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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第6章 血祓戯流、夜を越えて
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第93話 章プロローグ 帰還

 冬の気配が、街の空気にじわじわと混じり始めていた。

 蜘蛛の巣会が消えた。

 狂輪会も、峠ごと叩き折られた。


 そして、凪嵐十字軍と薔薇乙女會、暴動鉄騎隊が手を組んだ——

 その噂は、一晩で街中に広がった。


「おい聞いたか、蜘蛛の巣会の次は狂輪会まで飛んだってよ」

「しかもよ、潰したのが――」

「あの連合だろ? 中坊の規模じゃねえって」

「反社と正面から全面戦争とか、マジで頭おかしいわ」


 コンビニ前、たむろする不良たちが好き勝手に言う。

 その真横を、鷹津沙夜たかつ・さよはパーカーのフードを目深にかぶって通り過ぎた。


 日課のランニングとシャドーを終えたばかりで、Tシャツの背中はまだ汗で重い。

 走り終えたあと、公園の鉄棒で懸垂、ベンチで拳立て、シャドー。


『最強なんざ幻想だ。今日も、明日も、できることを積め』

 明堂アカネの声。

 日常を守るために強くなれ。

 戦場は、その先に伸びてるだけだ。


 間合いの管理も、組みのさばきも、前よりずっとマシだ。

 蜘蛛の巣会幹部と戦ったとしても、今なら正面から止められる――そんな実感もある。



 ……それでも。

 脳裏に、別の光景が割り込んできた。

 薄闇の路地。

 黒いレースとチェーンだらけの、ゴシックパンクみたいな女が、退屈そうに首をかしげる。


 煙の体が、車に撥ね飛ばされたみたいな音を立てて吹き飛んだ。

『……次』


 冷静に距離を保って叩けばやりようはあると考えた——

 いつの間にか、地面に押しつけられていた。


 爆轟閻魔ばくごうえんま

 暗夜會地獄鬼・黒崎燐くろさき・りん


“狂犬”の煙ですら、一撃で沈めた怪物。

 夏菜が割って入らなければ、掌底で頭蓋を砕かれていてもおかしくなかった。


「……クソ」

 沙夜は小さく舌打ちし、拳を握り込む。

 その拳には、最近まで生傷が絶えなかった。アカネに教わった通り、殴って、立って、また殴る日々を続けた証拠だ。


 けど、それでもあの女には、指一本まともに触れられなかった。


 思考は嫌でも、仲間の顔へと向かう。

 アシダカ&ジョロウを二対一で制した“音無し”静。

 峠で獣鬼のV-MAXをぶち抜き、乱戦の中でもタイマンを通して勝ち切った“虎閃”夏菜。

 イカれた戦いぶりを残しながら、技量をつけて伸びつつある“狂犬”煙。


 みんな、もう名前だけの異名じゃない。

 街の不良が震えながら囁く、「本物の二つ名」になっている。


 ――“異名持ち”と呼ばれる連中は、明らかに何かが違う。


 踏み込むときの迷いの無さ。

 背中で人を守るときの、当たり前みたいな体重の掛け方。

 「ここで死ぬなら仕方ねぇ」とでも言うような、変な清々しさ。


 そこに、自分は並べているか。


「あーしが足引っ張ってたら、せっかくの“凪嵐十字軍”が潰れちまう」

 蜘蛛の巣会を潰した。

 狂輪会も潰した。

 ——そいつらを従えるだけの“本物”が、本気で牙を剥く。


 そのとき、自分だけが置いていかれたら。

 あるいは――本当に誰かが死ぬかもしれない。



「……はぁ」

 白い息が、街灯の下でほどけていく。

 気づけば足は、家への道を選んでいた。


 住宅街の一角。

 コンビニやゲーセンのネオンからは少し離れた、古い街並み。

 マンションの隙間を抜けると、木造二階建ての家と、横に貼り付くように建てられた平屋が見えた。


 白く塗られた看板には、黒い筆文字。

 ――血祓戯流チバラギリュウ道場。

 鷹津家の名字とともに、それは昔から変わらない場所に掲げられている。


 沙夜は門の前で立ち止まった。

 ポケットの中で、拳が自然と握り締められる。


「……クソッ」

 二度と戻るかと、何度も心の中で吐き捨てた場所だ。


 あのままここにいたら、きっとどこかで折れてた。

 だから、グレて飛び出した。自分で不良をやって、自分の喧嘩のルールを作った。

 ……そのはずなのに。


 今、一番頼りたい場所が、ここなのが気に食わない。

「二度と戻りたくなかったのによ」

 ぽつりとこぼれた本音は、冬の夜に溶けて消えた。


 それでも、足は動く。

 門扉に手をかけ、ギィ、と押し開ける。

 その音が、鷹津沙夜の“帰還”の合図になった。

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