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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第4章 お茶会にお越しあそばせ
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第60話 薔薇封筒の招待状

九月。気温はまだ夏の名残を引きずっているのに、

蝉の声が薄まり、朝の風がほんの少しだけ涼しくなってきた。


 新学期の教室は、夏課題の愚痴と、別の話題でざわついている。

「謎のバイク集団の窃盗が増えてるってさ…狂輪会が関わってるって噂」

「危険配信の暗猫衆、やばくない?」


 ――そんな噂が、教室の裏口からでも入ってくる

 一琉はノートを開きながら、耳だけで噂を拾った。

 日常は、戻ったふりをしているだけだ。


「走り屋チームが狂輪会に潰され併合、

 縄張り持ってた小さなグループが暗猫衆の配信付きでボコられ再起不能。

 ……暗夜會が攻勢かけてるわね」

 梨々花のまとめは簡潔。

 暗夜會が本格的に動き始めた。



その日の放課後。カノンのポストに薔薇模様の封筒が一通。

「なにこれ、上質紙……薔薇模様のエンボス……」

「うわ、絶対高いやつ」

 鷹津が身を乗り出す。


 封蝋が割られ、きれいな封筒から出てきたのは畳折りの袋——

『招待状』とでかでか筆文字で書かれている。

「これ、招待状ってか……」

 さらに開くとこれまた筆文字で、

 戦闘的なレイアウトの招待状が現れた。


『拝啓 天凪一琉様、凪嵐十字軍の皆様

 お茶とお菓子を用意して待っておりますわ。

 ぜひお茶会にお越しあそばせ。

 市立第三中学校 薔薇乙女會 当主 一条薫子』


 果たし状のような縦書きの筆文字。小さく日時が添えられている。

「……果たし状にしか見えないね」

 一琉は苦笑し、封筒の手触りをもう一度確かめる。



「あーしはともかく夏奈や静は先輩方にも知られていたからね」

 鷹津が腕を組む。

「つぶしに来たんじゃないの?」


「噂を聞く限り、薔薇乙女會はそういう卑怯は嫌うわ」

 梨々花が補足する。

「元・鬼道連の武闘派幹部、現・三中の女王。

 “叛逆のお嬢様(ローズオブリベリオン)”。

 暗夜會とはバチバチの敵対関係よ」


「罠だったらぶっ潰せばいいじゃん」

 夏菜は笑って肩を回した。

「お茶会…?喧嘩に行くのか?」

 煙はよくわからない表情だ。

 静は無表情のまま、一琉の手元を見た。

「……行くなら、護る」



「敵の敵が味方とは限らない…けど」

 一琉は封筒の縁をなぞった。

「……行く。行って、確かめる」

 静かな決断。

 静がうなずき、夏菜が歯を見せて笑い、鷹津が頭をかいた。

「やれやれ。今度はお茶会で死にかけるとか無しだからね」

「ないように頑張ろうか」

一琉は笑う。

「単車は……一応、整備して行こうか」

 夏菜は拳を軽く打ち合わせた。

「お嬢様のほうから頭下げさせたくなってきたぜ」


 一琉はもう一度、封筒を見つめてから、胸ポケットへ。

 ふわりと薔薇の匂いがした。



◇ ◇ ◇



——当日、第三中学校。

 大体の生徒はすでに帰っていった放課後の時間。

 制服の色が違うよそ者が単車付きで五人も並べば、視線は勝手に集まる。

「え、バイク?でっか…」

「うわ、凪嵐十字軍だ…! 天凪さん…写真撮らせてくれないかな…?」

「バカやめとけ殺されるぞ! 本物の超武闘派だって!!」

「お、お嬢様と喧嘩する気かな…?」

 


 先導の女子が一人。薔薇模様の腕章。

「単車はこちらに」

 校舎の裏手、金網の死角に案内される。

「被害が出ないよう、お預かりいたしますわ」

「……逃がさないって意味にも、聞こえるな」

 鷹津が小声でぼやき、夏菜が肩をすくめる。


 静は最後まで周囲を確認してから、カタナのキーを抜く。

 その視界の端で、薔薇乙女會の隊員が外周に散っていくのが見えた。



 校内の中庭、臨時のティーテーブル。

 安い白布、磨き込まれたティーセット。

 椅子はバラバラだが、不思議と統一感がある。


 そして、その中央に——

「ようこそ。天凪一琉様。

 薔薇乙女會ヘッド、一条薫子でございますわ」

 深紅のリボン。凛とした背筋。

 華やぎの中心が、その人の立ち方だけでできあがる。


「天凪一琉です。お招きありがとうございます」

「音無し、虎閃、そして——噂の“凪嵐十字軍”。みなさまも、ようこそ」

 薫子はスカートをつまみ、優雅にカーテシーをおこなった。



「まずはお茶を。

 お話は、それからでも遅くはございませんわ」

 薫子は微笑んだ。

 紅茶の蒸気が上がる。

 夏菜と鷹津が一琉の両脇に座り、

 静と煙は立ったまま、半身で周囲へ目を配った。


「お味は?」

「美味しいです。渋みが短くて、香りが長い」

「ご明察」

 薫子はにこりと笑う。

「ダージリン・ファーストフラッシュ。

 ちょっと奮発いたし(ハリキリ)ましたのよ」


 表面的には優雅、だが空気は薄く張っている。

 中庭の樹影の外側で、

 制服に薔薇のワッペンをつけた数名がさりげなく見張っていた。



 雑談は軽く。

 互いの学校の話。文化祭の話。

 薫子がふと空を見る。

「そろそろ、ですわね」

「――え?」


 校庭の方から乾いた爆ぜ音。

 中庭の風が、急に鉄とゴムの匂いを運んできた。

 鷹津が眉をひそめ、夏菜が椅子から半身を浮かせた。

 静は一琉の後ろへ、煙はすでに臨戦態勢だ。


 次の瞬間、中庭に風を裂く単車の群れがなだれ込んだ。

 顔を隠したライダー、後ろでタンデムしている肩には夜猫の刺繍。

 狂輪会と暗猫衆の混成部隊。



 薫子はカップを置き、扇をぱちんと閉じた。

「皆さまは座っていて構いませんわ」

 立ち上がり、片手をひらりと上げる。

 侍女役の二人がテーブルをすべらせ、道を空けた。


 先頭が突っ込む。単車のフロントが芝をえぐる――

 薫子の手首で、何かが光った。

 ——二対のヨーヨー。深紅の薔薇装飾が陽を反射し輝く。

 花弁が回転し、細いワイヤが蔓のように伸びた。


 一閃。

 放たれたヨーヨーが凄まじい速さでハンドルに巻き付くと、

 フロントフォークがばちんと切り返される。

 前輪が空を向いた。

 乗り手が投げ出され、後ろに乗る暗猫衆ごと、芝生に転がった。


 二台目。三台目。

 ヨーヨーは円を描き、棘のある花がくるりと咲いては閉じた。

 ヘルメットを撃ち抜き、乗り手だけが芝に転がる。


 外周の塀から、今度は夜猫衆の影。

 顔を隠した連中がスマホを掲げ、配信のカメラを向ける。

「画角が汚いですわね」

 薫子は涼しい顔でヨーヨーをもう一度。

 スマホだけをはじき飛ばし、芝の上をすべらせる。


「配信は控えめに。

 校則違反ノットエレガンスですわ」

 その声と同時に、校舎側から薔薇乙女會の子たちが滑り出た。

 制圧は速い。派手さより速度。

 気づけば中庭ではうめく襲撃者たちが取り押さえられていた。


「……ヒュゥ」

 夏菜が呆け、次の瞬間に笑った。

「つっよ」

 一琉は、カップを持つ手の熱だけを確かめていた。

 静は一歩も動かず、一琉の背面だけを見ていた。


「オーーーーッホッホッホッホ!」

 薔薇を手元に戻すと、高笑いが中庭に響いた。



 薫子はヨーヨーの糸を指先で弾き、薔薇の輪を袖口にしまう。

「お待たせしましたわ」

 紅茶の香りが、また戻る。


「……これが、三中の女王」

 鷹津がぽつりと漏らす。

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

 薫子は柔らかく微笑んだ。

「さて――ここからが本番ショウタイムですの」


 遠くで、まだ別の排気音が重なる。

 校舎の外、道路側――群れの気配。さっきより多い。

 薫子は凛とした声で告げた。

試金石テイスティングのお時間ですわ。

 ——ご一緒に、いかが?」


 白布の端が、風でめくれた。

 薫子流のお茶会が、今始まる。

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