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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第4章 お茶会にお越しあそばせ
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第62話 三中大乱闘② 邂逅、獣と修羅

 校内の騒ぎは、ようやく押し返しに傾きつつあった。

 襲撃者の逃げ足がまた一台動かなくなる。

 散らばった凪嵐十字軍と薔薇乙女會の連携は崩れず、

 狂輪会と暗猫衆の足は次々ともがれていく。



 その時、廊下の向こうで、狼煙のような排気音。

 校舎外の渡り廊下に、異様な圧が近づいた。


 地鳴り。

 黒い巨体が、廊下を塞ぐ。

 乗り手は、鉄塊を“身体の延長”にしていた。


「ッ獣鬼……!」

「退け」

 渡り廊下に突っ込むや、重戦車みたいなトルクで壁を擦り、

 薔薇乙女會の一般隊員をまとめて弾き飛ばす。

 金属音と悲鳴。巨体を軽々と操り旋回すると、再び隊列に迫る。

 隊列が崩れかけた。


「V-MAX…! デケェな!!」

 隊員の後ろからそれを目撃した夏菜が槍のように跳び込む。

「肩借りるぜ!!」

 隊員の肩を使って跳びあがり、ヘルメットに跳び蹴りを叩き込む。


 ――しかし、重量が違う。

 獣鬼はブレーキを引かず、逆にスロットルを開けた。

 爆ぜるトルクが夏菜の脚を弾き、

 彼女の身体が空中で一回転して床にころがる。

「ッだぁ……! 崩れねえ!!

 やるじゃねえか!!!」

 虎の瞳孔が開き、即座に跳ね起きる。


 隊列への再突撃は逸れ、隊員が負傷者を回収して撤退する。

 獣鬼のヘルメットが、夏菜を向く。

 敵、と認識したような、冷たい視線。


「“虎閃”——ふん、羽虫だろ」

「上等。引きずりおろしてやるよ」

 スロットルがさらに開き、排気が叫んだ。



 一方、体育館中央。

 薫子が掃き溜めた敗残が床に転がる中、円陣を組む影。

 筋肉質な体に面頬のような仮面と拳ダコの目立つ女が、

 配下を率いて薫子を囲んでいた。


「久しぶりだな、薫子ォ。バカみてえなかっこしやがって。

 潰してやるよ……!」

「あら綾羅。ごきげんよう」

 薫子は膝を少し折り、優雅に一礼。

金魚の糞(オトモダチ)を連れて観光ピクニックですの?

 フクロを配信して喜んでる、実戦派気取り(ヘタレ)の修羅鬼らしいですわね」


「…殺す」

 修羅鬼——綾羅のこめかみが震える。

 一歩踏み込み、殺気が満ちた。


「させるかよ!」

 横から鷹津が割って入った。

「一時的とはいえ、

 同盟のヘッドつぶされるわけにゃ、いかねーんだわ!」


 鷹津の鋭い踏み込みから右ストレートが修羅鬼を襲う。

 修羅鬼は薫子を見たまま、

 前腕で回し受け——その腕がそのまま直突きに変化する。

「ぅッ!?」

 

 明確に練度が違う。

 逸って体重が前にかかった鷹津の重心を回し受けがわずかに崩し、

 その隙に直突きが打ち込まれた。

 鷹津のガードは間に合うが、拳が固い。

 鉄球を撃ち込まれたような痛みに顔が歪む。


 強い——おそらく、かつて戦った蜘蛛の巣会の幹部よりも。

 強者の気配に、とっさに飛び退いた。


「雑魚は引っ込んでろ」

「あ゛ぁ!?」

 修羅鬼は一瞥すら寄越さず、再び薫子へ正対した。

 鷹津の血管がピキピキと音を立てた。



「勢い、落ちてきた」

 静が一琉の背で呟く。

「うん。もう少し――」


 膠着——となりかけたところで、遠方にサイレン。

 複数。重なる。近づく。


「…ち」

 獣鬼は夏奈に向かうことは無くハンドルを切り、体育館脇へ滑り込む。

 V-MAXが獣のように吠え、修羅鬼近くの鉄扉で止まった。


 修羅鬼は射殺すような視線を薫子にむけると踵を返し、後部へ飛び乗る。

「撤収だ」

 低い声が短く落ちる。

「待ちやがれゴラァ!!」

 落ちていた鉄パイプを鷹津がぶん投げるが、軽く弾かれる。


「あら、もうお帰り?」

 薫子はスカートの裾をつまみ、深く、美しいカーテシーを一つ。

「ご機嫌麗しゅう、次はもう少しましなのを寄越してね。

 ――小娘の遠足ごっこ(ザコッパチ)じゃ、退屈でしたわ」

 お上品な挑発に、鷹津の肩からわずかに力が抜けた。


 獣鬼のバイザー越しに舌打ち。

 修羅鬼の歯ぎしりがやけに響いた。

 渡り廊下をV-MAXが駆け抜け、

 金網の穴を抜けて通りへ消える。


 配下たちも散開し、それぞれの逃げ道へ消えた。

 ホイッスルの音が響き、

 まだ狩られていない兵隊たちも一目散に逃げていく。


 

 薫子がにこやかに声をかける。

「……助かったわ、鷹津さん」

 

 鷹津は冷静さを取り戻し、視線を巡らせる。

 体育館の床には、薫子が倒した敵の山。十や二十ではきかない。

 ——助け、いらなかったんじゃ?

 そんな顔になった鷹津に、薫子は人差し指を立てて微笑んだ。




 倒された者たちを残し、黒い群れはサイレンの向こうへ消えた。

「沙夜、薫子さん!みんな無事?」

「薫子さま!生徒の皆様やワタクシたち、全員大きなけがはありませんわ!」

 凪嵐十字軍と薔薇乙女會隊員の面々が体育館に集合する。


 夏菜がニッと笑う。

「みんな無事か、上々だな」

「……ふん、当然」

 煙は頬の擦り傷を指で拭い、そっぽを向く。だが口元は少しだけ緩んでいた。


「あの仮面女…次会ったら潰す!」

 鷹津は修羅鬼たちが消えた方角に闘志を燃やす。


「避難完了、戻ってきたわよー」

 梨々花がタブレットを掲げる。

「映像も抑えた、後で共有するね」


「……無事で、よかった」

 静が短く言い、うなずく。一琉はみんなを見渡して、小さく息を吐いた。



「大した被害もなく、敵は死屍累々《ズタボロ》——」

 薫子は踵を鳴らし、振り向いた。

「凪嵐十字軍の皆さま、そして薔薇乙女たち——

 わたくしから言葉を」


 皆の視線が集まる。

 薫子が胸元に手を当て、堂々と総括した。

「今回の防衛戦——

 わたくしたちの勝利ですわああ!!」


 歓声が重なる。

 オーーーーッホッホッホッホ!

 薫子の高笑いが、三中の薄雲を押し上げるみたいに澄んで響いた。

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