なんだ、ただの妹か
「お……ゃん、……て、……よ!」
「なんだ、もう朝か……」
窓から眩しい光が差し込む。
「やっと、起きたぁ」
麗しい少女が俺の上に乗っていた。
「誰?」
「やだなー、愛する妹を忘れちゃったの?」
「妹……?」
そうか、妹か……。
「ありえないな」
「どうして?」
そんなこと決まっている。
「俺には妹はいないんだよおおおおおおおおおおおお!」
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ
目覚まし時計の音が鳴り響く。
「ちっ、夢か」
「あんな夢を見るぐらいやばくなってきてるのか……」
俺はシスコンだ。ただし、妹はいない。
俺は友達から勧められた、アニメにどっぷりはまってしまい、中でも妹物にはまってしまった。
その影響で、妹が物凄く欲しくなっている。現実妹は可愛くないと聞くが関係ない!俺は妹が欲しい!できれば歳が近い妹。
と、こんな感じなので、自分でも気持ち悪いと感じてしまうぐらいにやばくなってきてる。
こんな夢を見てしまったんだ、確実にやばいだろ……。
ただし、嬉しくないとは言ってない。
「学校行くか……」
俺は朝食を食べに1階へ下りる。
「はぁぁぁ」
眠いな……。
俺の家はこの時間基本的に誰もいない。
親父は仕事だし、母は生まれてすぐに死んでいる。物心つく前なので母のことは覚えていない。顔も写真を見たから覚えてるぐらいだ。
朝は誰もいない。
だから、朝食は自分で作らないといけない。簡単な物しか出来ないが……。
「ふぅ……」
俺は、トーストとコーヒーという、いたって簡単な食事を取っている。ちなみにブラックだ。
俺は朝食を食い終わると、準備をして、学校へ向かった。
「妹がいれば、毎日の通学も楽しかったんだろうな……」
妹と並んで仲良く登校……悪くない。
今の通学といえば、一人か幼馴染みと二人で行くだけだ。
えっ、幼馴染みがいて、羨ましいって?馬鹿言うんじゃあない、少なくとも俺の場合は良くない。
毎朝、毎朝、暴力は振るわれるし、愚痴もこぼしてくるし、あと、うるさい。
俺の幼馴染みは周りの評価は良い。容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、それに加えて、ドジっ子という、萌え要素まで兼ね備えてる。男子だけじゃあなく、女子にも好かれている(百合的な意味でも)。
俺に対しては酷いんだよな……せめて、暴力がなかったら……。
そんなことを考えていると、学校のすぐ近くだった。
その時、曲がり角から出てきた人にぶつかってしまった。
「あ、悪い、大丈夫か?」
「はい……」
彼女はペコリと頭を下げて行ってしまった。
「見覚えのない奴だったな……」
うちの学校はネクタイやリボンで学年が分かるようになっている。
俺達二年生は赤の線が入っている。さっきの子も赤だったから同じ学年のはずだ。
「見間違いだったかな……」
それとも、転校生か、ま、どっちでもいいけどな。
俺は遅刻しないように学校へ急いだ。
教室に入ると話しかけられた。
「ギリギリだな」
話しかけてきたのは真だった。
「ちょっとな」
「なんかあったのか?」
ぶつかられただけだ。
「まあ、いいけどよ」
「そう言えば、今日転校生来るらしいぜ、しかも、女の子」
「やっぱりか……」
じゃあ、あの子がやっぱり転校生だったんだな……。
「なんだよ、和人、知ってたのかよ」
「知ってたって言うか、多分、その子に会ったから」
「マジで」
「多分、その子だと思う、見た事なかったし 」
「で、どうだった?」
「何が?」
「可愛かったかってことだよ」
ちゃんと顔は確認出来なかったが可愛かったんじゃあないかな。
「まあ、可愛かったんじゃあないかな」
「おお、そうか」
俺は、知らなかった、この後、新橋和人の人生を変える大きな出来事が起きることを……。
「おはよう」
先生が教室に入ってきた。
「今日は転校生を紹介する」
おおおおおおおおおおおお!とクラスから声が上がる。
「可愛い子かな」
「イケメンだといいね」
皆が色んな事を言っている、女子の皆さん、残念、女子ですよ。
そんなこと思ってる間に転校生が入ってきた。
「さあ、入って」
「千葉の方から転校生して来ました、新橋琴羽です」
「よろしくおねがいします!」
「可愛い子じゃん!」
「女の子か、でも可愛い子だね」
クラスの反応はこんな感じだ。俺はというと……。
「あれれ?」
転校生は朝見た子とは違った。
ただの知らない人じゃん!心の中で叫んだ。
恥ずかし、残念、女子ですよとか思って俺、恥ずかしい。女子だったけど、自分知ってました感出してたのに、うわぁ……。
「やっちまった……」
頭を抱えるしかなかった。
あの時の俺は、自分の失態ばかりに目がいって、彼女が自分と同じ苗字だと言うことに気がつかなかった。
「新橋さんの席は篠崎の後ろだな」
「はーい」
彼女は、俺の二つ後ろの席に着いた。
「では、皆さん仲良くするように」
「朝のHRは以上、解散」
適当に終わらせやがった……。
「和人、お前の言った通り可愛い子だったな」
「え、あ、そうだろ」
「どうしたんだ?」
言えない、勘違いしていたなんて……。
「……何でもない」
「しっかし、人気者だな」
「転校生ってあんなもんじゃないか?」
彼女の周りにはたくさんの人がいた。
質問攻めにあってるみたいだな……。大変そうだ。
転校生になったことはないから分からんが。
「ねえねえ、前の学校はどんなとこだったの?」
「えっと、楽しいとこだったよ」
「彼氏とかいないの?」
「今のところは……」
「うっそー、いないの!」
「琴羽ちゃん何が好きなの?」
「これといって、特には」
「ん?」
クラスのほとんどがここに来ているのに、二人だけが、来ていなかった。
「あの二人は?」
「ああ、新橋和人と兵藤真だよ」
「あの二人仲良いからねー」
「新橋……和人……」
「あの人が……」
「何でもないよ」
「で、さあ、琴羽ちゃんって――――」
「なあ、和人、今日飯食いに行かねぇ?」
「悪いな、久しぶりに親父が帰って来るから、顔出しとかないと行けないんだ」
「海外回ってるんだっけ?」
「ああ」
親父はカメラマンとして、世界中を回っている。
だから、年に数回しか帰ってこない。
「しゃあねぇな、また今度行こうぜ」
「ああ」
「じゃあな、真」
「おお」
俺はまだしていなかった帰りの準備を済ませ、教室から出た。
「ちょっと、待ってよ」
不意に後ろから声をかけられた。
声の主は新橋琴羽だった。
「え、何?」
「何って、分からないの?」
「え、何?告白?」
「そんなわけないでしょ!」
怒鳴られてしまった。目の前では彼女はプリプリと怒ったように睨みつけている。正直あまり怖くはない。むしろ、ツンデレみたいな感じで可愛いぐらいだ。
でも、心当たりがないな……知り合いでは、ないだろうし。
「ほんとに分からないの……?」
「何が?」
「あたしのお母さんとあなたのお父さんが結婚したってことよ」
「はあ、って、はあああああああ!」
「知らなかったの?」
「お、おい、親父が結婚ってどういうことだ!?」
そんな話は聞いていない。それどころか最近電話すら来ていないのに。
「……マジなのか?」
「マジよ」
「でもさ、親父は海外で仕事してるんだぜ、出会いなんかないだろ」
「あたしのお母さん、あなたのお父さんを助手なのよ」
「ええええええ!」
何人かと一緒にやっているのは知っていたが、そこの人と結婚するなんて……。
「マジなのか……」
「で、今日、あなたの家行かないと行けないんだけど……」
「だから、一緒に行くってことか……」
「そいうこと」
「そう言えば、新橋って……」
「今頃気づいたの?」
一緒だなあレベルでしか考えてなかった。まさか、兄妹ってこととは思わないだろ……。
「早速、行くわよ」
「えっ!」
「早く」
「……分かったよ」
親父が結婚?嘘だろ……マジなのか、おい。
いきなり結婚……。
マジなんだよな!?
「へぇ、これがあなたの家なのね」
俺の家に到着していた。
「親父はもう帰って来てると思うから」
ガチャ
俺は家に彼女を招き入れる。
友香里以外の女子を家に入れたの初めてじゃあないか?
「まあ、普通ね」
「悪いかよ」
俺はリビングへ向かう。
「おい、親父、結婚ってどいうこと……」
「あなた……」
「なんだい?」
「……何してんの?」
親父と知らない女の人がイチャイチャしていた。
恐らくはこの人は……。
彼女の方を見る。
「そう、あたしのお母さん」
「やっぱりか」
イチャイチャしてんなよ……。
「お、和人帰ってきたか、琴羽ちゃんもちゃんと連れてきたな」
「和人君、こんにちは」
「あ、どうも、じゃあなくて!!結婚ってなんだよ!?聞いてないぞ!!」
「言ってなかったか?」
「言ってねえよ!!」
「そうか、じゃあ、結婚することになった」
「今言うんじゃあねえよ!!おせえよ!!」
「もう、あなたったらドジなんだから」
「ごめんね、ハニー」
「イチャイチャしてんじゃあねえよおおおおおおおおお!!」
俺の怒号が家中に響きわたった。
「ということで結婚したんだ」
「……」
だいたいのことは分かった。
「もっと、早く言えよ!!」
「悪かったって」
「ということだから、琴羽ちゃんと仲良くするんだぞ」
「急に言われたって」
「兄妹なんだから、それに明日からは二人で暮らすんだぞ?」
「はあ!こいつも暮らすの!?」
「当たり前だろ、家族なんだから」
いきなり、兄妹になって、しかも、二人で同居って……何なのこれ……。
「お前も嫌だろ?」
「べ、別に私は大丈夫だけど」
マジで、そこは大丈夫じゃあないだろう……。
「とりあえず、宜しく頼むぞ」
「俺達もう行くから」
「待てよ、え、マジで、もう行くのか!」
「琴羽のこと宜しくね」
「え、あ、はい」
「あっ、ちなみにお前が兄貴で琴羽ちゃんが妹だから」
「じゃあな」
「ええええええ!」
速報、俺に妹が出来ました。
「妹なの?」
「まあ、そうなるわね」
妹は欲しい、欲しいと思ってたけど、いきなりすぎだろ……。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
「え、何?ナチュラルにその呼び方なの?」
いきなり、お兄ちゃん呼ばわりですか……お兄ちゃんだけど。
「ダメなの?」
「ダメってことはないけど……」
「じゃあ、あたしのことも琴羽でいいよ、お兄ちゃん」
「い、いや、でも」
「いいから」
兄妹とはいえ、なりたてだ。
血も繋がってない訳だし……。
いきなり名前っていうのもな……。
「言わないとダメか?」
「……」
琴羽が睨みつけている。ちょっとだけ、怖い。
言わないとダメみたいだな……。
「こ、琴羽」
「やだ、お兄ちゃんったら、照れちゃって、可愛い」
「う、うるさい」
妹にからかわれるなんて、夢みたいな事のはずなのに……。
まだ、実感湧かないのかな?
そんなことより、妹との共同生活が始まるのか……。
……やべぇ、緊張してきた。