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2話

「んん……」


世界を越える感覚に軽くめまいを覚える。


やはり自分で体に魔力を纏ったとは言え無理やり入ったせいでいつもより苦しかった。


無理やり小さな穴に体を丸ごと押し込められるような感じだと言ったら分かってもらえるだろうか。


「ここは……」


勇気の呆然とした声が響く。


少し頭を振ってめまいを治した俺は周りの状況を確認する。


「おお……」


思わず感嘆の声が上がった。


俺達の召喚されたところは神殿だろうか。


白くてぴかぴかな石造りの神殿。まるで神様が住んでいると言っても信じられそうなくらいに静謐せいひつとした場所だ。


まあ、実際神様の住んでるところは――


「お待ちしておりました。勇者様」


と、そこで大きくもないのに不思議と響く声がした。


周りにいた何人もの神官らしき人達が割れる様にしてその人物に道を作る。


その道を通り現れたのは俺達と同じぐらいの少女。


なのに纏う雰囲気は少女のそれとは違く、何人たりとも触れられぬような神聖さがある。


「ゆ、勇者……?」


その声に聞きかえしたのは涼音だった。


その声には驚きや信じられなさ、そしてわずかに期待のような物が混じっていた。


いきなりの事に慌てるでもなくその言葉に反応するとは涼音は神経が太いのかもしれない。


そう思い心の中でわずかに苦笑した。


「…………」


だが、聞きかえされた少女はその言葉に反応しなかった。


「あ、あれ? なんで四人も召喚されているんですかっ?」


驚いたように出した声が神聖な雰囲気を年相応の少女のそれに変えてしまい何とも言えない空気が俺達を包んだ。


せっかく威厳ある登場の仕方をしたのに台無しだ。


「普通一人ですよね?」


少女は慌てて周りの神官に確認を取る。


その仕草が可愛らしくてもう完全に最初の神聖さはなくなってしまっていた。


「み、巫女様。落ち着いてください。な、何かの拍子に巻き込まれてしまったのでしょう。そこまであわてなくても大丈夫ですよ」


「そ、そうですよね。分かりました」


そんなやり取りを巫女と呼ばれた少女とそばにいた神官がしている間、俺以外の三人は何かを言いたげに俺を見ていたがスルー。


俺はそんなことを気にせずにこの床に掘り込まれている召喚陣を隅々まで見ていた。


「え、えっと、コホン。父上のところまで案内します。着いて来てください」


そんな俺達には気付かずに巫女と呼ばれた少女は最初の威厳を取り戻そうと口調を戻したが、誰もそんなことには気を留めなかった。


わずかに巫女は涙目だったのも。






神殿を出て用意されていた馬車に乗ること五分。


王城と呼ばれるところにはすぐ着いた。


今はすでに玉座の間で王様との謁見だ。


「そなたたちがこの度の勇者か」


厳かな静かでいて重みのある声が響く。


その声の主は玉座に座っている王様。


横には王妃も座っており少し後ろに王子らしき人物とさっきの巫女と呼ばれていた少女がいた。


どうやら巫女は王女でもあるらしい。


その他にも重鎮らしき人物や護衛のための騎士たちが一斉に集まっている。


「予定より三人も多いがこちらに来てしまったのではしょうがない。まずは初めに言おう。勝手にこちらの世界に召喚してしまってすまない」


周りがどよめく。


そりゃそうだ。玉座に座ったままとは言え王様が俺達に頭を下げたのだから。


「え、えっと、頭を上げてください」


勇気がそんな王様に恐縮する。


「そなたたちをここに呼んだのはすべて儂の責任だ」


頭を上げた王様はこの世界へ呼んだ理由を話し始めた。


「この世界『ディガーディア』では今、魔王と言う存在が人間を滅ぼそうとしている。奴は魔族を従え魔獣たちをも支配下に置いている。

今は何とか均衡を保てているが、それがいつ崩れるかは誰にも分からない。今はあちらも戦力を集めているが、すべてが集まれば儂らはすぐにでも滅ぼされてしまうであろう。

そこで儂らはこの状況を打破するべくお主たちを勝手ながらこちらの世界へと召喚したのだ」


どこの世界でも勇者が召喚される理由ってのはいくつかパターンがあるけど、これはテンプレ中のテンプレで一番面倒なパターンだな。


「あ、あの、質問よろしいでしょうか?」


「うむ。許す」


「わ、私達にそのような力があるのでしょうか? その魔族と言うのは百や二百なんてものではないのでしょう? そ、そんなのどうやっても勝ち目がありません」


鏡花がおずおずとだが王様へと訊ねる。


「それはもっともなことだ。だが、何もそなたたちだけに戦わせるわけではない。こちらも出来る限りの戦力を集めてそなたたちをサポートさせてもらう。

それにそなたたちが主に相手にするのは魔王だけだ。魔王にはこの世界の人間では敵わない。魔王さえ倒してしまえば魔族は統率力を失うであろう」


「そ、そうですか」


「安心しろ。何もすぐに魔王と戦えと言うわけがない。しばらくの間この城で剣術なり魔法を鍛えてもらってからにしてもらう」


「ま、魔法? 魔法が使えるの?」


魔法という言葉に食いついたのは涼音だ。


「ああ、そなたたちには最初に適性を計ってもらい、それぞれに適した教師を付ける」


その答えに聞いた涼音はもちろん勇気や鏡花までが嬉しそうにしていた。


「勇者に選ばれた者は誰しも力を得る。これは勇者にしかできないことなのだ。どうかこの国。いや、この世界のためにどうか勇者になってはもらえないだろうか?」


「は、はい!」


「うん! 頑張る!」


「頑張らせていただきます!」


こういうのってほんとチョロイよな。世界のためだとかいう言葉に浮かれてすぐ了承しちゃって。


「ところで、召喚される勇者と言うのは普通は一人だと聞いたのですが、僕たちの場合はどうなるんですか?」


巫女がさっき口にしたことを覚えていたのだろう。勇気が王様に質問する。


「そうだな。その場合は誰か一人が勇者の力を得るか、それぞれが同じぐらいの力を得るらしいのだが……そなたたちの手に刻印はあるか?」


そう言われて勇気たち三人は自分の手を見る。


俺? 俺はまあ、すでにあるしな。


「三人ともあります」


勇気が代表して王様へと伝える。


「お主はどうなのじゃ?」


「ないですね」


この世界・・・・の刻印は持っているわけがない。


「……確か、古登峯だっけ? そういえばなんであの時、陣に駆け込んできたんだ?」


と、そこで勇気が疑問を口にする。


「駆け込んだ?」


勇気の疑問に戸惑った声を出したのは王様か王女かはたまたそのほかの人物たちか。ざわざわと周りがざわめく。


「王様。質問があります」


「な、なんだ」


だが、その戸惑いを無視して俺は王様へと問いかける。


「この世界では元の世界に戻る方法はありますか?」


「残念だが、ない」


「何故です?」


「あの召喚陣は一方通行だ。申し訳ないがそなたたちを元の世界に戻すことはできない」


まあ、それはあの陣を見た時点で分かっていた。


ただ、他にも帰還用の魔法陣がないか確かめたかっただけだ。


三人を見るとその言葉に明らかに驚愕しているみたいだ。


「だが、安心してくれ。勇者たるそなたたちには生涯この国で快適に暮らせるよう手配しよう。お主も刻印はなくとも多少力は得ているはずだ。生活の安全は保障する」


生涯か。


「いえ、いいですよ。俺は勝手に行動させてもらいますので」


途端にざわめきが大きくなる。


王様も目を見開き驚いているようだった。


「……そ、それは何故だ?」


断られるとは全く思っていなかったのだろう。狼狽えたような声で問いかけてくる。


「別に生活は自分で安定させられますし、この国に仕える義理もないですしね」


「……う、ぐ……」


取りつく島もない言葉に王様がうめく。


「ああ、それと一応聞いておきますが、魔王や魔族と戦うことになった理由は何ですか?」


「……それは奴らが悪だからだ。神の名のもとに我らは奴らを滅ぼす」


「詭弁ですね」


「なん、だとっ!」


「神はそんな存在じゃありませんよ。本当の神はそんなことはしませんし」


「貴様ッ! 神を愚弄するかッ!」


護衛の騎士の一人が耐えられなくなったように怒鳴る。


「別に。俺はただ本物の神のことを言ってるのであって、貴方達が創った神ではありませんから」


「何を言っている!? 貴様、神罰が下るぞ!」


あの騎士はその神様の信者なんだろうか?


「神罰? 創られた神話の神の力なんてたかが知れている。そんなものじゃ俺は殺せない」


「貴様ぁああああああああああッ!!!」


ついに騎士はキレたようだ。腰に佩いてある剣を抜いて斬りかかってくる。


その一連の動作は見事な早さだった。さすがにこの場の護衛を務めるだけはある。


「うるさい」


しかし、俺の発したその一言でぴたりと剣を振りかぶったまま騎士は動きを止めてしまう。


全く、そんなにキレやすくていいのかね。俺の知っている騎士はもっと心身ともにカッコいい人が多かったぞ。


『なッ……!?』


驚きの声を出したのはその騎士も含めて全員だ。


「そこの奴ら。魔法は使うなよ。お前らが仕掛けてこなければ俺は何もしない」


仕掛けてきたならば相応のお返しをするけどな。


詠唱を始めようとしていた騎士たちはその言葉に出ばなをくじかれてしまう。


「さてと、それじゃ俺はやることやって退散するか」


そう言いながら斬りかかってきた騎士はそのままに、あまりの事に呆然としている三人へと目を向ける。


「お前らちょっとスマホ出せ」


「は? な、なんで?」


声を掛けられて我に返った勇気はこちらを警戒するように窺う。


「魔力で充電できるようにしてやるから」


「は……?」


意味が分からないとばかりに変な声を上げる勇気。


「まあ、いいや。勝手にやるか」


と、言った瞬間に俺の手には三台のスマホが現れていた。


「あっ! それあたしのっ!」


いち早く反応したのは涼音。


「いつの間に!? どうやって!?」


「すぐ終わるから騒ぐな」


(確か、あの術式は……)


記憶の中に自分のスマホにも行ったある式を思い出す。


(よし。思い出した)


指に魔力を通しながら三人のスマホに術式を書いていく。


「ほれ。終わったから返すぞ」


ポンポンポンとそれぞれにスマホを放っていく。


勇気と涼音はうまくキャッチしたものの鏡花は危うく落としそうになった。


「何をしたんだ?」


「言っただろ? 魔力で充電できるようにって。それと強度も上げて壊れにくくした。あとは自分で確かめろ」


訝しむように自分のスマホを見つめる三人。


「なんかあったら連絡しろ」


「連絡って……」


「別に今すぐ帰りたいってんなら元に戻してお前らも元の世界に返せるがどうする?」


「え……?」


俺の言葉にきょとんとする三人。


「か、帰れるの!?」


「でも……さっき帰れないって……王様が」


「それなら大丈夫だ。俺の能力チカラを使えばそんなの簡単だから」


そう言って目の前の空間に穴をあける。


「――ッ!?」


その穴から見えるのは先ほど召喚陣が輝いた元の世界の場所だった。


「まあ、別に今決めなくてもいい。帰りたくなったら俺に連絡をくれれば返してやる。でも、こっちの世界に戻しはしないけどな」


「な、なんで……?」


聞いてきたのは涼音。


「当たり前だろ? 一応召喚される予兆を見つけたからお前らについてきただけだし。その気があるなら帰してはやるが、そこまでする義理もないしな」


「け、けどそれだとここの人たちが……」


「さっきから言ってるだろう? 帰る気があるならって話だ。この世界で過ごそうが元の世界に戻ろうが、俺にとってはどうでもいい。勇者をやりたいならやればいいじゃないか」


ああ、そうだ念のためこれも聞いておくか。


「なあ、王様」


「な、なんだ……」


あら。すっかり警戒モードの王様。まあ、そんなのは気にしない。


「この国ってさ、一夫多妻制?」


「………………は?」


だが、俺の質問にすっかり呆けてしまった。


敬語はもうめんどくさいからやめた。


「だから、一夫多妻かって聞いてるの」


「あ、ああ……そうだな。この国はそうだが……」


この国ではか。


まあ、勇者としているなら生活は保障するって言ってたし問題ないか。


「だってさ。どうする?」


「……君は……いきなり何を聞いているんだ?」


ポカンとしていた三人だが、一人は何言ってんだこいつ的な視線。


もう二人はそれが意味することに気が付き猛烈に顔を赤く染めている。


うん。やっぱり。


「いや、ちょっとお前らの関係を把握しようとして」


「僕らの関係? 僕らは幼馴染だけど?」


その言葉に二人を見ると明らかに落胆してる。


予想通りと言えば予想通りだな。


イケメンで鈍感とはどこの主人公だ。


今も俺の言った意味が分からなくて首をひねってるし。


「まあ、異世界に召喚されるなんて滅多にないことだし残ってもいいんじゃないか?」


にやりと、今だ赤くなっている二人に笑いかける。


「そ、そうだ! 私、魔法習ってみたい!」


「わ、私も興味あります!」


「え? え?」


その笑みを受けていきなりやる気を出す二人に勇気は戸惑っていた。


「それじゃ、残るのな。まあ、勇者なんだし雑な扱いはされないだろ。頑張れよ」


そう言って俺は元の世界につないでいる空間を閉じ、また別の空間へとつなげた穴を出現させた。


「さてと、俺はもう行く。王様、一つ言っておくが……」


「な、なんだ」


また予想外の質問をするのかと王様は身構えるが、


「俺にちょっかいはかけてくるなよ。あまりにもうるさかったら……潰すぞ」


最後に殺気をほんの少し・・・・・だけ出して告げる。


それで何人かが倒れたが俺は気にせずにつなげた空間へと足を踏み入れ、その場から消えた。


誤字・脱字がありましたらご指摘お願いします。

お気に入り登録ありがとうございます。

9/4 誤字修正

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