基本的にSで構成されてます。
太「あれっ、少し目を離した隙に今度は巫女さんがいなくなった」
伝「彼女なら今エサにパクついてるわ」
太「あっ、伝記者さん戻ってきた」
伝「手が空いたからね。皆さんお久しぶりです。前回、学者を名乗った伝記者です」
太「そうでしたね。貴女は確か、歴史学者をやっていましたっけ」
伝「嗜む程度だけどね。古語とかを勉強するのが好きで、あとご先祖様の足跡を辿る内に気がついたらこうなってた」
太「本を読む時は眼鏡をなさってますね」
伝「軽い乱視でね。無くても読めるけど、あった方が眼の負担は少ないからね」
太「そうですか、あっ、もう時間が来ましたね」
私を助けてくれた人は、一言『眠いから寝る』―――と、言い残してさって行ってしまった。何やら小声で、『私は朝日を浴びると溶けてしまうんだ』―――などと、のたもうていた。
(どうしよう……味方がいないよ~~~)
今目の前にいるのは、第一印象は知的で綺麗な人だと思ったら、(第二印象は)男女問わず襲いかかる怪しげな女学者と、第一印象はだらしない人。(第二印象も変わらず)何ともやる気のなさそうな顔で事態を傍観する煤男。
「―――それじゃあ、ボクはこれで失礼します」
どうするべきか悩んで、とりあえず何事もなかったかのように立ち去るべきだと決断―――
「失礼するって、一体どこに行くのかしら?」
「………あっ」
―――したけど、すぐにそれが無意味だと悟る。
記憶は曖昧だけど、昨日火災現場から助け出されたボクは、手荷物はおろか着ていた服さえも失くし―――つまりは、無一文である。
「寝間着姿で外に出たら確実に凍死するわよ?」
「…………」
ソフィアさんの怪しさと危うさを感じる、にこやかな笑顔。ボクはそれに、ひきつった乾いた笑みを返す事しか出来ない。
心情としてはここから立ち去りたい。しかし、先立つ物がなさすぎる。
(どうしよ………どっちを選んでも茨の道だよ)
あまりの事態に、小さな溜息を吐く。すると、そんな様子をあわれんでくれたのか、男の人――コチさんが見せてくれた物を見て、ボクのテンションは一気に上がった。
「―――ほれ」
「ああっ!!」
絶望の淵にいる僕が目にしたのは、高級そうなお菓子――ケーキ。
煤男の評価が、ボクの中でランクアップした瞬間だった。
「いやいや、年寄りの言う事はちゃんと聞くものだな」
「ほんとねえ」
「元はと言えば、お前がからかったのが原因だぞ?」
「あなただって、一緒になってやってたでしょ。最近、ああいう新鮮なリアクションしてくれる人がいなくてね。いやはや、あとあと楽しみな子よねえ~~~」
「……ほどほどにしてやれよ」
なにやら二人が話しているが、そんな事は聞こえない。
ボクの中ではそんな事は些細な事だった。ただただ、目の前のケーキに意識は集中していた。
「紅茶が無いのは残念だけど。まっ、贅沢な事は言わないよ」
どういう訳か、地面に落としたのか箱がグチャグチャだったんだけど、中のケーキは持ち運び便利なハードタイプの物で損傷なし。
生地には贅沢に色々なフルーツを混ぜている。
「お二人は食べないのですか?」
「いや……別にいいよ」
「あたしもいいわ」
なにやらお二人から、妙に距離を置こうとする気配を感じる。
何故なんだろう? などと考える事もなく、ボクはやっぱりケーキに夢中だった。
「しかし、あのケーキは本当に大丈夫なのか? 賞味期限は切れてたよな。しかも、思いっきり地面に落して火事のドタバタで拾うのをずっと忘れていた……」
「大丈夫。死にゃあしないわよ。味はどうしても落ちるでしょうけどね」
なにやらお二人から、聞き逃してはいけない言葉が聞こえたような気がしたけど、好物は多少味が落ちても妥協できるモノだ。実際には、個人差があるんだけどね。
「お腹が膨れた所で、もう一度確認したいんだけど、あなたは新しい神よね」
「はい、そうですけど。お二人は……コチさんはやはり、ボクが師事をお願いした…はみ出し者の社交性の欠片もない、しぶしぶ生活の為にナンデモ屋をやっている方ですね」
ぶはっ――と、ソフィアさんが思い切り吹き出す。
正直、自分でもこの評し方は問題があるかなと思ったんだけど、当人はそれほど衝撃を受けていない。
平然と、相変わらず眠そうな顔で頭を掻いている。
「一体誰からそんな話を――って、あのジジィか。まあ……間違いないだろうね。あのジジィから聞いた特徴とも君は一致しているし」
「話を聞いていた……ですか?」
それは、どんな内容だろうなのか……考えナシとか、粗忽者とか、ドジっ子とかとか―――自己評価をすると、ロクな評価が出ない。
先程、自分自身で言った事を考えると、あまり良い評価が出るとは思えない
「それで、君は―――アマノちゃんはどうして俺に師事を? 他にまともな神なんて沢山いるのに……」
「あっ、それはですね……」
説明しようとして、言葉につまる。
どうしてボクがこの人に師事したいと願ったのか。一言でいえば家庭の事情なんだけど、それを初対面の人に説明するのは少し抵抗がある。
なので、当たり障りない理由を述べてみた。
「ボクなんかが国を守護する神になんて向いてないと思いまして、コチさんみたいな自由な立場の方が自分には合ってると思うんです」
嘘は言っていない。実際、ボクは早合点でドジを踏みやすく、優秀ではない平凡な能力しか持っていなかった。
「ふ~ん、つまりは肌に合わないと?」
こちらの言葉をどれだけ信じたのか、相変わらず半分寝ぼけた顔で(目の下のクマはホントに目立つ)、小さく頷いている。
「まあいいや、一つ条件を呑んでくれれば了承しよう」
「条件…ですか?」
この人は一体、何を要求するつまりなのか――お金の事ならダイジョ…うぶ、ではない。
昨日まではそれなりに持っていた。
………そう、あくまで過去形。今は無一文。
それでも、実家に帰れば沢山お金があるけど、それは出来れば避けたい。
「あの、その~~、すみませんがお礼の方は…今はちょっと……」
「ああ、違う違う」
パタパタと手を振る彼を見て、ホッと一息。
「ただの肉体労働だ。こちらの仕事を手伝って欲しい」
しかし、次の言葉は予想と全く違う。斜め上をいっていた。
「色々あって、俺は昼間に動きまわるのが苦手でね。その間は休業しなくちゃいけなかったんだよ」
「おかげで年中金欠でね」
「黙ってろ。……それで、その間はお前さんに仕事をやってもらおうと。お前さんにとっても俺たちの仕事を肌で感じる事が出来れば卒業も早いだろ」
――というよりも、願ったり叶ったりな条件……
「もちろん、労働に対する賃金はほとんどない」
「単純に、払うだけの余力がないのよ」
「だから、黙ってろっ」
……だと思う。色々な意味で不安な事が山積みだけど……
「衣食住は何とかしよう。そちらの都合が良ければ今日から働いて欲しい」
「あっ、はい。もちろん大丈夫です」
だが、他に選択肢はない。
今の自分は、衣食住全てを失っているのだ。
………そう、ここまでは何の問題も無かったのだ。次の言葉を聞くまでは……
「それじゃあ、俺は寝るから。仕事の指導はそこにいるソフィアから教わってくれ」
自分の仕事は全部終わったとフラフラと部屋を出ようするコチさん。
振り返ると、ソフィアさんがニタニタと愉快な顔でこちらを見ている。
「あのっ! ちょっと待ってください。ボクはコチさんに教わりに来たんです。ソフィアさんはちょっと……」
「なんだ、貞操が心配なのか?」
「そんな、面倒くさそうな顔しないで下さいよ~~~」
誰だって心配だと思う。男の人と女の人では感覚が違うのかな?
「心配するな。こいつは二人っきりの時は襲ってこん」
「そっ、そうなんですか?」
若干、引っ掛かる物言いだったけど、それを聞いてホッと胸を撫で下ろ―――
「何でも、観客がいないと盛り上がらないんだそうだ」
―――す事は出来なかった。ある意味、想像以上に酷い現実だ。
「ちょちょちょ、ちょっと、それってどういう意味なんですかっ!?」
「多分、その方が面白いリアクションが見られるからじゃないか?」
「…………」
サディストだ。この二人は生粋のサディストだ。
このまま何もせずにいたら、ただひたすらにからかわれ続ける事は間違いない。
「お願いします…本当にお願いします。誰か他の人に同行して欲しいです」
必死の懇願を何度もすると、ようやく分かってくれたのか、コチさんの表情に変化が生まれる。
だけど、その表情は悪戯を思いついた子供のような顔だった。
「他の人ねえ……ああっ、そうだっ!」
如何にも、名案とばかりにポンと手を打つ。
そのワザとらしいポーズに、そこはとなくイヤな予感が膨らんでいく………




