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郭公の森  作者: 山田木理
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第1章 微笑みの代償

『篤子』

 ワタシが返事をしていいの?

『篤子』

 デモ、チガウよ…。

『篤子』

 違うのに…。

『篤子』と呼ぶ母の声に、私は瞼を開く。ゆっくりと光が目に突き刺さる。光が痛い。随分長い間眠っていたような気怠さが体中を覆っている。光がカタチを造る。

 四角い、白い天井。

 ここは何処?

「篤子?何?なんて言ったの?」

 ここは…?私は音にならない言葉を紬だそうとして、再び口を動かそうとした。そして、激しい痛みが四肢を突き抜けた。

「お母さん。無理をしないで下さい」

「でも、先生」

 そんな会話が耳に流れ込む。体中が焼けるように痛くて、熱い。痛くて痛くて体を反らせようとしたが体が動かない。

 どうなってンの?

 痛みが、思考を麻痺させる。だけど、痛む理由が理解できない。疑問符だけがクルクル回る。どうして、痛い?何故病院に?

 そう、ここは病院だ。

「篤子…」

 心配げな母の声。でも、私は『薙子』

「篤子」

 視線を僅かに右にそらすと目に涙を溜めた母の顔が映る。体の痛みとは別の痛みがキリキリと胸を抉った。

 だって、この涙は私の為に流されたモノではないもの。分かっている。私の両親は私も篤子も分け隔てなく愛してくれていた…

 でも、私には篤子と同じように愛されている自信もないし、資格もない。私は酷く怒りっぽい性格で、幼い頃から欲しい物があると篤子の物でも何でも奪った。篤子はちょっと悲しい目をするだけで全てを私に譲った。

(アッちゃんは優しい子ね)

 誰の目にも明らかな賛辞の言葉。私は悔しくてまた篤子を苛めたような気がする。

 篤子は優しくて穏やかな母さん譲りの性格だった。誰もが当然のように篤子を愛した。皆が篤子を褒めるのが羨ましくて、私は人一倍勉強もスポーツも努力して常に一番を取った。褒められたかった。

(偉いわね。ナッちゃんは)

 ヤッタ。と思った瞬間。

(でも、勉強が出来なくても素直で優しい子に育ってくれればいいのよ)

 どんなに頑張っても、結局篤子には叶わない。悔しくてさらに私の性格はひねくれていくような気がした。それでも私は勉強とかスポーツとか、目に見える物でしか一番に為れなかった。こんな物でしか篤子に勝てなかった。篤子は勉強もスポーツも人並みだったから、それだけが私にとっての救いだった。

 なのに、篤子はそれすらも私から取ろうとした。篤子が私と同じ高校に合格したのだ。毎年、多くの東大合格者を出している開林学園に、篤子は補欠合格とは言え合格したのだ。

 私は益々篤子に辛く当たる事が多くなった。私の唯一の救いまで取られると思うと悔しかった。悔しくて、悔しくて、憎かった。

 でも、それ以上にアナタになりたかった。

 アナタみたいに生きたかった。


「篤子。…あなたまで失いたくないの」

 アナタマデ?って事は、あの『薙子』は死んだ?ワタシは死んだ?そうだね。あんな性格ブスは死んだ方がいいのだ。『薙子』が死んだのなら、ワタシは?

「篤子」

 アツコ?私が『篤子』?

「母さん…」

 喉から痛みと共に掠れた声が音になる。そして、母が涙を浮かべる。とっても嬉しそうだ。こんな母の顔は久しぶりだ。最近、私は怒ってばかりいて母の悲しそうな顔ばかり見ていた気がする。

「篤子」

 この母の顔は『篤子』に与えられた特権なのだ。優しい心を持つ者にのみ捧げられる優しい笑顔。母の手の感触が自分の手に伝わり、自然に手を握り返していた。そして、益々母の顔が明るく輝く。

「篤子」

 母の声に、私は生まれ変わった。

「母さん」

 私は、苦痛の中、精一杯笑顔を作る。私は『篤子』に生まれ変わった。母はワタシの名を呼んでいるに違いない。…と思う事にした。

 優しく私を充たしてくれる甘いココアが、冷えた心を温める。

(篤子…)

 心の中で私が呼んだのは、ワタシ自身。



 窓から激しい光を見る余裕が出来るようになった頃、少しずつ私は言葉を口にするようになった。

 季節は夏。

 体中の痛みの原因は火傷。私は熟睡していたらしく全く気付かなかったのだが、我が家は火事になり私は全身に火傷を負っていたのだ。もう一人のワタシは焼死した。ハッキリとは聞かなかったが、『篤子』は死んだのだ。火事の知らせを受け両親は旅行を切り上げ、帰ってきた。父は外資系の証券会社に勤めており、家を留守にしがちだったが、私が入院中はずっと側に付いてくれていた。しかし、やはり忙しいらしく私の意識が戻る早々、休暇中の穴を埋めるように今は海外を飛び回っている。不幸中の幸いと言えば、火事の一週間後、学校が夏休みに入ったことだ。高校に入って一年目で長期休学だけは何とか避けることが出来た。

「…ありがとう」

 リンゴを剥いて、そっと渡してくれる母に優しく微笑むと、母も優しく返してくれる。

 どうしてこんな簡単なことが、今まで私には出来なかったのだろう。サクッと心地よい音が口に響き、甘いリンゴの香りが広がる。

 私はあまり話さなかった。私はやっぱり15年間、『薙子』だったから。15年分の『篤子』の記憶はない。微妙な会話の食い違いが恐かった。無論、両親共に、私が『篤子』であることに何の疑問も持たず接してくれる。記憶の違いは重体に陥った患者にはよくあることだと処理され、私は曖昧に微笑んでいるだけで良かった。両親のガラス細工を扱うような気の使い方は、深く追求されたくない私には調度良かったかも知れない。頭の包帯は痛々しかったが、傷は深くないと教えられた。髪は焼け落ちたらしく、鏡を見ると、ショートカットの私がいた。私と篤子は中学生の時、サラサラのロングヘアだった。しかし、篤子は高校に合格すると、ばっさりと髪を切り落とし、肩に掛かるぐらいのボブにした。

 母が皿を片づけようと外に出た瞬間、誰かに呼び止められたのであろう。母の戸惑った声が聞こえた。

「困ります。篤子はまだ怪我を負っています。精神的にも参っています。そんな状態で何を訊こうと言うのですか」

「椎名さん。ほんの少しだけお話をさせて下さい。もう、随分良くなったとお伺いしておりますが…」

 でも…と母の戸惑う声と共にドアが開き、スーツを着た二人の男が、私のベッドに近付いてきた。

「はじめまして。警視庁の加治と言います。こっちは青木です」

 今まで、母と話していた方の中年の男がにこやかに私に会釈をした。後ろのもう一人の男は、まだ二十代後半の若い男だったが、無遠慮にジッと私を見ている。酷く冷たい目で私はワタシの嘘が見られているような錯覚を覚えた。

「火事のあった日は何をしていたか覚えている?」

「何って言われても…」

 あの日、私は篤子にスパゲティを作って貰って、確かそれを食べる前にベッドで眠ってしまったのだ。火事があったことを知ったのは、この病院で目を覚ました後だ。勿論、私を篤子だと信じている皆にはこんな本当のことなど言えるはずもないが。

「篤子は自分の部屋で眠っていただけです。今更、火事のことを思い出しても仕方のないことじゃないですか!」

 母が私を助けようと二人の刑事を睨み付けた。母にしても娘の一人を亡くしたのだ。今更思い出したくないに決まっている。私だって、自分の双子の片割れを亡くしたのだ。悲しくないはずがない。

 悲しくないはずがない。

 それが、私の一番考えたくないことだった。私は本当に悲しかったのだろうか?目覚めて篤子が死んだと知ったとき、私は本当に悲しかっただろうか?

 何度、繰り返し自分に訊ねても返る答えなど無かった。私は篤子が死んだことを利用し、私を篤子だと勘違いしている皆を欺いているのだ。

悲しかったなんて、思っていない。

「それでは、篤子さんは何も覚えていない。これでいいですか?」

 ニッコリ微笑み、加治と名乗る刑事は言った。黙っていると怖そうな人だが、笑うと人懐こい感じがした。私はとりあえず頷いた。

「青木。これで気が済んだかい?」

 加治さんは部下らしき青木と呼ばれる男に振り向き、肩を竦めた。その言葉でこの事情聴取がこの青木と言う男が望んだ事だと理解した。無遠慮な眼差しを私にくれていた青木は、背が高く、黒い髪を丁寧に整え、切れ長の冷たい目に、スッと伸びた鼻。メンズのファッション雑誌から飛び出たような、いや、芸術家が美のみを求めて造った彫刻のような顔をしていた。冷たくて無機質な感じ。そして、視線は私を突き刺すレーザーのようだ。目つきの悪さは超一級。そして、低い声。

「亡くなられた『薙子』さんが、普段から煙草を吸っているのはご存じでしたか?」

「煙草?」

 煙草なんて、『薙子』である私は、一度も手にしたこともない。

「火事の原因は、『薙子』さんの煙草の火の不始末でした。でも、家族の誰も彼女が煙草を吸っているのを知らなかったようなので。偶々、その日に限って遊び半分で吸っただけかも知れませんが…」

 『薙子』は煙草なんか吸っていない。

 死んだのは、本当は『篤子』だから、『篤子』が煙草を?

そして、ワタシは辿り着く。結局、考えなければならない事実にブチ当たる。何故、彼等は私を『篤子』だと間違えたのだろうか?

 ダメ。

 ココロが拒否し始める。

考えちゃダメ。

 脳が警戒する。耳の奥で鳴り響く警告音。

 知ってはいけナイ。

 頭がイタイ。

 ナゼ?

 『篤子』の部屋で、発見された『薙子』

 『薙子』の部屋で、死んでいた『篤子』

 だから、彼等は私を『篤子』と考え、死んだ方を『薙子』だと考えた。

 私は、あの日自分の部屋で眠ったはず。

 私は夢遊病で篤子の部屋に行き、篤子の部屋で眠ってしまった?そして、篤子は私の部屋で煙草を吸い、出火した。

不自然すぎる。

例えば、強盗が入り犯行を消すために火を放ったのなら私と篤子を入れ替える必要はない。

 何故、入れ替わっていた?

 私達を入れ替える意味は?そして、入れ替えたところで、どちらかが生きていれば、入れ替える意味などない。記憶喪失にでもならない限り、生きている方が自分の名を口にすれば、手間暇かけて入れ替えた苦労は水の泡となる。

 二人とも殺すつもりだった?

 そこまで考えて、私は自分の考えが急に馬鹿馬鹿しくなった。単なる高校生を殺す動機が何処にあるというのだろうか?しかもわざわざ入れ替えて。

「篤子さんは、夜はよく眠れますか?」

 全身に火傷を負うまで眠っていた私への皮肉だろうか。勿論、青木さんの顔には嘲笑など浮いていない。無表情なのだ。

「…まぁ」

 曖昧に頷く。青木は暫く黙り込み、思い切ったように私に訊いた。

「失礼ですが、睡眠薬など使われたことはありますか」

 睡眠薬?考えもしなかった質問に目が点になってしまった。

「青木」

 加治さんがこの失礼な男を一言で黙らせ、困ったように私を見た。

「すいませんね。こいつはあの火事がただの火事じゃないと言い張っているんですよ。困ったモンですよ」

 本当に困った顔をして加治さんは私を見てから、母を見た。

「行くぞ」

 母の心を読んだように加治さんは部下を連れ出て行った。

母が溜息を吐き、窓の外を見る。そして、その悲しそうな瞳を、照り返す太陽に向ける。

 母さんは悲しんでくれた?

 『薙子』が死んで、悲しんでくれた?

 私のエゴイズムな希望。自分を失って悲しむ姿が見たいなんて。今までの自分を全て否定した今の私が、昔のワタシに固執する。

「父さんは?」

 急に質問した私に母さんが驚いたような顔をした。私は目覚めてから、自分から会話しようとしたことはなかった。質問されることに頷くか、首を振るだけ。

「香港よ。今度は暫く帰れないと言っていたわ」

 いつものことだと母は肩を竦める。父は忙しく家を離れることが多かった。漸く休みを取り母と出かけた旅行も火事のせいで中止となり今度はいつ帰るか分からない。

 私は父が苦手だった。いつも父は大人しく優しい篤子の味方をしているような気がした。そして、もう一つどうしても父を好きになれなくなった理由があった。

「早く直るといいわね」

 柔らかな母の声に私は顔を上げた。窓からの強い太陽の光が逆光となり、母の笑顔をはっきり見ることは出来なかった。



 私が退院したのは、夏休みが終わる二日前だった。初めて見る我が家はマンションの最上階だった。両親は『薙子』が死んだあの場所でやり直す力はなかった。火事で焼け残ったアルバムを整理していたのだろうか、リビングには焦げた写真やら本やらが散らかっていた。そして、片隅にひっそりと在るのは、白い箱。『篤子』が入っている。その前に在るのは、『薙子』の写真。私達姉妹は黙っていたら両親ですら簡単には見分けられない程似ていた。人の顔は性格を顕わす。性格が人の顔を作る。顔では見分けが付かないが性格も雰囲気も違う私達は、周りの人達に間違われることはなかった。それを証明するかの如く、性格を変えた今の私を『篤子』だと一番身近な両親ですら疑いもしない。

 私は、自分の写真の前に座る。

 篤子…。

 心の中で、呼びかける。

 あなたは今の状況に怒ってる?あなたに成り済ます私を、天国で怒って見ているかしら。

 答えはNOだ。私には想像できる。あなたはこんな事で怒ったりしない。そんな人間だから、皆があなたを好きになる。

 ゴメンね。

 体のあちこちに出来た火傷の跡に目を落とす。包帯が取れた部分はケロイド状に爛れていた。外から見える部分は出来るだけ綺麗に復元するよう努力しますと医者は言ってくれたが、私は、自分の嘘の後ろめたさに、首を横に振り医者に変に思われた。

「篤子。すぐご飯作るから」

 母さんは私に微笑み、まだ新しいキッチンへ向かった。私は白い箱に背を向け、足下に散らばった写真を一枚取り上げた。小学校の入学式の写真だった。家族四人幸せそうに笑っている。私は散らばった写真の中に腰を落とした。どれもこれもシアワセを形にしたように笑っている。所々、焦げた痕のある写真。私が写る写真には必ず篤子がいる。私達双子はいつも一緒に写っていた。一枚一枚、丁寧に取り上げ、幼い日を振り返った。怒ったり泣いたり、笑ったり、懐かしい思い出がこみ上げる。母さんは今もなかなか美人だが、若い頃は本当に綺麗だなぁと改めてこれらの写真を見ると実感してしまう。母の写真の中に、一枚だけ私達双子が一緒に写っていない写真があった。私は、目を凝らして母の抱く赤ん坊が『薙子』か『篤子』かを確かめようとしたが無駄な努力だった。もともと似すぎている上、赤ん坊だ。見分けが付くはずがない。

 生まれた頃から高校入学する頃まで、この家庭にはいつも笑顔が絶えなかった。唯一、私だけが反抗期を迎えた子供のように、いつも怒っていた。私がこの家のシアワセをいつも壊していたのだ。しかし、この写真はもう戻らない時間を痛感させる。二度と私達双子がこうして並ぶことは無い。

 誰が見てもシアワセを連想させる写真に、ひとつ足りないものがあるとしたら、それ以外何もないと言うことだった。私達家族は四人だけだった。祖父や祖母を始め、親戚がいないのだ。両親は詳しくは話さないが、父は古くからの名家の出らしく、身寄りのない孤児だった母との結婚を親戚中に反対され、駆け落ちしたらしい。主席で東大を卒業した父さんはきっと両親の自慢の息子だったに違いない。それが一人の女のために家族を捨てたのだ。父の両親を始め親戚も今でもそれを許していないのだろうか、一度として私は父の親戚に会ったことはなかった。勿論元々孤児だった母の家族に会えるはずもなかった。それでも、私達は四人で幸せだった。

 子供の頃の自分を眺めている内に、私は一つの大切な篤子との思い出を忘れていたことに気付いた。



 夏休みが明け、初めての登校日。

 さすがにこの日は緊張した。周りの目が気になり、ついつい顔を下に向ける。教卓にさり気なく近づき、そこに張られた席順で篤子の席を確認し席に着く。この学校は成績別にクラス分けされるので、私達は別々のクラスだった。常にトップ争いしていた私に比べ、篤子はあまり成績が良くなかった。

 周りは明らかに私に気を使っていた。火事については勿論のこと、話すらも避けているようだった。おかげで私は誰からも疑われることはなかった。

「椎名さん」

 ホールムールが終わった時、廊下の方から私の名字を呼ぶ声がした。

 紀美香だった。あの日、泊まりに行く約束をしていた子だった。隣には、同じく『薙子』のクラスメート、薫がいた。思えば、この高校に入学してから私の友達と言えるのは、この二人だけだった。

「これ…。薙子さんに借りてたの」

 薫の方から渡されたのは、彼女に貸していたCDだった。

「…わざわざありがとう」

 CDを渡す薫の手が震えている。視線を上げると二人とも必死に涙を堪えているのが分かった。

 胸がチクリと痛んだ。

「私が、あの日約束を守っていたら…。家に薙子が泊まりに来ていたらこんな事にはならなかったのに…」

 紀美香の後悔の涙に、私は全てをぶちまけそうになる。紀美香のせいじゃない。そう言ってあげたかった。高校に入学して、たった四ヶ月しか一緒にいなかったのに、泣いてくれてありがとう。こんな私の友達でいてくれて、ありがとう。

 そして、ごめんなさい。

 私は、暫く廊下で二人が去るのを呆然と見守った。そして、不意に私は疑問に思った。

 篤子の友達は?

 誰もが『篤子』である私に優しかったが、私には『篤子』の特定の友達が誰だか分からなかった。私は、取り敢えず、始業式の時間に確かめることにした。体育館で行われる始業式にきっと篤子の友達が、一緒に行こうと声を掛けてくれるのではないかと思ったのだ。特定の友達と話すことは、私に対して疑いを向けられることに繋がる危険があったが、興味もあった。篤子が私以外の人とどんな会話をしていたのか、どんな風に付き合っていたのか。

しかし、誰にも声掛けられることなく私は教室に一人残されてしまった。

 一人ぐらい、声掛けてくれたっていいじゃない!病み上がりなんだから!

 心の中で、ムッとして呟いたとき教室の戸が開いた。やっと来たか。と思ったら、そこにいたのは『薙子』と同じクラスだった倉本哲平だった。倉本哲平は周りに人がいないことを確認するように辺りを見渡し、私にニッと微笑んだ。

 まさか、篤子と知り合いなんかじゃないよな。私はこの男が苦手だった。同じクラスだったが、一度も会話を交わしたことはない。超有名進学校のこの学校には珍しい透き通るくらいの金髪の髪に、両耳に併せて七つのピアス。そして、軽薄そうな薄笑いが嫌いだった。入学当初、親が金持ちで裏口入学ではないかと噂が立ったが、それはその後何度か繰り返されたテストで、明らかに単なる噂だと誰もが理解させられた。私と常にトップ争いをしていたのは、こいつ倉本哲平だった。彼は入学早々、その外見を注意され、

『オレ、黒って嫌い。だって、縁起悪いじゃん。黒って。ねぇ。そうおもうよねぇ?成績下がっちゃいそうな気がしてさぁ』

 それなら、今度の成績でトップだったらそれを認めてやるとの先生の言葉に、

『先生って、神様のように慈悲深いお方』

 そう言ってニッと笑った。勿論、次のテストでは私の上に名前があった。その一人の先生のおかげで、その後誰一人その金髪もピアスも注意できなくなったという話はかなり有名であった。それ以外にも、彼には女性関係を始め噂が尽きることは無かった。何より私がこの男を嫌いなわけは自信満々の笑みだった。きっと自分が好きで堪らないのだろうと思うと何故か腹が立った。

 その彼が、『篤子』と知り合い?篤子はどちらかと言えば地味な方だった。私とは違い外で遊ぶときも化粧はしないし、洋服もあまり自分では買わないようだった。私達は双子でこの進学校に入った事で有名だったが、有名人という共通項以外に真面目で地味なタイプの『篤子』と軽薄で派手でかなり遊んでそうなこの男を繋げるモノは何もない。

 ついつい顔を顰める私に近付き、彼はいつも教室で見せるのと同じ笑顔を見せる。彼は何かを話そうとしたが、廊下で響いた足音に振り向き、急いでポケットから何かを出し、私に投げた。

「今夜もそこにいる」

「え?」

 それを右手で受け取ったときには、さっさと彼は戸を開き廊下に出て行った。私が右手を開くと、『Club FACE』と名の付いたマッチが見えた。

 篤子がクラブに?

 私はたまに友達と行くが篤子はそう言うトコ苦手だと思い込んでいた。私の知らないところで遊んでいた?然も、あの倉本哲平と?

 私はもしかして篤子を勘違いしていた?

 篤子はワタシの中に棲んでいた『篤子』とは別人だった?

でも、もう本人にそれを確認することは出来ない。

 私は、その時、そう思った。

 もう、二度と真実を知ることはないと。


「クラブか…」

 マッチを右手で弄び、まだ明るい路地を一人で歩いた。帰り道も、私は一人きりだった。クラスメートは皆優しかったが、やはり体中に火傷を負い、姉妹を亡くした私には気を使うのだろうか会話にも重い雰囲気が付きまとい、出来ることなら避けたいという態度がそれとなく伝わってしまった。

 まぁ、その方がやり易いけど。今日は一人で放課後行きたい所があったから。それは、写真を片づけていたとき思い出した私にとっては大事なこと。

遠い日の篤子との思い出。

小学一年生、夏休みの二人だけの秘密。

 ずっと、忘れていた宝物。

『十年後に、二人で開けようね』

 そう約束し、庭に埋めた宝物。

 アレは、確か夏休み最後の日。

 ピタリと足を止め、私は息を飲んだ。火事があってから初めて見る元我が家。黒く煤と化した柱が無惨に残っている。私は一度ぎゅっと目を瞑り、ロープの張られた門を潜った。

 ここで『篤子』が死んだのだ。

 篤子は覚えていたかな?十年後に、二人で『タイムカプセル』を開ける約束をしたことを。覚えていたとしても約束の日は、もう『篤子』はこの世にはいない。

約束の日は、昨日だったのだから。くるりと、裏庭があったであろう場所に着いた。そして、僅かに灰に染まった木の元に屈んだ。

 アレ?

 その場所の土が、掘り返されている?

 そこの部分だけ柔らかく、明らかに最近掘り返した跡だった。

 篤子が?

 だけど、地面に散らばった灰と共に掘り返されているということは、篤子ではない。火事の後に掘り返されたということだ。私は急いで掘り返した。柔らかい土は手でも十分に掻き分けられ、あっさりと目的のモノが見つかった。

 それは、両手に収まるほどのオルゴールだった。

 どす黒く変色し、長い年月を感じさせる。

 手で土を払った。美しいエメラルドグリーンに、鳥が描かれた陶器の蓋。そして、金色で縁取られた高価そうな外見。

母が大切にしまっていたモノで私が見付けて母にねだり、貰ったのだ。篤子はいつものように羨ましそうに見るだけで、欲しいとは言わなかった。

『これは、二人だけの秘密だからね』

 私は篤子にそう言って、二人の宝物だったビー玉と子猫の小さなマスコットを入れたような気がする。もし、篤子が火事の前に、例えば母にこの事を話していて、母がそれを火事の後に思い出し掘り返してのだとしても、何の不思議もない。でも、

 二人だけの秘密。

 篤子が、約束を破るだろうか?

 私はすぐにその存在すら忘れ、誰にも話したことはない。

 じゃあ、誰が?

 ポロン…

 十年も土の中に埋まっていたのだ。鳴るはずがない。そう思っていただけに鳴り始めたオルゴールを持つ手が震えた。小さな箱からメロディーが溢れ出る。

 懐かしい『カッコウ』のメロディーだ。

 錆び付いた音が、十年前と同じメロディーを紡ぎ出す。懐かしい想いが溢れ出る。

しかし、その中には十年前に入れたはずのビー玉も子猫のマスコットも入ってはいなかった。ただ、ハンカチに巻かれたマッチ箱より僅かに大きな物が入っていた。私はゆっくりとハンカチを広げた。

 携帯電話だった。

「どうして?」

 電源が付いたままの携帯電話は勿論十年前からのオルゴールの住人ではない。

 ピピピピピピ…

「ぅわっ!」

 いきなり鳴り出した着信音に私は体全体を震わした。

 私は震える手で折りたたみ式の携帯を開いた。

 受信メールが1通。

私を待っていたかのように入ってきたメール。

僅かな迷いと共にメールを開いた。


 きけん きをつけて


 ひらがなの短いメール。見覚えのないメルアド。

「…危険?気を付けて?」

 これは、私へのメッセージ?

「何が危険なのよ」

 全然わからないよ。

 全く身に覚えはないが、私の身に、『篤子』の身に何か危険なことでも起こるのだろうか?

 まさか。そんなワケないよね…

 ガサッ!

「ぅわっ!」

 木の擦れる音に一度心臓が止まった。

 こ、こ、こ、こっ今度は、何?

 振り向いた先には何もなかった。音の立てた垣根に恐る恐る近付く。道路に面した垣根の隙間を伺いながら門まで歩き、そっと様子を伺った。

 アレ?

 気配?いや、匂いだ。何の匂いだろう。静かな風に紛れて酷く懐かしい匂いがした。コロンの匂い。思い出せない。

 でも、それは人がいた証拠。残されたモノは、何もな…くはない。白いモノが目に入る。四つに折られたレポート用紙が、門を出たすぐそこのアスファルトに落ちているのだ。来たときは無かったはず。私は何気なく、それを開いた。


 次、死ぬのは、あんた。許さない。


 ツギ、シヌ、アンタ、許サナイ

 レポートに走り書きされたのは、篤子の字。

 篤子が私を殺そうとしている?

 違う。篤子は死んだはずだ。

 でも、これは篤子の字だ。

 チガウ。篤子は白い骨に成ったんだから。

 頭が、グルグルと回る。

 これは何なのよ。母さんや、警察に話したほうがいいのだろうか。でも、そうしたら、自分の付いた嘘がばれてしまう。でも、このままじゃ、殺される?

 チガウ。単なるイタズラよ…

 許されないほど、殺されるほど、『薙子』は悪いことをしたのだろうか?

 私は、もう片方に握りしめたままの携帯電話に目を落とした。

 この携帯電話を私に託した人は味方?

 グルグルと不安と疑問と得体のしれない恐ろしさが体中を巡る。






 その夜、私はこっそりと家を抜け出した。

父さんは未だ香港に行っており、家には母さんだけで、何とか見つからずに抜け出すことが出来た。

 目的地は、『Club FACE』

 知りたい。知らなければならないことがあるような気がする。私は、『篤子』のことを何も知らないのではないか。

 『篤子』になる為に『篤子』を知る。

 私がなりたかった『篤子』じゃなかったら?

 違う。『篤子』は『篤子』なんだ。

 優しくて強くて皆から愛されている。

 確かめたい。

 ソウだと確かめたいのか?

 チガウのだと確かめたいのか?


 家を出たのは、十時半頃だった。

 ソレは、きっと自意識が過剰に反応している為だったかもしれない。篤子の筆跡で書かれたメモ用紙が神経を敏感にさせている。そして、後ろを振り返る。

 ソレとは、後を付けられているような感覚。

何も無いことを確認すると何度か目の溜息を吐く。無いかも知れない視線が酷く気になった。

 マッチに書かれた電話番号に電話を掛け場所を訊いた。一人でクラブに入るのは苦手だ。そのクラブは半地下になっておりライブなどのチラシが無造作に張ってある。表の黒人のお兄さんにお金を払い重いドアを開ける。

 大音量のテクノが頭を殴りつけた。七十年代の音は心臓に直接響いてくる。私が普段行っているクラブとは、雰囲気が違う。店内は猥雑で装飾的なモノはなく、装飾は、敢えて言うなら音だ。音と人が主体。そして、壁に蛍光塗料で描かれた狂気手前の叫び。私は異邦人の様にはみ出され、壁に向かう。携帯電話で時間を確認する。12時過ぎ、そろそろ混み始める頃だ。そして、私を『篤子』を誘った奴を、倉本哲平をこの人混みから目で捜した。

「篤子」

 音を掻き分け『篤子』を呼ぶ声が聞こえた。私は人混みの中、その声の主を捜した。倉本哲平ではなかった。

「篤子。久しぶり。元気そうじゃん。聞いたよ。火事だって?」

 茶髪を肩まで垂らした男が馴れ馴れしく私の肩に手を回してくる。カットソーを着ていた私の肩に手の感触がして、ビクリと肩を竦めた。しかし、相手は何も気付かずに私の顔をニヤニヤと覗き込む。何か返事をしなくては、と思ったとき、今度は女の子が話しかけてきた。

「アッちゃん。怪我は大丈夫?」

「うん…」

 浅黒い肌に黒のワンピースが似合う子だった。

「それより、大丈夫だった?警察に見つかんなかった?」

痛んだ金髪をビーズの詰まったネイルでかきあげ、マスカラで大きく飾った心配げな瞳で聞いてきた。

 警察に何かを隠していた?

「そう。そう。オレも、それ、すっごく心配してたンだ」

「うん…」

 とりあえず、曖昧に頷いた。すると、男がにやりとして顔を覗き込んできた。

「じゃあ、まだ持っているんだ?売ってよ。前、パキから買ったヤツ、最低でさ。味の素混じってやんの。持ってんだろ」

 暗くて彼の表情も見えないが、きっと彼も私の表情が見えていない。私が思いっきり不思議がっているのが分からないのである。彼は次々と話を続ける。

「チャラスでもイイや。ハシシとかある?」

 ハシシって、なんだっけ?

 女の子の方も話に加わる。

「バツは?エックス欲しい。売ってよ。あるんでしょ?」

 ハシシ?バツ?…まさか。ドラッグ?

二人は私にドラッグを売るように言っているのだ。

え?じゃあ、つまり、篤子はヤクの売人だったわけ?

 眩暈を起こし掛けそうになる。

 そんな私の表情とはお構いなしに二人は私に詰め寄ってきた。私は壁まで追い込まれ、どうしようもなくなった。

 どうしよう。

「もう、ねぇよ!」

 そう言って、私と彼等の間に割って入って来たのは倉本哲平だった。

「こいつは、もう、ヤクは売ってねぇよ」

 倉本哲平が彼等に向かって、後ろの私を親指で指しながら言った。

「ンだよ。哲平。お前は関係ないだろ」

 男は諦めきれないのか、尚も食い下がる。

「おい。篤子。本当か?」

 ギクッ。倉本哲平の肩越しに二人の視線を浴び、何度も首を縦に振っていたような気がする。とにかく二人はそれで諦めてくれたようだった。

残ったのは元クラスメート倉本哲平だった。

「遅くなって悪かったな。アッちゃんがこんなに早く来るとは思わなかったから」

 時計は12時半を指していた。

「まだ、何も飲んでないの?」

 私は、ぎゅっと握りしめていたドリンクチケットを開いた。

「カシスソーダでいいよな?」

 篤子はいつもそれを飲んでいたのだろうか。私には頷くことしかできない。倉本哲平が持ってきたグラスに口を付けると、甘い香りが口に広がった。音が煩く、倉本哲平は私の耳元まで口を持ってきて話を続けた。

「心配したよ。本当にもう、大丈夫なのか?」

 耳に息が掛かるほど近くで、優しげに自分を心配する声にドキリとした。こんな顔は、同じクラスであっても一度も見たことがなかったのだ。

 もしかして篤子の彼氏だったのだろうか?

「それにしても、意識が戻ったのなら連絡ぐらいしてくれればいいのに。まぁ、薙子の事は残念だったな」

 どう答えていいのか分からない私は、倉本哲平の方にも向き直れずに、ただ、薄い赤紫のグラスを見つめていた。

「どんなに心配したか」

「…」

「『もう、関わるな』って電話で言ってきたと思ったら、あの火事だろ?やっぱり、ヤツらがやったのか?」

 ヤツら?

「悠里も、相変わらず行方不明だし」

 ユウリ?

 ドキッとした。心配そうに自分を覗き込む倉本哲平の顔が目の前にあったのだ。

 暗いけど、整った顔が見えた。認めたくないが、イケメンある。学校でもかなりもてていた。この顔に、あの成績。性格もこの上なく明るい。

 こんな人間が篤子なんかと付き合うか?

 いや、篤子だから?

 彼は私の考えていることなどお構いなしで話し続けている。

「学校では絶対オレ達の関係を知られたくないから、話しかけるなって言うから、なかなか近付けないし、まぁ、やっと、こうして話せる訳だけどね」

 やはり、篤子と付き合っていたのか?

 でも、彼の前の篤子は薬を売るような人間で、私が知っている篤子じゃない。

 私が知っている篤子?

 私の中で、『篤子』に対するワタシの認識が崩れて、頭の中でグルグルと回転する。

 『篤子』は優しくて誰からも愛されていた。

 誰かに狙われていた?

 『篤子』は地味で大人しい。

 ドラッグ売っていた?

 レポート用紙に書かれた篤子自身の文字。

 『次、死ぬのは、アンタ、許さない』

 『篤子』が人を憎む?

 ワタシを憎んでいる?次ぎ死ぬのはワタシ?殺されるのはワタシ?許されないのはワタシ?

 !

 倉本哲平に手を握られていた。大きな手が私の体中の体温を上昇させた。

「…倉本君?」

 音に紛れた私の声は届かなかったのか、彼は私なんか見ずに出口の方を睨み付けていた。私も彼の視線を追い出口をみたが、人混みがあるだけで彼が何に気を取られているのか見当も付かなかった。

「ヤツらだ」

 低い声が耳元をくすぐり、握る手に力がこもった瞬間、グイッと引っ張られた。

「ちょっと!何?」

 完全に無視され、彼に人混みの中を引きずり込まれた。哲平がシェーカーを振っていたおじさんを押しのけ、カウンターの中に迷うことなく入り込む。哲平に引きずられながら振り返る。何事もないようにシェーカーを振り続けるおじさんの向こう側に、こっちを追うスーツ姿の二人組が目に飛び込む。その一人と目があった。明らかにここの客ではない。

 哲平は裏口のドアを乱暴に開け外へと私を連れだした。

 どうして、私は追われているの?

 そんな疑問をぶつける間もなく物凄い勢いで引っ張られ人気のない路地に連れ込まれる。私は息を切らしながら哲平を見遣る。

「倉本君?」

「シッ!まだヤツらがそこにいる」

 暗い路地。冷たい風が首にまとわり付く。夏とは言え、もう九月。夜は寒い。細いビルとビルの間に息を潜め、哲平は表を伺う。

 いつの間にか肩に置かれた彼の手に、心拍数が徐々に上がる。

 あのスーツ姿の二人組は何者だろうか?

 訊きたいけど、訊いたら自分が『篤子』でないことがばれてしまう。恐らく『篤子』は知っていたはずだ。

 スーツ姿の二人組がこちらに近付き、私達は店の裏口に積み重ねられたビールケースの山に隠れようとした。

 その時、私は信じられない物を見てしまった。事もあろうに二人組の内の一人がスーツの中から銃を取りだしたのだ。オモチャなんかじゃない。この状況で嫌と言うほど思い知らされる。

 殺されるの?

 ドラッグに、今度は拳銃?

 篤子は、一体、何をしていたのよ!

 二人組は、足音が聞こえる程に近付いてきた。ビルとビルの隙間からあちこちを伺うようにゆっくりと近付いてくる。

 肩に置かれた哲平の手に力が入る。

 足下に散らばっているゴミのツンとした臭いが鼻孔を刺激する。


 ピピピピピピピ…


 携帯電話!私のバッグの中にある私のじゃない携帯だ!

「居たぞ!」

 この音に気付き、銃を持った方が叫んだ。

 その瞬間、倉本哲平は私の腕を掴んで走り出した。

 バシュ!

 聞きなれない音と主に、ビール瓶が割れる音が響く。

 サイレンサー付きの拳銃だ。

 撃たれる!

 引っ張られるままに走っている私は後ろなどを見る暇もないけど、これはどう考えても私達を狙って撃っているとしか思えない。

 バシュ!

ガシャン!

 裏通りの看板が弾けた。

 嘘でしょう。

 誰か嘘だと言って。

「早く!」

 倉本哲平の声が私をせかす。

 痛いほどに手を引っ張られ、自分でも命が掛かっていると思っているわけだから、これでもかなり一生懸命走っているんだけど、後ろからの足音は無慈悲にも近付いてきている。

 これでも、中学校の体育祭の時は、陸上部を押さえて一位を何度も取ったけど。100メートルのタイムもかなりよかったはず。

 でも、所詮男と女の差か。サンダルに何度も転びそうに成りながら、ビルの隙間を縫っていく。ビルの隙間を抜け大通りに出た時だった。何かが私の右足に、思いっきり引っかかってくれたのだ。

「痛っ」

「アッちゃん!」

 哲平の声。治りかけた火傷の跡がヒリヒリと痛んだ。

「鬼ごっこは終わりだ」

 カチャリと撃鉄の音が耳を打つ。足音が近付き、哲平の舌打ちが微かに聞こえる。

「パスワードを教えろ!」

「パスワード?」

 それは倉本哲平の方の声だった。

「こっちも命が掛かっているんでね」

 三〇代ぐらいの男の声。向こうもかなり必死なのだろう。こんな所で銃を使うくらいだ。額にも汗が見える。銃に狙いを定められ私は動くに動けない。

 !

 突然、タイヤの軋む音が鼓膜に響き、髪が浮いた。黒のセダンが私達とスーツ姿の二人組の間を引き裂いたのだ。

「乗れ!」

 どこかで聞き覚えのある声が響いた。

素早く哲平が後部座席のドアを開け、私を押し込むと、自らも乗り込んだ。車はドアが閉まらない内に激しいエンジン音と共に動き出した。



「はぁ〜」

 走り出した車から後ろを振り返って二人組が見えなくなった事を確認し、私は深い溜息を吐いた。哲平も息を整え、汗を手の甲で拭いてから運転席を睨んで言ってくれた。

「で、アンタ、誰?」

「ちょっと!知らない人の車に乗ったの?」

 哲平の知り合いだと思い込んでいた私は、声を荒げて言ってしまった。

「仕方ないだろ!」

 確かに。私は黙り込んでしまった。

「倉本哲平君と椎名篤子さんだね」

 沈黙の中に落ち着いた大人の声が響いた。

 どこかで聞き覚えがある。そう思って助手席の後ろの席からジッと運転手を観察した。

「何で、オレ達のこと知ってるんだよ?お前何者だ?」

 哲平の声に、ヤレヤレと言った感じで男は肩を竦めた。

「椎名さんには、一度会ったことがあるが」

 チラリとこちらを見られ、ようやく頭に一人の人物を思い描くことが出来た。

「刑事さん?」

「そう、病院で会ったね」

 顔はイイが、目つきの悪い刑事だ。

「刑事?」

 哲平の声が明らかに強ばった。ムスッとして運転手のうなじを睨んでいるようだ。

「倉本君?」

 どうしたのだろうと、私は思わす彼を呼んだ。そしたら、今度は私の方を睨んできた。

「『倉本君』ねぇ」

 倉本哲平に倉本君と言って何が悪いのだろうと思ったとき、大変なことに今更気付いた。

 もし、二人が付き合っていたのなら、別の呼び方をしていたのかも知れない。哲平の形の良い顔に睨まれ私はピクピクと頬が引きつるのを押さえた。篤子はコイツを何と呼んでいた?哲平?テッちゃん?

「三年も友達やってて、今更『倉本君』か」

 三年?友達…

 私は倉本哲平とは今年の四月の入学式で初めて会ったのだ。

「何か、オレ、アッちゃんの気に障るようなコトした? あの電話の後から、ずっと気になってタンだけど」

 あの電話とは、『関わるな』と篤子から火事の前日にあった電話のことだろうか。真剣に『篤子』を気遣う哲平の瞳を見つめ返せなくて目を反らす。

 コホン。

 わざとらしい咳払いと共に、ミラー越しに切れ長の目に睨まれた。その瞬間、哲平はさっきまでの優しい顔とは一転して、睨み返す。

「刑事がオレ達に何のようだよ」

 吐き捨てるような言葉に、刑事は僅かに眉を上げる。

「分かっているから、そんな怖い顔をするんだろう?」

 その低い声に、哲平はピクピクと頬を引きつらせる程に硬直しているようだ。

「椎名さんの方は、かなり余裕の顔だな」

 余裕ではない。ただ、この状況が理解できていないだけで、刑事の登場に怖い顔をする必要も、理由もないのだ。ただ、思い当たることと言えば、さっきクラブで交わされた会話。ドラッグのことだ。『篤子』がドラッグの売人なら、それは犯罪であり、刑事とは関わり合いになりたくないに違いない。

 篤子は、どうしてドラッグなんか…

「まったく…」

 ドキッとする程低い声。

「…大したお嬢さんだ」

 なっ!

 明らかな軽蔑を含んだ言いように、胸がムカッとした。重い沈黙が車内を流れる。街の光がすごい早さで走り抜ける。

 一体、何処走っているのだろう?

 車内の冷房は利きすぎていて、私は肩を両手で抱きしめるようにさすった。

 その時、沈黙の中にクーラーを切る音がカチッと聞こえ、冷たい風が止まった。

「アンタ…」

 哲平の不審に満ちた目で睨まれ、

「青木だ」

 そう言って無造作に黒い定期入れを哲平に放った。その表面に『警視庁』と書かれている。定期入れではない。哲平はムスッとしたままそれを開いた。

「ふう〜ん。捜査4課、マル暴か…」

 マルボウ?って暴力団関係だっけ?

「で、青木さん。これは仕事?」

 哲平が、僅かに口元を釣り上げ、試すよう口振りで話し始めた。左手で助手席のシートを掴み、グッと前に乗り出す。

「…仕事だ」

「仕事ねぇ」

 二ヤリと微笑みを浮かべる哲平の横顔。

「オレって警察のお仕事って、どんなのか知らないけどさ。普通、張り込みって二人一組でするんだよな」

「張り込み?」

 私は哲平の横顔を見る。何なのよ。張り込みって。

「ずっと、コイツのことつけ回してただろ」

 何だと?

 あの視線はコイツのモノだったのか?

 青木さんのハンドルを握る手がピクリと動いたが、返る答えがない。

「勘で言ったわけだけど、やっぱりそうみたいね。それでなきゃ、あんなタイミング良く現れないよな?ついでに言えばオレ達を車で拾うよりアイツらを銃刀法違反で逮捕してくれればよかったのにね。ヤツらを捕まえるよりオレ達のコトの方が大事ってわけ?アリガタイコト。で、何か掴めましたか?刑事さん」

 わざと挑発するように哲平は続ける。

「ところで、パートナーはいらっしゃらないのですか?さっきから、何の連絡も入れられていないようですが」

 勝ち誇ったような哲平の声音。

「いる訳ないよな。アンタが勝手に調べてるんだろ?」

 哲平の台詞から暫く間をおいて青木さんから出た言葉は、冷たく淡々としていた。

「分かってるのか?相手はプロだ。本物の暴力団だ。ヤツらに殺され掛けたんだぞ」

 暴力団…

 薄々は、分かっていたけど、こうもはっきり言われるとかなりショックだ。

「お嬢さん。いい加減、私に本当のことを言って、覚醒剤をお渡しいただきたいですね」

 今度は私の方に一瞥をくれる。

「何も言う事ないぞ。コイツのこれは、仕事じゃない。勝手にコイツがやってることだ」

 哲平に睨まれても、首を横にも縦にも振れない。何も知らないのだから、何も言えるはずはない。

「答える義務なんかねぇよ」

「さすが、あの開林学園を主席で合格しただけはあるな。頭がいい」

 褒めてるのか、けなしているのか分からない淡々とした声で、そんな事も調べていたのかと言う事を事も無げに言い放つ。

「主席で合格したのは、コイツの双子の片割れ『薙子』の方だ」

 振り向き様に、親指で自分を指されギクリとした。『薙子』…私は、あの高校を主席で合格した。『篤子』が同じ高校を受けると聞き、差を付けたいが為に、必死になって勉強したのだ。浅ましくて醜い私のつまらない意地。

「あの女、絶対、オレのこと嫌っていたよな。同じクラスになっても、一度として喋らなかったモンな」

 あの女とは、要するに私、『薙子』の事だ。

「何が気に入らないんだか、完全にオレを無視してたな」

 無視はしてない、と思う。

「時々、オレのこと睨んじゃってさ」

 それは、アンタが馬鹿な事言って、その軽薄極まりない顔を見せるからだ。

「人のことを馬鹿にしたように見やがって。頭のいい女はアレだから嫌だね」

 ムカッ

「オレが一位を取ったときなんか、めちゃめちゃ気分良かったぜ」

 ムカッ、ムカッ、ムカッ。

「アンタねぇ」

 私の額の青筋が見えたのだろうか、哲平は、しまったといった顔を見せた。

「ゴメン。死んだ人間のこと…」

「あ…」

 本当にすまなそうな顔が私に向けられ、今度は私の胸が痛んだ。

「アッちゃん。『薙子』の事、好きだったのにな」

 …そうだった。

 『篤子』はこんな私を好きでいてくれた。

 私にはわかっていた。そして、哲平にもチャンと見えていた。

『篤子』はそういう人間だった。

本当に皆のことを愛していた。

複雑な気持ちになった。嬉しいような、悲しいような…

「でも、どうして、自分の親父、あんなに嫌ってんの?いつも、父親に関してだけは棘があったよな?」

 哲平の疑問に私は耳を疑った。

まさか?

篤子は父親とも上手くやっていたではないか。私は、『あのコト』があってからは、父さんを嫌っていたが、篤子は両親共に、同じような優しさを持って、接していた。

 あのコトとは、小学生最後の日、父の小さな裏切り。父は卒業式に必ず来るとの約束を破り、急な仕事でシンガポールへ行ったのだ。私はすごく怒ったような気がする。篤子は『仕方ないよ』って言っていたけど、私は頭で分かっても、どうしても許せなかった。

 卒業式が終わり、篤子と二人で街に出たとき、私達は海外にいる筈の父さんを見てしまったのだ。篤子は『きっと、よく似た人だよ』って言っていたけど、アレは絶対に父さんだった。嘘を付いて私達との約束を破ったのが許せなかった。

 嘘を付くなんて、きっと浮気だ。勝手にソウ思った私は、その後も父さんと会話しなくなり、それ以来ずっとギクシャクして今に至っている。今、思えば単なる見間違いかも知れない。けど、あの時はシンガポール土産を前に、怖くて確認も出来なかった記憶がある。

 ただ、それだけのことだった。

 もしかして、篤子も父さんに嘘を付かれたことを怒っていたのだろうか?

 私は、本当に『篤子』について何も知らなかった。篤子の友人も、篤子が父に抱いていた気持ちも何もかも、初めて知ることだ。

「アッちゃん?」

 黙りこくった私を不思議そうに見つめる。

 コイツについても、何も知らない。三年間、友達をしていたと言うが…

 友達ねぇ。

 少し、ホッとした。この『ホッ』は何なのかよく分かんなかった。篤子がこの女関係の荒い男と付き合ってなくて、ホッとしたのかもしれないし、これから私がそんな付き合いをしなくてもいいと思って、ホッとしたのかもしれないし、どちらでもいいけど…

「君達は、本当に私に話すことはないのか」

 赤信号で車が停止したとき、溜息混じりの声が運転席から聞こえた。

「何もないって言ってるだろ!」

 何度目かの、発展のないやり取りに青木さんはウンザリした様に煙草を取りだした。車に備え付けられたライターで火を付けると車内に煙が充満する。青木さんが運転席の窓を僅かに開けると、ヒンヤリとした夜気が私の短い髪を揺らした。

「では、私の方から話そう」

 青木さんの冷ややかな言葉と共に、車が走り出し私の髪を一層激しく揺らした。

「数ヶ月前、暴力団の麻薬売買の大々的な摘発するはずだった。ところが数ヶ月に渡る念入りな調査にも関わらず、相手に見破られ、無駄足を踏まされたわけだ」

「現行犯が基本だモンな。でも、指定暴力団だったら適当な理由付けて引っ張れるんじゃないのか?」

「暴対法はそんな簡単な物じゃない」

 徐々に不安が私を支配し始めるのに対し、隣に座る哲平は呑気に構えている。

「しかし、その後オレは山岸組系暴力団についての覚醒剤取引の情報を手に入れた」

 山岸組って言うと、全国に支店じゃなくて支部を持つという、関東最大の広域暴力団の事だったかな…

「そこで、アンタはお得意の単独行動に走ったってコト?」

 哲平の鋭い突っ込みに、青木さんが口元まで運んでいた煙草を止めた。

「やはり、君達は何か知っているようだな」

「知るかよ。ただ、何度も無駄足を踏まされたと言うことは、警察内部に情報を漏らしている者がいてもおかしくはない。アンタはそれを見越し、その情報を警察には流さず、単独行動を取った。それまでのアンタの行動と会話を聞いていれば、誰でもそのぐらい察しがつくさ」

 そこまで私は考えなかった。だけど、哲平は平然と青木さんの言葉の先を読む。青木さんは黙って自分より遙かに若い男を横目で見る。哲平はそんな視線を無視して言葉を続けた。

「まぁ。暴力団と警察の癒着なんて今に始まったことではないけどね。切りたくても切れない縁だな。政治家とゼネコン。西の武器商人と東のテロリスト。縁は続くよ何処までも」

 やけに毒を含んだいい方をし、哲平は皮肉な笑みを浮かべる。

「で、アンタは悪者をこらしめることが出来たのか?」

 普段学校では、見られない冷たい瞳をした哲平が揶揄するように訊ねる。答える方もかなり淡々と冷たい。

「12kgの覚醒剤を押収した。純度七〇パーセントの韓国モノだ。ところが、警察に運ばれる途中、忽然とそれが消えた。始めは奪い返されたと思ったが違った。ヤツらもその覚醒剤の行方を血眼になって捜していた。その後、暫くして、若者達の間で極めて純度の高い覚醒剤が出回りだした。オレは何とかソレを入手した。韓国産だ。それが消えた覚醒剤だと悟った。恐らく組の人間もそれに気付いたんだろう」

 じゃあ、つまり『篤子』がその覚醒剤を横取りして売り捌いていたとコイツは言いたい訳か?

「上手く売れば三億にはなる」

 三億って、それを篤子が?

「お嬢さん。薬を何処に隠したのか教えてくれる気になったか?名門高校の君には必要ないと思うが」

「知らないわよ!」

 何だか、その口調が気に入らなくて、思いっ切り怒鳴ってしまっていた。『薙子』の時なら、しょっちゅう怒鳴っていたが、『篤子』になってからは、久しぶりだった。今まで『篤子』になっていたストレスがかなり堪っているような気がした。その怒鳴り声に、一番驚いていたのは哲平だった。やはり、『篤子』はこいつの前でも、こんな風に怒鳴ることなど絶対しなかったのだろうか?

 哲平は『篤子』が薬を売っていたことを知っていたけど、私は本当に何も知らないのだ。

「全く強情なお嬢さんだ。ようやく覚醒剤の出元が判明したと思えば、あの火事だ。もしかしたら、あの火事もヤツらの仕業かも知れないのだよ。分かってるのか?血の繋がった姉妹を亡くして良心は痛まないのか?まぁ、もっとも彼女も…」

「止めろ!」

 語気を強めた哲平の声が私を救ってくれた。

「オレ達には関係のないことだ」

 もう、関係ないなんて言えない。もしかしたら、あの火事で私も死んでいたかも知れない。そうしたら篤子は心を痛めた?

 痛めないはずがない?

 では、どうして私には何も言わずドラッグを売るような真似をしたの?

「君はジャンキーには見えないが、金か?金が目的で覚醒剤を売り捌いていたのか?」

 その刑事はさらに棘のある言葉を私に突き刺してくる。

 それは、私が知りたいことだ。

 心の中で、何かが砕けそうになる。

 必死でそれをくい止める。

 『篤子』はそんな人間じゃない。

 篤子は、

 篤子は…、どんな人間?

 もう、知ることなんて出来ない。

「あぁ、そういえば、お嬢さんは一度はドラッグをやったことがあるだろう?火事の前の日。『エリミン』だ」

「…エリミン?」

「赤玉の事だ」

「…アカ…ダマ?」

「ベンゾジアゼピン系睡眠鎮静剤。合法的なドラッグだ。通常は病院でなければ手に入らないモノだが」

「私が…?」

 そんなモノ、私は一度として使ったことはない。

「お嬢さんを治療した医師が言っていた」

 そういえば、この刑事は私の入院中にも来て、睡眠薬がどうとか言ってたっけ?

 何かの間違いではないだろうか?

 その時、明らかに困惑した私の表情を、それ以上に訝しげに青木さんが見ていることなんか、私は気にも止めなかった。

「残念ながら、もうすぐ家に着くよ」

 そう言われて、私は窓の外に視線をあげる。確かに見覚えのある風景が見受けられる。

「アレは?」

 哲平の声に、私は彼の視線を追った。私のマンションの左側に設けられた駐車場に、夜中だというのに人集りが出来ている。その中で、赤の強い光が揺れている。

 救急車だ。

 嫌な予感がする。

「警察も来ているようだな」

 キリキリと胃が痛み始めた。青木さんは車が邪魔にならないように駐車場の隅に止め、外に出る。私達も同じようにドアを開けた。

 湿気を含んだ冷たい風が、私にまとわり付く。青木さんは、足早に制服姿の警官を見付け事情を聞き出している。

 私は、決して強くない風に追われるように人混みに近付いていく。私の足は人集りを擦り抜け、その中心に向かおうとする。

「…まぁ…まだ…」

 人集りの中の男の声。

「…災難…続くのも…すね。」

 中年の女性の声。

「…奥さん…倒れ…て病院…」

 耳慣れない声。

 何があるの?

 射るような速さで青木さんがこっちを見た気がした。

「ダメだ。見るな!」

 青木さんの声?

 さっきまで、あれ程冷静だったとは思えない声。力強い手が私を掴むのと、ソレを見たのはほぼ同時だった。


 お父さんだった…


 お父さんの赤い血がアスファルトを染めている。

 何が起こったの?

 湿気を含んだ夜気に血の臭いが噎せ返る。

 脳が思考を拒否する。

「見るな」

 低い声と、大きな腕が、私を引き寄せる。

 もう瞳は濃いグレーの生地を写しているはずなのに、網膜には鮮やかな血の赤がクッキリと刻まれ、それ以外の何物も受け付けない。力強い腕が後頭部から回され、視界を遮っているはずなのに瞼を閉じることなく、私は見えるはずのない父さんを見ていた。

 音は耳を素通りする。

 何が聞こえる?

 ハキハキした若い警官の声?

「青木さん。実は、被害者が落下したと思われる屋上から、被害者の娘が走り去るのを目撃した人がいるようです」

 この警官は何て言ってる?

 私が、走った?

 何処から?

 思考できない。

 ナニ?

 ワカラナイ。

 ここは、ドコなの?

「…まさか、ユウリ?」

 哲平の声。でも、その声も、耳に入ったはずなのに全て素通りして思考するに至らない。

 何を言っている?

 わかんないよ。

 ダレカ教えて。

 私は誰?

 遠くで声が聞こえる。

 ワタシを呼ぶ声?

 それともアナタを呼ぶ声?

 もう、ワカンナイヨ。






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