アトリエの調合室
太「別に戦闘をしている訳じゃないのに、服がボロボロになるって、見ている人は楽しいんでしょうか?」
伝「楽しい人と、そうでない人がいると思う。どちらにしても、この後からはその心配もなくなるんだし、別に良いじゃない♪」
太「少し後の話になりますが、前もって言っておきます。
――――ボクは別に動物グッズを着る趣味はありませんからねっ!」
伝「何を訳の判らない事を言っているんだい? この段階で意味を理解出来るのは一話目のとあるセリフを覚えている人だけじゃないか?」
太「前フリがあれば良いって訳じゃないですよ~~~~~!」
色々トラブルをおこして辿り着いた薬剤師さんのアトリエ。
もうすでに判っているんだけど確認したい事が一つ。
「この人って、薬剤師さんなんですよね? でもさっき、錬金術師って呼んでましたよね」
「彼女にも色々あるのよ。その辺は、あとで本人に尋ねなさい」
ボクはよく知らないけど、錬金術師って云えばとにかく謎、謎、謎の存在。
未知の金属を創造したり、怪しげな薬を作ったり、新たな生命を生み出したり。
とにかく、不可能を可能にする存在だという印象がある。
「………う~ん、やっぱり判らないな」
だからこそ、この人が錬金術師だって聞いた時、ぜひ色々と話してみたいと思ったんだけど、こんな変人だとは思いませんでした。
アトリエの外観を見た時は、危ない人かなって思いましたけど、あながち間違いでもないかも。
リンさんっていう人のアトリエは、外観は不気味でも中身は普通―――なんて事はもちろん無くて、書斎は奇妙な置物や実験器具。分厚くて凶器になりそうな本が一杯あって凄かった。
その中でも特に目が引くのが、部屋を縦横無尽に動き回る箒とチリトリだろうか?
「普通の存在じゃないっていうのは、間違いないよね」
ソフィアさんの部屋にも沢山本があったけど、そんなの比較にならないぐらい多い。
ただソフィアさんの書斎とは違って、この調合室はとてもスッキリしている。
それはもう不自然なぐらいに小奇麗だ。部屋の中央に置いてある大鍋だけがポツンと存在感を醸し出しているけど。
変な匂いがしなければ一番居心地が良い。
その調合室の中で、とりあえずボクは貸して貰った実験用の作業用ローブを羽織っている。
「実験用っていう割には、着心地の良い素材だね。これは高級品と見た!」
ただの実験用のローブに、こんなモノを使えるなんて薬剤師ってそんなに儲かる仕事なのかな? 月給幾らぐらいなのか、是非に訊いてみよう。
―――そんな風に、ボクが貸して貰ったローブに感心していると、隣にいるソフィアさんが何かを探すように、調合室の中で視線を左右に巡らしている。
「物置が怪しいわね。溜まったゴミとか調合器具とかまとめて集めて仕舞ってるんじゃないの?」
「――――さあ、コチから頼まれたものだけど、持ってくるから待っててね~~~」
さらりと真相を突き止められる、薬剤師さんこと、錬金術師こと、意外に俊敏なリンさん。
腰まである長い金色の髪を揺らしながら、奥の部屋へと逃亡する。
「相変わらずの見栄っ張りね。………今さらだろうに」
腰に手を当てながら、嘆息するソフィアさん。二人の関係がどんなものか判らないけど、間違いなく精神的な優位性はソフィアさんに軍配が上がっている。
「お二人は、付き合いが長いんですか?」
「まあね。腐れ縁の中の腐れ縁。縁を切ろうにも切れない。そんな間柄」
「へえ~~~」
ソフィアさんの口に浮かぶ笑み。それは自嘲的にも疲れているようにも見えた。
その言葉を歪曲して解釈すると、粘着質な性質を持った友人を持って、とても苦労していると聞こえましたです。はい………
「たっ、多分、そんな事は無いと思いますけどね。あっはっはっは……」
「…………?」
ボクが突然カラ笑いしだしたので、思わず距離を開けるソフィアさん。
「匂いにやられて頭でもおかしくした?」
「いえ、大丈夫です、大丈夫です」
彼女は近くにあった丸椅子に座たので、ボクも倣って椅子に座ろうとしたら――ないっ!
「あの子ったら、焦ってテーブルや椅子まで片付けたのね」
「せっかちさんなんですね。……彼女の発明品に何か欠陥がなければ良いですけど」
仕方なく壁に背中を預けようとして全ての壁に戸棚があって無理だった。
すると、怪しい笑みを浮かべるソフィアさんにこっちにおいでと手招きしてくる。
忘れ掛けた戦慄を思い出し始めた丁度その時、リンさんが戻って来てくれました。
「どしたの、二人とも?」
「いえ、何でもないです」
「もうちょっと、だったのに………」
首を傾げているリンさんから、二つの鈴を首にぶら下げた可愛くウィンクする白蛇が特徴的な、変なロゴの書かれている紙袋を手渡されました。
「何ですか、このロゴは?」
「これは、もちろんワタシのアトリエのロゴです。その紙袋、大事にしてくださいよ。
これを使って、ガンガンお店の宣伝をしてもらうんだから」
「………わかりました」
紙袋で宣伝? 不可能ではないだろうけど、これは人を選ぶロゴだぞ。
―――頭の中で、この紙袋をぶら下げて街を歩いてみる。
「………とりあえず、目立つのは間違いないですよね」
「でしょでしょ、たっぷり宣伝して来てね♪」
この中に何が入っているのか尋ねてみると、何でもこれはボクの為にコチさんが注文した服と装備らしく、コチさん自身の装備もこの人が制作したとか。
「向こうに脱衣室があるから、そこで着替えなさい」
「あっ、はい………」
手渡された紙袋は容積の割に重くズッシリしていた。そのくせ、紙袋は破ける様子は無い。
………この紙も、無駄に高い奴を使ってる。
「だけど、もしかして………」
もしかしてコチさんたちは、これの為にボクをこのアトリエに向かわせたのか。
そうだとしたら、どうしてその事をボクに教えてくれなかったのかな?




