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7話

結局、勝負に勝って試合に負けた俺はリリーの命令を聞くことになった。


「ん~楽ちん♪」


まずは疲れたとのことでお姫様抱っこをしながら彼女の部屋まで連れて行くことだ。


空間を繋げてはダメとのこと。別に最初からする気は無いけどな。


「やっぱあんたって服の上からだと鍛えてるのが分からないわよねえ」


ペタペタと服越しに俺の胸板に触りながら感心したように言うリリー。くすぐったい。


「そりゃな。俺はムッキムキのゴリマッチョにはなりたくないし」


限界まで筋肉を引き絞るトレーニングをしているので細身ながらも力はかなりある。


「確かにあんたの普通な顔じゃあれは似合わないわね」


想像してみる。


……おえぇ、違和感ありまくりだ。


「まあ、あんたは今のままが一番いいわね」


「そうか?」


「ええ。おせっかいだったり、ちょっと抜けてたり、むっつりだったり、無駄に力があったり、女の子を行く先々で拾ってきて手を出したりするけど」


散々な言われようだが否定する言葉が見つからない。


「けれど、金と権力と女しか欲しがらない変にプライドの高い貴族どもよりずっとマシよ」


そう言いながら彼女は俺の首に腕を回し密着してくる。


「あたしは冬弥と会えて本当によかったわ。でなければ好きでもない奴と結婚することになっていたのかもしれないんだから」


「でも、最初は散々だったよな」


「あたしもなんでこんなやつが勇者にって思ったものね」


「俺はなんて姫様なんだって思ったよ」




彼女との出会いは三年前。


小さなころから世間では神隠しと言われ、いつの間にか異世界に何度か紛れ込んでいた俺は、その時に初めて異世界へと召喚・・された。


召喚されたのはリリーの住む世界『イクシリア』だった。


そこで初めて人為的に異世界へと呼ばれた俺は驚いていた。


今まではふとした瞬間にいつの間にやら森の中なんかにいたのだが、その時は地面に陣が描かれ輝きを放っていたのだ。


訳も分からぬまま呆然としていた俺に最初に声を掛けたのはその召喚を取り仕切った若き少女の魔法使いだった。


『あんた。ほんとに勇者? それにしては情けない顔ね』


初対面の相手にずけずけと言う彼女に怒りを通り越してポカンとしたものだ。


『まあ、いいわ。召喚されたってことはあんたが勇者なんだろうから』


その少女が言うにはその世界では魔王がいて人間を見境なく殺戮しているとのことだった。


魔王は何百年かごとに生まれ魔人を指揮して人間を滅ぼそうとしている。


魔王は勇者が使える聖剣でしか倒せない。


『全く。そんな制限がなかったらあんたなんかいなくても今すぐにでもあたしが倒しに行くのに』


不満げにそう漏らす彼女。


彼女は国で一番、いや魔王を抜いたら世界で一番と言っていいほど魔法に長けていた。


その魔力量もずば抜けており、魔法の開発にもその才を発揮していた。


だが、召喚されたばかりの俺はそんなことを知らない。


彼女の物言いにようやく頭が追い付き、怒ったのだ。


そこからは苛烈な言い合いが始まり、周りにいた神官や騎士たちも止めることができずにおろおろしていた。


最終的には決闘だなんだっていう話になったところでその国の王様が来て一喝。


そこで初めて少女が王族だと言うことを知った。


だが、少女の挑発もあり引くに引けなくなった俺は結局その決闘を受けた。


その場で今すぐにと言うのは王様の怒鳴り声でなくなったものの、一週間後にその決闘をすることとなった。


『首を洗って待ってることね!』


少女はそう言ってその場を離れ、決闘の日までの一週間は顔を合わせても無視するような関係だった。


そして決闘当日の日には俺は異世界ですでに習っていた魔法を使い、彼女は自分の生み出した魔法を存分に発揮した。


結果はほぼ相打ちに近い俺の勝ち。あと少し倒れるのが早かったら彼女の勝ちだったろう。


それからは渋々ながらも彼女に認められた。


俺も彼女の実力を見てただの威張り散らしている奴とは違うと言うことを知る。


彼女は俺の使った異世界の魔法に興味を持ち、だんだんと会話は増えていった。


まあ、それからはいろいろあって魔王を倒したりして平和が訪れた。


と、思ったんだが俺の力を欲した欲深い連中なんかがいろいろ仕掛けたりして来て魔王を倒す以上に大変だったのを覚えている。


まあ、その最もたるものだった宰相はすでに処刑済み。その他の黒い奴らもすでにその地位にはいなくて今は新しく政治をやり直そうとしている。


その途中でやたらめったら俺と彼女や、他の魔王討伐パーティーのメンバーに見合い話が来たりしたんだが、もちろんすべて蹴った。


もうその時には大体の奴がパーティー内でくっついていたからな。


一人、くっつけなかった奴もいたが。あいつは良いやつだった……。




「まあ、あの時は自分が倒せない歯がゆさもあったけれど、想像してた勇者とあんたが結びつかなくてね。ついあんなことを言っちゃったのよ」


「今はどうだ?」


「んー」


俺の問いにリリーは考える。


「そうね。まだ、あんたが勇者ってのは合わないわね」


やっぱ勇気らのような容姿でなければ似合わないのだろうか。少し落ち込む。


「けど。それは当たり前なのかもね。だって、冬弥は勇者よりも何倍もすごいんだから。勇者なんて枠に嵌らないのよ」


「だったら俺は何になるんだ?」


「う~ん。…………なにかしら?」


「おい!」


リリーの言葉についツッコんでしまう。


分からないのか? そんなにカテゴライズに困る?


「だって勇者とも違うし、魔王って言おうとも思ったけどとっくにそんな存在越えてるし、神様って言ってもあんたは否定するでしょ? 邪神にしても違うし当てはまるものがないのよ」


言い訳をするように言葉を並べるリリー。


まあ、当てはまるものがないのは確かだが……。


「言ってみてわかったけどほんとあんたって規格外な存在よね。普通の神様よりも力あるし。時々ほんとに人間? って思うわよ」


それは自分でも思うが、力だけだからな。


「でも、冬弥は冬弥でしょ? それで十分ね」


自分で言って納得する彼女に苦笑を漏らす。


「でも、まあ、あの召喚が爺さんの仕業というのにはびっくりしたけどな」


「ああ、そうよね。でもそのおかげであたしは冬弥に会えたからよかったけど」


俺は創造主神の爺さんから空間を操る力を貰った。


それは小さいころから異世界へといつの間にか紛れ込んでいた俺が自分で帰れるようにするためだ。


なんでも俺が異世界へいつの間にか転移しているのは管理神すら把握できなくて爺さんしか気付けなかったかららしい。


『もう、いちいちお主を帰すの面倒じゃから自分で帰れ』


との事。


なんでそんなに頻繁に異世界へ紛れ込んだり爺さんしか気付けなかったことは全く分からない。


普通ならそのまま紛れ込んだ異世界に放置だが、分からないことが多いのでその能力を貰った。


そして、この頃はなんだか邪神の出現が多くなっていて消滅する世界も出てきたからちょうど世界を渡る力を持っている俺を鍛えて邪神と戦わせよう。ってことになったらしい。


そのために勇者召喚に俺を選ぶように仕組んだらしい。


最初は神様がやれよって思ったんだが、どうやら管理神は世界に降臨したりと強い干渉をすることができないらしく、人間に祝福を授けた武器を渡すらしいがそれでも負けることもあり、力のある俺を派遣した方がいいと言うことになったのだ。


まあ、ちゃんと報酬も貰ってるしいいんだけどね。


今や低級の邪神程度じゃ相性もあるが危なげなく勝てる。


俺達が今いるのはその報酬でもらった小さな世界だ。


世界全体の広さは陸地が日本の総面積程度。海上も日本近海程度の広さだが、世界としてはものすごく小さい。


そこにオプションとしてついてきた豪邸やさっきの訓練場のようないろんな施設なんかが収まっている。


最初はその広さに慣れなかったが今ではもう完全に慣れた。住めば都とは言ったものだ。意味が違うかもしれないが。


元々親もいなくて孤児院暮らしだった俺はとっくにこっちに移り住んでいる。


まあ、元の世界の戸籍なんかは魔法でちょちょいと……。


「さてと、もうすぐ家に着くけどリリーの部屋に運んだあとは何をすればいい?」


「そうね……出来ればこのままって思っていたんだけど。そうもいかないみたい」


「ん?」


「とーうーやぁー!」


その叫び声とともに後ろを振り向くとそこにはリリーとはまた違った金色の髪を持つ少女がこちらに猛烈な勢いで向ってくる。


「また、別の事で言うこと聞いてもらうから覚えておいてね?」


そう言ってリリーはするりと魔法を使って俺の腕から抜け出し、空中へと逃げた。


ちなみに見えた色はピンクでした。


それを脳内保存しようとしたところで――


「とーう!」


金色の髪の少女がそんな声とともにジャンプ。


走ってきた勢いのままに少女の身体が宙に浮く。


そしてそれは目標と定めた俺に向かっており――


「ぐえっ――!」


背中にかなり強い衝撃が伝わり、肺の空気が一気に抜けつぶれたカエルのような声を発してしまう。


それだけではなく、肺の空気が抜けたのと勢いが強すぎたので踏ん張りが意味をなさず前のめりに倒れる。ああ!脳内保存が消滅してしまった!


それでも少女はギュウっと俺に抱きついて離さない。


「夏鈴。あなたいつの間に帰ってたの?」


リリーが空中に浮いたまま冷静に突っ込んできた少女へと問う。


「んー? えっとさっきだよ。冬弥の匂いがあったから探してたんだけどやっと見っけたんだ」


さも嬉しそうにすりすりと顔を俺の背中に擦り付けながらそう言う夏鈴と呼ばれた少女。


おおう。なんだか腰のあたりにすごい質量が当たってる。


脳内保存が失敗したのは残念だがこれはこれでかなり良い。


首を回して背中のあたりを見ると輝くような金髪の髪とそこからひょっこりと出ている大変可愛らしいキツネ耳が目に入る。


顔は少しばかり子供っぽく、それが嬉しそうに緩められていると幼く見える。


だが、さっきから感じているように結構大きい。張りがあってムニムニと弾力がすごい。


「夏鈴ちゃーん! 待ってよぉー!」


と、そこで幾分かおっとりとした声が夏鈴の来た方向から響いてくる。


「あら? メリスも来てたの?」


その声を聞いて近づいてきた人物にリリーが意外そうに訊ねる。


「あ、リリーちゃん。はい、私も夏鈴ちゃんと同じ位に帰ってきたんですよ。そしたら夏鈴ちゃんが冬弥さんの匂いがする! って走って行っちゃって」


「ああ、それでここまで追いかけてきたのね」


メリスと呼ばれた少女はかなりの速度で走ってきたにもかかわらず息切れ一つ起さずにそう答え、リリーもリリーでその内容に納得する。


いやー、かなり速かったからあまり見られなかったけれどメリスの服装は結構露出が多くて一部分がかなり眼福でした。


今も倒れたままなので、見上げるとその一部分の迫力がかなりある。首は疲れるけども。


メリスと呼ばれた少女は緩いウェーブのかかった銀髪に愛らしい顔をしている。


目は少し垂れ目気味で茶色っぽい瞳は優しげな印象を与える。


体型はボンキュッボンな男を魅了してやまない肉感的なもので、特にさっきから注目している一部分である胸はかなり大きい。夏鈴よりもだ。


しかもさっき言ったようにかなり露出が多い服なので際どいところも見えそうである。


布自体もあまり厚くはないので走るとそう、かなり揺れる。ポロリはしないのだろうか。しないんだよな。


ありがとうございました。


「ほら。冬弥も夏鈴もいつまでも寝っころがってないでいいかげん起きなさい。あと、冬弥。いつまでもメリスのばかり見ていたら目を潰すわよ?」


しかし、それを堪能するのもリリーのその言葉で終わりを告げられた。


「ほら夏鈴。俺の目のために一回どいてくれ」


「えー」


なんでそんな不満そうな声を上げるんだ。俺の目が潰されてもいいのか?


リリーの場合目を潰すとしたら魔法を使うので確実に目以外の場所も吹き飛ぶ。そんなことはされたくない。さすがに死ぬ。


理由「だってあんたにはそんぐらいしないと目すら潰せないじゃない」とのこと。


俺は何とか夏鈴を引きはがしながらも立ち上がり、理性というものを動員して目を潰される心配はひとまずなくなった。


「あんたってほんとに露骨な時もあればむっつりな時もあるわよねえ。さっきもあたしのパンツ見たでしょ?」


気付かれてましたか……。


「はあ……。とりあえずそれは良いとしてご飯にしましょ。ステラとアリシアも帰ってきてるだろうから準備も出来てるはずよ」


「そういや、あの二人はどこにいたんだ?」


「畑の方よ。ステラが実った野菜を収穫するのをアリシアが興味を持ったみたいでね。その手伝いをしていたはずよ」


それはいいことだ。


ステラというのはこの小さな世界の管理神だ。


まあ、見た目はメイドなのだが。


普通管理神はその世界に干渉できないものだが、ステラの場合俺たちしかいない世界なので思いっきり干渉している。


その見た目通り|(?)なのかいろいろとそう言う仕事が好きらしく、家畜の飼育から畑仕事、家事などいろいろなことを彼女が一手に仕切っている。万能すぎるだろ管理神メイド。


アリシアは俺達と同じくらいの少女。


こっちはいろいろと事情があってリリーたちとは違い、この世界から出れない。


なのでそう言うことに興味を持ってくれるのは嬉しい。


「そっか。んじゃ今日の飯はおいしいだろうな」


「だから早く行きましょ?」


そう言ってリリーは自然な動作で俺の腕と自らの腕を組む。


夏鈴とメリスには負けてはいるがリリーも普通よりは少し大きい。腕に当たる柔らかい感触が幸せだ。


「じゃあ、私はこっちです」


今度はメリスが反対側の腕を組む。こっちはもう胸で腕を包んでいるような感じだ。ヤバい幸せすぎる。


「えー! アタシの場所がなーい!」


だが、抱きつく腕がない夏鈴は不満の声を上げる。


「夏鈴はさっきみたいに背中に抱きついてたら?」


「そっか、その手があった!」


しかし、それもリリーの提案であっさり解決。


早速夏鈴は背中へと飛び乗り、落ちないように手と足を前に回しがっちりホールド。


「なあ。これはさすがに歩きづらいんだが……」


「その分幸せな思いをしているんだからいいでしょ?」


そうですね。はい。かなり幸せです。もう死んでもいいくらいです。


両腕と背中にある柔らかい感触を堪能しながら俺たちは家への道を歩いて行った。


空間を繋げる? そんな勿体ないことできるかっ!!


誤字・脱字がありましたらご指摘お願いします。

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