表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第4章 お茶会にお越しあそばせ
67/109

第67話 外伝:修羅華速報「暴君と夜叉、並び立つ」

 夕方のファミレスは、油と甘いソースの匂いが空気に溶けていた。

 窓際のボックス席。

 それぞれ違う方向にずれて座るのは、何かあったらすぐ立てるように――という“日常の癖”だ。



「ほら、好きなの頼めよ。先輩の顔を立てさせろ」

 夏菜がメニューをひらひらさせ、煙の前に滑らせる。

「……じゃ、いちばん腹にたまるやつ」


「お会計はまとめてで」

 鷹津がスッと手を上げる。

 一琉は水のグラスを並べ、静は黙々とコーンスープを冷ましていた。



 そこへ、鈴を散らすように足音が近づいた。

「き、聞いて! 修羅華がまた大事件!」

 梨々花が滑り込み、スマホをテーブルにバシと置く。息が上ずっている。

「鬼哭冥夜と増長天がぶつかりかけたのよ!」


「はァ!? その二人が!?」

 夏菜が椅子をガタッと鳴らす。

 鷹津は眉を寄せ、低く呟いた。

「……まだ一年だろ、あの二人。ニュースになる時点で異常だ」


「互いに仲間を従えて“次はお前だ”って睨み合い。

 そこへ二年連合が割って入った――

 三十人以上でカチ込み!」

「で、どうなった!」

「二人だけで蹴散らしたの! 二年全滅! 

 修羅華の戦場に怪物が二人、肩を並べて立ったの!」


 梨々花の声に、店内のBGMさえ薄くなる。

 鷹津は喉を鳴らした。

「……悪夢だな。上級生が束になって負けるとか」

「群れで来るなら殴り倒せばいい。

 何人だろうが関係ねぇ」

 煙は氷を歯で噛み、鼻で笑う。


「お前は規模ってもんが分かってねぇんだ、狂犬ちゃんよ」

 夏菜が呆れながらも、どこか楽しそうに肘で小突いた。

「でね……噂があるの」

 梨々花が声を落とす。テーブルの上に影が落ちる。

「広目天が裏で情報を流したんだって。“夜叉天と増長天が潰し合う”って。

 ――つまり、あの修羅華の戦場そのものを“演出”した」

 夏菜が顔をしかめる。

「……怖すぎんだろ、それ」


 一琉はストローを指で回し、氷の音を聴いた。

 梨々花のスマホに、現場にいたという“誰か”の断片的なメッセージが流れていく。

 砂埃の匂いが想像の中で立ち上がる。


「そして戦いの後。増長天が夜叉天に言ったんだって」

 梨々花の瞳が、熱を帯びる。

「“今日の勝負は預けといてやる。次はお前を倒す”」

「……ライバル宣言か。熱いじゃねぇか!」

 夏菜がニヤリと笑う。

 鷹津は唇を引き結び、低く漏らした。

「黄金世代……ホント、次元が違うな」


「よくそんな細かい台詞まで拾えるね、梨々花」

 一琉が半分感心、半分呆れの声で言う。

「現地にいた子から回ってきたの! 

 情報網ナメないでよね!」

 梨々花が得意げに胸を張る。



 その瞬間、店員が皿を運んできて、テーブルが湯気と匂いで満ちた。


「いただきます」

 静かな合図のように、一琉が手を合わせる。

 ハンバーグの肉汁が弾け、スープの湯気が上がる。

 ポテトに塩が雪のように散った。


「煙、うまい?」

「……あぁ。……うめぇ」

 短い言葉。噛むたびに、肩の力が少し抜けていく。


 テーブルの端で、夏菜が唐突に笑う。

「しかしよ、アカネさんと増長天が並ぶ絵面、見たかったな。

 どっちも“暴君”の器だ。並び立つなんざ、普通ありえねぇ」


「並ばせたのは、広目天の一手か」

 鷹津がストローで氷を砕く。

「誰が勝っても、負けても、周りが削れる。……嫌な博打だ」

「でも、見事ね」

 梨々花は素直にうなずいた。

「時代を進める手だわ」



 ポテトの皿が空になり、氷がからんと鳴る。

 一琉はゆっくりと水を飲むと口を開いた。

「――僕らは、どうする?」

 問いは軽い。けれど重さは確かだ。


 夏菜が口角を上げる。

「決まってんだろ。目の前を片づける」

 煙は最後のポテトを摘まみ、ぽいと口に投げ入れた。

「群れで来るなら、まとめて倒す。それだけだ」

「……まとめて、は無理でも。バラせばいける」

 鷹津が息を吐き、指をポキポキ鳴らす。


 一琉はにこりと笑った。

「うん。

 僕たちがやることは変わらない。

 正義なんて名乗る気はないけど、

 僕らの日常を荒らすやつがいるなら、行く」


「了解」

 皿はきれいに空になり、湯気は消える。

 窓の外、オレンジが群青に沈みかけていた。

 スマホの画面には、まだ通知が灯り続けている。 

 修羅華は今日も騒がしい。


「……梨々花」

 一琉が柔らかく呼ぶ。

「ありがと。知っておくべきニュースだった」

「でしょ?」

 梨々花は満足げに頷き、スマホを胸に抱いた。


 静が小さく、ほとんど誰にも聞こえない声で言う。

「――わたしたちも、負けない」


 レシートがテーブルに置かれる。

 鷹津がそれを取り、自然に立ち上がった。

「会計、行ってくる。先輩だからな」

「助かる」

 一琉は微笑み、グラスの底で氷を転がす。

 どこか遠い喧噪と、目の前の温かさ。

 その両方を正面から受け止めるように、目を細めた。


 日常は薄紙みたいに脆い。だからこそ、守る理由になる。

 凪嵐十字軍は歩幅をそろえ、夜風の中へ出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ