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胡蝶蘭の散る頃に  作者: うどんもち
七つのハンドルネーム
3/3

フラワーエントランス

「ふぅ、やっと着いたわ」


 玄関の扉を開け、入ってきたのはオフショルダーを着て、下はジーパンの格好の20代くらいの女性。

 髪はミディアムで茶髪がかかっていてモデルかと思わせる見事な美人だ。

 ちなみにオフショルダーというのは両肩が出るほど大きく開いたネックラインのこと。

 ウェディングドレスとかでよく使われるアレだ。


「結構距離ありましたね、黒住さん」


 そう言って後ろからもうひとり入ってきた。

 ジャンパーを羽織った黒髪ロングの女の子。

 歳は雪藤と同じくらいか。


「ええと、あなたは?」


 雪藤はミディアムカットの女性に訊く。


「私は黒住麟(くろずみりん)。『ローゼンメイデン』のハンドルネームは<スカー>よ」

「あ、私は雪藤詩歌と申します。ハンドルネームは<まろん革命>です」

「ああ、まろんちゃんね。なるほどなるほど」


 黒住が目を細めながらも、視線は雪藤の全身をなめまわすように上下している。

 若い女の人なのになんか親父くさい。


「こっちは龍造寺玲(りゅうぞうじれい)。ハンドルネームは<マフディー>。さっきたまたま道で会ったの」

「よろしくお願いします」


 龍造寺がペコリと頭を下げる。

 同年代くらいなのにかなり礼儀正しい。


「ん、そっちは?」


 黒住が雪藤の後ろにいる叶に好奇心の視線を送った。

 しかしその瞬間、


「え!?」


 黒住が思わず顔をすくめた。


「? どうかしましたか? この人は叶美羽さん。ハンドルネームは<うどんげ>さんです」

「え? <うどんげ>さんって女の子だったんですか!?」


 龍造寺が驚きの声を上げる。

 当然だろう。雪藤も<うどんげ>は男だと思い込んでいたのだ。


「えへへ、でももっとびっくりすることあるんですよ。ねぇ、叶さん」


 ぱあ、と表情を輝かせた雪藤が後ろを振り向く。

 しかし、目に飛び込んできたのは何やら深刻そうな表情で横を向いている叶の姿だった。


「? 叶さん?」


 雪藤がそう言っても、叶は横を向いたままだ。


「ちょ、か、叶……。なんでアンタがここに――」


 黒住が低く、唸るような声をあげる。

 雪藤は二人を交互に眺める。


「あれ、もしかして知り合いなんですか? 二人共」

「え……あ、いや、そうじゃないの」


 叶がすぐに雪藤の方に顔を向き直して答えた。


「うん、そ、そうよ。ゴメン。人違いだったわ」


 黒住がははは、と笑い飛ばす。

 その横で龍造寺が若干不審そうに眉をひそめている。


「スタッフに叶さんに似てる人がいてね。ちょっとびっくりしちゃっただけ」


 黒住が頭をポリポリとかきながらつぶやく。


「スタッフ?」

「あ、つい口走っちゃった。私、東京の桜テレビ局のディレクターなの」

「ええ! テレビディレクターなんですか!?」


 雪藤の驚きの声に黒住は、


「ふふ、そんな大げさだって」


 黒住が手を横に振った。


「でも凄いですよ! 叶さんも医者だし、憧れます!!」

「叶さんって医者なんですか」


 龍造寺が困惑の表情を浮かべる。


「そうですよ。私も初めはびっくりしました。だって歳は私と同じくらいだと思ってたし」

「へ~、凄いですね二人共!」


 龍造寺がぱあ、と明るい表情になる。


「私は高校生なんですけど、ひょっとしたら龍造寺さんも?」

「はい、高校1年生です」

「私よりひとつ年下だね。あ、でも全然呼び捨てとかでいいよ! 詩歌で」

「えと、じゃあ、お言葉に甘えて、詩歌さん」


 きっと人を呼び捨てにはできない性格なのだろう。

 雪藤は龍造寺のことをちゃんづけで呼ぶことに決めた。


「じゃあ玲ちゃん。これでおあいこだね。それにしても<マフディー>さんって可愛い女の子ってイメージが強かったんだけど本当にそのまんまでびっくりしたよ」

「いえ、可愛いってそんな。詩歌さんの方が全然可愛いですよ」


 玲が照れくさそうに頬をかいた。


「そういえば、来てる人って詩歌さんと叶さんだけですか?」


 玲は同じく照れていた詩歌に訊いた。


「うん、まだ四人来てないね。<ティルジット>さんに<あずにゃん>さんに<独断>さんに、あと<ワーム>さん」

「あれ、<ワーム>さんって来てないんですか?」

「そうなのよね」


 叶が突然、話に割り込んでくる。


「この館は私が一番乗りだったの。鍵も開いてたし、誰かいるかなってちょっと館の中まわってみたけど、誰もいなかったし」

「でもこの館って<ワーム>さんの別荘ですよね。いないっておかしくないですか」

「きっとどっかに散歩でも行ってるんじゃないかしら。ほら、ここって自然公園で薔薇が沢山あるし」


 黒住がそう言ってエントランスホールを見回した。


「それにしても凄い量の薔薇ね。プリザーブドフラワーとかじゃないの?」

「それは違うわ。どれも本物よ。ツタもイミテーションかと思って触ってみたけど、全部ね」


 叶が横にある白薔薇をとって香りを満喫する。


「それにしてもこれだけの分量の薔薇とツタを見栄えよく保つのって、膨大な金と手間がかかるはずよ。<ワーム>さんとやらはかなりの金持ちね」


 黒住が目をぱちくりさせ、玄関横の壷に入っている一本の黒薔薇を抜き取った。

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