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April 9th,4

「ちょ、ちょっと待っ!!」


希は刀を握り締めたままおろおろしつつ敵側の狼に振り向くも同時に狼が襲い掛かり、体当たりで希を吹っ飛ばした。希は防ぐ事も出来ず吹っ飛ばされて地面を転がり、それから痛みに耐えながらもすぐに立ち上がった。


「も、もしかしてこれであの狼を倒せって事……!?」


立ち上がった希は持っていた刀を見つめてからまた敵側の狼にすぐに視線を向ける。敵側の狼は殺る気満々と言わんばかりに牙を剥き出しにして威嚇をしていた。四本の足で地面を踏み締め、先程のようにまた体当たりをしてこようとするつもりらしい。希は覚悟を決めたように刀を両手でしっかりと握り締め、敵側の狼を睨みつけた。敵側の狼は後ろ足で地面を蹴り、また希に飛び掛かってきた。


「んの、っ!!」


若干斜め前へ移動するように右足で踏み込んで刀を勢いよく振り下ろす。が、振るタイミングが早かったのか空振りしてしまい、狼には当たらず先程と比べて掠るようなダメージではあるものの攻撃を受けた。狼は希に掠るような攻撃を当てながら通り過ぎて着地すると希に向かって振り向きまた飛び掛かろうと地面を踏み締めて唸り声を上げ、睨みつけてきた。


「し、失敗……!」


しまった、と狼に振り向き冷や汗を流し焦りながらもすぐに希は首をぶんぶんと横に振ってまた気を引き締め、刀を構え直した。するとまた狼は飛び掛かってくる。次こそは!


「ふんぬ、ぶはっ!!」


縦に大きく振りかぶって斬りつけようとするが振り下ろす前に狼が希の腹に体当たりをかまして大きく吹っ飛ばした。吹っ飛ばされた希は教室の壁に叩きつけられどし、と尻餅をつく。呻き声を上げながら何とか刀を杖代わりにして立ち上がる。


「今度こそ、今度こそっ……!」


ぐっ、と痛みに耐えるように悔しそうに歯を食い縛りながら刀を両手で握り締めて狼にしっかり視線を向けて振りかぶりながら走り出した。狼もまたもや体当たりで迎え撃つ。今度は間合いも良く、刀はしっかりと狼に振り下ろされた、はずだった。


「っ……あっ!!」


本人は真っ直ぐ振り下ろそうとしたつもりなのだろうか、持った事のない重い刀を持ったためか、運動が苦手でもうスタミナが切れたためか、狼に攻撃された傷が痛んだのか。……斜めに大きくずれて空振りしてしまった。希はやばい、と振り下ろし終えながら顔を青くしながら呆気なくまた狼に体当たりをされて吹っ飛ばされ、地面をまたごろごろと転がる。

その様子を見ていた神奈は唖然としていた。


「……ここまでポンコツなの、彼って……」


ぼそりと神奈は呟く。ここまでへっぽこなんて。神奈は呆れと驚きを混ぜたような表情で立ち上がる希を見ていた。攻撃は空振りするばかり、敵側の狼は攻撃を一度も受けていない。そしてもうスタミナが切れる。男なのに、もう高校生なのに。ここまでポンコツとは。


「ま、……まだ……!」


しかしそれでも希は痛みに耐えながらまた立ち上がった。呼吸を乱しながら視線を狼に向けて刀を振りかぶりながら待ち構える。


「来い……来い……来い……!」


「野球じゃないんだから、貴方から近づいて攻撃しなさい!」


彼のヘッポコ具合を黙って見ていた神奈が口を開いた。呆れたようにイラついたように言い放った彼女の声を聞いて希は慌てて振り向く。


「お、俺から近づいて……!?」


「当たり前でしょう、攻撃しなきゃ貴方が殺されるのよ! さっきは走り出して攻撃したでしょう!?」


「っ……!」


マジかよ、とでも言いたさそうな顔で問うも神奈はイラついたように言いながらこちらをじっと睨みつけてくる。狼にも不思議な転入生にも睨みつけられるなんて!希は情けない表情を一瞬神奈に見せながらももう一度狼に視線を向ける。狼はまた体当たりをしようと地面を踏み締めてスタンバイをしていた。


「わかったよ、わかったよ……俺からだね……俺から攻撃しに行くんだね……倒される前に……殺られる前に……!!」


両手で刀を握り締めてぶつぶつと呟きながら狼をまた睨みつける。狼はもうすぐ体当たりしてくる。もう飛び掛かろうとしている。戦わなきゃ神奈が死ぬ。逃げたら皆も死ぬ。俺も死ぬ。その前に……殺される前に……倒される前に……!


「倒す!!」


刀を両手でしっかり握り締めて駆け出す。駆け出しながら大きく刀を振りかぶった。狼も希が駆け出したと同時に後ろ足で地面を蹴り、飛び掛かってきた。希は大声を上げながら狼目掛けて走る。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


しかし向かってくる狼を倒そうとするのに夢中だったのか、地面に転がっている椅子に気づいていなかった。その椅子は希の走る方向の地面に転がっていたのだ。希は気づかずに大声を上げながら全力で走り続け、地面に転がっていた椅子に足を引っ掛けて盛大に前から突っ込むように転んだ。


「ぶはっへぶふっ!!?」


変な声を上げながら転び、その拍子に振りかぶっていた刀を手放してしまった。手放された刀は宙を舞う。狼は体当たりが当たる直前に希が転んでしまったせいで転んだ希の上を通り過ぎてから着地した。神奈は深いため息を吐きながら右手で自分の顔を覆いながら項垂れた。ポンコツにも程がある、彼に賭けるんじゃなかった……と思っていたその時。





ザグンッ、と何かが突き刺さる音がした。





「…………え?」


目を手で覆って項垂れていた神奈は音に気づき、手を降ろしながらばっと顔を上げてみる。見てみると、敵側の狼の胴体には刀が貫通していた。敵側の狼は何があったのかわからない、というような様子だったが刀が自分の胴体に刺さった事に気づきふらふらし始める。どうやら転んだ時に希が手放した刀の落ちてくる先に偶然敵側の狼がおり、刃先から落ちて狼の背中から刺さったのだ。偶然過ぎる奇跡に神奈は思わず口を大きく開けて唖然としていた。


「……あれ?……あ、倒した?」


転んでうつ伏せで倒れていた希は痛そうに顔を擦りながら起き上がると敵側の狼に自分の刀が刺さっているのに気づいて驚き、ぽかーんとしていたが少し嬉しそうに僅かに笑みを浮かべながらさっと立ち上がってすぐに敵側の狼から離れた。


「倒した……!」


「……ええ。まぐれで、ね」


嬉しそうに安心したように神奈に駆け寄って言う希に神奈はまだ唖然としながら少し呆れたような口調で振り向きながら返した。

刀が胴体に刺さった敵側の狼はふらふらとし続け、ばたっと倒れた。すると敵側の狼から何やら黒い煙のようなものがシュゥゥゥゥ、と音を立てて吹き出始め、狼の姿もだんだん消えかかっていく。黒い煙のようなものは倒れている狼の真上に集まっていき、黒い球体となり始める。少し経つと狼の姿は完全に消え、その場には黒い球体と狼に刺さっていた刀が残った。と、球体は黒色だったがだんだん色が変わっていき、綺麗な光を発する白い球体となった。


「……何だこれ」


その場で浮遊する光を発する白い球体に恐る恐る希は近づこうとすると、突然後ろからバウッと鳴き声が聞こえてビクッと跳ねながら素早く振り向く。後ろには先程助けにやって来て自分と契約してくれた灰色の狼がいたのだ。希は少しほっとしながら灰色の狼を見つめていたが灰色の狼はすたすたと浮遊する白い球体へと近づいていき、目の前まで行って球体に顔を近づけると一気にばくっと球体を食べて飲み込んだ。


「え、食べちゃった……大丈夫なのか食べちゃって」


「これでいいの。倒した後に残るこの『ライフエナジー』は大事なのだから」


球体を食べた灰色の狼を心配する希に神奈が答えた。希は灰色の狼をじっと見つめてから神奈に振り向く。


「あ、あのさ、……一体どうなってるんだよ、本当に……今のだけじゃなく今までの色々とかなんなん」


だ、と言いかけた時。教室のもう片方の破壊されていない扉が勢いよく吹っ飛んできた。驚いて素早く振り向くと、今勢いよく吹っ飛ばされた扉の入り口から先程倒したのと同じ狼が唸り声を上げながらのそのそと入って来た。


「げ……! まだいるのか……!」


入って来た狼を見て一度後退っているともう一方の入り口からまたもう一匹狼が入ってくる。二匹とも牙を剥き出しにして希と神奈と灰色の狼を睨みつけた。


「今度は二体同時ね。……貴方にも手伝ってもらうわ、私は今戦えない状態だから」


神奈は傷を押さえながら二匹の敵側の狼を見つめ、それから灰色の狼に視線を向けてそう声をかける。灰色の狼は神奈を見つめて了解というように短く吠えて返事をした。希もすぐに刀を拾い上げて両手で握り締め、灰色の狼と一緒に並んで構える。敵側の狼の一匹は希を、もう一匹は灰色の狼を狙うように牙を剥き出しにしながら睨みつけてきた。


「……じゃあ、俺はこっちと戦うからね。そっちを頼んだよ」


刀を構えながら希は隣の灰色の狼に言うと、灰色の狼はまた返事をするように短く吠えた。それからすぐに灰色の狼は後ろ足で地面を蹴って敵側の狼に飛び掛かっていった。敵側の狼も灰色の狼と同時に後ろ足で地面を蹴って飛び掛かり、お互いぶつかり合うも敵側の狼が簡単に吹っ飛ばされて地面を転がっていく。敵側の狼はすぐに跳ねるように立ち上がるも灰色の狼は容赦なく立ち上がっている最中の敵側の狼に向かって一気に駆け出して間合いを詰めると右前足の鋭い爪で敵側の狼を攻撃した。敵側の狼は爪による攻撃を受けて唸り声を上げながら後ろへ下がっていく。


「……強っ」


灰色の狼の戦う様子を見て思わず呟いてから自分も戦おうと自分と向かい合っている敵側の狼に握り締めた刀の刃先を向けた。こっちの狼は口を開きながら飛び掛かってきた。大丈夫、さっきの感覚を思い出せば。希は気を引き締めながら刀を構えつつ、飛び掛かってきた狼を間一髪何とか避けた。呼吸を乱しながらもすぐに狼に向かって振り向いて走り出し、刀を大きく振りかぶって振り下ろす。本人は真っ直ぐ振り下ろしたつもりだがまた斜めにずれるように振り下ろしてしまうが刃先は狼にちゃんと当たり、攻撃を受けた狼は唸り声を上げながら素早く跳び下がった。


「当たったっ……!」


当たったのを確認して呼吸を乱しながらまたすぐに駆け出し刀を今度は下から斜めに乱暴気味に振る。狼はまた跳び下がって避け、刀は近くにあった椅子や机を蹴散らしていく。ぜえはあ、と息を切らしながらも疲れたのを我慢してまた駆け出すようにぐいっと近づいていき、もう一度狼に向かって大きく刀を振った。狼は跳び下がって避けようとしたが希の攻撃が早かったようで跳び下がろうとする最中腹を斬りつけられて跳び下がりに失敗、跳び下がってはいるものの着地に失敗して地面を転がった。


「よし、この調子でや」


呟きながら駆け出そうとした時、もう一匹の敵側の狼が突然勢いよくこちらに吹っ飛ばされてきた。どうやら灰色の狼の攻撃で吹っ飛ばされたらしい、希は反応出来ず敵側の狼と激突して一緒に吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。叩きつけられた際に頭も強く壁にぶつけてしまい、意識が朦朧とし始める。


「っ……!!っ、し……!」


しまった、とぶつけた頭の場所を押さえながら何とか気をしっかり持って立ち上がろうとするが視界が歪んでいく。目眩や吐き気、そして出来た傷の痛みのせいで上手く立ち上がれない。灰色の狼がすぐに助けようと駆け寄ろうとするも自分が相手をしていた敵側の狼が飛び掛かり、灰色の狼は相手をする事に。


「だ、……めだ、戦わ……な、きゃ……気をうし、な……っちゃだ……め、だ…………!」


呟くように自分に言い聞かせながら刀を握ろうとするが握る力も入らなくなる。刀を持てずに落としてしまった。起きろ、しっかりしろ。心の中で自分に向かって言いながら何とか気合でもう一度立ち上がろうとする。ぐっと力を込めて勢いで立ちかけたがすぐにふらっとその場に倒れてしまい、希は意識を失うのだった。






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