どうせ世界が滅びるから、魔王と一緒に冒険しよ?
どうやら世界は3年後に滅びるらしい。
そんな話が、世界に淀みのように噴き出し伝染していった。
噂と言うにはあまりにも絶対で、いくつもの神殿、教会に同時に信託が下りたのだ。
人々は絶望し、命を絶つ者、それでも残された日々を大事に過ごす者、それぞれだった。
太陽の光さえも届かぬ闇に満たされた空間の中に、その居城は有った。
壁の蠟燭がゆらゆらと揺れて、影が躍っている。
その城の最奥の豪奢な作りな部屋で一人の男が豪奢な玉座に静かに瞼を閉じて座っている。
白磁の肌に、雪のような輝く銀髪。
薄っすらと瞼を開くと、黄金の光が現れた。
その視線の先は部屋の入口たる扉に向かっており、足音を吸い込むほどの重厚なカーペットが敷いてあるにも関わらず
走る音が聞こえてくる。
この城には、もうその様な活気は無いと言うのに。
バァン!
静寂を乱して入って来た男は、息を切らせながら報告した。
「勇者が、勇者が現れました!!既に城下は大混乱です!我が王よ、一時の退避を!」
魔王は思わず眉を顰めた。
「勇者と言う職業は、今や軒並み廃業したと聞いたが」
「いえ、勇者の剣を持っております!この王の間を真っすぐに目指して……うわぁっ!?」
今しがた入って来た部下は、叫び声と共に崩れ落ちた。その後ろから、ひょっこりと小柄な少女が現れる。
地面に倒れている部下をチラっと見たが、どうやら気絶しているだけであるらしい。
広い王の間で有るが、少女は恐るべき身体能力で玉座との距離を詰める。蜂蜜の様な金髪に、若草の様な澄んだ色の持ち主である。
「ようやく会えたわね、魔王!!」
「今更、勇者が何の用だ?もうすぐ世界は滅びと言うのに」
「ソレよソレ。
納得できないと思わない?私は一応勇者の力を持ってる。それにあなたは魔王でしょ。どうせ死ぬなら、最後にあがいてみない?」
気が付かぬ内に接近され、膝の間に足を割り込まれ、玉座の背もたれと勇者に挟まれて魔王は身動きが取れなくなった。所謂壁ドン……もとい王座ドンである。
清廉潔白、聖なる力ーーそんな物しか感じなかったその瞳からは、新緑の色であるのに、揺れる炎のような光が怪しく魔王を縫い留めている。
「魔王、聞いた事が無い?」
勇者は魔王の耳元で、蠱惑的な声色で囁く。
「神殺しの剣」
魔王は生まれてこの方、そのような感情を持ったことがなかった。
驚愕、動揺ーーーそして、他人からの魅了
「どこにも変わり者って言うのは居るんだ。エルフの叡智、ドワーフの鍛冶に足しての心力減、そして、それを振るう勇者ってね。そうしたら魔王も誘うのが礼儀じゃないかなって思ったの」
「具体的に女神に会うには、どうすればいいのだ。神に会った者などいないだろう」
「エルフによると、神域である世界樹と女神は繋がっているらしいんです。そこから行けるかもしれないと」
「ほう、なるほど……。面白いかも知れんな。このまま何もせずに3年過ごすのも憂鬱になっていたところだ」
魔王は王座から立ち上がり、勇者の手を握って握手をする。
さあ、これからが本番だ。勇者は魔王の手を引っ張って入り口へ向かう。
「魔王様、勇者と旅など……!」
「このまま枯れ木のように朽ちていくなど御免だ。希望が見えたのだ。お前は城を守ってくれ」
話を聞いた部下が焦って進言するが、魔王はもう振り向かなかった。
ふたりはひた走って魔王城から出る。これから神にリベンジだ。
いずれ、女神を倒したらどうなるのだろうか。しかし、3年と言う期限付きなら、試してみてもいい。
こうして魔王と勇者は手に手を取りあい、世界樹に向かうのであった。
その後は、また別のお話。




