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東風と太陽~神話?はこうして創られる~  作者: 三神 凜緒
第一章 太陽さんの長い一日
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夢は現(うつつ)へと続いてゆく

太「着物と一言で表しても、種類は様々ですね」

伝「向こうの国では、やんごとなき身分の女子は顔を隠して外出するのが当たり前らしいから、その結果がこの出で立ちね」

太「あと、さりげなくボクの好敵手が、生まれた瞬間に立ち会いました」

伝「彼、色々と理屈を捏ねているけど、つまりは面倒臭かったんでしょう」

太「―――次は確か、どんなシーンでしたっけ?」

伝「巫女ちゃんについてだったと思うけど?」

太「そうでした。色々と気になってボクが尋ねたんでした」

「ナルカミか―――」

「はい、お久しゅうございます」

本当なら風呂に入ってサッパリしたいんだけど、そんな暇はなかった。

「状況が全く理解できん」

「ふふっ、何を仰っているのですか? お兄様。

早く顔を洗って居間へお越し下さい」

「…………」

こいつが一体何者かなんて、尋ねなくても理解出来る。


七年ぶりだったのに、一目見た瞬間に理解する。心を奪われる笑顔。

慎ましげな佇まい。優雅な動きは、どうしても無駄な動きが多い筈なのに、踊るようなしぐさが、そうは見させない。

そして、久方ぶりに見る着物―――あれは、小袖と被衣かづきか。

懐かしいと思いながら、随分と歳をとったものだと自嘲する。

自分の姿を見やる。―――夢の中で着ていた狩装束はもうないんだ。



壁に掛けられた鏡を覗くと、未だ煤だらけの顔で無精ヒゲを生やした俺がいた。

「ひでぇ顔だ……情けないったらありゃしない」

彼女は優しく微笑んだ後、草履の擦れる足跡を残し居間へと向かって行った。

俺は睡眠時間が足りないせいか、フラフラした足取りで洗面所へ。

とにかく、少しでも思考をスッキリさせようと、盛大に水を顔にかける。


居間では割烹着を着た妹が、ストーブの火でスープを温めていた。

和食でも作るかと思ったが、さすがに材料がなかったらしい。

「綺麗なお顔になりましたね。煤と一緒になまった思考も流れ落ちましたか?」

「お前、どうやって此処に?」

家の中から他の人の気配が無い。あいつらは今頃、隣町にいる筈だからな。

薪の火は落とした筈だが、彼女がくべ直したのだろう。部屋はほのかに暖かい。


「ヨミさんと仰りましたか。彼女に呼ばれて来ました。

中々に、いでた方のようですね。昨夜、一見いちげんしたわたくしの心の内に呼びかけて来ましたから」

「『きざはしの力』か。普段は面倒くさがって使わないくせに」

彼女の巫女シャーマンとしての力。波長の合った神々と遠くにいても交信する事が出来る。

俺以外とも交信できるとは、稀有な事をする。


「それで、俺に一体何の用なんだ?」

「それは勿論、久しぶりに逢った妹背いもせの縁を温め直そうと思いまして」

「妹背の縁か。確かに俺もお前とじっくり話したいと思っていた」

「―――『腹を括って』ですか?」

「ぐはっ―――っ!」

俺の心に、会心の一撃が入りました。

――――色々とバラしやがったな、あいつ。


「お前は、何も言わないのか?」

「はい、特にその辺りでは、大きな願いは抱きませんでしたから」

「…………そうか」

「わたくしはただ、力なく生きるその姿を見るのが忍びなかっただけですから。

ヨミさんからは、とても生き生きと過ごしている伺っています」

「――――…………そうか」

「さっ、早く朝餉あさげを食べてください」

「三時前でも朝餉なんだな。普通は昼餉ひるげと呼ばないか?」

―――とにかく、食べる事にしよう。


――――

過去を思い出したのは、昨日あの黒い影を見たからだろう。それは、何の不思議も無い。

問題は、現実ではありえなかった彼女のあの毒舌っぷりの事だ。

「どう考えても、ソフィアの影響だよな……」

尚更に意識した事は無いけど、どうやら俺の頭の中は骨の髄までソフィアで埋め尽くされているらしい。


今、目の前で微笑んでいる妹が、ソフィアとダブって見えるなど、頭の病気としか思えん。

「―――さて、飯も食べ終わったし、もう一つの要件を聞こうか?」

「そうですね。お兄様の女人との交わりについて。あまたの方と契りを結びましたか?」

「違うだろうがっ。分かってて言ってるだろ。アマノの―――新しい太陽神についてだろ?」

「うっふっふっふ」

―――何だろう、錯覚ではなく、本気でソフィアとダブって見えるぞ?

「御免なさい。尚更に肩を張っているお姿があまりにも可笑しくて。

もっと、力を抜いてください」

「………分かった。これで良いか」


力を抜けか。確かに妹と話すのにこの緊張感は不自然だな。

「お前は、昨夜アマノと争ったな? 太陽神は確かに強大な力を持つ。それを、新神の内に倒す為に来たんじゃないのか?」

それは、俺が今日一日ずっと懸念していた事柄だ。

祖国の神々が一体何を考えているのか、ひたすらに不安だったのだ。

「確かに、行き違いにより一度は争いましたが、お兄様が心を配る事はございません。

わたくしは戦う為に来たのではありませんから」

「そうか……」

「わたくしがこの国に来たのは、百年ぶりに生まれた太陽神の本質を見極める為。

争った所で、私如きが勝てる相手でもありませんし」

その言葉に、本当の意味で肩の力が抜けてくれた。


「少し下らない事で言い争いをしたら、お互い我を忘れてしまいまして……」

「『少し』下らない事が原因で、随分と、『盛大』な争いをしたな?」

「申し開きもありません。己の不徳を、恥じ入るばかりです」

そのあげく、一撃で外に吹き飛ばされる始末。制御出来ていないとはいえ、末恐ろしい神様だ。


「その末恐ろしい神様を、何で半端な神の俺が世話する事になったんだ?」

「半端モノと、自らそう名乗る方だからじゃありませんか?

あの者はあまり己を信じておられないようでしたから。手練れの神の元では、気後れすると思ったのでは?」

「あいつは。アマノの奴は家庭の事情だと言っていたが」

「事の心(事情)も一つではないと云う事でしょう」

そういうモノなのだろうか? 確かに、一つだけの理由で人が動く事はあまりないか。

ちなみに、何で言い争ったのかは最後まで教えてくれなかった。



「お前に、ナルカミに折り入って頼みがある」

食事も終わり、二人で外出着に着替え始まる。どうやらナルカミは、他にも短めの袴や、『虫の垂衣たれぎぬ』も持って来ていたようだ。

「お兄様からのお願いですか。生まれて初めての事ですね。

分かりました。承りました」

既に垂衣で顔が隠されてしまい、表情は見えない。

しかし、そのしなやかな身のこなしを見るに、普段通りの表情をしているのだろう。


「いやいや、内容を聞いてから了承しろ。

………ちょっとばかり、アマノの奴と何度か競い合って欲しいんだ」

「『競い合え』―――とは、何かでしのぎを削れと?」

「遺恨にならないよう、内容も理由も下らない事で良いんだ。

お前は七年前には既に手練れの神だったからな。力の使い方を教えるのなら、お前の方が適任だと思うんだが………」


一度ひとたびでも争った間柄では、互いに気後れしますしね。

つまりは、戦いながら力の使い方を覚えさせよと」

「もしくは、絶対に負けたくない相手がいた方がいるから、より強くなりたいという欲求が生まれように」

昨晩、アマノの暴走を鎮めた時に確信した。これは、俺一人でどうにかなるモノじゃない。

彼女の育成には、一人でも多くの巻き添え――ではなく、協力者が必要だ。

「分かりました。大丈夫。わたくしは今までただの一度も、お兄様との約束を揺るがせにした事はありません。大船に乗ったつもりでいてください」

解説


被衣かづき 身体と顔を覆い隠す他、防寒具としても利用する。

・小袖(小袖) 誕生した当初は下着として使われていたが、武士の世になってから服装が簡略され、普段着としても使用されるようになった。江戸時代の前に廃れたが、小袖に袴を履く事もある。

・虫の垂衣たれぎぬ やんごとなき身分の女性が、外出する際に顔を隠す際に使用。頭にかぶる笠に薄衣を垂らしたモノ。被衣かづきよりも手軽で楚々と歩くのに向いている。


妹背いもせ 兄妹

一見いちげん初対面

いでた 優秀

朝餉あさげ 朝食

昼餉ひるげ 昼食

御膳ごぜん 食事

仕度したく 準備

女人にょにん 女性

あまたの 何度

・申し開きもありません 弁明の余地が無い

・手練れ 熟練者

・事の心 事情

・揺るがせにしない 絶対に破らない

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― 新着の感想 ―
[良い点] 朝餉あさげ 朝食・昼餉ひるげ 昼食、夕餉がなーいw。優しいお兄様ですね。
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