲んだだけで病弱な娘になるなんて、ただの毒薬じゃないか?
――――またまた、疑わしげな視線を向けると、彼女は軽い笑みを浮かべ………
「まあ、それも真実なんだけどね♪」
「毒薬のくだりは肯定するんですかっ?」
「物事の見方なんて一つだけじゃないって事よ」
なんて、有難いようでいて、全く有難くない真理を喋っていた。
ボクとしてはもう考えるのが疲れたから、右から左に流してしまいたいけど、生来の性格で真面目に考えてしまう。
「もしかしてあれですか、その超人、肉体は屈強だけど、頭はとても残念な出来で、それを『頭が病弱な娘』と表現してみたとか?」
真顔で言ってみると、ソフィアさんはまるで新たな見解を発見したような、得心した顔で頷いていた。
「まあ、その見方も正解と言え――――」
「――――る訳あるかっ!」
「なっ――――!?」




