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プロローグ

 「な……何でだよ、お前等……」



 少年の言葉に、対する二つの影は何も答えなかった。

 僅かな静寂。それは天から降り注ぐ弾丸で掻き消され。


 一つの影が後ろを向いた。

 少年の眼に映るは醜悪な笑みを浮かべた表情。


 刹那に少年を光剣が貫いていた。

 攻撃者の青年から伸びる光の剣は、尚も威力を損なわず木へと少年を押し付ける。

 少年が抜こうとするが、エネルギーの刃は雷光を散らし、少年の手を焦がす。



 「じゃあな、元リーダー。ここでくたばれ」



 冷たい言葉を最後に少年の仲間であった青年は立ち去って行く。

 もう一人、先の行動を全て興味なさそうにしていた男も歩き出して、少年のみが残される。


 出血の量は放っておけば確実に致死量へと達するだろう。

 だが少年が抜こうとしても、腹に突き刺さる光剣は抜けもしない。多量な出血で、おまけにこの天気。体温も奪われ、光剣を抜く抜かないの前に力が入らないだろう。

 そんな時でも、その声は不思議と少年の聴覚がはっきり捉えた。



 「生きるか死ぬか、貴方が選びなさい」



 血で霞がかってよく表情が見えない。だがその声の持ち主は少年に天使を思わせた。



 「生きると言うなら助けてあげましょう。死ぬと言うなら見捨ててあげるわ。

  貴方はどちらを選ぶ?」



 絶え間ない激痛の中、少年の口が動く。とても弱弱しく言葉は紡がれない。


 それを一瞥して、落胆したような表情を一瞬だけ見せると、踵を返して立ち去って行く。だがその歩みは途中で止まった。足元を見てみれば、少年の手が少女の足を掴んでいた。

 少年を木へと留めていた光剣は同じ魔力量の物質と当てられて相殺、既に消滅して光を散らしているだけだった。



 「それが答えね……」



 少女は雨水を吸い込んでぐっしょりと汚れた地面を気にせず屈みこみ、血の気を失った少年を抱きかかえる。半分以上の血液は流れていて、出血多量は確実だろう。

 冷たい少年の体はただ時の流れへと流されていく。






 その日に何があったかは知る者はいない。ただ、その日に起きた出来事は世界の未来を変えた。

 悪も存在し、正義も存在する。


 ただ全ては『善』と『悪』では片付かない……そんな世界の物語。







 「いいかげんに起きろ!」



 宿の一部屋の扉が思い切り開けられると同時に、大きな声が部屋の主へと叩き付けられる。扉を開けた少年を嘲笑うかのように、ベッドの上で少女はスヤスヤと寝ていた。

 少年にとって命の恩人であり、今のパートナーだが、少女は睡眠欲がとても激しい。放っておけば一日中寝ているのではないかと思うぐらいに。



 「……仕方ないな」



 少女を見下ろしながら嘆息を着くと、おもむろに虚空へと手を翳す。するとどこからともなく剣が出現した。

 装飾の類は柄にある蒼色の球体を除けば一切ない。まるで鞘が必要ないとでも言うように。


 フッと軽く息を吐いて、少年はそれをベッドの少女へと振り下ろした。




 「まったく……少しは起こし方というものを考えなさい。障壁はってたからよかったものの」



 そう呟く少女は、床で正座している少年を見下ろした。

 その隣には不自然な大きな痕があり、下の階にまで達しているかもしれない。 



 「まったく申し訳ない……と謝罪はしておくが。元はと言えばシアが起きればよかった話だろ!」



 一気に正座の体勢を止めると、立ち上がって少女――シアを見る。



 「そう……。ならグレンは私を起こすためには何をしても良いと言うの?」



 「ぐっ……そんな事は言ってないだろ。ただお前が早く起きてれば……」



 「しょうがないわね。努力はするわ……ま、寝ているから努力の仕様もないけど」



 そそくさと立ち上がり、まとめてある荷物を持って立ち上がる。シアに続いてグレンも荷物をとり、宿の部屋から出て行く。宿主に礼を言い(シアは密かにボロボロ宿と言っていたが)、活気溢れる往来へと二人の姿が溶け込んで行く。


 ……全ては始まった、過去の時と同じように……。

 もう覚えている者はいない出来事は――必然的に繰り返されようとしていた。



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