洋式よりも和式が好き
伝「言い忘れたけど、あのケーキはパウンドケーキなので落としても問題はありません」
太「……どうしてそれを本編で言わないんですか?」
伝「深い意味はないだけどね。当時の太陽ちゃんにはどれでも一緒だという描写をしたら、そうなっちゃった」
太「―――そうですね。昔はそうだったかも知れません」
伝「それが今ではほら、立派にカロリー計算をするようになったんだよ。成長したね」
太「それって厭味ですかっ! まだ、大丈夫っ! まだ、大丈夫な筈………」
イヤな予感と云うのは、大抵の場合当たると相場は決まっている。
何故なら、良い予感と違って希望的観測が入る余地が無いからだ。
そして、今回の場合もそれは外れる事なく、現実に姿を現す事となる。
「何なんですか? これは………」
寝間着から外着に着替えて、ソフィアさんと二人外へ。コチさんは宣言通りにベッドへ。
去り際に『三日も寝ていないと死ぬ……』なんて、ぼやいていました。
時刻はまだ昼前。
太陽は煌々と空に輝き日差しは眩しいけど、気温はまだまだ低い。
初冬という季節を考えれば、まだまだ暖かいのかな? これで、雪でも降ってくれればもう少し暖かくなるんだけど………
「何なんですか? これは………」
ボクの眼の前には、堂々と豪華な木彫りの装飾がされた長方形の箱が一つ。ちょうど、人一人が入れるぐらいの大きさ。蓋には両開きの小さな窓が一つ、中を覗けるように設置されてて、底の方には、動かしやすくする為の車輪まで付いている。
誰がどう見ても、この物体は………
「ビックリしすぎて、二回も尋ねたくなる気持ちは分かるわ。まあ…見た通りの棺桶よ」
「そんな事は判ってますっ!」
問題はもっと、別の部分にある。
「どうして、こんなモノを運びながら歩かなきゃいけないんですかっ!? こんなモノ引っ張って歩いていたら、周りの人たちから奇異な目で見られ続けるじゃないですかっ!」
「ちなみに、雪が積もると車輪からソリに変えるわ。もうすぐ雪が降るから、その時は手伝ってね?」
にこやかに毎年の恒例行事だから、手伝ってね? 何て顔されても困る。
「考えてみれば……」
見た目は最悪なんだけど、本当に問題なのは中身が何なのかじゃないかな?
安全で無害なモノだったらまだ大丈夫だ。
「何が入っているんですか? 武器ですか? それともまさか……死体ですか?」
棺桶に武器を入れて運ぶ人って、どういう趣味なのか何を考えているのか不明だけど、本の世界とかで見た事がある。
もしかしたら、それを真似ているのかも知れない。
「ハッキリ言っちゃえば、両方かしらね」
「そう……ですか」
逃げたかった……逃げたかったけど、無理だった。逃げられないように、ガッチリと腕を掴まれているから。
何とか抜け出そうともがくけど、全然抜けれない。
力はあまり込めていない筈なのに、どうして抜けれないんだ?
「あっはっはっはっは、冗談よ―――――半分はね」
「半分っ!? それって、どっちが冗談で本当なんですかっ!」
「死体ってさあ……冬場だとそんなに腐らないから、長時間運んでも匂わなくて便利なのよねえ~~~」
「い~~~や~~~~~~~っ!」
本気で暴れている筈なのに、全く抜けれそうにない。
どういう掴み方をしているんだ?
そんな状態が三十秒ぐらい続いた頃だったかな? ガタガタと変な物音が足元からする。
「うるさいっ!」
突然、ドンッと棺桶の中から衝撃が。
そして、誰かのイライヤした雄叫びが……
「生きているじゃないですかっ!」
「おかしいわねえ。陽がのぼっている間は死に体も同然なのに。煩くし過ぎたのが不味かったかしら?」
陽がのぼっている間は死んでいるって……夜行性の動物じゃあるまいし……
だけど、さっきの声…何処かで聞いた覚えたある。
「さっきの声ですけど、あの時、ボクを助けてくれた人ですよね?」
「そうよ。あなたが同行者を欲しいって言うから、連れて来たのよ」
連れてきた? 運んで来たの間違いじゃないかな……
「どうして、こんな運び方を?」
「彼が言っていたのよ。生きてるんだか死んでいるんだから分からない奴は、棺桶に入れて運ぶのが自分の国の常識だって」
「……絶対に嘘ですよ」
それを真に受けた訳じゃあるまいし。口元は普通だけど、目が笑ってるよこの人。
「心配しなくても、この棺桶は高級断熱材を使用してるから、中は割と快適で凍死する事はないわ」
「どおりで引っ張り続けるのが大変そうな重さだなと思いました」
いつの間にか、棺桶を引っ張る為のロープを握らされている。車輪が付いているからそれなりに運ぶのは楽だと思うけど、長時間引っ張り続けるのは辛いかな。
「ボクが運ぶんですかっ?」
「あなたの頼みをきいてこうなったんだから、当たり前でしょ」
「えっ………そうなのかな?」
本来なら突っ込むべき所が沢山ある気がする。
だけど、頭が混乱していて上手く言葉に出来ない。
このままズルズルやってたら、もっと面倒な事を押しつけるような気がする。
それが判っているのに、ボクには何も出来なかった。
………ていうか、もう諦めた。
「どこに向かうんですか?」
ズルズルズル(心境的な効果音。実際には車輪だからガラガラガラだ)と、重たい棺桶を引き摺りながらソフィアさんと二人歩き始める。
「隣町の薬剤師さんの所に行って、薬と他諸々の調達をね」
「隣町ですか。そこに腕の良い薬剤師さんがいるんですか?」
「そうねえ、自称大陸一の薬剤師さんだと言ってるけど。
まっ、実際それは言い過ぎだとしても、腕が信頼出来るのは確かよ」
自称大陸一 ――もの凄く偉そうな人ってイメージが湧いてくる。
それとも、単に頭のイタイ人なのか。
色々考えるけど、こういう場合想像通りの人物が現れる事はまずない。
「薬屋さんでお買い物がお仕事?」
「ええ、そうよ。毎週恒例のお仕事でね。その店で買った薬を病弱な娘に届けるの。
「病弱な娘に薬を届けるお仕事……」
それはまた、まともで平凡なお仕事だ。初仕事から過酷な事をやらされたらどうしようかと思っていた。
しかし……それは、本当に神のお仕事なのかな? 単なる、なんでも屋のお仕事のような気がする。
それで良いのか、もっと凄い仕事ばかりだと思っていたから、残念なような、ホッとしたような、複雑な気分。しかし………
「気になる事と言えばもう一つ、あったっけ」
「何を気にしてるんだ?」
「ボクのセリフの半分ぐらいが疑問符で埋まっているのは、どうしてかな?」
「新人は先輩に沢山質問するモノだろ。何もおかしい事はない」
「いや、絶対にコチさんとソフィアさんの非常識さのせいだと思う」
「何を、冗談を。そんなくだらない事言ってないで、先を急ぐわよ」
「…………」
出来ればもう、ビックリして、質問して、唖然とする一連の行動は疲れるからもうしたくないんだけど、無理なようだ。
このペースで話を進めていたら、ボクはこれから先、何回質問を繰り返さなきゃいけないのか、まじめに心配する事になった一瞬だった。




