妹よ、余計なことはするな②
俺達は朝食を食べ終わり、一休みしている時に事件は起きた。
ピンポーン
チャイムが高らかに鳴り響いた。
「お兄ちゃん、鳴ってるよ」
「分かってるよ」
「……こんな時間に誰だ?」
と言っても一人しか思い当たらないが……。
「和君、おはよー」
「ああ、おはよう……じゃあな」
「えっ!!ちょっと!」
俺は幼馴染みと朝の通学というイベントを回避した。
こいつは気が向いた時に誘いにくる幼馴染みの夢里友香里。性格に裏表があるが顔は可愛い。基本的には優しいが怒ると怖い。以上。
その友香里はというと扉が閉まらないようにしている。
「何?」
「一緒に行こ?」
ちっ、まだ完璧には回避出来てなかったか……。しつこい奴め。だが、妹のできた俺には通用しない。俺は容赦なくフラグを叩き折った。
「そうか、じゃあな」
「えっ!!待ってよ!?」
悪いな、俺には妹と朝の通学という大事なイベントがあるんだ。幼馴染みの好感度を上げている時期じゃあないんだ。
騒がしかったのか琴羽が様子を見に来た。
嫌な予感しかしないな……。
「その人誰?」
そうか、クラスも違うし、転校してからまだ日も浅いから知らないのか……。
「ああ、紹介するよ、幼馴染みの夢里友香里」
「よろしく!その子は?」
「ああ、この子は俺の……」
妹、と言おうとしたら、ニヤついてる琴羽に遮られた。
「和人君の〜彼女の琴羽で〜す、よろしくね♪」
「はああ!?」
やりやがった、こいつ!
嫌な予感は的中してしまったようだ。
対する、友香里はプルプル震えていた。
「和君にか、彼女……」
「うあああああん、和君の馬鹿!」
友香里は泣きながら走り去ってしまった。
イベントの回避は出来たが仲直りという、違うイベントが発生したようだ。
「おい、琴羽……」
「えへへ」
「えへへじゃあねえよ」
どうすんだよ……絶対勘違いしてるぞ……。
「お前も説明するのついて来いよ」
「えー、めんどくさい」
「お前のせいだろうが!」
友香里に後から言われるの確定だな……。奢れとか言われたらどうしよ。金欠なんだけど……真、貸してくれるかな……。
初めて妹との登校なのに、気分は乗らなかった。あんなことがあれば、行く気になんかならないだろ……。
選択肢ミスったかな……。
授業中、どうするかで悩んで、それどころじゃあなかった。むやみやたらにフラグは折るもんじゃあないな……。
「今日に限って、真はいねぇしよ……」
おそらく、寝坊して、来んのがめんどくさくなったとかそんなんじゃあねぇかな。
「使えねーな……」
金を使わずに許してもらえればいいんだけどな……。っていうか、俺って悪いの?琴羽のせいじゃあね?むしろ、悪い要素ない。
おっと、諸悪の根源、妹様が来たようだ。
「お兄ちゃん♪一緒に帰ろー」
危ない危ない、惑わされるところだった。こいつ、すっかり忘れてやがるな、俺の気も知らないで。
「こーとーはーちゃーん?何か忘れてないかな?」
琴羽は小首をかしげる。
ちくしょう、可愛いじゃあねえかああああ!惑わされるな、俺。あいつは誤魔化して帰ろうとしているに違いない。俺の悩んでるのは見てたはずだからな。
琴羽は何か思いついたのか、ポンと手を叩いた。
「お兄ちゃんへの愛情表現?」
「うん、大正解」
「やったあ!」
さすが、俺の妹、妹歴1日とは思えない。やっぱり、兄妹には愛情表現が大事だな。
……あぶねー、マジであぶねー。もう少しで友香里のことが頭からキレイさっぱり抜け落ちるところだった。策士め……。
「っじゃあなくて、友香里のことだよ」
「あー、あったね」
「お前も来るんだぞ?」
「はいはいー」
これが現実妹か……いやでも、チョロすぎるよりはいいか……な。
「じゃあ、行くぞ」
「もう、めんどくさいなあ……」
友香里のクラスまでたどり着いた俺達は唖然としていた。
友香里から負のオーラが漂っている。物凄い落ち込みようだ……。そんな落ち込むことじゃあないだろ……。
「お兄ちゃん、怖いよ、もう帰ろうよ」
「ダメだ、俺も挫けそうだが頑張れ」
今の友香里には全てを寄せ付けない負のオーラが漂っている。正直近づきたくないが、仕方無い……。
「あ、新橋君、あれ、どうにかしてよ」
友香里と同じクラスの子が友香里の方を指さす。
「どうにかしにきたんだけど……手に負えるかどうか……。」
正直、今までで一番厄介だ。諸君幼馴染みが欲しいと嘆いている諸君、これが現実だ。
「授業中もあれだから困ってて……」
「重症だな……」
と言ってもな……どうしよう。
「お兄ちゃん、めんどくさいので早くしよ」
「お兄ちゃん……?」
あっ、やばっ。
「あっ、なんでもないよ」
危ないところだった。バレたらめんどくさそうだからな……。
「琴羽、学校では名前で呼べ」
「あー、そうだね」
ある程度は察してくれたみたいだ……。アホの子だから心配だけど……。
「とりあえず、どうにかしてくる」
「頑張ってね……」
友香里の所まで数メートル……。
「くっ、ここまで負のオーラが伝わってきやがる」
近づくなと言わんばかりの負のオーラが俺達の進行を妨げる。
「友香里、今行くからな……」
今、その呪縛から解放してやる。
「……お兄ちゃん、早くしてよ」
「あ、はい」
せっかくかっこよく決めてるところだったが、琴羽がジト目で睨んできたのでそろそろ辞めよう……。
にしても、負のオーラの量やばいな、天上不知唯我独損で飛ばせないんじゃないか?まあ、そんなことはいい、そろそろ話しかけるか……。
「友香里、大丈夫か?」
「あはは、和君、おはよー」
「もう、昼過ぎだよ」
相当、きてるな……。早くしないと。
「もう、そんな時間?じゃあ帰ろう」
「ああ……」
「お兄ちゃん、どうするの?」
「とりあえず、帰り道で……」
なんか気が重くなってきた……。