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4話

――王城にて――


「いったい何なのだあの者はっ!?」


「お、王様! 落ち着いてください」


王城の一室。主に国王の仕事場となる執務室で何人もの人が集まっていた。


それは国王はもちろんのこと国にかかわる重鎮たちだ。


「あの者は勇者たちとは違い魔法というものをすでに知っているようでしたね」


「……うむ。それにあの問い。こちらが知らないことを何か知っているようでもあったな」


重鎮の一人になだめられた国王はまだ息が少しばかり荒いものの冷静さを取り戻していた。


「召喚に割り込んだと言うのもですがあの時の騎士団長を縛ったもの。あれは風魔法でしたね」


冬弥があの騎士の動きを止めたのは重鎮の一人が言ったように風魔法だ。


魔法に秀でたものしか分からなかったが、あれは空気によってそのままの状態に固定されたのだった。


「あのような魔法。見たことがありません。しかも発動は無詠唱で一瞬。余剰魔力もほとんどありませんでした」


少なくともあれだけの技はこの国に仕える魔法のエキスパート。王国魔法師にもできないだろう。


「あの者はどこに消えたのかはまだ掴めていないのか?」


「申し訳ありませんがまだです。あの未知の魔法によりどこに行ったのかすら把握できません」


「空間を操る魔法か……」


召喚陣もそのような感じだが、あれは使用するのに何十年と魔力を溜めこむ必要がある。あんな風にホイホイ使えるものではない。


「あの魔法、それにあやつが持っている技を研究できれば魔族も容易く滅ぼせるであろうな」


そのためには、何としてでも冬弥を見つける必要があるのだが……


「し、しかしあの者の実力は未知数。うかつに手を出せばこちらがどんな目に合うか……」


最後に受けた殺気。あれだけの濃密な殺気をあの場にいたものは誰も受けたことがなかった。騎士団長ですらもだ。


重鎮の一人が弱腰になるのも仕方がないことだろう。


「それでもだ。魔王を滅ぼすためあの者の力は必要だ。何としても見つけ出せ!」


『はっ!』






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「ふあぁ~~……」


思わずあくびが出る。


女神と別れた後、俺は適当に人気がない場所へと空間を繋げた。


繋がった場所は召喚された国の南に広がる草原だ。


もうすでに夕方になっており、あと少しで日も完全に沈むだろう。


俺が召喚されたこの国――レオリアル王国は人間族を代表する大国。


理由は俺が割り込んだ召喚陣。勇者を召喚する国として他の諸国に対して発言力が強かったためである。


種族を代表するだけあって国土はかなり広い。


今のところは魔族以外には特に排斥運動などはしていないが中央の貴族には人間至上主義が多いらしく、魔族を廃した後には他の種族にも攻め込もうなんて言う気の早い連中もいるらしい。


まあ、そんなことは俺にはどうだっていいのだけど。


こんなことを説明したのはただ単に暇だっただけである。


少し先に街はあるみたいだが歩いて行くには時間がかかる。


急ぐわけでもないので転移しないで歩いていた訳だが、いい加減暇すぎて飽きてきた。


「ウ゛ゥ……グワンッ……!」


「ああ、もう。うっさい」


草むらに隠れていた狼が襲い掛かってきたので風魔法にて一瞬で首を切り裂く。


「全く……あとで剥ぎ取る手間が増えたじゃないか」


そう言いながら俺は絶命した狼を亜空間へと収納する。


ある理由からもらったこの能力だが、意外と便利である。


能力を簡単に説明すると『空間を操る』のだが、今みたいに亜空間へと物を仕舞うことができる。


他にもさっきみたいに女神のところへ転移したり場合によっては異世界へと飛ぶこともできる。というよりも最初はそれがメインな能力だった。


今では使い方を工夫していろいろと便利なものとなっているが、これはある理由から異世界を渡るために爺さんからもらったものなのだ。


まあ、そのおかげで代わりにめんどくさい仕事も時々させられているのだが。


「ん……?」


と、そこで便利な能力の一つ『空間把握』の範囲内に引っ掛かる反応が。


「やっと人に会えるのか……?」


だがおかしい。


場所は一キロほど真っ直ぐ進んだところ。


広範囲に『空間把握』を広げているので詳しい状況は分からないが、周りは起伏のない平原。一キロぐらいなら目視で確認できる。


意識を向けて見てみると、そこには一人の少女を十人ほどでぐるりと囲んでいる男たちの姿が見て取れた。


いや、正確には囲まれているのは人であったもの・・・・・・・と合わせて四人ほど。


『空間把握』により残る少女以外はすでに倒れていることが分かった。


「あー、確かに暇だったけどさー。これは無いんじゃない?」


誰にでもなくそうつぶやく。


状況から見て盗賊に襲われたのだろう。周りの男たちは見るからに盗賊ですって言う格好をしているし。


倒れている人たちは少女の仲間だったのかもしれない。


「……っと、そんなことを考えている暇はないか」


盗賊の男たちは無理やり残っていた少女を連れ去ろうとしている。


少女も抵抗しているが――後ろから来た男に後頭部を殴られて動かなくなってしまった。


そのまま担ぎ上げようとしているのを見ると殺してはいないのだろう。


「……どこの世界も盗賊ってのは変わらないねえ」


まあ、だから盗賊と言うんだろうけどな。


「助けるか……」


あのまま連れていかれたら少女の末路など手に取るようにわかる。


「っとその前に着替えなきゃな」


召喚されてからずっと学生服のままだ。これでは戦闘をするのには動きづらい。


「〈換装〉」


そしてそのつぶやきとともに一瞬にして服装が学生服のそれから闇を凝縮したような漆黒の衣が身を包んだ。


「準備もできたし……潰すか」


そう言いながら俺は足に力を溜め、一気に開放する。


その場には一陣の風だけが遅れて吹いていた。




「ハッハッハ! 今日はついてるな!」


少女を担ぎ上げている一番がたいのいい男が仲間に向けてそう言う。


「へへっ。そうですねお頭」


「一日中草むらに隠れていたかいがあるってもんだ」


ここら辺は平原であるため隠れるところが少ない。よって盗賊たちは唯一と言っていい背の高い草むらの陰にずっと潜んでいたのだ。


「全く、たかが狼ごときを狩るのにこんなに時間がかかるとは思ってなかったぜ」


「そうですねえ」


昼ごろに見つけた少女たちの冒険者パーティーをこの盗賊たちはずっと付けていた。


そして依頼で受けたであろう狼の討伐が終わり、気が緩むまでずっと辛抱していたのだ。


「この頃は商人も俺達の事を警戒して護衛を雇うからなあ。うかつには手を出せねえ」


襲えば勝てるレベルがせいぜいだがそうするとこちらも被害を食らう。


しかし、今日の冒険者たちは気が緩んでいたせいか囲んだらすぐに殺せた。


「他の男どもが金を持ってたし、しばらくはこいつで暇をつぶすか」


「そうしやしょうお頭!」


その言葉に男たちは下卑た笑い声を上げる。


「全く、これだから盗賊は」


が、そこに割り込むものが一人。


「な、何もんだてめえっ!」


いつの間にやらその場にいた。漆黒の衣を纏った人物。


顔はフードを深くかぶっていて見えないが、声からして男。しかも若い。


けれどこのもう日が沈む薄暗い時間帯のせいかその服装は死神の纏う衣のようにも見えた。


お頭が声を上げると同時に他の男たちはその黒衣の男を取り囲むように周囲へ散らばる。


「へえ。盗賊にしては良い動きだな」


だが、黒衣の男はそれに動じた様子もなく感心するような声を上げる。


「はっ! いつからそこにいたかは知らねえが黙っていればいいものを。今日がお前の命日だぜっ!」


「うーん。滅茶苦茶三下っぽいセリフだな。だけど俺はお前らには殺せない。だから今日はお前らの命日だ」


「なんだと!」


「死ねぇえええええええ!!」


黒衣の男の挑発に乗った二人が斬りかかるが――


ドサッ


「なっ――!?」


「うあああああああああ!!! 腕があ! 腕があッ!」


一瞬にして斬りかかった男たちの腕が四本とも切り落された。


「てめえッ! 何しやがったッ!?」


「お前らが知る必要はないよ」


「がッ――!?」


今度は黒衣の男のその言葉とともに腕を斬られた二人が何かに潰されたように地面へとめり込み絶命する。


「うわあああああああああッ!!!」


「待てッ! やめろッ!」


仲間がやられたからかその恐怖からかお頭と呼ばれた男以外が黒衣の男へ一斉に迫る。


――が、またもやその男たちの腕がすべて切り落され、先ほどと同じように何かに潰される。


今度は男たちが悲鳴を上げる暇すらもなかった。


「今のは……そう言うことかッ! てめえが使ってるのは風魔法だなッ!」


「へえ。ほとんど一瞬で発動させてるのに分かるのか」


黒衣の男はまた感心するような声を上げるが、お頭と呼ばれた男はそれを聞いて顔を青くする。


男が気付けたのは不自然な風の動きがあったからだ。腕を切り落すときや潰されるとき、その時に限って自然が発したものではない風が僅かにだが体に当たるのだ。


しかし、気付いたところで男は自分に勝ち目がないと言うことをはっきりと認識した。


黒衣の男の魔法は無詠唱に加えて一瞬であれほどの威力だ。相当魔法に長けていることは想像に難くない。


それほどの相手。自分一人、いや、他に何人いようと敵うわけがない。


「ま、待て。お願いだ。こいつはお前の好きにしていい。だ、だからッ……!」


「だから命は助けろってか?」


「そ、そうだ」


「はあ……」


黒衣の男はため息を吐く。


「お前。とことんクズだな」


「なっ……!」


黒衣の男がそう言った瞬間、肩に担いでいた少女の重みがなくなる。


そしてその少女はいつの間にか黒衣の男が抱き抱えていた。


「お前が何人、人を殺したか俺は知らない。けれど一人や二人じゃないだろう?」


「う、あ……」


淡々と特に感情のこもっていない声で黒衣の男は言う。


「そいつらの中にも命乞いをした奴はいたはずだ。それを……お前はどうした?」


「やめろ…………やめてくれッ……!」


「自分が死ぬのが怖いなら最初から殺しなんかするなよ」


「うあああああああああああああああっ!!!」


「〈エアハンマー〉」


グシャ


お頭と呼ばれていた男は一瞬にして空気の塊に潰された。




「さてと、この子をどうするか……」


一応、ここに来る途中でこの少女の仲間らしき男たちは回収してきた。


残念なことに一刀のもとすでに三人とも事切れていたが。


少女の見た目は俺と同じ十六か十七ぐらいの歳だろう。


まだ少し幼さを残している顔は殴られたせいかぐったりとしており、服も所々汚れてしまっている。


「……一旦家に帰るか」


しばし考えて結論を出す。


空間に穴をあけ自宅へとつなげる。


ほんとは街に着いてから帰る予定だったのだが、街に着く前に帰るとは思ってもいなかった。


誤字・脱字がありましたらご指摘お願いします。

評価・お気に入り登録ありがとうございます!

9/4誤字修正しました。

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