錬金術師の苦悩とイタズラ
太「それにしても、何だってこの人は同性愛に目覚めちゃったんですか?」
伝「同性愛っていうのは、割と知識層の高い人が陥りやすい性癖でね。その昔、増長していたあの子を一喝したら、懐かれちゃったのよ」
太「リン――じゃなくて、錬金術師さんはM何でしょうか? S何でしょうが?」
伝「さあね―――あっ、ほらほら。あなたが盛大に吹いているわ♪」
太「多分、両方イケる口なんだろうな……」
――――それからまた、やや時間が過ぎる。
「最初にお訊きしたかったんですけど、どうして錬金術師ではなくて、薬剤師さんって名乗っているんですか?」
一時間ぐらいして、ようやく具体的な質問が出来るぐらいに回復したアマノ。
ようやく来たその質問に、ワタシはずっと用意していた説明を始めた。
「それがね。昔、錬金術師リンリンのアトリエってフレコミでお店開いたんだけど、閑古鳥がずっと鳴いててね。
どうやら、周りの人には何の店か判らなかったみたいで……」
「いや、多分それは不気味な家の外観や、危険な罠を仕掛けたりしたからだと……」
「色々考えた結果、薬剤師さんっていう判りやすい名前にすれば、お客さんも来るんじゃないと思ったのよ♪」
「聞いちゃいないよ、この人は……」
確かに一般大衆からすれば、錬金術師よりも薬剤師さんの方が親しみやすくて判りやすいだろう。
自分では結構判りやすい、説得力のある言葉だと思ったのに、何故かアマノちゃんからは疲れたような、憐みのこもった眼差しで溜息まで吐かれてしまった。
「それで、お客さんは来たんですか?」
「…………来なかったのよ。どう~~ゆ~~わけか、来なかったのよっ!」
「やっぱり………」
「やっぱりって、どういう意味よ~~?」
どうして『やっぱり』なのか。問い詰めてみたけど要領のある言葉は聞けなかった。
「結局、お店はコチ君とソフィアの二人が大々的に宣伝してくれたおかげで軌道に乗って、今では固定客も沢山いて繁盛しているから、今となってはどっちを名乗っても構わないんだけど、今さらまた錬金術師と名乗るのも格好悪いかなと思ってね……」
「はあ………」
――――錬金術師について、神具の使い方について、お店が繁盛した経緯について、
時間が無いので矢継ぎ早に説明を終え、今は一息ついて三人で湯呑みを片手にテーブルを囲んでいる。
「そんなこんなで、今のワタシは薬剤師さんを本業に、錬金術師を副業にしてるの。依頼件数を鑑みると、前者がやっぱり多いんだけど、コチ君や一部のお客さんには後者の依頼が多くてね」
ソフィアはもう慣れているけど、アマノちゃんは湯呑みが珍しいみたいで、デザインを眺めたり、中に入っている緑色の液体の匂いを嗅いで顔をしかめたりしてる。
始めて見る飲み物に躊躇しているのか、中々飲んでくれない。
「それでこの装備なんですけど、おいくらなんですか? 正直な話、ボクお金持っていなくて……」
「ああ、それはタダでいいよ。神になった記念に」
「神になった記念……ですか」
「神になったんだから、これからバリバリ働かなきゃいけないでしょう。
働き次第では、この程度の贈り物で躊躇してたら精神が持たないわよ」
「随分と立派な物ですけど、神様ってそんな高給取りなんですか?」
「人気のある神様は、豪邸を建てて贅沢三昧してもあまりあるお金が貰えるらしいわよ。
もっとも、そんな奴に限って変な趣味で散財するんだけどね♪
あっはっはっはっは――――!」
「そうですか………」
軽く笑いかけたけど、アマノからの反応は鈍いモノだった。
まだあの事が尾を引いているかなと思ったけど違う。
『神になった記念』という単語に反応している。
神になって何か、イヤな事でもあったのか?
「もしかして、あなたは今の自分が嫌い?」
「嫌い……というよりも、戸惑いと恐怖が大きいですね。
まだ、自分の力をちゃんと制御出来ていませんし、その方法も、この力を使って何が出来るかも判りません」
「そっか」
確かに神になってしまうと、今までの日常から強制的に離され、非日常の世界へと誘われる。
それを辛いと感じるかどうかは本人次第だけど、ワタシの出会った神たちは皆マイペースで、そんな繊細な奴は存在しなかったけど?
ただ、それだけの状況変化で、周りとの摩擦が皆無な人間はまずいないだろう。
神として覚醒するのに本人の意思が反映されない分、哀れに思えてしまった。
「もしかして………」
「んっ? どうしたの、リン」
もしかしてだけど、ソフィアが彼女をイジり倒しているのは、趣味である以外に、彼女の気を紛らわせる意味もあったのかな?
「……ふう。まあ、それはどっちでもいいか」
ワタシは溜息を一つ吐いてから、真剣な表情で彼女に言った。
「あなたに一つ言っておくけど、神っていうのはそんな大した存在じゃないわ。
ただ、普通の人とは違う力を持っているだけ。例えではなく本当の世界の裏側を覗けるのが得意なだけの存在。
それ以外は普通の人間よ。力がある分、決まり事や規制を受けるけど、そんなモノは多かれ少なかれ誰でも受けるモノ。神だけが特別な訳じゃない」
只人であるワタシが、こんな言葉を連ねたところでどれほどの意味があるのか。
「ワタシたち錬金術師にとって、神というのはそんな特別な存在じゃない。所詮は世界を構成する要素の一つに過ぎない。
それを常に念頭に置きなさい。そうすれば、神の役割に押し潰される事なく、生きてゆく事が出来る」
それが出来なければ、自滅の道を歩むしかなくなる。
そう……この前お隠れになった、あの老人のように――――
「だからこそ、精々これから頑張って働きなさい」
それが普通に出来ている間は、幸せであると思う。その昔、出会った頃のコチは神の役割を毛嫌いし、自暴自棄になっていた。
自暴自棄になった末に――――まったりスローライフを満喫している。
「彼、最後には完全にヤケクソになっていたからね~~」
「??」
ワタシが真剣に話しているのが伝わったのか、彼女は少しずつ表情が軟らかくなり、リラックスしだした。
「有難うございます」
そして、ほんの少しだけど笑ってくれた。彼女の笑顔は始めてみるけど、年相応の可愛らしい笑みだった。
彼女はそのまま、眺めるだけだった湯呑みを持ち上げ、そのまま口へと運び――――
「ぶはっ………っ!?」
――――思い切り吐き出してくれた。それを予測していたワタシとソフィアは、お茶受けのお煎餅や自分の湯呑みをちゃんと退避させてました。
「げほっ……げほっ……げほっ………」
「……やっぱり不味いか」
「当たり前でしょうが。誰に試したって同じリアクションが帰ってくるわよ」
「彼女と同じように味覚が変わっているなら、美味しいと感じるかなと思って」
ソフィアが布巾を持ってテーブルを拭いている間、アマノはずっと咳き込んでいた。
それもやがて収まると、何やら恨みがましい視線を向けてくる。
「そんな視線を向けられると、ゾクゾクしちゃうな~~」
「匂いがおかしいと思ってましたけど、何なんですか、この飲み物は?」
「ちょっと特別な薬でね。商品名<緑茶モドキ>(命名者 コチ)どんな興奮状態でもこれを一杯飲めばたちどころに平常心に戻る。ネーミングの元は、原材料は全く違うんだけど、見た目が緑茶にそっくりなのと、まるで緑茶の効能を濃縮、強力化したようなところからでね」
ワタシが懇切丁寧に説明している間も、彼女はまだ咳き込んでいた。
「ああ……口の中にねっとりと、苦みとエグミと酸味が広がって、粘着性が強くて中々取れないよ~~~」
「そんなにキツかった? わたしはもう慣れちゃてるからそこまでではないけど」
出来上がった時、ワタシも一口飲んだけど、ここまでのリアクションをしてくれる人は久しぶりだ。ソフィアじゃないけど、確かにイジリがいのある子だわ。
「もっ、もう少し味は何とかならないんですか?」
「いやそれが……努力に努力を重ねているんだけど、そのかいもなく………」
ワザとらしい位に沈痛な面持ちで額に手を当てていると、ソフィアから疑わしげな眼差しを向けられる。ちなみに彼女も昔、同じように騙しうちで飲まされて吐いている。
よっぽど不味かったのか、その後もアマノの味に対する文句は続いていく。どうも、彼女は食べ物の味や素材に対して口うるさい性格らしい。
「一杯全部飲ませれば、この子の怒りも収まるかな?」
「やってみたらどうだ? 何なら、取り押さえるのにあたしも協力するぞ」
「………すみません。言い過ぎました。もう言いません」
どうもこの<緑茶モドキ>は、飲ませなくてもある程度の効果があるようだ。
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次は、今日の十時ぐらいに投稿します。
休みなので、少し快調。




