馬は維持費が高いので乗りません
伝「おお、ついにここまで来たか。次回はやっと神についての講義が出来るね。予想外に長かったよ」
巫「そうだね。予想外に長くかかったね」
伝「―――あれっ? 太陽ちゃんは?」
巫「彼女ならフルヌードのショックで頭を抱えている」
伝「何年も前の話に、メンタル弱いわね。年齢的にはもう大人でしょうに」
巫「中身は子供だからね」
伝「……まあいいか。これからまたしばらく、二人でお送りします~」
「歩いている間暇だし、目的地に着くまで神の心得でも教えましょうか。
「はい、それは良いんですけど……この棺桶の中の人、ボクがピンチになったら本当に助けてくれるんですか?」
どちらかといえば、観客を連れて来ているだけのような気がする、今日この頃。
隣町まで近くだから徒歩で、重い棺桶をロープで引っ張りながら歩き続ける。
歩き始めた時は何故か気が付かなかったけど、
「ああ、それに関しては大丈夫よ。これで、邪な気配を感じると自動的に起きてくれるから」
「それは凄いですね」
『殺気』ではなく、『邪な』という所がミソだと思われる。
ソフィアさんの話では、棺桶の中の人――ヨミさんは周囲の気配を感じる事が異常に発達しているらしい。
ほとんど、野生動物ぐらい敏感だとか。
「おかげであたしが彼とイチャつこうとすると、いつの間にか起きて何度か覗かれた事があるのよ」
「……まさか、それが原因で他人に見られた方が興奮するなんて、変な性癖に目覚めたんですか?」
「さあ………どうかしら」
悪戯っぽくウインクしながら、怪しい笑みを浮かべてこちらにすり寄ってきた。
何となく……何とな~~く、距離を置こうと身体を遠ざける。
「どうして逃げるのよ~~~」
「ボク、まさか人生で初めて押し倒される相手が女性だとは思いませんでした……」
あれは一生、心に残りそうな衝撃だった。正直、神の力を覚醒させた時より衝撃的だった。
「もう~~、そこまで警戒しなくてもこんな所では襲わないわよ。寒いし、防寒着が邪魔だし、ムード(観客)もないし、」
「…………」
ムードと言われて、一瞬だけど棺桶の方に目がいく。
見渡せばそこは町と町を繋ぐ街道の真ん中。町を出てから誰ともすれ違っていない。
引っ張っている棺桶の方を振り替えても、何のリアクションもない。大丈夫なのかな?
何でもあの町は大陸の西側でも、一番ド田舎らしく人の行き来は少ないとの事。
「さっき渡した参考書は持ってる?」
「出かける前に渡されたあの薄っぺらな、安そうな本ですか。もちろん持ってますよ」
「そう。一応言っておくけど、それ薄さの割に高いからね。何と言っても神直筆の本なんだから。
あの人、あれでも神様だから信者なら高値で買うわよ」
立派な神になる為の有難い参考書――なんだけど……俗っぽい話だ。
「立派な表紙は無いし、紙は安物だし、紙を束ねるのに使っている糊もちゃんと固まらないから剥がれそうだし………ありがたみはサッパリですよね」
「それは仕方ない。それは図書館に引き籠っている変な老人が、突然の思い付きで急場凌ぎに使った。走り書きを纏めただけの奴だから」
図書館の変な老人って………あの人の事だよね。
さっき信者なら高値で買うと言った本は、信者でも無い二人にはどうでもよかった。
確かに変わってる人だけど、どうしてあの時、これをボクに渡してくれなかったのかな?
「本当ですか?」
「さあ……半分はあたしの想像だけどね。一応、昨日の内に中身を全部読んだんだけど、まずはその表紙に書かれている文字を読んでみて」
「はい、え~と『立派な神になる為の11の心得』」
経済のハウトゥ本のような題名だ。
簡潔に中身が何なのかを述べている。何とも軽い感じのする名前。
読めと言われても、棺桶を引っ張りながら本を読むのは疲れます。
視線で訴えると、ソフィアさんは合点がいったのか、ロープを代わりに持ってもらうと……
「腰にロープを巻けば大丈夫ね」
「いや、そうじゃなくて代わりに持って下さいって事です」
「あっはっはっは、冗談よ、冗談」
その割には、すでにロープを腰に巻き終わっているよ。
慣れた手付きで結んでいるところから、日頃から人を縛ったりしているのかな?
「大丈夫。ちょうちょ結びだから簡単に外れるわよ」
外れる―――将来的に外れるからって、今すぐ外れてソフィアさんに引っ張ってもらわないと意味がない。
なのに、当の本人はニタニタ笑うだけで手伝って貰えそうにない。
「彼の話だと、自分の国では重いモノを引き摺りながらうさぎ跳びするっていう、体力作りがあるっていうから丁度良いかなと」
「どう考えても、腰に多大な負担が掛かって悪影響の方が大きいです。その顔は、知っててやってますねっ!?」
この人、SだSだとは思っていたけど筋金の入りのSだよ。被害に合った人間が、困惑と脱力と徒労を繰り返す。
最終的には精根尽き果てるまで相手は追い詰められるよ。
「ああ……師事する人を間違えたかな? いや、師事しようとした人が放棄しているのが問題で、ソフィアさんじゃなかったらきっと……」
「ゴメンゴメン。ちょ~っと、からかい過ぎたわね」
笑いながらロープを外してくれる。
ロープはそのまま彼女が持って引っ張ってくれた。
久しぶりに、身体を軽く感じる。あの棺桶は予想以上に重かった。
「時間も無い事だし、これ以上無駄話をすると後が大変だからね」
あまり戦いが得意ではないと言っていたソフィアさん。ボクよりも軽々と棺桶を引っ張ってゆく。
押し倒された時から気づいていたけど、彼女は力が強い。
これから睡眠時には、二度と押し倒されないように注意しよう。




