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April 14th(前書きアリ。チェックお願いします)

今回の話から登場する子ですが、親御さんから許可を頂いてお借りさせて頂きました。本当にありがとうございます。この子の他にも親御さんから許可を頂いてお借りさせてもらった子も出てきますので、どうかよろしくお願い致します。


「休校の連絡とかも無かったし、特に学校内に被害は無かったのかな」


次の日。希はぶつぶつと呟きながら神奈と歩いていた。夜満兎高校はいつものように全員が登校しており、希と神奈も夜満兎高校へと入っていく。昨日は魔物カマキリや巨大魔物カマキリの戦闘で夜満兎高校は滅茶苦茶気味になっている所もあったようだ。

三年生教室のある三階の廊下の窓ガラスは全て割られて廊下にガラス片が散乱しているだけでなく、一年の教室や二年の教室がいくつか机や椅子が散らばり壁や黒板に傷が出来ていたりと荒れている場所もあったという生徒達の話を廊下を歩いている途中に聞く。


「……と思ったけど被害出てるね、学校内でも。……俺の他にも学校にいたんだな、契約者」


「ええ」


1-E教室へと向かいながら希が聞くと隣にいた神奈は視線を一度も向けずに歩きながらそう答えた。その話をしている途中、黒いローブを羽織りフードを被った者が希と神奈の二人とすれ違う。希の口から出た契約者、という単語を聞いてその場で黒いローブを羽織った者は突然立ち止まった。立ち止まった黒いローブを羽織った者はすれ違っていった二人に向かって、フードから出ている三つ編みにした美しい亜麻色の長い髪を揺らしながら振り向いた。


「…………」











一方希と神奈の二人は1-E教室に入り、自分の机に鞄を置いて支度を始める。もう他にB組の生徒や別クラスの生徒がE組教室で喋ったりしていた。


「おはよう、希、久那霧」


「おっす!」


支度をしていると椿と和也がやって来て挨拶をしてくる。希も「おはよう」と挨拶を返す。神奈は何も言わずに椿と和也の二人に視線を向けた。


「なあなあ聞いたか? 昨日この高校ででっけえ怪物が出たんだってよ。証拠の動画撮った奴いるらしいぜ、ほら」


「え!?」


和也が突然振ってきた話題に希は思わず声を上げながら支度をする手を止めて素早く振り向いた。和也はスマホを操作して何処かのネット掲示板を開き、その内容を見せる。希は一旦自分の席から離れて和也と椿に近づき、和也のスマホ画面を見た。神奈もその後ろから少しだけ身を乗り出して見てみる。




                 【〇〇高校に化け物?】




掲示板のタイトルにはそう書かれてあった。そして最初の書き込みには撮った動画らしきものがあり、和也が指でタッチして動画を再生させる。動画の内容はあの巨大魔物カマキリが高校で暴れているという動画だった。掲示板のタイトルは「〇〇高校」と隠されていたがこの動画に映っている高校は間違いなく夜満兎高校だ。巨大魔物カマキリは丁度三階の窓ガラスを鎌のような前脚で次々と壊していっている最中だった。昨日の出来事がいつの間にか誰かに動画を撮られていたようだ。幸い、動画の再生時間は三十秒もいかずすぐ終わった上、希も神奈も一回も一瞬も映らなかった。掲示板には「これマジ?」だの「合成乙www」だの「やべえww日本オワタwww」「合成とはいえよく出来てる」「撮った奴引き籠りかよwww合成wwwww」だの色んな書き込みが載っている。


「……うわあ」


「……やばくねえか、これ。絶対合成とかじゃなくて……マジの化け物だよな」


「完全にうちの高校だな。まさかこんな巨大な化け物もいるとは……」


希は唖然としながら動画と書き込みを見る。和也は少し不安そうな表情を浮かべながらスマホの画面を消してポケットに仕舞い込んだ。椿も腕を組み険しい表情になっていた。和也と椿の二人を交互に見てから頭を掻きつつ「うん」と希はそう呟くように答える。

そんな会話をしているとチャイムが鳴り、教頭がE教室に入って来た。B組の生徒達は席に座る。


「皆さんおはようございます。今日の日程ですが急遽、今日は配り物をしてからすぐに下校とさせていただきます。昨日の放課後辺りに三階廊下の窓ガラスが全て割られ、いくつかの二年生教室と一年生教室の席や椅子が散らばり、壁や黒板にも傷があるという事が分かりました。今日は警察の方々が捜査をするので皆さん、すぐに下校するようにお願いします。では、今から配りますよ」


教頭は深刻そうな顔でそう告げると配り物である紙数枚を一番前の席に座る生徒達に渡して後ろへ回させる。自分の分を受け取って後ろへ回しながら希は配られた便りの内容を見てみた。内容は学校内で起こった事件の事だった。現在でも1-B教室は警察の方々が捜査中とあり、まだ続くのかと希は心の中で呟きながら便りを鞄の中へ仕舞う。


「これで以上です。皆さん、今日は寄り道せずに気を付けて真っ直ぐ家に帰るようにしてくださいね。では、さようなら」


教頭は小さく笑みを浮かべてそう告げると1-E教室から出て行った。教頭が出て行くとB組の生徒達は喋りながら帰る支度を始める。丁度他のクラスも終わったのか一気にどっ、と喋り声が聞こえてきた。


「昨日より早く終わったなぁ。でも流石にこの時間のまま家に帰るのはなー……今日こそ寄り道して帰るか」


和也は教室内にある時計を見てそう呟く。時刻は九時三十七分。HRをしただけで今日は学校は終わった。


「……神奈はどうしたい? もう下校だけど」


和也の呟きを聞いて希も時計を眺めてから神奈に振り向いて聞いてみる。神奈は帰る支度をしていたがそれを終えて鞄を持ちながら視線を向けてきた。


「決まっているでしょう、この学校にいる契約者についての調査がしたいわ」


神奈はそうさらりと告げる。だよなぁ、と希は呟きながら頷き自分も鞄を担ぐ。そして「行こう」と希は神奈、和也、椿の三人に声をかけていると話し声が教室の入り口前から聞こえてきた。


「え、希に用があるの?」


それを聞いて神奈は教室の入り口に視線を向けてみる。そこには川内、矢代、小野と希を嫌っていつも陰口やら嫌がらせなどをする三人の女子グループが立っていた。教室前にいる誰かと話しているらしい。神奈は耳を澄ませて聞きながらそっと移動して教室前にいる誰かを確認してみる。教室前で川内達女子グループと話していたのは黒いローブを羽織ってフードを被った者だった。今朝、廊下で自分と希とすれ違った奴だ。神奈は瞳を細めて会話を少し離れた場所で聞く。


「……小林希、呼べ」


「ああ、私達が伝えておくから大丈夫よ。どんな用?」


「お前達、用、無い。小林希、用、ある」


「私達に任せてよ、ちゃんと伝えておくから」


「断る。……お前達、知ってる。小林希、嫌ってる。お前達、陰口、嫌がらせ、してる。その事、知ってる。伝言、伝えてくれない。……任せられない。任せたくない」


「え、そ、そんな事ないわよ、ねぇ!? 第一、あんな奴に関わらない方がいいわよ? 関わったら酷い目に遭ったりするわよ?」


「……私、お前達、関わりたくない」


……そんな会話のやり取りを聞いて神奈はため息を吐く。希に嫌がらせするためにどれだけ必死なんだか、と呆れながら川内達女子グループ三人を見つめる。ローブを羽織った相手もあの女子三人が希を嫌って嫌がらせや陰口を言っている事を知っており、用件を伝えてほしいと女子三人に言われても希への嫌がらせで伝えてくれないだろう、と分かっているらしい。このローブを羽織った者はフードを被っている事で表情はあまりよく分からないが声を聞く限り、女のようだ。そして女子三人が邪魔で仕方ないようでその声は次第に苛立ちを混じらせ始める。そして女子三人組もローブを羽織った者が自分達が希にやっている事を知っているのと、ローブを羽織った者が苛立ち始めたのに気づいて冷や汗を流しながら焦り始めた。


「埒、明かない」


ローブを羽織った者は強行突破をするかのようにずい、と歩き出して自分の前に立っている女子三人の間からすり抜けてE教室に入ってきた。「えっちょっ」と女子三人組は慌てて振り向き、止めようと小走りでローブを羽織った者を追い掛ける。わざわざそこまでするか、と神奈はまだ呆れた様子で女子三人を見つめていると女子三人は追いつき、川内がローブを羽織った者の左腕を掴んで動きを止めた。するとローブを羽織った者は掴んできた川内の手を乱暴に振り払いながら振り向く。


「……邪魔……!!」


振り向きながら被っていたフードを摘んで僅かに浮かせ、エメラルドグリーンに光る瞳で女子三人を鋭く睨み付けながら怒りに満ちた声で言葉を漏らした。睨み付けられ怒りに満ちた声でそう言われると女子三人は怯えたようにビクッと震えて二歩ほど後退る。それを見たローブを羽織った者はすぐにまた女子三人に背を向けてずかずかとE教室を歩き、椿と和也と喋っている希に近づいていく。


「……ん?」


ここで希はこちらに向かってずかずかと歩いてくるローブを羽織った者に気づき、少しだけ驚いたようになってからおろおろとする。希の様子に気づいた椿と和也の二人も希と同じように視線をローブを羽織った者に向けるとすぐに希を守るように二人で前に立つ。ローブを羽織った者は立ち止まると自分の前に立っている椿と和也を交互に見てから希に視線を向けて口を開く。


「……小林希、用、ある」


「え、俺に?」


それを聞いて希は不思議そうに椿と和也の間からすり抜けるように前に出てきた。ローブを羽織った者は頷き、黙って手招きをする。希は首を傾げながら鞄を担ぎ直してまた一歩近づく。


「二人とも先帰ってて、ちょっと俺は後で帰、……!?」


椿と和也に振り向いてそう言っていると、突然ローブを羽織った者は希の手を掴むようにして引っ張りながら歩き出した。希は軽くよろけながらも引っ張られつつ慌てて歩く。

それを見た椿と和也は「おい!」と声を上げながら慌てて追い掛けようとするも神奈がやって来てそれを止めると希とローブを羽織った者の後を追い掛ける。


「な、何、何!? どうしたの!? 何の用なの!?」


「場所、悪い。……場所、変える」


引っ張られ歩きながらE教室を出て、焦り気味に聞くとローブを羽織った者はちらりとこちらを振り向いて言ってからまた進行方向の前方に顔を向けて歩き続ける。ローブを羽織った者は希の手を引っ張りながら歩いていると後ろを振り向く。自分達の後ろから神奈が追い掛けてきており、その神奈の後ろからも何故かあのさっきの女子三人組が追い掛けてきていた。ローブを羽織った者は女子三人組の姿を見てため息を吐きながら立ち止まり、希の手を離す。






「……しつこい」






「え、……!!」


ローブを羽織った者がそう呟くと右手を自分の胸の前まで持っていき、ゆっくりと手を開く。希はその呟きを聞いて振り向き、そして瞳を大きく見開いた。ローブを羽織った者の右手の掌には鋭い茨の薔薇が何本も現れ、いくつか茨同士が絡み合うようになって何かを包んでいるような形態になって深く絡んでいく。それから少し経つと何かを包み絡んでいるようになっていた何本もの薔薇は一瞬で茨を解かせながら花弁を飛び散らせて消え、右手には茨と薔薇を思わせるような横笛が現れた。


「まさか……!」


ローブを羽織った者は現れた横笛を後ろから来ている女子三人組に見られないように背を向けて横笛を隠すようにしながら吹き始めた。吹かれたのは穏やかな音だった。これは子守歌だ。聞いていると何となく心地良いような……そう思っていた時、女子三人組の悲鳴を聞いて希は素早く視線を女子三人組に向けた。


「何これ!? 何で茨が!?」


「いたっ、棘がぁ!」


見てみると、女子三人組は一階の窓から伸びてきた長い茨に巻き付かれて動けなくなっていたのだ。希は慌てて助けようとするもローブを羽織った者は今のうちと言わんばかりに希の手をまた掴んで引っ張りながら駆け出す。茨に拘束されなかった神奈も後から駆け出した。























「や……やっと止まった……」


ぜえはあ、と息を切らしながら前屈み気味になって呼吸を希は整えようとする。走り続けて辿り着いた場所は体育館倉庫だった。ローブを羽織った者は体育館倉庫の扉や窓を何回も見て確認し、窓を体育館倉庫内にある道具などで隠したりとしていた。窓を隠したせいか太陽を遮り、体育館倉庫内は薄暗くなる。相手の様子を見ながら乱れた呼吸を整え終えた希は思い切って聞いてみた。


「……君は、……契約者?」


「…………」


そう聞いてみると、体育館倉庫の扉の隙間から外の様子を伺っていたローブを羽織った者はゆっくりと振り向く。ローブを羽織っていた者は黙って希と向かい合い、じっと見つめてくる。希も黙って見つめ返した。それからローブを羽織っていた者は被っていたフードをゆっくりとはずし、美しい亜麻色の長い髪を揺らしながら顔を希に見せた。フードをはずしたローブを羽織った者……少女は綺麗なエメラルドグリーン色の瞳で希をじっと見つめながらこくん、と頷いた。


「やっぱり!……じゃあ、あの巨大な魔物のカマキリを攻撃したのも……君?」


また聞いてみるとローブを羽織った少女はまたもやこくん、と黙って頷く。


「そう、か……! 昨日は助けてくれてありがとう。実を言うと危なかったんだ、俺も戦っててさ……!……えっと、名前、は」


「要宮、江練。一年、C組」


ずっと何も言わず頷きだけで返していた事で若干不安になりつつ少し焦り気味になりながらも希はお礼を言い、名前を聞くと少女はすぐに名乗った。この少女の名は要宮(いるみや) 江練(えれん)というらしい。そして一年C組のようだ。


「江練、だね? 俺、小林 希……ってもう知ってるんだよね。んで、俺も契約者」


「今朝、知った。……お前、B組。四月九日、お前、救急車、運ばれた奴」


江練の言った情報は合っている。四月九日。その日、初めて学校に魔物が侵入してそこで自分は初めて契約者となり、ケガをしながらも戦った。戦ってる途中に気を失ってしまったが、ちゃんと救急車で運ばれたらしい。希は苦笑した。


「……よく知ってるね」


「私、地獄耳」


江練がそう言うと、彼女の後ろから何かが今まで隠れていたかのように現れた。現れたのは背中から桃色の蝶の羽を生やした長い金髪の美しい女性だった。羽を動かして軽く飛びながら希をじっと見つめてくる。希はその女性に気づき、驚きながらも自分もフェンリルを呼び出した。フェンリルも江練の後ろから出てきた女性のように自分も希の後ろから突然飛び出てくる。いつの間に、と苦笑しながら希はフェンリルに視線を向けてから江練に振り向く。


「そこの蝶々みたいな羽の生えてる人は……江練の契約魔物、だよね。こっちは俺の契約魔物のフェンリルだよ。悪い魔物じゃないから安心してね」


「……契約魔物、アスモデウス。友達」


フェンリルの頭に手をそっと置きながら希は笑みを浮かべて言う。希の言葉を聞いて江練は頷くと、自分の側を飛ぶ美しい女性の魔物・アスモデウスの手に優しく触れながら紹介した。


「そっか、アスモデウスは友達なんだね。俺達も友達だよね、フェンリル?……ん?」


江練とアスモデウスに視線を向けて小さく笑いながらフェンリルに振り向き聞いてみる。フェンリルはじっとアスモデウスを見つめていた。アスモデウスもフェンリルをじっと見つめ返している。お互い見つめ合っていると、アスモデウスが床に付きそうな程長い金髪を靡かせて羽を動かし飛んだままゆっくりとフェンリルに近づき、片方の手を伸ばそうとする。触ろうとしているのだろうか。


「……触る?」


希はアスモデウスにそう聞きながらフェンリルの頭に置いていた自分の手をさっと退かしてみる。アスモデウスは恐る恐るゆっくりと片手を伸ばす。フェンリルは伸ばしてきたアスモデウスの手に鼻を近づけ、くんくんと匂いを嗅いできた。匂いを嗅がれてアスモデウスは少しぴくっ、と震える。……と、フェンリルは匂いを嗅ぎ続けているといきなり大きなくしゃみをした。アスモデウスは驚いて跳ね上がりながら大慌てで江練の後ろに隠れた。


「……鱗粉?」


自分の後ろに隠れたアスモデウスをちらりと見つめてから江練は希とフェンリルに向かって首を傾げて呟くように言う。アスモデウスは江練の後ろからそっと顔を出してこちらの様子を伺うように見つめてきた。


「あ……鱗粉がついてるのか。じゃあフェンリルはそれでくしゃみをしたと」


希はなるほど、と小さく頷いてからフェンリルに視線を向ける。フェンリルは顔を横にぶんぶんと軽く振って鱗粉を払うようにしていた。その様子を見て希はけらけらと笑う。


「やはり貴方は契約者だったのね」


いきなり体育館倉庫内で声が聞こえ、希とフェンリル、江練とアスモデウスは驚きながら辺りを見回す。すぐに江練が武器である横笛を手に召喚させると先程廊下で吹いた子守歌を吹き始めた。それと同時に茨が何処かから突然現れ、声のした方へと勢いよく伸びていく。そしてその相手を捕えたのか、呻くような声が聞こえた。その呻き声には聞き覚えがあり、希は慌てて駆けつけてみる。


「……攻撃してこなければ敵じゃない、と言おうとしたのだけれどね」


そこにいたのは神奈だった。神奈は三本ほどの茨に巻き付かれて動けなくなっていた。茨に巻き付かれながらため息を吐いてじろ、と希達を睨み付ける。


「江練、待って待って! 神奈は敵じゃないんだ! あと契約者じゃないけど契約者や魔物について色々知ってるんだよ! 本当に敵じゃないから!……多分?」


慌てて希は江練にそう言うと、江練はすぐに笛を吹くのを止めて神奈に巻き付く茨を消した。茨が離れて消えると神奈はふう、と一息ついたように息を吐く。


「私は神奈。そこの彼が言った通り、契約者や魔物については色々知っているわ。そして契約者ではないわ。……まあ、あと一応人間じゃない、という事も言っておきましょうか。これでも私は神の一人よ。信じるか信じないかは貴方次第だわ?」


神奈は腕を組みながらつかつかと江練に少し近づいて名乗り、組んでいた右手をゆっくりと伸ばして広げ、掌から氷を出現させてそれからすぐに消した。江練は神奈の話を聞きながら神奈の出してはすぐに消した氷をじっと見つめてから瞳を閉じて頷く。


「信じる。……お前、神様」


瞳を開き、神奈に視線を向けながら江練はそう答えた。その様子をじっと神奈は見つめてから口を開く。


「……それで、貴方は彼に用事があったんじゃなかったかしら?」


神奈の言葉を聞き、希は思い出した。自分は江練に用があると言われてここまで連れてこられたのだ。希は江練に振り向く。


「用事、ある。……お前、契約者、魔物、知ってる。ここ、いていい」


江練は希に視線を向けてから神奈に視線を向けてそう言う。どうやら神奈もここにいていいようだ。「あらそう」と神奈はふう、と息を吐きながら腕を組みその場に立つ。江練は希、フェンリル、神奈と順番に視線を向けてから頷き、口を開く。


「私、契約者、探していた。……契約者、他、知っているか?」


江練はそう聞いてきた。希は頭を掻きながら少し申し訳なさそうに答える。


「ごめんよ、知らないんだ。昨日の巨大魔物カマキリと戦ってる時に契約者が俺の他にもまだいるっていう事は分かったけど、それが誰かとかどんな人かとか分からないんだよ。正直に言うと、俺以外の契約者を見るのは江練が初めてだったりする」


「……そう」


「……逆に、江練は何人ぐらい他に知ってる? 俺を除いて」


希の言葉を聞いて表情は変えずに江練は頷き返した。希がもう一度聞いてみると、江練はまた口を開く。


「一人。夜満兎高校、一年A組」


「一年にまだいるの!?」


江練の情報を聞いて思わず一歩踏み込むように近づいてしまう。「いる」と江練は頷き答えながら半歩下がる。


「入学時、知り合った。その日、メールアドレス、電話番号、交換した」


「メールアドレスと携帯番号も……!? ちょ、ちょっとその人に会いたいんだけど電話とか連絡してもらってもいい!?」


「問題無い。連絡、いらない。まだ、いる。……来い」


希は慌て気味になりながら江練に近づき、その度に江練は半歩ずつ下がりながら答えた。江練はじっと希を見つめながら首を横に振ってまた答えるとすぐに背を向けてさっさと歩き出し、体育館倉庫の扉から出て行く。江練の後ろに隠れていたアスモデウスもいつの間にか姿を消していた。希も神奈と一緒に体育館倉庫から出て、一旦立ち止まってから後ろを振り向いてみる。フェンリルもアスモデウスのようにいなくなったのを確認すると希はまた歩き出した。


「1-A教室にいる感じなの?」


前を歩く江練に声をかけてみると、江練は黙りながらもこくんとまた頷く。1-A教室にまだいるらしい。前を歩く江練に希と神奈は着いて歩く。そして1-A教室に着くと先に江練が早歩きで1-A教室の入り口から中の様子を見てみる。それから後ろにいた二人に向かって振り向く。


「いる」


江練ははっきりそう言った。それを聞いて希は思わず緊張してしまい、自分の胸に右手を添えながら神奈と一緒にゆっくりと1-A教室の入り口に近づく。江練は先に入り、その契約者に話しかけたのか話し声が聞こえてきた。希は緊張しながら思い切って1-A教室に入る。


「ど、どうも」


希は少し頼り無さそうな声で挨拶をしてみた。





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