6話
リリーと合流して向かった先は……
訓練場だ。
え?なんでかって?だって体動かすって言ったじゃん。
「さてと、準備体操終わりっ!」
元気な声でそう言うのは先ほどのドレスから着替えたリリーだ。
動きやすい騎士調の服装をしており、腰には凝った装飾のレイピアを佩いている。
騎士調の服はさっきのドレスと同じく薄い赤色で下はミニスカ。
長いストロベリーブロンドの髪は後ろで束ねてポニーテールにしている。
「こっちも準備オーケー。いつでもいいぞ」
俺も準備体操として行っていた亜空間から取り出した刀の素振りをやめる。
「それじゃ、いつも通りのルールね」
「ああ、分かった」
制限時間十分。攻撃をより多く中てた方が勝ちと言うシンプルなルールだ。
ある程度距離を取って向き合う。
「じゃあ、カウントダウンスタートさせて」
「了解」
俺の意志に応じてリリーとの間に10と数字が浮かび上がる。
カウントはそのまま9、8、7、と減っていき――
――ついに0になった。
「いくぞッ!」
「はあッ!」
それと同時に俺とリリーはその場から飛び出す。
少なくとも十メートルはあった距離が一瞬で詰まり、飛び出した瞬間に抜いていた刀とレイピアが交差する。
そして、場所を激しく入れ替えながらの無数の剣戟。
この間二秒も経っていないだろう。
カウントが0になった瞬間に二人は身体強化とあわせて武器に魔力を纏わせて強化すると言うことをやってのけた。
刀身の細いレイピアが斬ることに特化した刀と打ち合えるのはそれが所以だ。
しかし、リリーの強化も普通ではありえないレベルのものだが、武器自体の特性もあり、何回も打ち合える訳がない。
けれどリリーは器用に刀の剣筋をレイピアで僅かに逸らして攻撃を防ぎ、隙があれば反撃の突きを見舞ってくるのだ。
「うおっ! あぶなっ!」
喉へと向けられた突きを紙一重で躱す。
「チッ!」
「おいリリー! 今舌打ちしただろっ!」
なんつー恐ろしい女だ。
この訓練場は俺の能力を応用したりいろいろな魔法が掛けてあって(さっきのカウントもそう)攻撃が当たったとしても怪我はしないようにできている。
しかし、攻撃が当たればその衝撃は受けるので、それが本気の場合かなり痛い。
「お、おい。さっきからかなり必殺の攻撃が入ってるんですがどうしてでしょうかっ!?」
「別に怒ってないわよ? ただ、あんたがまた女の子を拾ってきたからちょっとしたお仕置き♪」
笑顔がとっても恐ろしいですリリーさん。
「いや、だからあれは盗賊に襲われてたからで……っ!」
「それは分かってるわよ。ただ、節操なしのあんたの事だからねっ……!」
言い合いながらも攻撃はどちらも緩めてはいない。むしろヒートアップしている。
「いやいや! 俺そんなに節操なしじゃないぞ!?」
「十分に節操なしでしょうが。私にメリスに夏鈴にアリシア。四人も手を出しといてどこが節操なしじゃないのよ」
「うぐ……」
……反論できない。
「私は別に一夫多妻には反対じゃないわ。けれどあまり節操がなさすぎるとあんたのモノ……潰すわよ?」
その一言でいいようのない寒気が局所的|(主に股間)に俺を襲った。
「まあ、私も子供は欲しいし、少し潰したら回復魔法使ってあげるから安心してね?」
全然安心できない。
その脅しでいくらか気が済んだのか、攻撃の数自体は変わらないままだが必殺と呼べるようなものは少なくなった。が、攻撃はもちろん緩まない。
「さてと、近接戦はこのぐらいにしてそろそろ本領発揮させてもらうわよ!」
そう言ってリリーは、バク転なんて言うアクロバットな動きをしながら距離を離す。
いつも思うが何故にあのミニスカであんなことをしても見えないんだろうか。
「我、求めるは、輝く星たちの瞬き。それぞれの加護を持ちて、敵を撃ち貫け――〈スターダスト〉!」
瞬間、リリーの周りに生まれたのは様々な色を持つ魔力の玉。
一個一個の大きさは拳ほどだが、数がとにかく多い。
リリーが詠唱を唱え終えた瞬間にはすでに百を超える魔力球が現れており、今もなおその数を増やしている。
そして驚くべきはその魔力の密度。
いつ爆発してもおかしくないような量の魔力が圧縮され今か今かと放たれる時を待っている。
小さいからと油断していると痛い目に合うのは間違いない。
それを一瞬にして作り出し、今も製造しているリリーの魔法の技量は俺よりも高い。
「ちょっ!? お前、それは卑怯だろ!」
数に加え威力も高火力だ。一撃でも受ければ逃げ出すのは難しいだろう。
攻撃が当たった数が多いほうが勝ちというこのルールであれを受ければまず勝ち目はない。
「ふふん。どう? これならあんたでも逃げられないでしょう?」
「なあ? これって攻撃を多く当てた方が勝ちだよな? なんでそんなに威力を込めているのでしょうか?」
得意げに胸を張るリリーに俺は心底疑問に思ったことを聞いてみる。
「だってあんた相手じゃこのくらい威力込めないと効かないし、それにさっきスカートの中見ようとしていたからね」
ばれていたのか!
というか痛みを与える気満々!?
「あんたってかなりむっつりだし毎回中を見ようとして目に力を入れてるのが丸わかりなのよ」
そこまで露骨にはやってないと思うんだけどな。
というか、それよりも今はこの目の前の魔法だ。
喋っている間もその魔力球は数を増やし続け、今や数えるのも億劫になるほどの数が所狭しと浮かんでいる。
もしや、今の会話もこのための時間稼ぎだったのか!?
「それってかなり痛いよな?」
「そりゃもちろん♪」
またまたかなりいい笑顔だ。
「普通だったら跡形も残らないんじゃないかしら?」
まあ、そうだろうなあ。
よし。全力で防ごう。
そう覚悟したのを悟ったからかは分からないが、リリーは浮かんでいる魔力球の三割ほどを一斉にこちらへと飛ばしてきた。
速さもかなりのものだ。メジャーリーガーの投げる剛速球にも負けないほどの速さ。時速百四十はゆうに超えているな。
「堅牢なる深淵の壁よ。我が求めに応じ、我が身に仇名す敵を飲み込め――〈アビス・ウォール〉!」
詠唱とともに出現したのは光さえをも呑み込むと思える漆黒の闇の壁だ。
目の前いっぱいにその深淵は広がり、迫りくる魔力球が触れた瞬間にその魔力を次々と飲み込んでいく。
しかし、その深淵の壁も長くはもたない。
リリーが眩い光を放つ光属性の魔力球を重点的に闇の盾に当てて無効化させているからだ。
どちらの魔法も上級魔法を軽く超えるため消費魔力はかなり多いが、このくらいではまだまだ俺達の魔力は尽きない。
と、〈アビス・ウォール〉が完全に消滅した。
〈アビス・ウォール〉によってかなりの魔力球を消滅させたはずなのだが、随時生み出し続けているせいで待機している魔力球の数は大して変わっていない。
「やっぱ、お前の魔力って異常だよな」
「私以上に異常なあんたには言われたくないわよ」
まあ、それはもっともなことだが。
こっちもちょっと本気を出そうか。
俺はさっきまで打ち合っていた刀を亜空間へとしまい、詠唱を開始する。
「望むは終焉の剣。すべてを消滅させる闇。終末よ我が手に集まり形を成せ――〈ラグナロク〉」
俺の右手に闇が集まる。
それはうねりながらもその形を変え、光を反射しない漆黒の長剣が生まれた。
更にもう一つ詠唱を始める。
「望むは神聖の剣。すべてを再生させる光。始まりの力よ我が手に集まり形を成せ――〈コールブランド〉」
今度は左手に眩い光が集まる。
その光は真っ直ぐに伸びて〈ラグナロク〉と同じ長剣へと形を変える。
その剣は全ての闇を浄化する光の剣だ。
たが、これだけでは終わらない。
その二つの長剣を腕を横に広げて肩までの高さに上げる。
そして勢いよくその二つを目の前で一つに混ぜ合わせる。
「反する力。それは無へと帰り有を生み出す。有は無へと。無は有へと。廻り廻って輪廻となり、破壊と再生を司る。現れろ――〈輪廻天聖〉」
合わさった二つの剣が詠唱とともに交じり合い一つの巨大な剣へと変わる。
それは交じり合う前の二つの剣と違い。深淵の闇も、神聖な光も発してはいなかった。
見た目は特に装飾のない武骨な巨剣に見えるが、そこから発せられる尋常ではない威圧感に普通ではないと誰もが感じるであろう。
「ちょ、ちょっと! やっぱりあんたの方があたしよりも何倍も異常じゃない! 普通そんなの使う!?」
さすがにリリーも輪廻天聖には慌てたようだ。焦った抗議の声を上げる。
「大丈夫だ。威力はかなり抑えてあるから」
「抑えてあっても全然大丈夫じゃないわよ! あんた大人げないわよっ!」
最早悲鳴に近い叫びをあげている。
と言ってもこれは本当に威力をかなり抑えてある。
制限なしの本気の十分の一にも満たない威力だ。
「ああ、もう! だったらこっちも本気で行くわよ! ――我、求めるは、敵を撃ち砕く星光の煌めき。すべての星よ。今一度輝きを取り戻し、我が敵を殲滅せよ――〈スターダスト・フルブースト〉!」
先ほどの倍以上の速さで魔力球が増えていく。
その密度も前とは比べられないほどの高密度になって魔力光の輝きも増している。全て当たれば山の一つや二つは軽く消し飛ぶだろう。
それが一斉にこれまたさっきとは比べられないくらいの速さで迫ってくる。
魔力の残滓が煌めく様はいつ見てもひどく幻想的だ。
だが、俺は、無造作に巨剣を振るい、それらを竜巻ともいえる暴風により全てをかき消した。
が――
「はあ……ほんとあんた大人げないわ」
その暴風により一緒に吹き飛ばされたリリーは俺の腕の中で呆れたように言う。
彼女なら耐えられるだろうと思った威力なのだが、どこかで調整を間違えたのか吹き飛ばされてしまい。もう少しで壁にぶち当たる直前で彼女の身体を攫ったのだ。
「悪い。さすがに輪廻天聖はやり過ぎだったな」
「別にいいわよ。罪滅ぼしはちゃんとしてもらうから」
にっこりと彼女は笑い。いくつかの魔力球を生み出した。
「は……?」
そしてそれは、俺の顔面に弱く当たる。攻撃とは到底言えないほどの威力だ。
だが、その魔力球が当たると同時に前もって仕掛けておいた制限時間終了を告げるブザーが訓練場に鳴り響く。
勝者は……リリーだ。
攻撃を受けた回数は自動的にカウントされるためその結果に偽りはない。
あの暴風も攻撃とみなされるようだが、一回は一回ということらしい。最後の魔力球が勝負の決め手だったようだ。
「……マジで?」
呆然とした声が自然と口から出る。
「さあ、負けたあんたにはあたしの言うことを聞いてもらうわよ」
「え? そんなの聞いてないぞ」
「罪滅ぼし、してくれるんでしょ?」
その言葉と笑顔に俺は何も言えなくなった。
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