表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東風と太陽~神話?はこうして創られる~  作者: 三神 凜緒
第一章 太陽さんの長い一日
24/72

現(うつつ)と夢の狭間

太「このビデオって凄い機能を搭載してますね。人の夢の中を覗いてますよ?」

伝「そんな今更なボケをかまさないの。それにしてもアイツは、夢の中だからってやりたい放題ね」

太「やりたい放題と云うか、誰だって夢の内容が芳しくなかったら、やり直すぐらいは……」

伝「そうじゃなくてさ。彼にとってのあたしのイメージって何なの?」

太「――――そういえば、彼女が喋っている言葉って『大和言葉』と云うんでしたっけ?」

伝「露骨に話を―――まあ、良いわ。あたしも詳しい事は知らないけど、要は音読みをせず、訓読みだけで構成する日本古来の言葉みたいね」

太「解説は後書きの方に書いてますけど、何故こんな言葉づかいを?」

伝「とても高い家柄を思わせる喋り方を調べたら、こうなったって」

俺は眠りながらの夢を見ていた。遠い……遠い昔の夢だ。

吹きすさぶ嵐、暗雲が立ち込める空。雷鳴が轟く中、海岸に一艘の小舟を沖に浮かべようとしていた。

船出の天候のコンディションは最悪。それにも関わらず、俺は小さな船に乗船する。

「そのような小舟さをぶねで往れるのですか?」

「――――っ!?」

聞き慣れた声。それまでの人生で一番一緒に過ごした者の声。そして今一番、聞きたいと思わなかった声。

どうして、こんな所にいるんだ? 確か、昔の俺はそう思った。

俺がここにいる事は、誰も知らない筈だったんだ。

誰にも悟らせていないと思っていた。

別れを言うのが面倒臭かったから、何も言わずに蒸発してしまおうとしていた。


今日こんにちは冬至。一年ひととせを通して唯一、空乱そらのみだれが弱まる日。外辺そとべ一天いってんへと向かうには、今日こんにちを置いて又とはございません」

「…………」

そういえば、彼女は昔から洞察力が鋭かった。小さい頃、俺が世話を焼かなければいけない時も、苦労らしい苦労を掛けられた事が無かった。

一言でいえば、良く出来た子だった。だからこそ、彼女が神としての資質が人並み外れていても、何の不思議も無かった。ただ一言、やっぱりなと。

その年、ようやく二桁の年齢になった少女。


特別な才が何一つ無かった俺とは違い、彼女は――妹は凄い人間――いや、神だ。

「あなたが日並けならびに起伏おきふしいとい、何方いづかたかに往きたいと、ずっと乞い願っていたのは存じていました」

どうして、こいつがそんな事を知っていたのか。

ずっとひた隠しにしてた筈なのに、どうして………


「……男が自分で思っている程、女に隠し事が出来てる訳無いでしょ」

「ちょっと、待てっ! お前、今何て言ったっ!?」

「いいえ、何でもありませんわ。おほほほほっ――――」

思わず振り返ると、彼女はお茶目な仕草で笑っていた。

可笑しい―――俺の記憶では、この場面はもっとしんみりしていた筈だ。

――――確か……そう、こう続いていた筈。

………………

…………


テイク 2


「ですから、あなたが何方いづかたへと立ち行かれるというのなら、それを引き留めるつもりはございません」

彼女は今泣いているのだろうか。それとも、怒っているのか。

それを確認する度胸も無く、俺はただ振り返りもせずに、風に混じる、彼女の淀みの無い澄んだ声を聞いていた。

「俺は………」

何を言い出すべきなのか。何かを言い出すべきだと感じていた。

そしてそれは、飾りたての無い自身の本心を言うべきだろう。

だがそれは、彼女の心を傷つけるのではないか―――いいや、違うな。


「俺は俺のやりたい事を探しに世界を見に行く。

お前はもう、俺がいなくても大丈夫だろう」

やっぱり俺は、ただ面倒臭かっただけだ。

彼女に別れの言葉を言うのが面倒だった。

どんなに幸せだと感じていても、それがただの平凡な日常が、俺をどんどん無気力にしていった。

だから俺は、ここにはもういられない。


彼女が神として覚醒してくれたのは、俺にとっては良い契機だった。

「そうですね」

正直な話、泣き付かれでもしたら振り払う自信が無かった。

だから、彼女がそう言ってくれた時、心の中でホッと胸を撫で下ろした。

「確かにわたくしは、一人でも大丈夫です。

傍寂かたはらさびしくは……ありません」

表面上だけで良い、彼女は笑ってくれているのだろうか。

その時も俺は、それを確認する勇気も無く振り返る事が出来なかった。

………………


「…………っていうか、馬鹿なお兄様がいなくなって、わたくしは清々しております」

「だから何なんだよ、お前はっ! この場面はもっと切なくてしんみりしてたんだよっ!」

「あはははははっ、ごめんなさい……お兄様」

「――――本当におかしい………」

一体どうしたんだ、俺の頭は? シリアスな場面の筈が、どうしてもボケてしまう。もしかして、ソフィアの奴と一緒に暮らしている間に、女性に対する認識が変わった?

見た目も年齢も全然違うのに、あいつの姿がソフィアとダブっている。

「続きは……続きは確か………思い出せん」

ボケまくっている間に、続きが思い出せなくなった。何しろ七年も前の話だし。

「何を、頭を抱え込んでいるんですか? お兄様」

「いや………何でも無い」

だけど、そんなツギハギだらけの記憶の中でも、彼女の笑顔だけは覚えていたようだ。

彼女はとても綺麗に―――綺麗に笑っていた。

意識が急速に目覚める瞬間、それだけは覚えていたと判った時、何故かホッとしていた。



……

…………

眠りから覚めて、最初に考えたのは『何だっけ?』だった。

今は何時なのか、どこで寝たのか、どうしてあんな夢を見たのか、思い出すのに時間が掛かった。

「はあ……何とも、微妙な悪夢だな」

全部思い出してから、最初に口から出たのは溜息だった。

昔ならいざ知らず、どうやら今の俺にはシリアスな展開を考えるのは無理らしい。


あれからもう七年……色々ありすぎた。小舟を出して普通に難破したあげく、この大陸に流れ着いた。そこで何をどう間違えたのか、俺まで神になってしまった。

時計を見ると、まだ昼過ぎのようだ。俺が寝ていたのは、普通に自分の部屋。

「……顔洗って、飯食おう」

「御膳なら、仕度しております」

「おお、そうなのか。ありがとう、ソ―――――どわっあぁ!」

解説

小舟さをぶね

空乱そらのみだれ 嵐

一年ひととせ

今日こんにち

外辺そとべ 外

一天いってん 世界

またと ほかに

朝夕あさゆう 毎日 努力する

日並けならぶ 毎日

起伏おきふし 日常生活

いとい 嫌う

何方いづかたかに 何処かに

・立ち行く(たちゆく) 旅立つ

・傍寂(かたは(わ)らさびしく) 一人寝は寂しい


冬至に嵐が収まるのは、この世界特有の現象です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 別れを言うのが面倒臭かったから、何も言わずに蒸発してしまおうとしていた。この記述が、恋人?と思い期待してしまいましたw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ