5話
「うぅ……ん……」
ぼんやりする意識がだんだんと眠りから浮上していく。
何でだろう。ものすごくフカフカな感触が私を包んでいる。
「あら? 気が付いた?」
「え……? っ……!」
いきなりすぐ傍から声がして私はびっくりしてしまう。
びっくりしたせいで頭が痛むが、それを我慢しながら声のした方を見る。
声の主はすぐに見つかった。
私の寝ているとてもフカフカなベットの横にある椅子にその人は座っていた。
女の私ですら目を奪われそうな綺麗な人。最初に感じたのはそんな感想だった。
スラリとした腕や手は細くしなやかで、まるで絹のように滑らかなのが見てわかるほどだ。
綺麗に整えられている赤みのかかった金髪は一本一本がとても細い。
それを引き立てるような薄赤い色合いの優雅なドレスも自分では見たこと無い様な一級品だと思える。
お姫様。
そんな言葉がぴったりな人だ。
歳は同じくらいだとは思うが、その雰囲気はずっと大人びているように感じる。
「だめよ。少しおとなしくしていなさい。今、回復魔法をかけてあげるから」
彼女は優しく私を寝ていたベットへと戻し、あの盗賊に殴られた後頭部へと手を当てる。
その手が触れた瞬間に痛みが走ったのだが、すぐに触れているところから温かいものが柔らかく包み込んでくるような感覚がした。
「あなたも災難だったわね。盗賊に襲われるなんて」
「ここは……」
「貴女を助けた人の家よ」
助けてくれた? 私を? 盗賊から?
「あ、あの、おじさんたちは……?」
「ああ……そのことなんだけどね。その人たちは、もう事切れていたって……」
彼女は目を伏せながら言いづらそうにそうに言う。
それを聞いて頭の中が真っ白になる。
おじさんたちが……死んだ……?
盗賊に斬られて動かなくなった時点で覚悟はしていた。
けれども、実際にそれを言われるとそんな覚悟はどこかえ消えてしまっている。
「そ、そんな…………」
「遺体は回収してあるわ。けれども、今の貴方には辛いと思うの。もう少しゆっくり休んでから会わせてあげるわ」
「うぅ……ぐすっ……」
彼女が何かを言っているが頭に入ってこない。
私は……また、大切な人達を失って……。
「何かあったら呼んで頂戴」
彼女は私の様子を見て最後にそう言って部屋を出て行った。
「どうだった?」
俺は操作していたスマホから顔を上げ、今、部屋を出てきた彼女に問う。
「やっぱりショックみたいね。仲間の死を知ったらあたしの言葉が聞こえなくなるぐらいだもの」
「そうか……」
そのことに少しばかり空気が暗くなる。
「しっかし、あんたもよく行く先々の世界で女の子を拾ってくるわよねー」
「いや、俺は別に狙ってるわけじゃないんだけどな?」
「まあ、今回は盗賊に襲われていたなんて仕方のないことだからいいけど」
が、その空気を吹き飛ばすために軽く言い合う。
「それにしても助かったよリリーがいてくれて。他のみんなはいないみたいだったし」
「いいわよ。今度二人でデートしてくれたら許すから」
「ははっ、分かったよ」
彼女の要求に苦笑しながら返す。
彼女はリリー。俺の仲間の中で一番付き合いが長いやつだ。
ちょうどあの少女を抱えて帰った時にリビングでくつろいでいたので彼女に世話を頼んだのだ。
汚れを拭いたりとかは俺じゃできないし目覚めた時に男が近くにいたら警戒すると思ったからだ。
「それで、何で異世界に行ってんの? しばらくはここ以外では元の世界で過ごすって言ってたじゃない」
「いや、そのつもりだったんだけどさ。……クラスの奴らが召喚されそうになっててな」
その言葉にリリーは納得したような顔をする。
「ああ、またあんたのおせっかいか。別にほっとけばよかったんじゃないの?」
「おせっかい言うな。見つけちまったんだから仕方ないだろ」
「はいはい。でも、どうせその人たちに連絡手段か何かは渡してあるんでしょ? それをおせっかいって言うのよ」
リリーの言葉に言い返すが軽く流されてしまう。
「で、異世界に召喚されて盗賊に襲われた少女を助けて帰ってきたってわけね。召喚されてから盗賊に会うまでの間って何?」
「召喚された勇者の奴らのスマホ弄って、魔族は悪だって決めつけてるから協力断って、騎士がキレて、少し脅して管理神のところに行った」
「なるほど。その騎士もあんたを相手にしてかわいそうね」
大分大まかに伝えただけで伝わってしまうのだから彼女の俺に対する理解力は凄まじい。
「どうせ、あんたが挑発でもしてその騎士がキレたんでしょ。そして向かっていっても完全に力が及ばないんだからその騎士がかわいそうすぎるわ」
……どうやら物騒な方向に理解しているらしい。そしてそれが間違ってないから何も言えない。
「それで脅しってなにをしたのよ。その騎士でも血祭りにあげた?」
「お前。俺をなんだと思ってるんだ? そんなことするわけないだろう!」
心外な。
「まあ、それは冗談として。どこかの土地でも消滅させたの?」
「なお悪いわ! 俺はただちょっと強めに殺気を飛ばしただけだよ!」
「あー……それはそれで飛ばされた相手がかわいそうね。下手すれば廃人になる可能性だってあるし」
「そこまで強くやってない! 何人かは倒れたけどせいぜいトラウマレベルだ!」
「……あんた。それでも殺気としては異常なレベルだって分かってる?」
………………。
「……すみませんでした」
何で謝ってるんだろう?
「分かればいいのよ。分かれば」
リリーは満足げに頷いてるし。
「でも、どのぐらい力使ったの?」
「あー、その騎士を風魔法で動きとめて、少し空間を繋げるところを見せたぐらいかな」
「……はあ。それじゃあそのぐらいの脅しでも効果はあんまりないじゃない。二、三人廃人になるレベルで脅しなさいよ」
なんだか物凄く理不尽なことを言われてるような気がする。
「納得いかないって顔ね。あんたはもう少し自分の力ってのを理解しなさい。その世界じゃどうかは知らないけど空間魔法なんて早々あるものじゃないでしょ。それを見せつけて欲しがらない国なんてないのよ」
あれは魔法じゃないんだけどな。それに――
「来たら来たで叩き潰せば――」
「あんたはそれが普通にできるから性質が悪いのよねえ……」
言ってる途中でため息をつかれた。
「今からその王城に戻ってその王様に克服できないような強烈なトラウマ植えつけてきなさい」
「さっきと言ってること違くない?」
さっきはやりすぎって言ってたのに。
「国際指名手配されるよりはマシでしょ? 前にどっかの世界で王族相手に挑発し過ぎてそうなったじゃない」
「ああ、あれか。あれはあのクソ王とクソ王子が悪いだろ。自分のために働けだのリリーたちを自分の物にするだの自分たち以外、人を道具としか思って無い様な奴らだったんだから」
「そう言えばそうね。ああいう上っ面だけの男って嫌い。女を快楽のための道具だとしか思ってなかったし。…………なんだか思い出したら腹が立ってきた」
俺も思い出したら腹が立つ。
少しだけ痛い目に合せたのだが今思うともう少し骨を思いっきり折っとくんだった。
「……ねえ、冬弥。ちょっと運動でもしない?」
ちょっと上目づかいで俺の名前を呼びながらリリーが提案してくる。
「ん。いいぞ」
俺は軽くそれに応える。
「久々だし。ちょっとは手加減してよね?」
「これ以上手加減したら俺が負けるだろ」
「たまには負けてくれたっていいじゃない」
二人して笑い合う。
「あたしは着替えてから行くから先に準備しといて」
「分かった」
俺達はそう言葉を交わして一旦別れた。
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9/5 少し改稿しました