やっと辿り着きました、アトリエへ。
太「ああ、ついにここまで来ちゃった………」
伝「あれっ? 太陽ちゃんどうしたの、そんな疲れた目をして」
太「ボク、このアトリエの中と外で、トラウマものの体験をしたんですよっ」
伝「あ~そういえば、そうだったね」
太「何、他人顔をしてるんですかっ」
伝「他人だったからね。教えてあげようかなと思ったんだけど、黙っている方が面白かなと思って」
太「ええ、ええ、分かってますよ~だ。あなたはそういう人です~~~」
伝「ほれ、あそこにも他人顔で患者に不味い薬を飲ませようとしている薬剤師がいる」
太「話を逸らさないで下さいっ!」
隣町に着くと、ソフィアさんの講義は一旦中断される。
神である事が秘密なのを考えると、人前で話すような内容ではないからとの事。
棺桶を引っ張る為のロープを再び持たされ、街並みを眺めながら歩く。
この町を訪れるのは二度目。神の力に目覚めてから、コチさんを訪ねに行った時。
つまりは、ついこの前の事。その時には、そんな有名な薬剤師さんの噂なんて聞かなかった。
目的の場所、薬剤師さんのお家は町はずれの高い塀に囲まれて、ひっそりと佇んでいた。外観だけをみると、まるでお化け屋敷のような、不気味な雰囲気を醸し出している。
「どうしてこんな家に住んでいるんですか?」
ハッキリ言って、あまり魅力的な家に見えない。こんな家に住むなんて趣味の悪い変人だよ―――なんて視線を向けてみると、ソフィアさんは肩をすくめながら……
「本人曰く、実験に失敗した時周りに迷惑をかけないようにとか、研究データを他人に盗まれないように、不審人物がいたらすぐ発見できる見晴らしの良い場所にアトリエを構えたかったとか、ただ単に人がいる場所が嫌いだとか、色々と建前を言ってたけど―――」
色々と建前が並ぶ中、ソフィアさんは高い塀に設けられた門の所で足を止める。
吊られてボクも足を止めた。金属製の扉で鍵も掛かっていない。簡単に開けられる。
いきなりこっちを振り向くソフィアさん。その表情は真剣だった。
「―――色々建前を並べてたけど、家の外装、罠作りも含めて―――本人の趣味だ。」
「うあ~~、はた迷惑な趣味……」
「防犯用に家の周りに罠や警戒線なんかが張り巡らされているから、絶対に道を外れて歩かない事。外れた場合、命の保証は出来ない」
、石畳の細くてグネグネとうねった道。デコボコしていて、歩きにくい事この上ない。
その人って性格がねじ曲がっているんじゃないかな。
これじゃあ、棺桶を引っ張るは難しい。どうしよう………
その薬剤師さんの腕がどれだけ良いか知らないけど、これじゃあお客さんなんて来ないんじゃないかな?
少なくとも、一見さんには絶対にムリ。
さっきまでは軽そうに見えた扉。それが、今はとても重そうに感じる。
「その人、危ない人なんですか?」
「それはもう、本人に会って確かめるんだね。大丈夫、取って食べられりはしなわよ」
「…………」
こちらが押し黙っていると、それで話は終わりと門を潜り塀の中へと。後に続こうして棺桶をどうしようか訊いてみると、
「棺桶に関しては、縦にして車輪を付け直せばいい」
「無駄なギミックが搭載されていますね。誰の趣味ですか?」
こんな事しないで、普通に起して歩いて貰えば良いんじゃないかと思ったんだけど、其れは絶対ダメだとソフィアさんに却下された。
それはまるで、おこしてはならない災い、禁忌を恐れているような、鬼気迫る口調だった。
一体どんな秘密が隠されているのか。
気になったんだけど、試す度胸は無かった。大人しく、言うとおりにしよう。
「なんて思いつつ、棺桶が倒さないよう抱きながらあるのは難しいです……」
「協力してあげてるんだから、弱音吐かないの」
「―――ああ、どうしてこんな面倒な事になったんだろう?」
「あなたの護衛の為に持って来たんでしょ」
「そうでした」
護衛――そうだ。ボクは目の前の人から貞操を守る為に棺桶の中にいる人。
ヨミさんに付いて来て貰ったんだ。色々あって忘れていました。
……だけど、何となくなんだけど、ソフィアさんの口から出た『護衛』という単語。もっと違う意味があるんじゃないか。
ほんの一瞬だけど、声色に変化があった。
「どうしたの? そんな真面目な顔をして」
―――それは本当に一瞬で、すでにもう何時ものソフィアさんだ。
穏やかな仕草で、人をからかうのが大好物の、Sっ気のある笑み。
「………気のせいかな?」
何か引っかかるモノを感じるんだけど、ピンとこない。
考えようとしても、情報が足りない。何かこう、もうちょっとで思い出せそうなんだけど………
「あっ、こらっ、ボ~っとするなっ!」
「あっ…………」
……………………………
「ふう~~~~、仕事終わりの一杯は、何にもましてたまらん」
急いで仕事した為に散らかった室内。そんな中、回転椅子に座りながら、オシャレなテーブルの前で優雅にティーカップを傾け紅茶を嗜む。
今朝方届けられたコチからの注文票。
半日(六時間)でこなせという無茶な要望に、寝る間もなく作業を進めて何とか完成した。
「いや~~~~、時間が無かったのに今回はかなり良い仕事が出来たねえ~~~」
徹夜作業だったので、妙にハイテンションになってる。
先程自分で淹れた紅茶も、絶妙な味わいで甘みと苦みがマッチしていて最高だ。
「香りがよく判らないのが残念だけどね、なっはっはっはっは――――」
昨日調合した薬の匂いがまだ室内に漂っているせいか、もう鼻が馬鹿になっているのだ。
換気しても全く無駄で、こんな不味いモノを飲まなければいけない患者さんは大変だ(完璧に他人顔)。
「実際はその薬を渡す一が一番大変なんだけどね。
まっ、ワタシには関係ないんだけど。なっはっはっはっは――――」
毎週毎週苦労している人たちが聞いたらド突かれそうなセリフ。もちろん、内緒だ。
椅子をクルクルと回転させながら笑っていると、ティーカップの中身がいつの間にか空になっている。
「おっと、おかわりおかわり……」
テーブルの上に置いてあるティーポット。手を伸ばそうとして突然、外からドスンと重いモノが倒れる音。
続いて罠が作動する音に、誰かの悲鳴。
「うぎゃ~~~~~~。矢が飛んできましたっ! 矢がっ!?」
「落ち着けっ! そんなに動き回っていたら――――」
「あだっ! なんなのなんなのこれっ? 落とし穴の底に何か得体のしれない液体が?」
「それは多分、あいつの実験で失敗した薬物だと思うが………」
「いや~~~~、服が、服が、溶けてるよ~~~~っ! どうしてボクばかり~~~っ!」
賑やかな声だ。お客さんは二人組の女性らしい。片方はよく知っている声だ。
もう一人の方は聞いた事が無い。多分、例の新しい神になった子だろう。
「やれやれ、必死に優雅なティータイムを楽しんでいたのに、ソフィアの奴何をやってるんだ? ドジくさい奴」
愚痴を零しながら周りを見てみると、部屋はえらく汚かった。
とても、他人様にお見せ出来る状態じゃあない。
「仕方ないから、この前作った『自立する箒』と『床を滑るチリトリ』に掃除させるか」
罠に引っ掛かっているという事は、ここに辿り着くまでは時間が掛かるだろう。
今の内に部屋の片付をしよう。色々と壊されたら困るからな。
それになにより、前みたいに生活無能力者と彼女に嫌な顔をされるのも嫌だし。
今も続く外からの悲鳴を余所に、ワタシは鼻歌を歌いながら片づけを始めた。




